hakonotakuya
MOURNINGオンリー展示予定だったまほ晶イラストです。サークル参加にもかかわらずまともに展示完了しておらず、申し訳ありません。アフターでいっぱい載せようと思います😭🙏まほの顔全然描いてないな、と今思いました。 2
ツキシロ
DONEフィ晶バレンタイン小話です。甘め。めくるめく春「もしもこのケーキの中に、惚れ薬が入っていたらどうする?」
そう言うと、女──今代の賢者──は、ごほごほと大げさに咳き込んだ。彼女の前に置いてあるルージュベリーのショートケーキは、既に三分のニほどがその胃袋におさまっている。
「おっと、大丈夫? お茶飲んで」
ポットを取り、温かい紅茶をカップに注いでやる。ぬるくなってきていたのだろう、彼女はカップを取ると、それを一息に飲み干した。
「ほ、惚れ薬って、そんなの、この世界にはあるんですか?」
尋ねてくるベリー色の唇のそば、柔らかそうな頬は赤くはなく、どちらかというと青い。
やれやれ、と内心溜息をついて、肩をすくめた。籠絡という言葉が聞きすぎたようで、どうもこの賢者は、俺に心を許してくれない。前途多難だ。
1439そう言うと、女──今代の賢者──は、ごほごほと大げさに咳き込んだ。彼女の前に置いてあるルージュベリーのショートケーキは、既に三分のニほどがその胃袋におさまっている。
「おっと、大丈夫? お茶飲んで」
ポットを取り、温かい紅茶をカップに注いでやる。ぬるくなってきていたのだろう、彼女はカップを取ると、それを一息に飲み干した。
「ほ、惚れ薬って、そんなの、この世界にはあるんですか?」
尋ねてくるベリー色の唇のそば、柔らかそうな頬は赤くはなく、どちらかというと青い。
やれやれ、と内心溜息をついて、肩をすくめた。籠絡という言葉が聞きすぎたようで、どうもこの賢者は、俺に心を許してくれない。前途多難だ。
ツキシロ
DONEミス晶バレンタイン小話。多分甘め。お手伝いさんにご用心「消し炭をください」
キッチンの入り口に立って言ったのに、流し台の前の女は振り向かない。いつもはおろしている髪を後頭部でくるくるとまとめていて、そこには地味な木のバレッタが刺さっていた。
「賢者様、消し炭が食べたいです」
背後まで歩いていって再度言ってやった。見下ろす手元には、何やら甘ったるいにおいがする、茶色いものが入ったボウル。彼女はそれをヘラでぐるぐると混ぜている。
「聞いてますか、晶」
「聞いてます!」
振り返ってこちらを見てきたのは、エサを頬にためすぎたリスのような膨れっ面だった。その頬は少し赤い。
「もう、ミスラ、何でいるんですか?」
「はあ? 何でって、俺が強いから、魔物を一撃で倒して、任務がすぐき終わったからですけど。当たり前じゃないですか」
1372キッチンの入り口に立って言ったのに、流し台の前の女は振り向かない。いつもはおろしている髪を後頭部でくるくるとまとめていて、そこには地味な木のバレッタが刺さっていた。
「賢者様、消し炭が食べたいです」
背後まで歩いていって再度言ってやった。見下ろす手元には、何やら甘ったるいにおいがする、茶色いものが入ったボウル。彼女はそれをヘラでぐるぐると混ぜている。
「聞いてますか、晶」
「聞いてます!」
振り返ってこちらを見てきたのは、エサを頬にためすぎたリスのような膨れっ面だった。その頬は少し赤い。
「もう、ミスラ、何でいるんですか?」
「はあ? 何でって、俺が強いから、魔物を一撃で倒して、任務がすぐき終わったからですけど。当たり前じゃないですか」
ツキシロ
DONEオー晶バレンタイン小話。あんまり甘くない???さんざめく心臓オー晶
目が覚めた時には、中天に月が昇っていた。
腹を触ってみる。もたれた木の幹には、指が触れない。完全に貫通していた穴は塞がって、血も止まっている。ミスラの魔力の残滓を感じながら、呪文を唱えた。血のにおいがようやく消える。
「ちっ……」
舌打ちをして立ち上がる。血が足りないから、足元がふらついた。瞼の裏、記憶に残る閃光。あの忌々しい髑髏。
もう一度呪文を唱えると、魔法舎に戻った。既に夜中だから、暗く、静まり返っている。ひょっとしたらバーは明るいかもしれないが、足を向ける気にはとてもならない。
