とりかえっ子(未遂) その日はパパもママも朝から忙しそうだった。あさごはんをたべたら、動きづらい服に着替えさせられた。蝶ネクタイが女の子のリボンみたいで、首が苦しいし気恥ずかしいしでイヤだった。電車に乗るのは楽しかったけど、神社は変な笛の音がするし、ぼくと同じような格好の子がいっぱいいて、しゃべりかけてもあんまり話してくれなかった。
めんどくさくなったから、トイレに行くふりをして外に出た。外の空気は冷たくて、少しだけ気が晴れた。
「そんなにイヤなら、ぼくとかわる?」
振り返ると、薄汚れたなりのやせっぽちの男の子がいた。見たこともない肌と髪の色をしている。返事できなくて、黙っていると、向こうが勝手にしゃべってきた。
「それ、なに?」
その子はぼくの持っている千歳飴の袋を指差した。
「なんか、長い飴。食べると長生きできるんだって」
あんまりその子がジロジロ見てくるんで、袋を開けて一本わけてあけた。
「長生きしたいと思ってるんだ、人間ってバカだな」
それじゃ、あんたは何なんだ、聞けずにその子を見ていると、千歳飴をものすごい勢いで噛み砕きはじめた。このあいだ図書館で読んだ絵本にああいうのが出てた、あれは鬼だったっけ、餓鬼だったっけ。
「おまえ、早く帰れよ、ぼくの気が変わらないうちに」
飴をものすごい音をさせて食い終わったら、用が済んだのか、いきなりそんなことを言い出した。
「なんで」
「ぼくはキンコーゾクのセイトーコーケイシャだから、おまえじゃぼくのかわりができない。いま思い出した」
何を言っているのかわからなかった。
「ほら、さっさと行けよ!」
ものすごい力で背中を押された。その後のことは、よく覚えていない。
まだ小さい頃、七五三で、そういう体験をした。あのとき、あの鬼の子の誘いに乗っていたら、ぼくは今頃どこでどうしていたのだろう。