はるくるおに 生徒会室の扉がノックされた。樹果が顔を覗かせた。
「ごめん、学校内ではあんまり頼らないほうがいいと思ったんだけど、蘭丸がまたどっか行っちゃって」
またか、と思った。どうせあの蘭丸のことだ、さほどの悪さはしないとは思うが、規律の乱れが気にかからないといえば嘘になる。もっとも、あの火焔のあいつほどではないが。
「校内放送でもかけて呼び出すか? さっきまで学内でヤギと一緒にいるところまでは見たが……だとしたら、僕が見失ったってことだな」
「そんなことないよ、うるうくんのせいじゃないって!」
いきなりの大声で樹果が反論する。そうだね、そう思えたら良かったが、規律を守れない者は罰せられなければならないから、責任は僕が負わなければ。故郷の考え方はまだ僕を縛っているし、そこから抜け出すつもりもない。
しばらく顎に手を当てて難しい表情をしていた樹果が、ぱん、と手を打つ。
「俺、もう一回校舎見回ってくるよ! それでみつかりゃいいし、見つからなかったら校内放送お願いしていい?」
「勿論だよ」
「じゃ、行ってくる!」
さきほどよりは元気に扉を閉めて樹果は行ってしまった。少しだけ気がゆるむ。樹果が苦手なわけではないが、一人になると安心する。
紅茶をいれて、窓を開ける。こんな時でも屋上で昼寝しているに違いない火焔のことを考えるとイライラする。だめだ、感情に走りすぎれば、刺刺しい対応を樹果に見られてしまう。
そのことで頭がいっぱいになりすぎて、窓から舞い込んできた薄紅色の花びらに、うるうは気づかない。