耳環④「忘機」
「はい、兄上」
「寂しいかい?」
「いえ…………」
藍忘機は窓の外を見た。飛行機は、さっきまでいた場所からどんどん離れていく。彼は、隣に座る兄への返答の中に、無意識のうちに言葉とは正反対の意味を込めていた。彼は無垢な自分の耳朶に触れ、あの時の小さな事件を反芻せずにはいられない。藍曦臣は、そんな弟を気遣ってか、それ以上声は掛けないで本を開いた。
「お前が知る必要はない。いや、……ここで言っておく。――あいつは、育ててくれた恩のある江家を裏切って行方をくらましたんだ!」
江澄が叫ぶと、藍忘機はほんの一瞬険しい表情になり、魏無羨は今日は戻らないと告げた。しかし、江澄は興奮気味のまま、更に言葉を重ねた。
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