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    さなぎのつづき、その5。後半戦の始まりです。柏木視点、真島視点と続きます。メタ要素が多い…!

    #柏真
    kashiwajin

    さなぎのつづき5バッティングセンターに救急車はきていたようだが、はたして誰が運ばれたかはわからなかった。花屋から連絡をうけて周辺を子分を現場に行かせたが、嶋野組の組員が辻で立っていたので近づけない、どうしましょう、と連絡がきた。今はやりあうときではない、と告げた。子分は、バッティングセンター前にいた嶋野組のやつらは、どうも桐生ではなく真島組のやつらを見張っているような気配でした、子供を横取りされた、親父に楯突いただのと喚いていました、と言われ、

    「狂犬が、本領発揮してやがるな。」

    とつい笑ってしまった。ほかの子分からも連絡がある。救急車とともに警官もきたので一旦離れます、と。桐生は少女を連れて後からでてきたようなので、無事のようだった。

    (であれば、運ばれたのは、真島組の誰かか。)

    桐生は一度喧嘩となると容赦がない。普段は優しく忍耐強い男だが、一度拳を握ると修羅になるのだ。自分から喧嘩を売りに行くことはない、と自らは言い張っているけれども、その正論を押し通す姿は、見るものが見れば鼻にもつく。上から言っても、自分は自分と聞きやしない、そして突き進んでいく途上に誰がいようとも、立ち止まることをしない。堂島の龍、と呼ばれる苛烈さの所以がそこにある。

    (そんな桐生とはいえ、世話になった兄貴分である真島を殺すまではしないだろうが…。)

    組の縄張り事のまえに、真島自身を案じている自分がいた。妙にそちらを心配している自分がいる。もし真島がどうにかなることがあれば、嶋野組との抗争は後を引けないものになる。嶋野の逆鱗のひとつに、真島があることは間違いない、と風間も見てとっていたようだから。旧堂島組傘下であった組が、真島に蹂躙されているときも、風間はのらりくらりと嘆願を躱していた。
    事務所の窓から階下を見る。首をのばすが、手前のパチンコ屋の看板が明るく、セレナに電気がついているかは見えなかった。道一つ隔てたところにいる弟分にも会いに行ってやれない、なんと窮屈な我が身なのだろうと思う。

    (極道の旧弊、上下左右のしがらみに雁字搦めだ。)

    そんなだからこそ、街で真島を見かけても、手を伸ばせはしなかった。

    (真島も、自由にやっている風に見せかけて、きっとそうなんだろう。)

    ジャケットから手帳をとりだす。まだ昨日かけられた香水の匂いが香る。この残り香は彼の叫びかもしれない、と思った。

    「………。」

    昨日はひたすら甘かっただけのフレグランスは、今日はどこか苦味さえ感じる得も言えない香りになっている。この香水は、自分を見つけて、と言われているようだった。
    真島からもらった桐生の携帯番号だというメモを見る。かけようか、迷って、止めた。今、桐生にこちらの組の事情を知らせるわけにはいかない。桐生を介して他に情報が洩れる恐れがある。また、桐生が一人動くことで、絡まった事件の糸がほぐれてくる可能性がある。今、この街で起こっている全てのことが、誰かが描いた大きな絵図、そこに便乗していろんな人間が己の色をいれている最中なのだろうと思う。12月、クリスマス前の浮かれた雰囲気のなか極道が街を駆けずり回るこの空気感は、カラの一坪の事件、あの連夜の空気感に酷く似ていた。

    (皆…無事でいてくれ。)

    それは渦中の風間や桐生だけではない、敵である真島、そして今回の騒動の発端でありそうな、錦山のことも含めて、そう案じるのだった。





    翌日、本部からの連絡で、美月という女の死体が東京湾からあがったようだ、これで百億の本ボシは由美という女だ、それを探せと情報が回ってきた。嶋野組が躍起になって探せと号令をかけている少女の情報は、そこにはなかった。

    (どの組が、美月を殺して死体を海に捨てたんだ。そんなぞんざいなやり方、まるで見つけてほしい、とでもいうように…。)

    おそらく死体があがったという一報は警察情報だろう。連絡がくるたびに、誰かが、宝がほしければある場所へ向かえと誘導している、そんなタスクめいたものを感じた。

    (一旦、本部からの情報は頭から消して考えればいいのか…花屋からの話を整合づけると…。)

    腕を組み、考えに耽っていると、地回りにだしていた子分が駆け込んできた。

    「カシラ! スターダストで銃撃戦があったようで…!」
    「スターダストってあれか、ホストクラブのか?」
    「はい、店から客が追い出されてて、野次馬がたかってました。どうもヤクザ者ではなく、警官でもない、折り目の正しいスーツの男が数人、発砲して逃げたようで…!」
    「海外マフィアか?」
    「いえ、日本語は流暢にしゃべっていたようです。こちらもそれらしき人間をちらっと見ましたが、人数は四人、胸にバッジをつけていました。外車じゃなく、日本の黒い、そう…公用車のような車に乗って立ち去りました。」
    「公用車? 区官庁のか?」

