ゲームのBGMの合間に聞こえた「あ、」という声。二人分のおやつとコーヒーを準備をしてくれている浮奇のその声だった。ゲームを一時停止して、ソファーの上でキッチンを覗き込む様に身体を反らし視線を向けると、カウンター越しに手を洗う姿が見える。
「どうかした?」
「ん、んー…大丈夫」
手元を見つめたままの返答になんとなく違和感を覚えるが、浮奇の表情はいつもと変わりなく、慌てた様子も困った様子も見受けられない。コーヒーの粉を溢したとかかな、なんて思いながらも何となく勘が働いて、コントローラーを置いて立ち上がり様子を見に行くと、浮奇の手元を見るなり俺の眉間に深くシワが刻まれた。
「それのどこが大丈夫なの?」
いつも綺麗に手入れされている浮奇の手。昨晩「新しいネイル、いいでしょ」と嬉しそうに見せつけられたその手に、赤い筋が走っている。人差し指の根本側面に刻まれた切り傷から水に滲んだ血が滴り落ち、シンクに弾ける。
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