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    lin_co10ri

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    #降志ワンドロワンライ 第8回参加作品です。
    所要時間 +40分
    お題『微熱』
    志保さんを病ませてばかりですみません…

    #降志
    would-be

    天使の梯子 薄曇りの中に漂う、とりとめのない存在。
     本来の姿に、戻ったはずなのに。その実体を一番自分が、掴めていない。


    「志保くん」
     慣れ親しんだあったかい声が。自分の本名なのに親しんでない名を、呼んでくれる。
     ぼんやりと。志保は声がした方を見た。

    「起きてきて大丈夫なのかの? ホットミルクでも淹れようかのお」
    「…ありがとう、博士。私が淹れるわ。ミルクティーにする」
     笑顔を見せて、言うと。困ったように、でも安心したように、大切な家族でいてくれる人は、笑ってくれた。


     元の姿に戻ったら。罪を償うつもりだったし、犯罪者にふさわしい、孤独の罰を受けるつもりだった。
     なのに志保の体は。それを受けられるまでの状態にならなかった。常に微熱を帯び。倦怠感と悪寒を伴っている。
     検査をしても。数値として特に結果には現れなかった。解毒剤の副作用。それが一番に考えられたが、好運にも同じように元に戻った、新一にはそのような症状は一切現れなかった。もちろん個人差もあるが。志保は自分で分かっていた。

     これはきっと。体が恐れているのだ。
     元に戻ることに。あの頃の自分に、戻ることに。



    「……え」
     告げられた言葉に、志保は絶句する。
     博士は眉を下げながら、続けた。
    「ワシもまだ早いと、思ったんじゃけどのお。向こうも忙しい人じゃから。それに」
    「……立場的に、断ることもできないしね」
     志保の言葉に、博士は今度は眉を寄せた。
    「無茶で無遠慮なことはしない人だと、思とるぞ。だから」
    「……うん、分かってる」
     分かってるのは、その人についてではない。博士が、自分を思ってくれていること。
     頷く志保に、博士はやっぱり困ったように、でも優しく目尻を下げた。




     その人が来た時、変わらず志保は微熱を纏っていて。気圧の低い空気の薄い場所にいるかのように、呼吸も浅かった。
    「……無理させて、申し訳ありません」
     …とても、その人は丁寧だった。
     スーツを着て、本来のあるべき姿の警察官である彼と。ゆっくり向き合うのは初めてだったが、思っていた威圧感や臆する雰囲気を感じることはなく。志保は戸惑っていた。

    「え…と、降谷さん?」
     聞いた本名を思い返しながら口にすると。
     はい、と頷く彼がはにかむように笑ったので。志保はさらに惑いながら、どうにか続けた。
    「その…、本当ならもっと、事情聴取なども受けなくてはならないのに。こんな具合で、本当に申し訳ないと思って、ます」
     何故か少しカタコトとした口調で喋ってしまった。するとそれに、彼は目を丸くして、きょとんとした様子で答えた。
    「え? そんなこと気にすることではないよ。今日は僕が、ただ君に会いたくて、来たんだ」

     柔らかい口調で語られたそれに。今度は志保の方が驚いてしまう。
     降谷は少し慌てたような様子を見せていたが、居住まいを落ち着かせると、優しく、聞いてきた。
    「体を休めて大切にするのが、まず大事なことなのに。そんなこと、考えていたんだ」

     言われていることが信じられなくて。胸を押さえ、半ばパニックになりながら、志保は答える。
    「…っ、だって。こんな体調が整わないのも。私の、内面のせいよ。わ、私がすべて起こしてきたことなのに。こんな形で逃げるなんて、情けなくて」
    「逃げてるんじゃない。体が悲鳴を上げているのは、今休息が必要だからだ。自分で自分を労らなくてどうする。しっかり休ませて、あげないと」


     優しく、でも力強く言われた言葉に、志保は目を見開く。
     息苦しい。曇り空の中。でも、急に呼吸が少し楽になった、気がした。
    「……怖いの」
     言葉が、零れ落ちる。