    はい、と子分は頷く。腕を組み頭をひねる。

    「公安…にしては荒っぽいな。」
    「今、表にサツが来てます。中で人も死んだようで。」
    「殺人までか…。」

    ますますわからなくなる。一体、誰が本当の敵なのか。判断を誤るわけにはいかないが、あまりに分からないことが多かった。わかった、と頷き、席を立った。
    子分を伴い下へ降りると、風堂会館の傍まで人垣ができていた。てっきり事情聴取で警察がやってきているのかと思いきや、規制線はスターダストの店舗の前だけに貼られているようだ。人の間をぬって、先に進む。スターダストの紫のゲートが見えたとこで立ち止まる。子分が周りを警戒するように立つ。周りの会話に耳をすます。

    「ヤクザの抗争?」
    「いや、なんかもっとすげースーツの、金持ちっぽいやつが入っていったって話だよ。」
    「政治家のSPみたいな?」
    「そうそう。そんなかんじ。グラサンかけてさ。」
    「映画のエージェントみたいでちょっとカッコいい!」

    若いホスト風の男と、水商売風の女がそう話している。

    「スターダスト、本日臨時休業、だってー。」
    「なんか警察きてたもんねー、最近ちょっと多くない?」

    大学生風の女がそう連れだって話している。ざわざわと噂する言葉を耳にいれながら、道の対岸を見る。雑居ビルの二階、セレナの入っているフロアに明かりがついている。

    (桐生がいる…かもしれないが、会ってはやれねぇな。)

    自分が立ち入ることで、外部の者にアジトを教えてやることになってしまうかもしれない。天下一通りには、これでもか、とヤクザ者が事態を見に来ていた。皆、この街で起こることに敏感になっている。こちらの顔を見つけて、頭を下げる者もあれば、あからさまに敵愾心をむき出しにして睨みつけてくるものもいる。こちらが顔をむけると、さっと目を伏せ、北へとむかっていく薄灰色のスーツの男がいた。セレナを見張っていたようだ。

    (錦山組の新藤か…。錦山、あいつも、桐生には会えたんだろうか。)

    葬儀会場でも、錦山の姿は見なかった。錦山組の入りが遅いな、と思っていた矢先に起きた事件だったからこそ、風間が撃たれ、そして嶋野の動揺を見た時に、引き金を引いたのは誰か、いやがおうにも分かってしまった。その後も事態は桐生が娑婆に戻ってくるのを待っていたように動いている。もはや今回の中心に錦山がいることが間違いなさそうだ、というのはどこか確信めいたものがある。

    (桐生と腹割って話せ、今ならまだ戻れる…そんな言葉も、もうあいつの耳には届かないのだろう。)

    妹が死んでからの錦山は、みるみるやつれ、その目に険を含む表情を隠さないようになった。風間の労いの言葉にさえも、ここにいるのが桐生ならよかったですね、と返す。その不躾な態度に対して、こちらの叱責の言葉を投げようとも、何一つ響かないどころか、哀れっぽい表情をみせているものの、腹のうちで冷笑しているふうなのが見てとれた。今の錦山をほうっておくのは不味い気が、と言ったこちらの危惧にも、風間は、若いときはああなることもある、ましてや身内の死のあとだ、そっとしておけ、と言うだけだった。桐生がいれば、あの無邪気な鈍感さでもって、きっと自棄になる錦山にお節介を焼いたはずだと後になって思った。
    錦山は、その後、全ての物事に対して、冷笑的に臨むようになった。孤独が怜悧な武器になってしまった極道は強い。守るものがなくなってしまえば、あとは攻撃に転じるだけ、とでもいうように。自らの目的のために、どんな残虐な方法もとれるのが人間だった。もともと利発だったその頭は、しがらみを捨て去った途端に、次々と革新的なアイデアを出し、旧弊にくすぶっていた若い極道たちを味方につけて組を大きくしていった。過激なシンパがついたことで拡大した組は、どんな情のない方法もとれる急進的な極道に、錦山を変身させてしまった。

    (親父は、それでも…錦山があの温室に戻ってくるとでも思っていたのだろうか。)

    錦山がこちらの組員を引き抜き、直系に昇格する時にも、風間は何も言わないどころか、他の直系との軋轢がないよう配慮してやっていた。だがその風間の内内の手助けが、すべてが裏をとったように、錦山には鬱陶しかったのだろう。風間のせめてもの償いの気持ちが、錦山には今更憐憫をかけられたところで、と反発をもったに違いない。
    その後も錦山はこちらのシマを喰らい、順調に勢力を拡大していった。世間的には錦山の裏切りに他ならないことにも、風間はまったく動揺をみせなかった。子供の反抗期、ぐらいに風間は思っていたのかもしれないが、錦山の、なにをやっても風間に意識をむけてももらえない、とでもいうような顔、その目にある憤りは、少し分かる気がして一部では同情を禁じえなかった。

