小さくなった新兵衛は記憶も後退しているらしく、あれだけ好きだった武市先生の事さえも記憶にないらしい。
わしの記憶も、勤王の記憶もない。
況してや、自分が英霊になったと言う記憶すらない新兵衛は不安で泣き出してしまった。
幸か不幸かたまたま見付けたのがわしだったのもあって、新兵衛を落ち着かせる事が出来た。
生前、先生から新兵衛の話はぼんやりではあるが聞いていた。
本当は次男坊で、血の繋がった兄が居た事。
「兄さ、どこ」
ここには居ない兄を探して、泣き出していた新兵衛。
最初は面白がってやろうと思っていたが、本格的に泣き出した新兵衛を放って置く事も出来ずに抱き上げた。
弟にそうしていた様に、不安で泣いている新兵衛を抱いて胸へと引き寄せる。
1954