0802 藍忘機は兎が好きだった。ふわふわして、抱き締めると温かくて、この愛らしい生き物と生きるきっかけをくれた人を思い出すから。
含光君と呼ばれ、人々から崇められるようになった今では、彼らの好物は勿論、性格も喜ばれる撫で方もよく知っていた。
「誰かと思えば藍湛じゃないか! また夜狩か? 時間があるなら話し相手になってくれよ。丁度いい果実酒があってさ……あ、お前のとこは酒が駄目なんだっけ。茶でいいなら温情に聞いてくるよ」
「……」
「なんだよ。嫌なのか?」
「その耳はどうした」
夷陵老祖こと魏無羨の頭の上で黒くて長いふわふわの耳が二つ、嬉しそうにピクピクと動いている。それは見た目も動き方も藍忘機が見慣れた兎のものとよく似ていた。
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