    「………。」

    天下一通り、そこに二人の弟分が肩を組みながら歩いていた姿を、前で肩を組みながら帰るサラリーマンたちに重ね、心が痛む。

    『お前ぇ、また月の生活費足りねぇのかよ!』
    『いや、だから…足りないことはないんだが、今夜のおごりはな…。』

    ふっとそんな声までデジャブのように思い出した。

    「………。」

    あの頃より、行きかう人々の種類も変わってしまった街。皆、歩くルートが変わっていってしまったというのに、自分だけが、いまだあの頃の延長線にいるような気がして、情けなくなる。仕方ない、これが俺の選んだ道、と胸のなかで唱え、はっと溜息をついた。北の泰平通りから、続々と応援の警官が来る。そいつらに顔を見られないよう、後ろに控え警戒していた子分に、

    「帰るぞ。」

    と告げて事務所へと踵を返す。真冬だというのに湿気た風が頬を撫でる。空は低く、厚い雲が街の色を反射して鈍く光っている。雨が降りだしそうだった。









    翌日の昼間は本部からの呼び出しをくらっていた。てっきり破門の桐生と連絡をとりあっていることに感づかれたか、と警戒して参上したが、執務室に入るなり、風間のカシラの様態はどうなんだ、と案じたような本部長に聞かれた。

    「いえ、それが、まだ目をさましませんで…。」

    そうか、と本部長は顔をおさえ、

    「この難局をどう切り抜けていいやら…。皆、カシラに頼り切りだったな。」

    と沈痛な面持ちで言った。それに頷くと、横にいて遣り取りを筆記していた菅井、という同い年くらいの幹部の男が、言った。

    「世良会長のお持ちであった、日侠連、という組織をご存じですね。」
    「ええ。」
    「その日侠連にご報告と、すこしばかりお聞きしたいことがあるのですが、連絡がつかないのです。」

    菅井は二代目時代から組を持ち、東城会に仕えていた男だ。地味な形だが、得体の知れない男ではいた。こちらが相槌もうたず、次の言葉を待つのに、菅井は、ええ、ですから、と甲高い声で間をおいてから言い直した。

    「世良会長の組織です。柏木さん、あなたなら、何か連絡手段を知ってらっしゃるのではないかと。」

    猫撫で声で慇懃無礼なもの言いをする。物静かな男だが、どうにも値踏みされているふうな視線が好きにはなれなかった。

    「地下組織、ということで会の名簿にも載っていない。私どもも、困ってしまっていてですね…ご存じありませんか。」
    「それは俺たちも同じです。普段、特に日侠連と組とのやり取りがある時は、風間の親父と世良会長が直接やり取りしていましたので。」
    「やはり風間さんに聞かないとわかりませんか。」

    本部長も、だろう?と菅井に聞いてみせた。だが、菅井は納得していないような目でこちらの言葉を待った。

    「日侠連と連絡をとり、何をお知りになりたいので?」
    「ええ、それは…澤村由美、という女性のことです。」
    「由美…由美、という女が百億をもって逃げている、と聞いています。その由美の名字が、澤村、なのですか?」

    さわむらゆみ、と、聞けば、あの女性しか思い出さない。桐生や錦山とヒマワリで一緒に育った少女だ。その事実を、つとめて表情にださず、菅井の柔らかな尋問に似た質問に答える。

    「ええ、その由美さん。数年前まで、こちらに出入りをしていた形跡があります。世良さんとここに来たこともあったようです。」
    「では、会長の女であったと? それは初耳ですな。」
    「それは私どももわかりません。なにしろ、世良会長は秘密主義者でしたから。」

    ふっと笑った菅井は、だが…と、細い目を鋭くさせて言った。

    「だから、日侠連が匿っている、となると、この東城会総出で探しても見つからない訳がわかる。」
    「…確かに。」
    「柏木さん、何か風間組長から聞いておられませんか?」

    優しく柔和な物言いで言う。それに、いえ、と首を振った。

    「あいにく、うちの親父は会長以上に秘密主義者でしてね…。そもそも、俺たちも日侠連の組員との接触は、親父の言いつけがある時にしかなかったもので。その由美、って女がここに出入りしていたことも初めて知りました。」

