「…君と、日中街並みを共に歩いてみたい」
さて帰るか、と。すぅすぅと寝息を立てているのを確認し、できるだけ音を立てないようにベッドから立ち上がったつもりだったが。
「おっ…と、悪ぃ起こしちまったか」
「いや、構わない」
「…なんだい?寂しがってくれてるのかい?」
横たわったまま、腕だけ延ばし今しがたボタンを掛け始めていたシャツの裾を掴んでいるヌヴィレットさんが、どうにも愛おしくて。
ギシリ、と。再度ベッドに腰掛ける。
「…このように忍ぶように会うことしかできないのは些か心が重い」
「んー…でもなぁ。ヌヴィレットさんは上でも下でも誰が見ても知れ渡っちまってるし…わかるだろ?」
悔しいが、そう笑顔で返すしかない。現状、『月イチ定例報告会後の執務室』『夜中にヌヴィレットさんの私室に潜り込む』『ヌヴィレットさんが俺の執務室の裏口から来る』の三択でまともに日光に当たった試しがない。
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