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    青年

    absdrac1

    MEMO青幻+一幻+天谷奴の、天谷奴と夢野、天谷奴と青年の部分
    天谷奴の回想。中途半端な処で区切りますが、この後も回想シーンが続きます。
    何となく納得していない部分があり、本文にする時には書き直すかも。
    プロットを書くためのメモ的なお試し作文です。
    故郷(ふるさと) 天谷奴は北の国の生まれである。寒くて寂しい漁村であった。中学時代までを何もないその土地で過ごし、その後は家出も同然に上京した。実家の方も勘当した積りであったのだろう。爾今連絡を取ってはいない。
     それでも、あの故郷は天谷奴の原風景であった。平素は記憶の深奥に眠っており、ふとした拍子に突如思考の表面に現れる、色彩の薄いぼやけた像であった。港の風景、人の少ない寂れた商店街、古びた家の質素な食卓、……。それらは画廊に掛けられた絵画のようである。既に現実から切り離されてしまった、物語の挿絵であった。視覚に比べ、その他の感覚の方がやや鮮明である。漁船のエンジン音、頬に当たる冷え冷えとした空気、風が運ぶ潮の匂い、打ち寄せる波の音、そう云ったものたちが、物悲しい肌触りとなって心に迫ってくる。幼少の記憶など意識しては思い出せぬものであるのに、それらは繋がりのない断片となって天谷奴の中に生き続けている。厄介なものだと思う。郷愁と云う迄の感情は持たない。只、確かに天谷奴の行動に影響を与える、生きた何かであった。
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