作家
いずみのかな
DONE有栖川作家編 出来上がる前。ハロウィンに更新した火村の誕生日ネタです ほくほくのかぼちゃの君とぼくわたしはカボチャ 一瞬、自分の睡眠時間はそんなに足りなかったのかと、火村は心の中で実際何時間寝たのかを指折り数えてしまった。
寝不足から頭が動いていないから聞き間違えをしたのではないか。そうとしか思えないことを目の前の男は言ってのけたのだ。
「やから、心斎橋のあの店、知っとるやろ? 予約しといたから十五日は絶対に明けとけって。ついにボケたか、センセイ」
「俺が聞いてるのはそこじゃない。いや、そこも大いに問題だと思うんだが、その前」
「その前……、君の誕生日やから盛大に」
「そこだ」
火村は座りなれたソファに深々と背を預け、「そこが、って?」ときょとんとしたままの友人を見た。間もなく最新作が発売されるという彼は、しばしの休息に入っているらしい。床屋に行ったのだろう、すっきりとした髪型の下の顔は、顔色がとてもいい。
5623寝不足から頭が動いていないから聞き間違えをしたのではないか。そうとしか思えないことを目の前の男は言ってのけたのだ。
「やから、心斎橋のあの店、知っとるやろ? 予約しといたから十五日は絶対に明けとけって。ついにボケたか、センセイ」
「俺が聞いてるのはそこじゃない。いや、そこも大いに問題だと思うんだが、その前」
「その前……、君の誕生日やから盛大に」
「そこだ」
火村は座りなれたソファに深々と背を預け、「そこが、って?」ときょとんとしたままの友人を見た。間もなく最新作が発売されるという彼は、しばしの休息に入っているらしい。床屋に行ったのだろう、すっきりとした髪型の下の顔は、顔色がとてもいい。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 健全コメディ。これを書いたころは、まだ有栖も火村も大学時代に懐かしいあのクイズ番組に出られた年代生まれでした。あったんですよ、アメリカ横断ウルトラクイズっていう番組がNYははるか遠く 大学というのは非常に特殊なコミュニティだ。その気になれば、四年間誰とも口を利かなくとも不自由はない。二十年ほど生きてきて、自分は人と関わらないほうが生きやすい、という後ろ向きな――しかし魅惑的な結論に達していた火村にとって、誰も自分を知らない土地での学生生活はようやく掴んだ理想の環境であり、四年間、あるいはさらに数年ほど延びるかもしれないが、ともかくその期間は他人を受け付けることなく、日々の暮らしはただ静かにひっそりと営まれるはずだった。
そんなささやかなプランがあっけなくひっくり返されたのは去年の五月のことで、ふと気が付けば、いつのまに周りには友人と呼べる人間がちらほらと存在するようになっていた。初めのころこそ、理想と現実のあまりのギャップに軽いめまいを覚えたような心地だったが、そうしてしばらく過ごしてみると、人との付き合いはかつて感じたほど苦痛でもなく、ティーンエイジャーだった自分がいかに独善的で視野が狭く、排他的だったことか。つまり一言で表せば平凡に若かったかということを、しみじみと実感してしまったりもした。
4714そんなささやかなプランがあっけなくひっくり返されたのは去年の五月のことで、ふと気が付けば、いつのまに周りには友人と呼べる人間がちらほらと存在するようになっていた。初めのころこそ、理想と現実のあまりのギャップに軽いめまいを覚えたような心地だったが、そうしてしばらく過ごしてみると、人との付き合いはかつて感じたほど苦痛でもなく、ティーンエイジャーだった自分がいかに独善的で視野が狭く、排他的だったことか。つまり一言で表せば平凡に若かったかということを、しみじみと実感してしまったりもした。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 学生時代、酔っ払いと片思い。暗いっていうか陰気です。アリス→火村あらしの前 年に一、二度こういうことがある。
本棚に囲まれた狭い畳敷き部屋の隅で、すっかり呑まれて眠り込んでいる火村を起こさないように、有栖は散らばった酒の缶を台所に運んでいた。
スルメとカワハギと、ワンカップとビールとそしてキャメルの匂いが混ざったこの部屋は、ヘタな場末の酒場よりもすれた雰囲気になっている。火村といえばアルコールが回ったからか、眠り込む直前「暑い」といってシャツのボタンをいくつか外していたから、春になり多少空気が温くんだとはいえ、どこか寒そうに素肌を晒している。健康的というより典型的な酔っ払いの肌がほんのりと赤く色づいているのが、先ほどから何度も有栖の目に飛び込んできていた。
このつまみ類を片付けたらあのボタンを留め直そう。
8006本棚に囲まれた狭い畳敷き部屋の隅で、すっかり呑まれて眠り込んでいる火村を起こさないように、有栖は散らばった酒の缶を台所に運んでいた。
スルメとカワハギと、ワンカップとビールとそしてキャメルの匂いが混ざったこの部屋は、ヘタな場末の酒場よりもすれた雰囲気になっている。火村といえばアルコールが回ったからか、眠り込む直前「暑い」といってシャツのボタンをいくつか外していたから、春になり多少空気が温くんだとはいえ、どこか寒そうに素肌を晒している。健康的というより典型的な酔っ払いの肌がほんのりと赤く色づいているのが、先ほどから何度も有栖の目に飛び込んできていた。
