痛みをめぐる夜話眠れない夜、クロードのもとに行くと科学のうんちくやおとぎ話(という名の食物連鎖の話)を話してもらえるので、聞いてるうちにねむくなってくる。この時間が実はけっこう好きだ。
「雷に七回打たれた男の話を知ってるか?」
「ええっと、知らないや」
「なら、人が一生のうち雷に打たれる確率は?」
「ううん、それも」
「一千万分の一だ。そしてそれが七回となると、概算にして二万千八百七十垓分の一。垓は十の二十乗だから、ふつうに考えてこれは「ありえない」数値だ」
「へえ……数のスケールが違いすぎてまったくピンとこない」
「しかし俺が思うに、この逸話の主題は確率でも運命論でもない」
「…じゃあ、なに?」
「痛み、だ」
「痛み?」
「痛みは全ての人に平等にもたらされる。痛みとはある人間にとっては血を流すことで、他の誰かにとっては孤立することで、また別の誰かにとっては――雷に打たれることだったりする」
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