    事実を言葉にする。机を挟んで、菅井と睨み合う。ピリッとした緊張に本部長が身じろぎすると、菅井のほうが、ふっと視線をそらした。

    「そうですか。」
    「力になれず、すみませんな。」
    「いえいえ、ご足労おかけしました。柏木組長。」
    「…?」
    「いえ、柏木さん。」

    ふっ、と菅井は笑い、会釈してみせた。組員が、どうぞ、と後ろのドアをあけた。軽く頭を下げて辞去する。

    「…………。」

    ぐっさり、とナイフを刺された気分だった。部屋を出てきても、あの特徴的な声が耳についている。言いしれない苛立ちがつのる。菅井は本部の事務方のナンバー2のような男だ。自分の組も持っているが、長いことこの東城会本部に詰めているのだから、その情報は間違いではなさそうだ。

    本部前につけられた迎えの車。子分の開けたドアから乗り込み、シートによりかかり腕を組む。

    (澤村由美…死んだんじゃなかったのか。)

    同姓同名か、とも思ったが、世良と親交があったというのだから、恐らくあの由美なのであろう。
    堂島宗兵に乱暴され、錯乱状態で病院を脱走すること数回。こちらも風間に応援を頼まれ、捜索を手伝ったことがある。由美は、都内の病院から歩きで県外の養護施設ヒマワリへ行くところだった。途中の山道をパジャマに近い格好で歩いていて、その時は警察に保護された。幼いころ、ヒマワリにいたことだけはうっすらと覚えていたようだった。記憶障害と、重い鬱状態。そう診断されていた。たしかに、年頃の女性がレイプされそうになったうえに、殺人現場まで見てしまったのだから、心を閉ざしてしまうのもわかる。その脱走以降、ヤクザ者の気配がないほうがいいだろう、と風間が遠くの療養所に移送したのだった。はっきりと場所は聞かなかったが、海が見えるところ、と言っていた。だが、半年ほどそこで過ごし容態が落ち着いたころ、散歩と称して出かけた岬、そこから身を投げてしまったのだという。自死なのか、事故だったのかは分からない。盛夏だったこともあり、見るも無残な水死体となってしまっていた、と風間も悲痛な表情を隠さず言っていた。

    (たしか、死亡診断書を、見た気がするのだがな…。)

    身寄りのない身であったため、死亡届がだされてしまっては金融関係の手続きができなくなる。その為、先まわりして金を引き出せるようにしてくれ、と頼まれた覚えがある。風間組と養護施設の関係者のみの密葬だったが、錦山は子分を連れずにやって来て、入らせてくれませんか、と頭を下げた。寝ずの番をしていた風間も、頷き、席を譲った。錦山は、鋲を打ち付けられ開けられなくなった棺の前で、夜が明けるまで一人で座っていた。

    (それもこれも、すべて親父のフェイク、だったってわけか。)

    世良が匿っていたのかもしれない。一番の情報がブラックボックスで、しかもその情報をもっている二人が今はもう言葉を発せられない状態になっている。

    (もし、あの由美が生きているのなら、今は誰の力も借りず一人で逃げているってことか?)

    今回の事を共謀した妹も死体となった今、日侠連と逃げている、というのはたしかに頷ける。澤村由美、という女性については、中学の制服を着て三人で歩いていた頃しかはっきりした記憶はないのだが、あの事件の後、一度だけ事務所に来て会った。その時は、快活だった笑顔もなく、鬱病患者がするような能面のまま、風間の部屋に入っていった。

    (いつ記憶が戻ったのか。本部に立ち入ったのは、いったいいつだったのか。)

    先ほど聞いておけばよかった、と己の大きな失態に苛立ちがつのる。神室町に戻るまで、パズルのピースをはめては欠けしていゆく図面と格闘した。




    夜十時、ようやっと事務所の雑事を終え、お気に入りの中華屋で夕飯をとっていると、携帯電話に子分から着信があった。食いかけの焼飯を嚥下し、それをとる。

    「カシラ! 賽の河原が燃えています!!」
    「なんだって…?」

    眉をひそめて報告を聞く。西公園で爆発騒ぎがあり、公園前に救急車や消防車が来ているという。

    「あと、嶋野組が探してるっていう少女ですが、どうも他の組も行方を探しているようです。」

    街のギャングたちが、こういう女の子を見つけたら五十万円、と言い触らしている。その特徴が、ちょうど桐生と一緒にいる女の子に近いものです、と。

    「極道じゃないやつらが、少女を探してるってのか。」
    「はい、かなりの規模のチーマー、若いやつらが動員されています。大規模なローラー作戦が展開されているようです。」
    「どの組が号令かけてんだ、わかるか?」
    「今ははっきりとは分かりません。西公園に襲撃かけたのも、カラーギャングのやつらだと言われています。」
    「とんだことになってるな…。わかった、これ食ったらすぐ戻る。」