このつまみ類を片付けたらあのボタンを留め直そう。
いずみのかな
DONE有栖川作家編。2004年に「納涼企画」というwebアンソロがありまして、そこに掲載しましたものです ”夏に涼しくなる話”がコンセプトでしたので、そのことを強く強く心に留めたうえで、閲覧くださいますようお願いします。文ヶ淵 私の故郷は雪深い北国で、冬になると白い壁が町中を覆い、白と灰と黒以外の色彩が全て奪われる、そんなところだった。
東京は高いビルばかりで息が詰るが、まだ赤いランドセルを背負っていたころの私には、冬になる度に積もる雪は圧迫感の象徴みたいなもので、横を通るたびにいつ潰されるか、いつ取り込まれるかと、内心恐れ慄きながら走り過ぎたものだ。
あの中に入ったら最後、山から雪ン子が降りてきて、自分の友達にするために連れて行って、氷のべべを着させられるのだと、昔、祖母が言っていた。だから冬はじっと家の中にいて、大人しく息を潜めて春を待つのだと、間違っても雪の手招きを受けてはいけないのだと、まだ紅葉のような赤い手をした私に、何度も何度も言って聞かせたものだ。
9389東京は高いビルばかりで息が詰るが、まだ赤いランドセルを背負っていたころの私には、冬になる度に積もる雪は圧迫感の象徴みたいなもので、横を通るたびにいつ潰されるか、いつ取り込まれるかと、内心恐れ慄きながら走り過ぎたものだ。
あの中に入ったら最後、山から雪ン子が降りてきて、自分の友達にするために連れて行って、氷のべべを着させられるのだと、昔、祖母が言っていた。だから冬はじっと家の中にいて、大人しく息を潜めて春を待つのだと、間違っても雪の手招きを受けてはいけないのだと、まだ紅葉のような赤い手をした私に、何度も何度も言って聞かせたものだ。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 ヒアリ わがままとわがままナポリタン 失恋の心を癒すのは、新しい恋に限る。
恋愛の最後なんてみっともなくて辛いだけだ。いかなる形の別れであっても、心の奥に隠してあったものが剥き出しになる。なにより、自分の醜さが露呈する。恋は前向きで美しいなんて嘘だ。エゴと我が侭に塗れた、手に負えない暴走する感情がコアにあるのだから。
本当に手に負えない、と思ったのだ。
あの男と来たら、紳士な振りをして排他的で、優しい顔をして実際は線を引く。こちらの覚悟なんて知ったことじゃないとばかりに、お前が大事なんだ、と言いながら本心を巧みに隠していく。
自分という存在が必要だろう、と傲慢に構えながら、心の底で相手の心を推量しては怯えていた。か弱い乙女ではないのだから、と本音を飲み込みながら笑顔で接するのは辛く、会う度になにかに罅が入る音が脳の中で響いていた。話してはいけないと頑なに思い込むことで、関係すらも硬化していくことからは目を背け続けた
9544恋愛の最後なんてみっともなくて辛いだけだ。いかなる形の別れであっても、心の奥に隠してあったものが剥き出しになる。なにより、自分の醜さが露呈する。恋は前向きで美しいなんて嘘だ。エゴと我が侭に塗れた、手に負えない暴走する感情がコアにあるのだから。
本当に手に負えない、と思ったのだ。
あの男と来たら、紳士な振りをして排他的で、優しい顔をして実際は線を引く。こちらの覚悟なんて知ったことじゃないとばかりに、お前が大事なんだ、と言いながら本心を巧みに隠していく。
自分という存在が必要だろう、と傲慢に構えながら、心の底で相手の心を推量しては怯えていた。か弱い乙女ではないのだから、と本音を飲み込みながら笑顔で接するのは辛く、会う度になにかに罅が入る音が脳の中で響いていた。話してはいけないと頑なに思い込むことで、関係すらも硬化していくことからは目を背け続けた
いずみのかな
DONE有栖川作家編。ヒアリ。朝井からの呼び出しで京都に向かった有栖が出くわしたちょっとした冒険とちょっとした問題。まだクグロフがここまで普通に買えなかったころにバレンタイン用に書いたものです。アンシンメトリー 今日もラジオは甘い恋人達のために、バラードを運んでくる。
ドリカムもユーミンもはっきり言って聞き飽きた。どんなおいしいチョコレートでも三日食べつづければ飽食気味になる。ましてやこの二時間の間延々と流れつづける、名曲といわれるラブソングの量といったらなんだ。やれ「愛してる」「君が欲しい」「あなたこそ全て」と連呼され続ければ、それがどんなに好きな曲であっても賭けてもいい、絶対に嫌になる。
だいたいなんで松任谷由美でかかる曲が『アニバーサリー』や『円舞曲』ばかりなのだ、今の季節だったら『ノーサイド』あたりが素晴らしく映えるじゃないか。
しかも、しかもだ。それらの曲がかかるたび、グリコのごとく見知らぬ他人の恋愛話までついて来るときたら。
16772ドリカムもユーミンもはっきり言って聞き飽きた。どんなおいしいチョコレートでも三日食べつづければ飽食気味になる。ましてやこの二時間の間延々と流れつづける、名曲といわれるラブソングの量といったらなんだ。やれ「愛してる」「君が欲しい」「あなたこそ全て」と連呼され続ければ、それがどんなに好きな曲であっても賭けてもいい、絶対に嫌になる。
だいたいなんで松任谷由美でかかる曲が『アニバーサリー』や『円舞曲』ばかりなのだ、今の季節だったら『ノーサイド』あたりが素晴らしく映えるじゃないか。
しかも、しかもだ。それらの曲がかかるたび、グリコのごとく見知らぬ他人の恋愛話までついて来るときたら。
