「何用だ。占い師」
「ッ…!!」
「否……占い師と呼ぶべきか」
夜であることに加え、これほど広い館だ。暫しの待ちぼうけを食らうだろう。イライの予想は背後から掛かった声によりあっけなく打ち破られる。宙を飲み込み、吃驚の反応によって、硬直した体を無理やり背後へ振り返らせる。視界に映ったのは、影の中から出でるひとつの触手だ。蛸の吸盤のようなものを持つ、イライの背丈よりも大きなそれ。常人が見れば卒倒しかねない光景も、しかしこの荘園に留まる者ならば見慣れたものである。イライは飲み込んでいた息を深く吐き出す。強張った肩から力を抜き、疲弊と安堵のまま体を脱力させる。そうして、まだ解し切れていない頬で微かに微笑み、その名を紡いでみせた。
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