焦げる 僕は生徒会室の窓を閉めた。閉めても声が消えるわけではないけれど。
人間とは異なった知覚をもつこの体は、聞きたくない声まで耳に届けてしまう。
「あの……歩照瀬くん、今、付き合ってる人とか、いる?」
またか。生徒会室から歩照瀬のいる屋上から近いとはいえ、こう毎回毎回暑苦しい喋りを聞かされるとうんざりする。暑苦しく、べたべたした人間の欲望ほど、側で見ていて僕を倦ませるものはない。
窓の外に目をやる。青空が見える。校庭では運動部の部活動が始まったようだ。
「いねえけど、おれ、そういうの考えられなくて、悪ぃ」
「じゃあ、わたしが彼女に立候補してもいい?」
なぜ、きっぱり断れないのか。その気はないと引導を渡してやったほうが、あの子の傷も浅いだろうに。
残っていた紅茶を飲もうとして、手が滑って匙を落としてしまう。
歩照瀬と顔を合わせたら、釘をさしておこう。あいつは暑苦しい性分だから、本当に相手を好きになったら人間だろうが夭聖だろうが関係なく、あの父親と同じように禁忌を犯して身を滅ぼすだろう。
そこまで考えて、生徒会室の扉がノックされているのに気づく。
「どうぞ」
「ちょっとだけ、隠れさせてくんねえか」
歩照瀬だ、歩照瀬が生徒会室までやってきた、喉が乾く。心臓が跳ね上がる。暑苦しさに焦げそうだ。
「ひとつ貸しだぞ」
簡単に頬の赤くなる奴だ、まったく暑苦しい。
いや違う、さっきのあの告白の子も、僕もそう、あれは暑苦しいんじゃなくて、焦がれているというのかもしれない。では、いま歩照瀬が顔を赤くしている理由はいったい何だ?