いずみのかな
DONE有栖川作家編。おやつにプリン(プリン)プリン! プリン! プリン! 自由業というものは、主婦、授業が無い日の大学生と並んで平日昼の時間を文字通り自由に使える立場であろう。家事を片付けるもよし、外に行くもよし、そしてテレビを見るもよし。
最近のワイドショーは局によって特色があり話題も豊富で、日本の安全保障を論じた次の瞬間に犬のためのカフェを紹介したりする。その落差こそが現代日本を象徴している、と皮肉めいた言い方も出来るが、つまりはターゲット層である主婦達の興味の幅は深くは無くてもとても広い、ということだ。
ワイドショーを見るのは主婦だけ、とは勿論限らない。番組内でご意見を募ったら、それに呼応するは主婦と、そして大学生がとても多い。その他退職したお父さんやら仕事が非番だったフリーターやら多種多様な人々が自分の意見を送ってくることだろう。だから、ワイドショーを主婦以外の人間が見ていて、それを元に行動を起こしても、それは別に可笑しなことではないわけだ。当たり前だが。
11482最近のワイドショーは局によって特色があり話題も豊富で、日本の安全保障を論じた次の瞬間に犬のためのカフェを紹介したりする。その落差こそが現代日本を象徴している、と皮肉めいた言い方も出来るが、つまりはターゲット層である主婦達の興味の幅は深くは無くてもとても広い、ということだ。
ワイドショーを見るのは主婦だけ、とは勿論限らない。番組内でご意見を募ったら、それに呼応するは主婦と、そして大学生がとても多い。その他退職したお父さんやら仕事が非番だったフリーターやら多種多様な人々が自分の意見を送ってくることだろう。だから、ワイドショーを主婦以外の人間が見ていて、それを元に行動を起こしても、それは別に可笑しなことではないわけだ。当たり前だが。
いずみのかな
DONE有栖川作家編。両思いになる寸前。ゆうきまさみ『困ったしんどろ~む』の本歌取りまっすぐでいこう。 目覚ましを止めるために出した手が、忽ちに冷えていくのが良くわかる朝だった。
寒い日は空気が文字通り張っている感触があり、火村はそれがけっこう好きだ。布団の中のぬくもりは離し難いが、勢い良く起き上がれば、気がまっすぐ引き締まる。
だが、今日の寒さは格別らしい。布団の上からもしんしんと冷気が降りてきて、体が軽く身震いするのがわかった。そういえば悪寒も感じるし、どこか頭がぼぉっとしている。気にしすぎだと思うがあちこちの関節も鈍く痛んでる感じがあり、なにより鼻が垂れてきている。
これはひょっとして、今日の京都も寒くて辛い、以外の原因があるのではないだろうか。
いやしかし、まさか恐らく大丈夫だろう、と自分をごまかして布団から出ようとしたとき、不意にむずむとした感触が来て、「へくしっ」と小さなくしゃみが出る。
11170寒い日は空気が文字通り張っている感触があり、火村はそれがけっこう好きだ。布団の中のぬくもりは離し難いが、勢い良く起き上がれば、気がまっすぐ引き締まる。
だが、今日の寒さは格別らしい。布団の上からもしんしんと冷気が降りてきて、体が軽く身震いするのがわかった。そういえば悪寒も感じるし、どこか頭がぼぉっとしている。気にしすぎだと思うがあちこちの関節も鈍く痛んでる感じがあり、なにより鼻が垂れてきている。
これはひょっとして、今日の京都も寒くて辛い、以外の原因があるのではないだろうか。
いやしかし、まさか恐らく大丈夫だろう、と自分をごまかして布団から出ようとしたとき、不意にむずむとした感触が来て、「へくしっ」と小さなくしゃみが出る。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 ヒアリ ウソツキとウソツキGood morning,yesterday 物事の終わりはいつだってあっけない。短くはないこれまでの人生の中で、当時はかけがえがないと真剣に思っていたものも幾度となくこの手からこぼれていった。そのときは胸が張り裂けそうな思いに駆られても、ふと気が付けば、まるでぼんやりと見ていたドラマの結末のように、どうでもよい思い出のひとつになってしまう。そんなことを両手に余る以上体験してきた。
幻想なのだ、心から愛するなにかと出会えるなんてことも、もう二度と埋められないものがこの世にあるなんてことも。
それは若さや青さが作り出した都合のいい舞台装置で、自分を主人公にするために欠かせない小道具でしかない。
渇望していた輝かしいなにかをついに得たそのときには、これを失ったその日に自分の世界が終わる、そう強く感じることも珍しくない。やがて長いなり短いなりの時を経るうちに、輝いていたはずのそれは色褪せ、錆びつき、日常の中に溶け込んでしまい、そのときには鈍い光すら放たなくなっていることに気が付く。
12870幻想なのだ、心から愛するなにかと出会えるなんてことも、もう二度と埋められないものがこの世にあるなんてことも。
それは若さや青さが作り出した都合のいい舞台装置で、自分を主人公にするために欠かせない小道具でしかない。