    飯をかきこんで事務所に戻ると、どの電話もひっきりになしに鳴っていて、子分が、こっちの知ることじゃねぇだろ!と怒鳴っていた。

    「どうなってる?」

    先ほど電話をかけてきた子分から周辺の状況を聞く。

    「賽の河原がだいぶと燃えてしまっているようです。ホームレスがほうほうの体で中から逃げてきて、花屋さんからの伝言で、河原のシステムが落ちた、と。」
    「本当か…!」

    火の手は目に見えるくらいで、すでに救急車、消防車が何台も西公園にきている、という。

    「それが今から一時間ほど前でした。」
    「そっから、花屋本人とは連絡がついたのか?」
    「いえ、まだ…。」

    ケツモチしてる店から、不良どもが女の子を匿っていないかと強引な方法で聞き込みにきている、とヘルプの電話が多くて…と、今も、鳴り響く外線を一旦切ってから子分は言った。外では消防のサイレンが幾重にも鳴り響いていた。パトカーのサイレンも聞こえる。

    「規制線がひかれりゃ、しばらく近づけねぇな…。」

    窓にうつる赤色灯の反射に、ちっと舌打ちする。賽の河原は風間組、そして日侠連が出資している。それを気づいた東城会本部の人間の仕業かもしれない。いったい今回の事件、どれだけの仮想敵と戦わなければならないんだ、と奥歯を噛んだ。







      ***









    バッティングセンターの襲撃後、三日ほどして退院した。明日は経過観察で医者に来い、と言われているが、思ったより傷口はふさがっている気がした。上手い執刀医だったのだろう。
    事務所に戻ると、子供はもう用なし、探さなくていいという話が届けられていた。嶋野はあの子供の持つ何かがほしかったらしい。あほらし、と吐き捨てる。金になるものを持っていたのか。

    (金カネかね、結局それしかないんかい。)

    桐生が出所してから一週間、この街のうねりはまだ落ち着かない。組長椅子に座るなり、子分がかわるがわる、桐生がこの数日何をしていたのかを交代ごうたいで聞かせてくれた。あいかわらず、桐生は人目をはばからず街をいったりきたりしているようだった。特に、少女を連れていて、あの形(なり)だから、人の目をひくものだ。子分に引き続き、監視という名の護衛をつけた。だが、本人は様々な組の思惑など気にするでもなく街を歩いている。

    (豪胆というか、なんというか…。)

    柏木が心配するのもわかるな、とふと本当の兄のような気分になってしまった。
    ジャケットから煙草をとりだし、火をつける。組長椅子に腰かけ、久しぶりにゆっくり吸うハイライトの味は美味い。ふぅっと煙を吐き出す。

    「………。」

    カラの一坪の事件の後、柏木から桐生のことは聞いていた。街で会っても普段なら会釈して通りすぎるだけだが、会話がある時は、とっかかりは必ずといっていいほど桐生のことだった。

    『真島、桐生みかけねぇか。』

    たしか、あの夜のあと暫く経って、街で柏木から声をかけられたのはそんな台詞だった。見ていない、と答えると、あいつ客待たせてどこほっつき歩いてんだ、といかり肩で中道通りを歩いていってしまった。その後、桐生が道中でチンピラ相手にケンカしていたところに乱入する。二人で良い戦いをしていたら、怒号が飛んできて引き分けになったのだ。もちろん、その声は柏木である。まるで子供の悪戯がばれたように、ぎょっと肩を跳ねさせた桐生は、バツの悪そうな顔で、兄さんまたな、と言い、鬼の形相の柏木の背に小さくなりながらついていった。その一連の流れが面白くてならなかった。
    そこからだ、桐生を見れば喧嘩を売るようになった。堂島の龍と嶋野の狂犬のストリートファイトはいつしか、この街の一種の名物風景のようになっていた。こちらが喧嘩をしていると、柏木が現れて、またか…というような目でその喧嘩を遠巻きに見ていた。今、自分が柏木の視界のなかにいる、と思うと、妙に元気が湧いてきて、普段から楽しい喧嘩が二倍楽しくなっていった。勝った負けたで柏木と言葉を交わすことはないけれど、いつしか、桐生一馬は二人の話題の共通認識のようになっていた。ちょうど嶋野組に復帰し、あまりにも日常がつまらない、と思っていたところだったから、徐々にそれは生きる糧のようになっていった。

    (若いころからずっと目をかけてやってるって言うてた桐生が、こんなところで殺されでもしたら、あの人は絶対悲しむやろう。)

    年の離れた弟、というよりもう少し距離のある、いわば甥っ子のようなそんな口ぶりで話していた。羨ましくてたまらなかった。自分は義兄弟と離れ離れになってから、本当に、この街にも世界にも、縁のある人間がいないから。

    (あんた以外…はな。)

    それも、こちらが勝手に縁がある、と思っているだけなのかもしれないが。そう苦い苦笑と共に灰皿に灰をおとした瞬間、ドーンっという爆発音が聞こえた。思わず振り返る、窓から夜にしては明るすぎる光が見えた。地響きの名残か、事務所の窓がビリビリと振動している。

    「なんや…!?」

    事務所の子分も、おおっ?!なんだ??!と叫んでいる。窓を開けると、火薬の香り、そして、眼前には火の手。

    (なんや、なにがあったんや…?)

