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    ピアノ

    odgr

    SPOILERジャズバーで自棄酒するジェ警部補とバー借りてピアノ練習するあのひとの話。特にそういう意図はないですがジェエドな工場長の工場産です念のため。
    音源聞くだけで再現出来そうなのに「相当練習した」が本当だったら面白いなとか、チェが歌姫になれるならあのひとの変装技術にも体型などまったく違う女性に変わる選択肢があったんだろうかとか、変装はやがて必要になる『彼女』の奏法や内面への理解を深めるためです、みたいな。
     そのバーの片隅には、ピアノを弾く女がいた。
     秋口の乾いた風がちりりと頬を刺す夜、酒の一杯でも飲まねばどうにも落ち着く気がしないほど、珍しく心がささくれていた日の仕事帰りだった。たまたま夜風に揺れた古い看板が目について、ここで良いかとジェイスンは半ば自棄気味にとある店のドアベルを揺らした。
     古びた分厚いチークの扉の印象に違わぬ落ち着いたジャズバーだった。店の奥、小さなステージの片隅に置かれたピアノは年代物でよく手入れされているのが判る。目についた瓶の銘柄を適当にオーダーし、ジェイスンは飲み慣れない自棄酒のグラスを呷った。命令口調で二杯目をバーテンに用意させ、あっという間に空になったグラスの中で氷がからりと音を立てた時、ふと、ピアノの音色が薄暗い店の空気に染み透った。
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    s a t o u

    DONEピアノとモブと三郎
    鋼鉄の箱庭にて それは別れの曲だった。
     僕が初めてその旋律を耳にしたのは放課後。来年の春には取り壊される予定の、旧校舎二階の音楽室に「彼」はいた。もうずっと調律もされていないであろうグランドピアノの鍵盤を、まるで数学の問題を解くような正確さで彼は奏でていた。
     無感情に、あたりまえに。
     ちらちらと踊る埃が夕陽に照らされる音楽室の真ん中に彼は座っていた。フレデリック・ショパンによる練習曲作品十第三番。その日、その瞬間、彼はそれを弾いていた。僕と同じく天才と呼ばれる山田三郎が、あの日、あの瞬間、あの音楽室にいたのだ。






     水曜日だった。
     連れ立って運動場や体育館へ向かう放課後の生徒の波に逆らって、僕は旧校舎へと向かっていた。数年前に耐震工事が施された新校舎が完成してからは、古びた長机や錆びついたキャビネットなんかが積まれるだけの、ほとんど物置同然と化している場所。その校舎の二階、いちばん奥にあるのが音楽室だった。名だたる音楽家たちの肖像画も、所々破れて中身が見えている椅子も、がたついた譜面立ても全て新校舎の音楽室へと運ばれたが、グランドピアノだけが取り残されたらしい。僕はいつしか、誰もいない校舎の誰もいない教室にひっそりと佇むピアノに会いに行くのが習慣になっていた。そして、その日もそうしていた。
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