雑草図鑑 全ての植物が優しいとは限らない。
あいつらは基本、自陣を拡大することしか考えてない。そのためには多少犠牲が伴っても構わないとさえ思ってる。植物の世話をしていると、ときどきそう考えてしまう。地面を埋め尽くし、交雑を続けるミントの絨毯を見つめていれば、誰だってそういう考えに辿り着いてしまう。俺みたいに。
おとうさまには「草木を育て、花を愛で、星の犠牲となれ、それが卉樹族の使命だ」と教えられた。でも、星の犠牲となるってどういうことか、おとうさまはおしえてくれなかった。星々を構成しているのが俺たち一人ひとりの生命だとするなら、他人を助けて死ねってことなのか? わからない。
確かに他人や植物を癒すのは好きで、向いていると思うし、やらずにはいられない。けれど治療を手伝ってくれるこっぱでさえ、身を犠牲にして滅びていく姿を見続けていると、いずれ俺にもその順番がまわってくるとしか思えない。
植物が蜜を持つのも、毒を持つのも、棘を持つのも、果実を実らせるのも、全ては自陣の拡大のため。ひいては星のため。でも、別に自分は滅びてもいいかもしれないけど、せめて自分で選んだ誰かを治してからにしたいなあ。もしそれができるならば。