足を引き摺るように歩いていくと、キッチンから明かりが漏れていた。ネロが仕込みをしているのだろうか。そう思って覗いてみたら、見えたのは、もっと小さな背中だった。
2216目が覚めた時には、中天に月が昇っていた。
腹を触ってみる。もたれた木の幹には、指が触れない。完全に貫通していた穴は塞がって、血も止まっている。ミスラの魔力の残滓を感じながら、呪文を唱えた。血のにおいがようやく消える。
「ちっ……」
舌打ちをして立ち上がる。血が足りないから、足元がふらついた。瞼の裏、記憶に残る閃光。あの忌々しい髑髏。
もう一度呪文を唱えると、魔法舎に戻った。既に夜中だから、暗く、静まり返っている。ひょっとしたらバーは明るいかもしれないが、足を向ける気にはとてもならない。
足を引き摺るように歩いていくと、キッチンから明かりが漏れていた。ネロが仕込みをしているのだろうか。そう思って覗いてみたら、見えたのは、もっと小さな背中だった。
ツキシロ
DONEファウ晶バレンタイン小話。甘め。そして僕は走り出す「賢者、居るか?」
コンコン、とノックをしたら、室内から控えめな返事が聞こえた。入っていいですよ、とのことだったので、ドアを開けたら、鍵がかかっていなかった。
「失礼するよ」
「こんにちは、ファウスト」
いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな、当たり前とも言えることが嬉しい。
「ああ、こんにちは。ところで、昼間でも鍵はかけるように言わなかったか? 二階のメンバーは大丈夫だと思うが、他の階にはいきなり入ってくる者も居るだろう」
賢者の書を書いていたところなのか、彼女は机の前の椅子に座っていた。その肩にはサクリフィキウムが乗っている。双子たちの使い魔だが、彼女の好みを反映して、見た目は随分と可愛らしい。
「そうでした。すみません、うっかりしてて」
2095コンコン、とノックをしたら、室内から控えめな返事が聞こえた。入っていいですよ、とのことだったので、ドアを開けたら、鍵がかかっていなかった。
「失礼するよ」
「こんにちは、ファウスト」
いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな、当たり前とも言えることが嬉しい。
「ああ、こんにちは。ところで、昼間でも鍵はかけるように言わなかったか? 二階のメンバーは大丈夫だと思うが、他の階にはいきなり入ってくる者も居るだろう」
賢者の書を書いていたところなのか、彼女は机の前の椅子に座っていた。その肩にはサクリフィキウムが乗っている。双子たちの使い魔だが、彼女の好みを反映して、見た目は随分と可愛らしい。
「そうでした。すみません、うっかりしてて」
HATOJIMA_MEMO
DONEなかなかくっつかないミス晶♀シリーズ最新 7話目タイトル未定 第7話ミス晶長編 七
グランヴェル王城、談話室。
最近は王侯貴族のみならず賢者の魔法使い達も出入りするようになったその一角で、少し不思議な取り合わせの二人がいた。
かたや、布地は上質ではあるが貴族と並べると簡素な装いの娘。
城に訪れる同じ年頃の女子の大半は花弁の如く裾が舞うドレスを纏い、毛足の長い絨毯でなければそれは高らかに音の鳴る靴を伴とするものだが、娘は今から街に繰り出しても、野山に分け入っても障りの無い格好をしていた。
名を、真木晶。異界よりきた賢者である。
かたや、北の国の雪より白く、計算で誂えられたもの以外の皺は一つも見当たらない祭服に身を包んだ壮年の男。
相対している娘と違い、男の服装は袖も裾も長く、生地には上質な重みがある。これを着る者は指先一つ動かす事なく、その周囲が手足となるのだと言葉なく示す装いだった。
10484グランヴェル王城、談話室。
最近は王侯貴族のみならず賢者の魔法使い達も出入りするようになったその一角で、少し不思議な取り合わせの二人がいた。
かたや、布地は上質ではあるが貴族と並べると簡素な装いの娘。
城に訪れる同じ年頃の女子の大半は花弁の如く裾が舞うドレスを纏い、毛足の長い絨毯でなければそれは高らかに音の鳴る靴を伴とするものだが、娘は今から街に繰り出しても、野山に分け入っても障りの無い格好をしていた。