渇望していた輝かしいなにかをついに得たそのときには、これを失ったその日に自分の世界が終わる、そう強く感じることも珍しくない。やがて長いなり短いなりの時を経るうちに、輝いていたはずのそれは色褪せ、錆びつき、日常の中に溶け込んでしまい、そのときには鈍い光すら放たなくなっていることに気が付く。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 ヒアリ、へんてこな話です。リセットボタンを押しながら電源をお切り下さいロマンス 出会いは完璧だっただろう。天国のような陽が降り注ぐ午後、整った美しい横顔、一万分の一の掛けに乗った瞬間。
一瞬で恋に落ちた。もう他の何も目に入らない。彼を逃すつもりは無いし、手放すなんてもっての外だ。蜘蛛に囚われた蝶のように、どうやっても逃れられない。
だから、将棋のように、少しずつ詰めていった。
名前を教え合い、挨拶をするようになり、並んで歩いて、偶然を装って手を繋いで……。
最初に躓いたのは大学三年のときだ。思いのほか繊細だった彼の中に土足で踏み込んでしまった。その反発は驚くほどで、リセットするのにとても苦労したものだ。
あれから何度、この関係が壊れていっただろうか。
その度に自分の愚かさにため息をつき、彼の臆病さに涙しながらも、その度にまた初めからやり直していった。
2797一瞬で恋に落ちた。もう他の何も目に入らない。彼を逃すつもりは無いし、手放すなんてもっての外だ。蜘蛛に囚われた蝶のように、どうやっても逃れられない。
だから、将棋のように、少しずつ詰めていった。
名前を教え合い、挨拶をするようになり、並んで歩いて、偶然を装って手を繋いで……。
最初に躓いたのは大学三年のときだ。思いのほか繊細だった彼の中に土足で踏み込んでしまった。その反発は驚くほどで、リセットするのにとても苦労したものだ。
あれから何度、この関係が壊れていっただろうか。
その度に自分の愚かさにため息をつき、彼の臆病さに涙しながらも、その度にまた初めからやり直していった。
いずみのかな
DONE有栖川作家編、ヒアリ 懐かしの八神君の家庭の事情的なシミュレーション 大阪の空は京都のそれと比べて狭い。
だからどうした、と言われても困る。ただ、すっかり通いなれた地下鉄の駅からふと空を見たとき、そう感じただけなのだ。
この場所はまだ四天王寺なんて大きな寺があるから空の面積も広いが、梅田にいくとごちゃごちゃとしていて、作りかけのパズルのようになっている。普段から大学と天皇家の敷地に挟まれた、空を見るにはもってこいの場所にいる火村にとって、たまに上を見て圧迫感を感じるのが新鮮だっただけだ。
こんなことをうだうだと考えているのはつまり現実逃避だと、火村はやや自棄な笑いをこぼした。嫌なことから逃げたいわけではない。嫌かといわれたら、多分考え込むだろう。あまりにもややこしいことになっているから頭を抱えているというのが、多分正しい分析だ。
7534だからどうした、と言われても困る。ただ、すっかり通いなれた地下鉄の駅からふと空を見たとき、そう感じただけなのだ。
この場所はまだ四天王寺なんて大きな寺があるから空の面積も広いが、梅田にいくとごちゃごちゃとしていて、作りかけのパズルのようになっている。普段から大学と天皇家の敷地に挟まれた、空を見るにはもってこいの場所にいる火村にとって、たまに上を見て圧迫感を感じるのが新鮮だっただけだ。
こんなことをうだうだと考えているのはつまり現実逃避だと、火村はやや自棄な笑いをこぼした。嫌なことから逃げたいわけではない。嫌かといわれたら、多分考え込むだろう。あまりにもややこしいことになっているから頭を抱えているというのが、多分正しい分析だ。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 ヒアリ たしてもひいても小さな宇宙 高校の同級生から来た葉書を何度も読みながら、ソファでだらしなく寝そべっていたら、急に世界が薄暗くなった。
「……きみなぁ、お邪魔します、とかそれくらい言えんのか」
「お邪魔します」
棒読みでそう返しながら火村はひょいと体を起す。再び視界が明るくなったことに満足しながら有栖はよ、と身を起した。
「こんな時間にどうしたん」
言いながら時計を見ると、もうすぐ十一時になろうという頃だ。
「いや、明日も大阪に用があるから」
「フィールドワークか?」
そう聞いてみると火村はネクタイを取りながら、
「いや、本業の方」
「なんだ、そうか」
「なんだよ、その残念そうな声は」
「いや、予想が外れたからそれが出とるだけやろう」
実際は残念じゃなくて安心してるのほうが割合として高いのだが。
4075「……きみなぁ、お邪魔します、とかそれくらい言えんのか」
「お邪魔します」
棒読みでそう返しながら火村はひょいと体を起す。再び視界が明るくなったことに満足しながら有栖はよ、と身を起した。
「こんな時間にどうしたん」
言いながら時計を見ると、もうすぐ十一時になろうという頃だ。
「いや、明日も大阪に用があるから」
「フィールドワークか?」
そう聞いてみると火村はネクタイを取りながら、
「いや、本業の方」
「なんだ、そうか」
「なんだよ、その残念そうな声は」
「いや、予想が外れたからそれが出とるだけやろう」
実際は残念じゃなくて安心してるのほうが割合として高いのだが。
ヒロ・ポン
DONE作家ちゃんみのその後です門弥「おう弥鱈、いいかげんにせんか」
「何がですかあ…」
「死人が出る」
どさ、とデスクに積まれた弁当のタワーをすすす…と手で遠ざける。食べている暇はないのだ。
「お前、この間の時点で締め切り二日前とか言ってたな」
「まあ~、はい」
「なんでまだ作業してる?納品してないのか?」
