そつえんおめでとう いつも見送る立場になっていた。仲良くしていた同期の子も産休に入り、そのまま退職していった。子供たちは好きだけど、いつまでも続ける仕事じゃないと、親にさえ言われた。子供たちは二年ごとに入れかわる。いつも、わたしだけが残されるっす。
やばいっす、手をうごかしていると余計な考えが止められなくなってきちゃうっす。
亜瑠はハサミを動かす手を止め、背伸びをした。広いスペースが欲しかったので、園のばら組の教室で作業をしていたが、やはり園児向けの机に座って作業するのは腰にくる。
園長がその座を退いても、亜瑠の仕事量はさほど変わらなかったが、自分で仕事の舵を取れるようになったことだけは、以前よりマシといえるだろう。
一回熱出して園で倒れてから、あんまり無理できなくなったのかもしれないっす。園児には絶対病気とか移せないから、健康管理も仕事のウチっすから。
もうすぐ卒園式。入園時には泣き叫んで親御さんの脚に抱きついていた子も、もうすっかり友達と大騒ぎできるくらいに大きくなった。
折り紙で花の飾り物をつくり、「そつえん おめでとう」と書いた模造紙に貼っていく。
園児のリストを確認し、全員分の「おもいでのしゃしん」を貼るまでやったら、帰ろうっす。
「じゃがいもの葉っぱがどんな形をしているか、よく見てみようねえ」
優しい声を不意に思い出す。この園には、男の子の職員はいないはずなのに。写真にはじゃがいも掘りの様子が写っている。そして、日陰で休んでいる亜瑠の姿も。
やばいっす。この写真は貼れないっす。休んでるのがバレちゃうっす。じゃあ、わたしのかわりに働く背中をみていたあの人は、わたしの代わりに園児を見ていてくれたのは、一体誰なんすか?