    「……私は。今までの、私は。周りが見えてなくて自分がやってることも、分かってなかったり、したの」
    「…君は子どもの頃からあの組織に囚われていた。当然だ」
    「ずっと、最優先はどうやったら危機を回避するかだったの。その為には選択を間違えることも、分かっていても不正な方に進んだりもしていた。それは、組織がある限りずっとそうだった。でも、きっと、私は、これからも…!」
    「そんなことない!」

     一気に吐き出すように口にし、胸元で震えていた志保の手を、あったかく力強い手が包みこんだ。
    「君のその気持ちは。いつも周りの者を思えばこそ、だった。間違っても。そこに必ず優しさと深い思いやりがあった。あんな場所で育ったのに。君が持ち得て、大切に持ち続けたものだ」


     ……何が、分かるのよ、と思ったが。彼の言葉は直に強く志保の心に響いた。そうさせる、何かがあった。
     心の奥から。温もりが溢れてくる。
    「…抱え込むな。そんな、体を苛むほどに。君は背負い込みすぎていた。まずはゆっくり、休もう。そうしたら、これからも見えてくる」

     切々と心に染み渡るような、声。霞がかっていたような志保の頭も。少しずつ晴れ渡っていく。
     どうして私はこの人にこんな思いをぶつけてしまったのだろう。温かく包まれる手のひらを見つめていると、目の前のその人は急に我に返ったように、バッ、とその手を離した。
    「あ、す、すみません…!」
     急にまた敬語。あたふたとしている彼を見つめながら、志保は口を開いた。

    「光が…差してきた……」
    「…え?」
    「…曇り空の隙間から、光が注ぐような……薄明光線?」
    「ああ…天使の梯子?」


     真っすぐ自分を見つめている志保に。降谷は柔らかく、微笑んだ。
    「……君の方こそ、僕の天使だよ」

     悩み惑い苦しみながらも。澄んだ、慈愛を忘れなかった瞳が見開かれるのを見つめながら。
     この子を守るのは今度こそ、僕でありたいと。降谷は心の底から、祈った。
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    MAIKINGかきかけの降志小説から抜粋解毒薬が無事必要在るべきところに渡った後は、私は恐らく然るべき処分を受けるだろう。そうなる前に、母からのテープを最初から最後まで聞かなければと思い、部屋で一人、ベッドに横たわりながらカセットのスイッチを付けた。

    古ぼけた音が途切れ途切れに響き渡る。このテープは、そろそろ限界なのだ。眼を瞑りながら母の音にひたすら集中すると、この世とあの世が繋がる感覚に陥る。途切れる度に現実に押し戻されるので、まるで「こちら側にくるにはまだ早いわよ」と言われているようだ。音の海に流されていると、ふと「れいくん」という単語に意識が覚醒させられた。

    「れいくん」

    その名を自分でも呼んでみる。誰だろう。巻き戻して再度テープの擦る音を聴くと、どうやら母に懐く近所の子どもらしかった。

    「将来は貴女や、日本を護る正義のヒーローになるって言ってたから…もしかしたら、もしかするとかもしれないわね」

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    タイトルは某アイドルのカップリング曲からお借りしてます。デビュー時から見守ってきたアイドルのユニット曲が宮野志保にしか聞こえなかったもので…。
    灰原哀には大切なものができたけれど、宮野志保は明美さんとの時間以外は空っぽの状態だろうなと。降志になる前の冒頭を少しだけ😌
    虹の素知らされた時にはすべてが終わっていた。

    「…そう。」

    小さく呟いたその一言が私が唯一抱いた感想だった。


    気づいてはいた。
    あの強大な組織を相手に、最終局面を迎えんとしていること。
    ずっと試作を続けてきた解毒剤の効果が3、4日は維持出来るようになったことに1人の少年が勘づいていること。
    そして、それを私に黙って持ち出していたこと。


    わかってはいた。
    彼らは例えその最後であろうと、私には何もしらせないこと。
    知らせないことで私を危険から遠ざけようとしていること。
    そうすることで私を守ろうとしていること。

    そして、
    それが彼らのやり方であること。





    組織との大規模な抗争が終わったことを告げたのは工藤だった。
    いつものように博士の家に我が物顔でやってきた彼はなんてことの無いようにさらりと告げたのだった。
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