Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    服部

    michi2_

    DONE服部悪夢合同誌『on the bubble』に載せたおはなしの再録です。
    服部と菅野班。メインスト前提のためseason4までのネタバレを含みます。

    この耀玲は服部が四十になる年のいい夫婦の日に入籍する、という設定ありきで書きました。これを知った上で読むと腑に落ちる部分があるかもしれません。
    いつか美しくなる未来にゴォオ、と巨大な動物の唸り声のような音を上げて、古いエアコンから吐き出された温風が首もとを撫でる。さりさりと風に揺られる毛先がくすぐったくて、その感触を知覚したと同時に、意識がひと息に浅瀬まで引き上げられた。次いで耳が拾ったのは、誰かのデカいいびき。それから、うすい仕切り越しの喧騒、肉の焼ける音。香ばしい匂いと、煙たさ。壁に寄り掛かった身体はそのままに薄目を開ける。が、目の前がぐるりと回ったような不快感に、開けた目はすぐに閉じる羽目になった。
    (いッ……た)
    磨かれたテーブルに反射した光に目を貫かれたかと思った。眉間とこめかみが軋むように痛む。
    いったい何がどうして今こうなっているのか。記憶を遡ろうとしても、熱に浮かされたように頭がぐらぐらするばかりでまったく要領を得ない。少なくとも視覚以外から拾える情報としては、ここは平和な焼肉屋であり、なにか危機的な状況であるわけではなさそうだということくらいだが。
    7087

    _yxme

    MOURNING服部悪夢合同誌用に書いてたものの伊未の味が強くなってやめた話。ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアのパロディ。伊未や、二人の結末に言及あり。こんなの合同誌に載せようと思うな(ほんとうにそう)
    地獄への扉を叩くな 男はタバコに火をつけた。上がる煙の向こうには、鼻筋と唇のはっきりとした女が目をつむったまま横たわっている。
    (見覚えがあり過ぎる) 
     いつか。もう遠い、濃い思い出と自分の名前の重さの隙間。日常、と呼べるものだったかもしれない。男は親友や後輩と予定のない日は、たまにこうやって仕事の疲れか死んだように眠る女を見下ろしながらタバコを吸っていた。
     理由はもう思い出せない。単純に職場から近い女の家を寝床として利用していただけかもしれないし、彼女の子と一緒にニチアサを見るのが楽しかったのかもしれないし、一流のレシピからショートカットしまくった結果形になったもののイマイチ物足りない素人料理を彼女の息子と微妙な顔をしながら食べるのがクセになっていたのかもしれないし、酒の勢いで寝たこの女が思いの外良かったのかもしれないし、単なるきまぐれが長引いただけかもしれない。でも気まぐれというにはあまりに頻繁に女の家に足を運んでいた。男にとっても、女にとっても、子にとっても、男は家を形作る一員だった。
    4512

    物置部屋

    MOURNING伊田にまつわる小話三つ カップリング要素はないです
    伊田と未守 一線を引いた話
    伊田と服部 無自覚にかけた呪いの話
    伊田と宮瀬 先に進まざるを得なくなった話 の三つです
    ※加筆修正有
    在りし日の空の色日脚


    「今日の聴取、流石にやりすぎだったんじゃないのか」
    午前の聴取を終え、軽食を頬張る昼休憩。伊田は頼まれていた缶コーヒーを未守に差し出しながら、少し間隔を空けて左隣に腰を下ろした。左手に下がるビニールには、同じく缶コーヒーと切らしていた煙草、そしておにぎり数個が無造作に放り込まれている。対する未守は受け取った缶をすぐには開けず、そのまま床に置いてサンドイッチを食している。内容物はハムチーズに大量のキャベツ。栄養価の観点から言えば僅差で伊田の負けである。
    「悪事を働くことに躊躇いがない人間は、何度だって繰り返す。それも次々と手口を巧妙化させてね。巻き込まれる方はたまったものじゃない」
    パンくず一つこぼさずに昼食を終えた未守は、乾いた口内を潤すためか缶コーヒーを開ける。缶特有の空気音が響く。伊田は、コーヒーを飲み込む彼女の口から先刻まで発せられていた文言の数々を思い返しながら、静かに息を吐いた。
    3202