    事務所から見える西公園の左手には、高いバリケードが張り巡らされていて、中の様子はこの三階からも詳しくは見えなかった。だが、東の方角、公園の奥のほうから濛々と黒煙があがっている。篝火でない、火の手も見える。

    「親父、大丈夫ですか?!」

    西田が、この焦げ臭いに細い目をしばたかさせながら、組長室へ入ってきた。

    「おう。あれ見てみ。」
    「火事? それにしては、物凄い音でしたね…。」
    「何があったかわからんが、カチコミか…なんか、か。」
    「といっても、あそこは昔っからホームレスのたまり場で、もしかしたら炊き出しのガスが爆発したってだけかもしれません。」

    しかし、失火にしては派手すぎる物音がしていた。そうこうしているうちに部屋の中に煙が入ってくる。ビニルシートが燃えたのか、化学薬品の臭いで目が痛い。

    「窓、閉めぇ。」
    「は、はい!」

    ごほごほと咳き込みながら、西田が窓を閉じた。消防のサイレンが聞こえる。

    「さすがにここまで燃えうつりはせんやろが、お前ら、ちょっと下いって何あったか見てこい。」

    へいっ、と男たちがでてゆく。テレビをつけるが、夜の十時のニュースは学習塾でおこった殺人事件のニュース一色だった。

    (なんや、またキナ臭い感じがするな。)

    暫くすると、子分たちの報告がぼちぼちあがってきた。なんでも、街にたむろっていたギャングどもが一斉に、西公園のなかに襲撃をかけた、ということらしい。ホームレス狩り、などという悪趣味な遊びの一環ではなく、あの女の子を探すために中に押し入った、ということらしかった。

    (ギャングが、あの嬢ちゃんをさらっていった?)

    桐生がこの前の通りを通ってどこかへ行っていたのはそれだったのか、と思う。

    「人を隠すなら人のなか、ってホームレスに預けてたってわけか。」
    「そのようです。カラーギャングの奴らが、家探し、といって、とにかく家を破壊していったらしく…中から逃げてきたホームレスが言っていました。」
    「ほう、そいつらは、まだ中におるんか?」
    「いや、そこまでは…。」

    調べてこんかい、と子分の頭を叩いてから、机よりぐっと身を乗り出した。こちらの顔色に、西田が、またはじまった、というような顔をした。

    「よっしゃ、そいつらいっちょシバき倒してくるわ。」
    「はぁっ、親父!? まだ病み上がりなんすから…!」

    押しとどめてようとする西田の頭をシバいてから、

    「そんなガキ相手に、俺が負けるとでもおもとんのか?! 三日も寝とってん、肩慣らしや、肩慣らし。」

    そう言って椅子より立ち上がる。でもギャングを使ってるやつらが、嶋野の叔父貴とも限りませんしぃ、と泣き言でも正論を言う西田に、たしかに、と思う。それならこの目立つジャケットの恰好ではいけない。

    「ほな、俺やとわからんかったらええか。」

    そんなこっちゃないでしょう!と的確にツッコミをいれる西田を筆頭に、まだ何か言いたそうな子分たちを部屋の外に追い出す。ロッカーを開け、着替えの服を見る。スーツを着ようかと思ったが、ふと目に入った、タキシードを手に取った。以前、バーテンの格好で遊んだ時のものだ。それに着替え、部屋を出ると、子分の、さすが親父何着ても似合いますね!というヨイショと、西田の、それでまた何するんですかぁ…という声が同時に聞こえた。

    「ちょっとええこと、思いついたんや。」

    事務所に飾ってあった般若の能面を手にとった。

    (これで襲撃したったらおもろいかのぅ。)

    もし相手がギャングであれ、嶋野と組んだ近江の奴らであれ、東城会のほかの組員であれ、自分が誰だとわからないほうが今はいい。この混乱に乗じて、誰かわからない般若の仮面をかぶった奴に重傷を負わされた、追い掛け回された、とホームレス伝手に怪談めいた話が飛び交えばなお面白い。

