「……これが私の夢でないとするなら、この世界は存在している」
言いながら、声と成したその言葉が胸に突き刺さるのを自覚する。見えない切っ先が肉を通り抜け、肉を割き、深く、奥深くまで沈み込む。感情の痛みは酷く、イライは一度唇を噛みしめ、痛みを堪えなければならなかった。
「……つまり、これが夢想でないとするなら、この世界にある彼というのは、彼の可能性のひとつでもあると…そう思うんだ。かつての彼が持っていた未来のひとつ。彼が選ばなかった道の果てにあるもの…」
瞼の裏に若草色が思い出される。見慣れた、小さいというのに大きな背姿。その腰にはいつもグルカナイフが下げられている。あのナイフを振るった日々は、無論あったのだろう。ナイフを整備する姿だって見たことがある。あれは慣れている者の手つきだ。日々、そうしなければ生きていけなかった者の……そういった道を選んだ者の様。
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