名を、真木晶。異界よりきた賢者である。
かたや、北の国の雪より白く、計算で誂えられたもの以外の皺は一つも見当たらない祭服に身を包んだ壮年の男。
相対している娘と違い、男の服装は袖も裾も長く、生地には上質な重みがある。これを着る者は指先一つ動かす事なく、その周囲が手足となるのだと言葉なく示す装いだった。
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DONEブラ晶♀いい兄貴!いい兄貴!!を目指しました😄
食ってばかりだなー、って内容です🍗
ボスとメイドとカツカレー日増しに暖かくなり、早春の息吹が感じられる此の頃。
「――私、真木晶は、今日一日ブラッドリー様の専属メイドになりました」
「賢者さん」
悲痛を帯びた叫びがネロの腹から発せられ、談話室に響いた。
それは、小腹がすいたから食い物寄こせとブラッドリーに呼ばれたネロが、スイートポテトの余り材料で作った即席の芋クリーム乗せパンケーキを片手に、しぶしぶ談話室に入ったのだった。
いつもどおりのブラッドリーがおり、ふと視線をずらすと見慣れない姿の女が目に飛び込んできた。
髪を一つにまとめて、カナリアが着ている使用人の衣装に似た(それよりも上等な仕立ての)メイドがいる。化粧をしているのか心当たりのある人物と雰囲気が少し変わっていて、ネロは一瞬確信が持てなかったが。
7538「――私、真木晶は、今日一日ブラッドリー様の専属メイドになりました」
「賢者さん」
悲痛を帯びた叫びがネロの腹から発せられ、談話室に響いた。
それは、小腹がすいたから食い物寄こせとブラッドリーに呼ばれたネロが、スイートポテトの余り材料で作った即席の芋クリーム乗せパンケーキを片手に、しぶしぶ談話室に入ったのだった。
いつもどおりのブラッドリーがおり、ふと視線をずらすと見慣れない姿の女が目に飛び込んできた。
髪を一つにまとめて、カナリアが着ている使用人の衣装に似た(それよりも上等な仕立ての)メイドがいる。化粧をしているのか心当たりのある人物と雰囲気が少し変わっていて、ネロは一瞬確信が持てなかったが。
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DONEミス晶♀クソデカ感情が芽生えるかどうかくらいをイメージしてみました!
1/2ずつのこころ「ささささ寒……っ」
いつの間にここにいたのだろう。
ガタガタと身体が震え、目の前には雪国ならではの白い風景が広がっていた。さっきまでミスラと西の国にある魔法使いの雑貨屋にいた……はずだった。臓腑まで凍えるような痛いほどの冷たい空気に、歯がガチガチと鳴る。辺りはどこまでも白一色で、まるで色のない世界にでもいるようだった。
「こここ、ここはっ、どど、どこ?」
どもりながら問いかけた声は、しんしんと降る静寂の世界に飲み込まれるように搔き消えた。北の国であることは間違いないだろう。見渡す限り木々も建物も何一つなく、少し離れた真っ白な雪原の中にただミスラが一人で佇んでいるだけだ。
「……ミスラ?」
自分の声も雪が埋めていく。ミスラはゆっくりとこちらを振り向いた。
8182いつの間にここにいたのだろう。
ガタガタと身体が震え、目の前には雪国ならではの白い風景が広がっていた。さっきまでミスラと西の国にある魔法使いの雑貨屋にいた……はずだった。臓腑まで凍えるような痛いほどの冷たい空気に、歯がガチガチと鳴る。辺りはどこまでも白一色で、まるで色のない世界にでもいるようだった。
「こここ、ここはっ、どど、どこ?」
どもりながら問いかけた声は、しんしんと降る静寂の世界に飲み込まれるように搔き消えた。北の国であることは間違いないだろう。見渡す限り木々も建物も何一つなく、少し離れた真っ白な雪原の中にただミスラが一人で佇んでいるだけだ。
「……ミスラ?」
自分の声も雪が埋めていく。ミスラはゆっくりとこちらを振り向いた。
erieru48
PROGRESS2/10-11晶ちゃんオンリー4用展示③前にupした酔っ払い晶ちゃんがオーエンに絡んでたマンガもどきの続きを描いてるんですという進捗報告?あとちょっとなんですけどね...
