写真と名刺「蘭丸さあ、昔アイドルだったくせに、あんなこと皆にきいてたなんて」
口火を切ったのは樹果だった。閉店後のBAR Fの店内で、人間に扮した五人の夭聖たちが思い思いの場所でくつろいでいる。
「何のこと?」
蘭丸は聞き返す。Winter Tri-Angelsとして一世を風靡したとは思えない、地味なメガネ姿の高校生、それが今の蘭丸の姿だった。
「これ?」
カウンター内から寶が一枚の写真を差し出す。
ほかの四人は誰からともなく集合し、頭を突き合わせてその写真を見た。Winter Tri-Angels時代のシリウスとベテルギウスの写真だった。
「ふしだらだとか、言わねえのかよ」
焔がうるうに話題をふる。
「あの時はそれどころじゃなかったからな。愛著を得るためなら、やむおえないだろ」
「じゃ、あれは」
焔が口を押さえ赤面している。
「これねえ」
蘭丸がのんびりと話しだす。
「シリウスの、こう来る振り付けが格好良くてね」
しまいにはその場で軽く踊り出した。
「おお〜、さすが元アイドル! ……えるちゃんも、蘭丸に任せとけば、あんなことには……」
蘭丸の踊りに、かつてのクライアントを思い出した樹果の表情が暗くなった。
「ところで樹果くん、きみ、なんでアイドルの話題出してきたん?」
話題を変えるべく寶が樹果に話しかけた。樹果はカウンターに一枚の名刺を差し出した。
「学校から蘭丸と帰るとき、なんか知らない人にアイドルやってみないかって言われて、経験者がいるならいいかもって思って……」
「樹果くんそらあかんわ、ワイみたいな悪い大人の食い物にされんで」
「一人だったらやらないよ、でも一緒だったらいいだろ」
「あかん」
寶が名刺をつまみ上げようとした手を、樹果が押さえた。
「みんなで一緒だったらいいだろ。寶もやるんだよ」
「はいぃ?」
「考えてもみなよ、二人で愛著があれだけ稼げたんだから、五人だったらもっとイケそうじゃん」
「そらそうやけど」
「六人だったら、もっと稼げると思うよ」
蘭丸が口を挟んできた。焔が微妙にげんなりした表情になったのを、蘭丸は気づいていなかった。