前回の訪問で得た語彙を用いて会話を試みてくる門倉は正直面白かったが、今はそれどころではないのだ。
「雄大くん、俺たちの事なら気にしなくていいから…」
「交代で休ませてもらってるし、受け持ちが終わったらほんとに終わりだから!」
目下作業中の二人が自分の代わりに返事をする。あとの二人は今休憩のターンに入っていてここにはいない。
「お前らはいい。いくらなんでも人材を使い潰す奴じゃないのはわかってる。けどこいつは違うだろ、休んでるのか?」
2230「何がですかあ…」
「死人が出る」
どさ、とデスクに積まれた弁当のタワーをすすす…と手で遠ざける。食べている暇はないのだ。
「お前、この間の時点で締め切り二日前とか言ってたな」
「まあ~、はい」
「なんでまだ作業してる?納品してないのか?」
前回の訪問で得た語彙を用いて会話を試みてくる門倉は正直面白かったが、今はそれどころではないのだ。
「雄大くん、俺たちの事なら気にしなくていいから…」
「交代で休ませてもらってるし、受け持ちが終わったらほんとに終わりだから!」
目下作業中の二人が自分の代わりに返事をする。あとの二人は今休憩のターンに入っていてここにはいない。
「お前らはいい。いくらなんでも人材を使い潰す奴じゃないのはわかってる。けどこいつは違うだろ、休んでるのか?」
たまごやき@推し活
PROGRESS現パロアンぐだ♀、恋人のフリをして危機を乗り切りたい童話作家×ぐだちでも二人は本当は付き合ってない
2021.7〜
そのお見合い、ちょっと待った!「他に頼るアテもない。できる限りの礼もするつもりだよ」
「本当にわたしで大丈夫? あんまり自信ないんだけど」
「特別な準備は何も必要ない。普段通りで大丈夫だ」
「うーん……」
――恋人のフリをしてほしい。わたしの好きな人からの頼み事だ。他の人なら好きな人がいるからと即答で断ったけれど、彼からの頼みでは断りにくい。でも、あくまでこれは仮の恋人だ。
最近、彼は親戚にお見合いを勧められることが増えたのだという。しかも中には何度断っても諦めないお節介な人もいて、無理矢理縁談の話を進めようとしているのだとか。あまりにもしつこいものだからつい、「恋人がいる」と嘘をついたらしい。そこから先は転がるように話が進んで……。
6331「本当にわたしで大丈夫? あんまり自信ないんだけど」
「特別な準備は何も必要ない。普段通りで大丈夫だ」
「うーん……」
――恋人のフリをしてほしい。わたしの好きな人からの頼み事だ。他の人なら好きな人がいるからと即答で断ったけれど、彼からの頼みでは断りにくい。でも、あくまでこれは仮の恋人だ。
最近、彼は親戚にお見合いを勧められることが増えたのだという。しかも中には何度断っても諦めないお節介な人もいて、無理矢理縁談の話を進めようとしているのだとか。あまりにもしつこいものだからつい、「恋人がいる」と嘘をついたらしい。そこから先は転がるように話が進んで……。
たまごやき@推し活
PROGRESS転生現パロアンぐだ♀、喫茶店マスターの童話作家×常連のぐだち転生したが片方しか前の記憶を有しておらず相手の記憶が戻るのかも分からずそれでも……という性癖の話
2020.2〜
最後の恋を、もう一度 蔦の絡んだお洒落なレンガの壁。まるで向こう側には眠り姫がいるみたいに、植物で囲われたその壁の向こうにはわたしの大好きな空間がある。ドアを開けると控えめなベルの音が鳴る。こんな小さな音で聞き取れるのは、店主が地獄耳だからだろうか。
「いらっしゃいませ」
この店の店員はカウンター奥の隅っこでコーヒーを淹れている男性一人だけ。ここに通って随分経つけれど他の店員も、さらにはお客さんも見たことがない。友達に話すと狐にでも化かされてるんじゃないか、なんて言われる。そんなことないと証明するために友達と来てみると、何故だかいつも臨時休業の看板。……そんなことあるわけないでしょ、とは強く言えなくなってしまう。
まずはじめに店主の見目について。青い髪と青い瞳。透き通るような白い肌。背が高い。外国人かハーフだろう。まるで御伽噺に出てくるような、人形めいたその姿。流暢な日本語と、メニューのボードに書かれた几帳面で綺麗な文字。言葉数は少なく、しかし耳に残る低音。
6064「いらっしゃいませ」
この店の店員はカウンター奥の隅っこでコーヒーを淹れている男性一人だけ。ここに通って随分経つけれど他の店員も、さらにはお客さんも見たことがない。友達に話すと狐にでも化かされてるんじゃないか、なんて言われる。そんなことないと証明するために友達と来てみると、何故だかいつも臨時休業の看板。……そんなことあるわけないでしょ、とは強く言えなくなってしまう。
まずはじめに店主の見目について。青い髪と青い瞳。透き通るような白い肌。背が高い。外国人かハーフだろう。まるで御伽噺に出てくるような、人形めいたその姿。流暢な日本語と、メニューのボードに書かれた几帳面で綺麗な文字。言葉数は少なく、しかし耳に残る低音。
たまごやき@推し活
PROGRESS現パロアンぐだ♀、歳上童話作家とぐだちの歳の差カプ2020.9〜
凹凸恋人スタートライン 今気になっている人は、私のバイト先の喫茶店によくやってくるお客さん。背が高くて、細身ですらっとしていて、格好良い。友達にそこまで言うと皆応援するよと言ってくれるのに、実際に喫茶店にやってきて彼を見ると意見を変える。――あんな歳上、相手にされるはずないでしょ。
