もう寝るとしようリビングの照明はすでに落ち、寝室にも深い静けさが漂っている。
ベッドの上で、柏木は仰向けのまま目を閉じていた。
眠気はとうに遠のいている。
昼間の会議で張り詰めていた神経がまだ身体の奥に残っていて、ただ隣の穏やかな寝息をぼんやりと聞いていた。
ふと、気配が揺れる。
掛け布団がかすかにずれて、ふわりと温もりが近づいてきた。
寝返りかと思った、その瞬間──
「……ん……」
小さく喉を鳴らす声。
「起きたのか」
珍しく先に寝落ちていた恋人が、すり寄るように近づいてきていた。
ふわりと乱れた髪が柏木の頬に触れ、ひんやりとした指先が胸元を探るように伸びてくる。
「……柏木、さ…ん…」
「どうした」
寝ぼけているのか、掠れた小さな声。
静かに問いかけると、真島は微かに眉を寄せ、シャツの裾をぎゅっと握りしめながら、ぽつりと呟いた。
「……なでてや」
その一言に、胸が静かに跳ねる。
いつもの真島なら、こんなことは言わない。
冗談で誤魔化すか、はぐらかすか。
こんなふうにまっすぐ甘えてくるなんて。
自然と笑みがこぼれてしまうのも、仕方なかった。
頼りなげに開かれたその瞳に視線を合わせながら、そっと頬に触れる。
「珍しいな」
「…ちゃう。寝れへんだけや」
誤魔化すようなその声は、どこか子供のようだった。
本音かどうかなど、聞かずとも分かる。
柏木は何も言わず、ゆっくり腕を伸ばし、その頭を胸元へと引き寄せた。
頭頂からうなじへと、髪をゆったり梳くように指を滑らせる。
一度、また一度、丁寧に。
「……ん」
心地よさそうな、くすぐったそうな小さな声。
目を閉じたまま、真島がそっと柏木の胸に頬を寄せる。
「気持ちいいか」
「んん」
そっけない返事とは裏腹に、手は未だ柏木のシャツをしっかり握りしめていた。
その手に指をするりと滑らせ、優しく包み込む。
熱もない。悪夢の気配もない。
ただ、甘えたかっただけなのだろう。
「もうちょいだけ」
「言われなくても、ずっと撫でててやる」
「……」
もう眠たいのか、返事はなかった。
眠りに落ちる直前の、いちばん無防備な表情。
そのまま、こてんと柏木の肩に額を預けてくる。
「……ん」
小さく満足げな声を漏らし、ようやく真島の呼吸が深く落ち着いた。
「おやすみ、吾朗」
もう聞こえてはいないかもしれないが、耳元でそっと囁いて。
俺も、