鍵のかけかた 静かに鍵を開けたつもりだった。
外の喧騒でごまかされると思っていたが、甘かった。BAR Fのカウンターに立っていた寝巻き姿のうるうに気づくのは、そう長く掛からなかった。
「買い出しで忘れもん思い出してしもて、コンビニに行っとったんや」
「夜のお出かけもほどほどにな。規律を守らないと一番先に咎めを受けるのは、寶、君じゃないのか」
「ワイのこと気遣うてくれとるのん? いや〜ん、うるうくんは優しいわぁ〜」
変なしなを作る寶を、うるうは冷ややかな視線で見つめる。
「気遣うほどの関心を、君には持っていない」
えらく正直なことを言い出すな、と寶は思った。うるうはバカ正直すぎるところがあり、そこがときに子供っぽく見える。
「ワイみたいなウソつきには、眩しすぎて目が眩むわ」
うるうは黙って戸棚からタンブラーを出し、水を飲み始めた。
「喉が乾いただけで、別に問い詰める気はない。まわりがいいかげんなほうが、僕の評価は上がるだろう?」
タンブラーを流しに置き、うるうはそのまま二階に上がっていった。
「鍵が開けっぱなしだったぞ、素行はともかく、そこは気をつけてくれ」
「へえへえ、うるうくんも火の元には気ぃつけや」
規律だ規則だって言葉で何を隠しているのか、ええかげん気づいたほうがええで、と言おうとしてやめた。寶もうるうにそれほどの関心はないし、関心がないからこそこぼせる本音もあるかもしれないのだから。