殴り書きの恋文 それは本当に珍しい光景だった。レイシオが不在であろうとも入って構わないと言ってはいたものの、まさかここまで気を許されているとは思っていなかったのだ。すぅ、という吐息、見えなくなった特徴的な虹彩。机に突っ伏しているせいで上下する肩。眠っている、らしい。
今日まで遠征だという話は聞いていた。だから今日の夜は会いたいと言う彼に、外での予定ではなく家でゆっくりすることを提案したのだ。数ヶ月前に渡したこの家の鍵を使わせたいという算段もあった。どうにも、勝手に上がり込むということに抵抗があるらしいので。
「……アベンチュリン?」
問いかけてみても答えはない。当たり前だ。起こすための声ではなく、ただただ確認するためだけの声。当の本人である彼は呑気にまたすぅ、とその寝息を響かせた。
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