言えないこと 死なれたら困る。感情のもっていきどころがないからだ。
あれから何もなかったように僕達は学校に行き、邪魂を退治し、夭聖界の復活に力をつくしている。少なくとも、僕はそのつもりだ。
歩照瀬も、あれから何もなかったかのように接してくれている。僕が皮肉を言おうが、もう胸ぐらを掴まれたりすることはない。張り合いがなくなって少し残念だ。
僕は、歩照瀬ほどものわかりがよくないらしい。まだ、歩照瀬のふとした仕草にあいつの影を見つけ、殴りかかりたくなる衝動を抑えきれない。
「おれが避ければいい話だろ」
と、歩照瀬はいうけれど、そういうところがバカで子供なのだ。好意と話し合いで物事が解決できると思っているのは子供だけだ。そして僕は、自分を律しきれず、歩照瀬の好意に甘えている。
本当はこわいんだ。あのとき覗き見てしまったお母さまが何を口にしていたか、僕ははっきり覚えている。あの言葉を口にしてしまったら、ひき離される。だから僕が歩照瀬のことをどう思っていようが、言わないほうがいい。