    「お前ら、おとなしゅうお留守番しとけよ。」

    そう言って、般若の面をかぶり、まだ焦げ臭い風が吹く公園に繰り出した。


    混乱に乗じ、破れたバリケードの中から公園内に忍び込む。いつも西公園の公衆便所付近で煙草を吸っていたりするが、この中にまで入ったのは数度しかない。中はドヤ街からすらあふれたようなホームレスのたまり場だ。興味も用事もなかったから、傍にあっても気にすることもなかった。
    金属バットを持った赤い服を着たギャングを三人ほど、なぎ倒した。あっけないほど簡単に、そいつらは地に倒れ伏す。どんなに粋がっていてもまだまだ子供だな、と手ごたえのなさを感じつつも、他にも数人、向かってきたチーマー風の男を倒したが、暴れ足りなかった。
    焦げた匂いと白煙が公園の中に充満している。消防隊や救急車も到着したようだ。この様子ではすぐに警察も規制線を引くだろう。ギャングも目的を済ませて撤退した風である。地に落ちた金属バットを蹴る。カラカラを音をたてて、それはアスファルトを転がった。

    (もう中に、やつらはおらんようやな。)

    街の外を探そう、と思った。

    (あの嬢ちゃんも、悪戯されてないとええんやが…。)

    中には悪趣味な奴もいないとも限らない。ギャングどもは極道のように事務所を構えているやつは少ない。溜り場や縄張りのようなものはあるものの、神室町一帯に蟻のようにいるそいつらをいちいち締め上げて、女の子を攫ったのがどいつだ、と聞くのも、桐生一人では骨が折れることだろう。

    (三日間、寝とった間に、どんなけ街の様相が変わったんかも知りたいしな。)

    桐生を手伝うつもりはないけれど、と胸中に言い訳して、公園の外に出た。



    街で見つけたギャングを叩きのめして聞いた情報を合わせると、ギャングどもに少女を探せと懸賞金をだしているのは、海外マフィアらしかった。

    (マフィア…? まさかこれも、嶋野の親父の指図なんか…?)

    ちっさな女の子相手にそこまでするだなんて、どこまで下衆やねん、と吐き捨てる。街を見回しても、まだそのマフィアらしき人間は見当たらなかった。ヤクザ者も辻に立って警戒していたが、皆ギャングが自分のシマを荒らされるのを警戒しているような感じだった。少女の行方は知れないものの、途中で面白い話を聞いた。

    「西公園が燃えた、って、あの遊郭も燃えちまったのかなぁ。」

    と話している、金持ちそうな男がいた。脅して詳細を聞くと、どうも公園の奥には赤線の名残みたいなものがあるらしかった。大阪の椿園ってわかるか、小さい所だがあんな感じだよ、と言われ、思いがけず呼び出された遠い記憶ににんまりと笑んだ。

    途中、雨に降られながらも、西公園に戻った。火の手も消されたのか、消防や救急の緊急車両はもう止まっていなかった。パトカーはまだ一台止まっていたものの、規制線も解除されていた。破れたフェンスをぬって中に入る。ホームレスらしき男が、こちらの姿を見て、ギョッとした顔で横を通り過ぎた。そいつの手にしていた消火バケツの水面に映った自分が、般若の仮面をかぶった妙な男で笑ってしまう。そうだ、途中から忘れていたが、そんな恰好なのだった、と。どこからどう見ても真島組長ではない、という姿にテンションがあがる。もう、自分は真島吾朗として生きるのに飽きているのだな、とらしくない哲学的な答えに行き当たって、ふっと鼻を鳴らした。
    火の手は西公園の、あまり立ち入ったことのない東側からあがっていたようだった。今は消し止められ、ホームレスが後片づけをしている。焼けたものが運びだされる、その横を通り過ぎて、そっと公園の中を進む。水の出ていない噴水の前までくると、そこにはドラム缶で篝火が焚かれていた。事務所から見える、左手のちらちらした光はこれなんだろう。ホームレスがその周りに、燃え残った破材を積み上げていた。

    (あの奥て、そんな奥行きないよな。どこに遊郭なんかあるねん?)

    ちょうど焼け跡が広がっている部分だった。

    「そこで何をしている。」

    暗がりに目をこらしていると、殺気も気配もなく声をかけられて、おもわず振り返りざま拳をあげた。

    「…ッ!」

    それをサッと躱され、逆に腕を捕まれる。何者か、と目をむくと、むぅ、と気合がこめられ、こちらの体がうきそうになる。そこには、下駄をはいた老人がいた。

    「米木のオッサン!」

    思わぬ再会をした。昔、蒼天掘にいる時に稽古をつけてもらった師匠だった。ステゴロの喧嘩の受け身などは、今でもこの人に教わった拳法を使用している。

    「お前…真島、か?」

    そうやった、と般若の仮面を外し挨拶した。米木は今は小牧と名乗っているそうで、神室町と向こうを往復して、新しい弟子を探しているらしい。桐生のことも良く知っているようで、やはりこの街に収斂していってしまうのだ、と笑ってしまった。桐生チャンと一緒にいたお嬢ちゃんを見なかったか、と聞くと、夕方まではここいらでウロウロしていたところを見たようだが、失火のごたごたにかまけていて見失ってしまったようだ。桐生とギャングたちがやりあったところも見たらしい。

