みんなの知らない世界「人間界の習慣、やるの好きだねー」
樹果が近所の花屋から笹をかついで帰ってきた。
「これでいいのか?」
うるうが、鞄から色紙を差し出した。
「せや。うるうくん、ハサミで綺麗に縦に三分の一に切ってくれへん?」
「構わないが、これに願い事を書いて吊るすと、なぜ願いが叶うのかはわかりかねるな」
不平をいいながらも、うるうは鞄から鋏を取り出した。
「まあまあ、せっかく人間界に来たんだから、人間界のいろんなお祭りをやってくのも楽しいと思うなー」
「祭祀の重要性は把握しているつもりだが、どうも人間界の祭祀は金儲け主義のような気が」
「せやないと、ワイが乗り気なわけがあらしまへんがな」
うるうと樹果は同時に顔を見合わせて、ため息をついた。
「ところで、焔は?」
樹果の問いと同時に、
「悪ぃ、はぐれた」
焔が帰ってきた。
「蘭丸くんのお守りを頼んどったんや。焔くんおかえり」
基本的には学生組はいっしょに行動しているはずだった。なのになぜか蘭丸だけ、ふいに姿を消すことが多い。だから寶は誰かしらをさりげなく伴わせるようにしていた。そのはずだった。
樹果でもうるうでも焔でも、蘭丸は例外なくどこかに消え、またどこからともなく帰ってくる。その理由は誰にもわからなかった。おそらくは蘭丸自身にも。
「ただいま……お客さん連れてきちゃったけど、いい?」
噂をすれば何とやらで、蘭丸が帰ってきた。外は雨が降り出したようで、蒸れた空気が室内に入ってくる。
「へ? 蘭丸一人じゃん」
樹果があっけにとられたような声を出す。
蘭丸が促すように後ろをむいたが、そこには誰もいなかった。
「だって、いくら帽子かぶってるからって、白いワンピース着て、何も言わずに突っ立ってたから、雨宿りさせてあげようと思って、さっきまでついてきてたのに」
蘭丸が要を得ない説明を始めた。
「ユーレイ」
樹果が怯えてみせる。
「バカ、おれたちの親戚みてぇなもんだろ! ユーレイなんて」
焔がムキになり大声を出す。
「店の路線、変えたほうがええやろか……」
寶が呟いた。