「竹中さん、いらっしゃいませ! いつものですか?」
「あぁ……」
お気に入りの奥まったテーブル席に座った彼がおかわりのコーヒーを頼むまで、話すタイミングはない。彼が店長の友人じゃなかったら、名前を知ることすらなかった。私がアタックしても、全然動じない。きっとナイスバディで美人なお姉様たちに毎日のように言い寄られているんだ。それでも諦めきれずに、今日も話しかけるきっかけを見極めている。
15168「竹中さん、いらっしゃいませ! いつものですか?」
「あぁ……」
お気に入りの奥まったテーブル席に座った彼がおかわりのコーヒーを頼むまで、話すタイミングはない。彼が店長の友人じゃなかったら、名前を知ることすらなかった。私がアタックしても、全然動じない。きっとナイスバディで美人なお姉様たちに毎日のように言い寄られているんだ。それでも諦めきれずに、今日も話しかけるきっかけを見極めている。
たまごやき@推し活
PROGRESSカルデアアンぐだ♀、恒常→青年実験アンデルセンとマスター藤丸♀あれやこれや霊基異常でカルデアに大人童話作家が爆誕してわくわく生活始まってほしい
2021.3〜
三十九センチプラスマイナス最後の贈り物と弊害
「アンデルセンって、別の姿で召喚されることもあるの?」
某光の御子が別の霊基で何度となく召喚をされた頃に受けた質問だ。答えに迷うことはない。
「他の場所で召喚される俺の話など知るものか! だいたいあいつらを見てみろ、黒歴史が目の前で自動再生されるなどろくでもない」
あのドラゴン娘が目の前で未来の自分といがみ合う食堂。見慣れた光景だ。同じ記憶を持つ、全く異なる自分が目の前に現れるなどロクなものではない。──そう思っていたのだ。後から自分の身に起こることも知らずに。
「あのね……この聖杯、受け取ってもらえる?」
「今さら緊張することがあるのか? 俺がもういくつ聖杯を受け取ったと思っている」
5603「アンデルセンって、別の姿で召喚されることもあるの?」
某光の御子が別の霊基で何度となく召喚をされた頃に受けた質問だ。答えに迷うことはない。
「他の場所で召喚される俺の話など知るものか! だいたいあいつらを見てみろ、黒歴史が目の前で自動再生されるなどろくでもない」
あのドラゴン娘が目の前で未来の自分といがみ合う食堂。見慣れた光景だ。同じ記憶を持つ、全く異なる自分が目の前に現れるなどロクなものではない。──そう思っていたのだ。後から自分の身に起こることも知らずに。
「あのね……この聖杯、受け取ってもらえる?」
「今さら緊張することがあるのか? 俺がもういくつ聖杯を受け取ったと思っている」
p54wt
INFO2022年6月19日公開のぐだ←綱のお話のサンプルです。同人作家になった綱が、ぐだくん×自分の小説を書くお話です。
PDFにて無料配布いたします。
Love Letter一
鍛錬や朝食を終え、一息つける午前九時。
(さて……)
渡辺綱は自室の机に向かっていた。原稿用紙を拡げ、鉛筆を手にする。アイディアはまとまっていた。あとは、それを出力していくだけ。彼は執筆の際、その名を一時的に変化させる。「満月れもん」というペンネームに。
***
渡辺綱という人物は、基本的には戦いに身を捧げた人生を送ってきた。源頼光の四天王と謳われ、鬼をも斬り伏せる平安時代最強の武者。それゆえ、文学とはほとんど縁がなかった。
サーヴァントとしてカルデアに召喚された綱も、初めは己をただの包丁としか認識していなかった。人理を守るという使命のため、彼の主・藤丸立香に仕える忠臣。しかしカルデアでの日々を過ごすうち、やがて綱の心境は徐々に変化していった。もちろんその使命は胸に抱き続けていたが、ただの道具から一人の人間へと、感受性が育まれていったのだ。
2550鍛錬や朝食を終え、一息つける午前九時。
(さて……)
渡辺綱は自室の机に向かっていた。原稿用紙を拡げ、鉛筆を手にする。アイディアはまとまっていた。あとは、それを出力していくだけ。彼は執筆の際、その名を一時的に変化させる。「満月れもん」というペンネームに。
***
渡辺綱という人物は、基本的には戦いに身を捧げた人生を送ってきた。源頼光の四天王と謳われ、鬼をも斬り伏せる平安時代最強の武者。それゆえ、文学とはほとんど縁がなかった。
サーヴァントとしてカルデアに召喚された綱も、初めは己をただの包丁としか認識していなかった。人理を守るという使命のため、彼の主・藤丸立香に仕える忠臣。しかしカルデアでの日々を過ごすうち、やがて綱の心境は徐々に変化していった。もちろんその使命は胸に抱き続けていたが、ただの道具から一人の人間へと、感受性が育まれていったのだ。
雑談🍀
MEMO作家の人の発言西尾維新の小説みたいに回りくどくて何言ってるかわからんから基本速読(読んでない)だけどここの一連の流れたまたま見てたので
最後の2枚語気強MAXだから気をつけて
多分発言的に隊長みたいな人を仲間にするのはこの人は一生無理だなと思って可哀想だなって思った
すみません😘()
新章来てからの敵が全員キツい…なんとかならんか…早く新章来て…()
ルナ時代の方が好きだった… 5
いずみのかな
DONE有栖川作家編 健全シリアス 菜の花畑に入り日薄れ 見渡す山の端霞深し菜の海 お客さんえぇときに来らいましたねぇ、今は花の盛りでさぁ、こげな田舎だけどそれだけは自慢なんですわ。