    「遅かったか…。」

    ちっと舌打ちする。だが、桐生はまた一旦こちらに戻ってきて、連れの男たちとどこかへ出かけたらしい。

    「それより、真島。お主、サングラスの男に付け回されてやせぬか。」
    「サングラスの男?」
    「そうじゃ、ではあれは桐生のみをつけ狙っておるのだな。」
    「誰や、知り合いか?」
    「昔、顔をみた…というより、稽古もつけてやったことのある人間じゃ。堂島組にいた男でな、長らくこの街では姿は見かけなかったが…。」

    腕に覚えのある男だ、間違いないだろう、と小牧は言う。

    「親とられた返し…か。」
    「因果なものよ。」

    小牧は、暫くはわしもここの住人じゃ、また手合わせしたければ来い、と言い残し、片づけを手伝う為にその場を後にした。この西公園のホームレスのなかに、あのような得体のしれない人間までいるのか。

    (椿園、堂島組、米木のオッサンまで…全部あの時の続きのようやないか。)

    雨にうたれたせいだけではない、背中にゾクッとしたものが駆け上がった。何年も忘れていたことを、無理やりにでも思い出させられるような感覚。脳みそのなかの再生スイッチを誰かに無理やり押されたかのように、様々な光景が音と色も鮮やかにフラッシュバックする。

    「…っ……。」

    噴水の縁に腰掛ける。般若の仮面を横に置き、落ち着くために、煙草を取り出した。火をつけ、ゆっくりそれを吸う。せっかく面白いことを思いついたと思ったのに、完全に気がそがれてしまった。また自分も、知らない内に、事件の渦中に吸い寄せられていっている気がする。

    (あの日のようや…。)

    吸う空気の酸素濃度が急に下がったかのように、息苦しかった。傍観者だと思っていたのに。いつの間にか、事件は自分の周りを塀でぐるっと囲むようにして、そこから出られないようにされている。自分の進退をかける事件。今回のヤマは、やはり、そんな気がした。




    つづく
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    sueki11_pxv

    MOURNING京にきてからの鴨五。五視点。維!のド核心のネタバレ有(むしろその話)なのでご注意ください。
    十夜孟冬、市場に殻付きの銀杏の実が売り出される頃。開け放した障子戸から、念仏の声が聞こえる。京の各寺院では、この時期に、十夜法要が開催される。念仏を十日十日唱える、という法要だ。実際には十日も唱えていないのかもしれないが、寺院が多いこの界隈は、この寺が唱え終わるとこの寺、というように、ひっきりなしに様々な音律の念仏が聞こえる。この時期は、お十夜、と京洛では呼ばれていた。

    今日はまだ少し日中は暖かく、褞袍を羽織らなくても、袷(あわせ)の着物一枚だけで心地よい。縁側に紙を敷き、そのうえで銀杏の殻を割る。木槌を使って、一つ一つ殻に割れ目を入れるのだ。面倒だが、これをしないと火鉢の上で爆発する。銀杏の白い殻を持ち、コンと木槌を落として割っていく。コン、ぱり、コン、ぱり、という小気味よい音と、遠くから聞こえてくる念仏の声。穏やかな午後だ。一週間前に、あの凄惨な事件があったことなど、嘘のように。胸に芽生えた苛立ちに、木槌を落とす手元が狂った。コンッ、と高い音がしたと思ったら、指から外れた硬い殻が濡れ縁を転がっていく。
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    MAIKINGさなぎの続き。時系列は極。ソシャゲのシナリオネタも入っています。柏木視点、真島視点と続きます。
    さなぎのつづき22005年12月4日。東城会三代目であった世良が何者かに狙撃され殺害された。その葬儀の翌日、前夜に出所してきたという桐生を街で探したが、見つからなかった。桐生は風間が狙撃されたその場にいた。自分か駆け付けた時にはもうその姿はなかったが、シンジ曰く、風間が呼んだらしかった。相変わらず自分が知らないところで風間は動いているな、と苦虫を噛んだが、親の思考が読めないのは別に今に限ったことではない。とかく桐生と連絡をとることが先だと、シンジに聞くと、昔からの桐生たちのたまり場であったセレナというバーが連絡拠点になっているという。そちらに電話をかけたが、あいにく不通だった。社外秘ならぬ、組外秘のことだが、桐生には、風間の容態は伝えた方がいい気がした。きっと心配しているだろう。風間は搬送先で一度意識は回復したものの、手術の影響からか再び眠りについた。心臓付近を撃ち抜かれ、予断は許さない。だが、とにもかくにも一命はとりとめたことを教えてやらねばならない。会場では、桐生が風間を襲撃したという噂がまことしやかに流れていた。
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