柔らかく響く土地の言葉で、年配の女将はそういってくしゃりと笑った。普段は畑にも出ているという彼女の皮膚は日に焼け固くなり、手にも顔にも深い皺が刻まれている。その一本一本が彼女の経験と知恵の証だ。美白だダイエットだ、と騒ぐ都会の女性にはどうやっても身に付けられないお天道さまの品が、そこには間違いなくあった。人生辛いこともあったろうし、これからもあるだろうが、それでも彼女の笑顔は暖かい。
小さい町の小さい宿の、これまた小さい部屋に通された飛び込みの客は、やはりお国言葉を丸出しにして、ほうじ茶を注ぐ女将に話し掛けた。
8211柔らかく響く土地の言葉で、年配の女将はそういってくしゃりと笑った。普段は畑にも出ているという彼女の皮膚は日に焼け固くなり、手にも顔にも深い皺が刻まれている。その一本一本が彼女の経験と知恵の証だ。美白だダイエットだ、と騒ぐ都会の女性にはどうやっても身に付けられないお天道さまの品が、そこには間違いなくあった。人生辛いこともあったろうし、これからもあるだろうが、それでも彼女の笑顔は暖かい。
小さい町の小さい宿の、これまた小さい部屋に通された飛び込みの客は、やはりお国言葉を丸出しにして、ほうじ茶を注ぐ女将に話し掛けた。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 ミステリあるいはホラー 。変則的なものになっておりますので、何でも読める方におすすめします。降霊会 ドレイクの捻ったビートが頭を殴るように鳴り響き、照明はムーディーを通り越してはっきり言ってただ暗い。メニューを見るのもテーブルに置いてある蝋燭頼み。
古都京都に全くもって相応しくない、恐ろしく癖が強い店だと思う。しかし、ここのムール貝の酒蒸しは恐らく日本で五本の指に入る。世界貝の酒蒸しコンテストに出しても、入賞は間違いなしだ。ここに来るのは大抵が学生やまだ若い社会人達で、彼らはビール壜を片手に軽くリズムに乗りながら、陽気に一日のウサを発散している。アルコール、低音が効きすぎたダンスナンバー、見知らぬものの中。
すべて、人を癒す道具になる。
私が二本目のトラビストを消費しきったとき、踊る影の中から、ようやっと待ち人達が現れた。一人は昔から馬が合う顔なじみの、私にとっては姉御としかいいようのない女性で、もう一人は彼女の弟分だという同業者だ。前から彼のエッセイや作品などを愛読していた私は、友人の友人だという縁故を利用し、今日アポイントを取っていたのだ。
14213古都京都に全くもって相応しくない、恐ろしく癖が強い店だと思う。しかし、ここのムール貝の酒蒸しは恐らく日本で五本の指に入る。世界貝の酒蒸しコンテストに出しても、入賞は間違いなしだ。ここに来るのは大抵が学生やまだ若い社会人達で、彼らはビール壜を片手に軽くリズムに乗りながら、陽気に一日のウサを発散している。アルコール、低音が効きすぎたダンスナンバー、見知らぬものの中。
すべて、人を癒す道具になる。
私が二本目のトラビストを消費しきったとき、踊る影の中から、ようやっと待ち人達が現れた。一人は昔から馬が合う顔なじみの、私にとっては姉御としかいいようのない女性で、もう一人は彼女の弟分だという同業者だ。前から彼のエッセイや作品などを愛読していた私は、友人の友人だという縁故を利用し、今日アポイントを取っていたのだ。
いずみのかな
DONE有栖川作家編。ヒアリ前提別れたあと。取り残されたのは誰、自由になったのは誰。サマータイムブルース ケーブルカーを降りて坂をもう少し上がり、角を曲がるとモスグリーンの小さなアパートメントが見えてくる。そこの三階が現在の住処だ。期間限定とはいえルームシェアに申し込んだ甲斐はある、見渡しの良い心地良い部屋だった。
以前住んでいた町も坂が多い土地だったが、この町には負ける。海から一気に駆け上がる坂の急勾配、潮の香り、降り注ぐ日差し。木目のボディーが可愛らしいケーブルカーはそこそこのスピードでメインストリートを走りあがる。どこにいくにも坂、坂、坂。そして陽気な笑い声。上に上がる七色の旗も示す通り、懐の深い町だと思う。同じカルフォルニアでもLAの飢えを含んだ渇きとは違う。頭が良くて野心がない街、と評したのは一体だれだったか。
7574以前住んでいた町も坂が多い土地だったが、この町には負ける。海から一気に駆け上がる坂の急勾配、潮の香り、降り注ぐ日差し。木目のボディーが可愛らしいケーブルカーはそこそこのスピードでメインストリートを走りあがる。どこにいくにも坂、坂、坂。そして陽気な笑い声。上に上がる七色の旗も示す通り、懐の深い町だと思う。同じカルフォルニアでもLAの飢えを含んだ渇きとは違う。頭が良くて野心がない街、と評したのは一体だれだったか。
いずみのかな
DONE有栖川作家編。健全ホラー。『文が淵』と同じく、2004年、有栖川サイトの納涼企画ウェブアンソロに寄稿しましたものです。
終盤のある箇所について、ウェブアンソロに掲載したときはタグで仕掛けを作ったのですが、pixivでは無理だったためそこのみ変更しております。
ジャパニーズホラー、の王道目指して頑張りました。
覗く目 太平洋上で台風が発生したらしい。
しかし大阪上空は相変わらずの快晴で、気温は今日もうなぎ上りだ。私はだらしないと思いながらも首周りが伸びたTシャツを着て、昼前からソファの上でごろごろ寝そべっていた。日が高いうちに飲むビールは、ほんの少しの後ろめたさもスパイスとなって、また格別の味がする。何たる堕落、と咎めるなかれ。私はつい先程短編を脱稿したばかりなのだ。締め切り明けの作家のささやかな道楽としてここは見逃して欲しい。
ビールを一本空けたらシャワーを浴びて、約三十時間ぶりにベッドに入るのが今日の予定である。明日のうんと遅くまで惰眠を貪り、それから週末で家にいるであろう京都の友人の所にでも出向くのもいいかもしれない。この二週間、会話を交わした相手は担当一人だけ、更に言うなら二度の電話の合計時間は十分に満たない。私は人に飢えている。
20073しかし大阪上空は相変わらずの快晴で、気温は今日もうなぎ上りだ。私はだらしないと思いながらも首周りが伸びたTシャツを着て、昼前からソファの上でごろごろ寝そべっていた。日が高いうちに飲むビールは、ほんの少しの後ろめたさもスパイスとなって、また格別の味がする。何たる堕落、と咎めるなかれ。私はつい先程短編を脱稿したばかりなのだ。締め切り明けの作家のささやかな道楽としてここは見逃して欲しい。
ビールを一本空けたらシャワーを浴びて、約三十時間ぶりにベッドに入るのが今日の予定である。明日のうんと遅くまで惰眠を貪り、それから週末で家にいるであろう京都の友人の所にでも出向くのもいいかもしれない。この二週間、会話を交わした相手は担当一人だけ、更に言うなら二度の電話の合計時間は十分に満たない。私は人に飢えている。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 出来上がる直前。ややへんてこな話です、お気をつけください。うつし世は夢、君の現実は僕。
赤の王、黒の王 ネオンのやかましい灯りが照らす部屋の奥に、どろりとした闇がある。
カーテンもブラインドもない剥き出しの窓は煤汚れていて、ピンク、青、黄色、と賑やかしく色をつけては落としていく。ただペンキを塗っただけの壁は、昔は白かったのかもしれないが、今は茶と灰を混ぜた不愉快な色の埃を纏っているだけだ。
新緑の頃も過ぎて、昼間は汗ばむ陽気が続く時期になっても、まだ夜は肌寒い。ましてや、黴の青い匂いがツンと漂うこんな部屋では尚更だ。陽光が降り注いだこともない、狭いビルの一室は季節に関わらず温むことがない。蒸し暑い不愉快な空気が隙間から入り込むことがあっても、空気はいつまでも温まることはないだろう。
どろりとした闇の中に、今は錆の匂いが混ざっている。
11934カーテンもブラインドもない剥き出しの窓は煤汚れていて、ピンク、青、黄色、と賑やかしく色をつけては落としていく。ただペンキを塗っただけの壁は、昔は白かったのかもしれないが、今は茶と灰を混ぜた不愉快な色の埃を纏っているだけだ。
新緑の頃も過ぎて、昼間は汗ばむ陽気が続く時期になっても、まだ夜は肌寒い。ましてや、黴の青い匂いがツンと漂うこんな部屋では尚更だ。陽光が降り注いだこともない、狭いビルの一室は季節に関わらず温むことがない。蒸し暑い不愉快な空気が隙間から入り込むことがあっても、空気はいつまでも温まることはないだろう。
どろりとした闇の中に、今は錆の匂いが混ざっている。
いずみのかな
DONE有栖川作家編 アリヒ 手作りのケーキと甘いキミスイートな悪魔、誘惑のバニラ それにしてもバニラビーンズの醸し出す香りは、なぜこうも人を柔らかく誘惑するのだろう。
一口それを含みたい。
口の中でとろりと溶けて甘く残り、鼻から抜けるときには色彩まで変化するに違いない。手に届く寸前の思い人のような誘惑が、そこには含まれている。
そして、実際に味わおうと嬉々として口に入れた途端、半端ない苦味に襲われ後悔にさいなまれるあたりまで一緒と来ている。
教訓は一つ、遠くから見てるだけにしておけ。
目の前に置かれた、小さな黒いビンを見てそんな文が浮かんでくるあたり、作家菌とやらは相当に強い性質を持っているに違いない。
火村は大きくため息をついて、無意味で無益な現実逃避を打ち切ることにした。「それでは、目の前にあるレシピをご覧下さいー」という、彼には無慈悲に響く開始のゴングが聞こえたからだ。
6157一口それを含みたい。
口の中でとろりと溶けて甘く残り、鼻から抜けるときには色彩まで変化するに違いない。手に届く寸前の思い人のような誘惑が、そこには含まれている。
そして、実際に味わおうと嬉々として口に入れた途端、半端ない苦味に襲われ後悔にさいなまれるあたりまで一緒と来ている。
教訓は一つ、遠くから見てるだけにしておけ。
目の前に置かれた、小さな黒いビンを見てそんな文が浮かんでくるあたり、作家菌とやらは相当に強い性質を持っているに違いない。
火村は大きくため息をついて、無意味で無益な現実逃避を打ち切ることにした。「それでは、目の前にあるレシピをご覧下さいー」という、彼には無慈悲に響く開始のゴングが聞こえたからだ。
味醂🍜
TRAINING即興二次小説で30分で書いたもの、を少しだけ手直し。お題:走る作家デビュー現パロ、BL小説(兄×自分…の妄想)を書く弟が作家デビューする話。まだできてない。
未完だけど続く予定はない。兄が1ミクロンだけ登場したところでタイムアップ…。 1164
きなみーる
MEMO田園 環菜(たぞの かんな) 28歳 作家https://charaeno.com/6th/W0d8IDMRPQ9x-VcOlLsUB
※下部にペテラブHO3のネタバレあり
いろいろ着替えてる。初期立ち絵もそろそろ描き直したいな。 9