cuffblessu1213
DONE【新作】ブラ晶♀。全年齢。新刊に収録予定の描き下ろし3本のうちの1本です。
体調不良になってしまった晶ちゃんを看病するブラッドリーというシチュです。
賢者として頑張ろうとするあまりうまく甘えられない晶と甘やかしてあげたいボス
という構図を書きたくて仕上げました。アイボリーみたいにピュアでまだ始まって
いない二人です。
Ivory これまで心細くなったのは一体どんな時だっただろうと晶は思い浮かべる。例えば大学を出て就職してすぐの頃。学生時代は学校に行けば誰かしらいて、友達と過ごすのが当たり前で。帰宅すれば親がいて食事や寝床などの住環境を心地よく整えてくれた。就職して一人暮らしを始めたとたん、急にそのどちらも取り上げられてしまって、代わりに知り合いのいない職場、やり方が分からない仕事、知らない土地、他人のようにまだよそよそしい部屋と家具たちに囲まれた。どうやってそれを乗り越えたか、乗り越えたと感じたのかと思い返してみても、結局は時間が解決したとしか言いようがない。必死で前に進んでいるうちに、いつの間にか景色が変わっていたような感覚だったのだ。
4974HATOJIMA_MEMO
DONEまほしめ開催ありがとうございます〜!パスワードはピクリエをご確認くださいなかなかくっつかないミス晶♀シリーズ最新 6話目
深夜の話
タイトル未定 第6話 真夜中のキッチンは、息をするのを躊躇う程に静かだ。
蛇口から落ちた水滴の音に鼓膜を打たれながら、晶はコップを傾ける。程よく冷えた水に、より思考が研がれていくのを感じた。
「余計に目が冴えちゃったな……」
零した声が、コップの水面を揺らす。窓越しに映り込んだ月が歪んだのを見下ろし、晶はそっと息を吐いた。
ミスラが眠るのを見届けて、諸々の寝支度を終えてひとり寝台に転がってから、今に至る。いくら目を閉じても一向に訪れない眠気は、もしかしたらミスラの部屋で使い尽くされてしまったのかもしれない。
(それならそれで、よかったかな)
おかしな想像が、少しだけ晶の心を慰める。しかしすぐ、その口元から笑みは薄れていった。
6868蛇口から落ちた水滴の音に鼓膜を打たれながら、晶はコップを傾ける。程よく冷えた水に、より思考が研がれていくのを感じた。
「余計に目が冴えちゃったな……」
零した声が、コップの水面を揺らす。窓越しに映り込んだ月が歪んだのを見下ろし、晶はそっと息を吐いた。
ミスラが眠るのを見届けて、諸々の寝支度を終えてひとり寝台に転がってから、今に至る。いくら目を閉じても一向に訪れない眠気は、もしかしたらミスラの部屋で使い尽くされてしまったのかもしれない。
(それならそれで、よかったかな)
おかしな想像が、少しだけ晶の心を慰める。しかしすぐ、その口元から笑みは薄れていった。
もけけ
DONE妖異譚の竜ミスラがまほ軸に逆トリ(?)してまだくっついてないミス晶♀にちょっかいかける話。 ぱかりと瞼が開く。暖かい布団が心地良い。まだ朝は肌寒い季節、もそもそと潜り込んだ。右手に温もりを感じてそちらに視線をやる。白い透き通るような肌の美青年がこちらを向いてすやすやと眠っている。癖のある髪が寝癖でさらにぴょこんと跳ねている。それにふふと少し息が漏れた。吐息を感じてか、ごろりとミスラが寝返りをうって仰向けになる。眠ったままのようだが、ミスラの自由な右手がざり、と前髪をかきあげた。
その時不意に、晶の腰がくん、と後ろに引かれる。そちらは誰もいないはずで、さらに言うなら腰に腕が回っている。つまり、背後に誰かがいる。
ぞぞ、と背筋が粟立つ。悲鳴を上げるか悩んだ。これでムルであったりなどしたらただのお騒がせでしかない。尤もムルの場合はミスラが気が付かないはずはないのだが。そう、ミスラが気が付かずにすやすやと眠っているということは恐ろしいことの可能性もあるのだ。不用意に声をあげるのは良くないかもしれない。逡巡のすえ、そろりと首を動かす。
13791その時不意に、晶の腰がくん、と後ろに引かれる。そちらは誰もいないはずで、さらに言うなら腰に腕が回っている。つまり、背後に誰かがいる。
ぞぞ、と背筋が粟立つ。悲鳴を上げるか悩んだ。これでムルであったりなどしたらただのお騒がせでしかない。尤もムルの場合はミスラが気が付かないはずはないのだが。そう、ミスラが気が付かずにすやすやと眠っているということは恐ろしいことの可能性もあるのだ。不用意に声をあげるのは良くないかもしれない。逡巡のすえ、そろりと首を動かす。
cuffblessu1213
DONE12/10我らがボスに祝福を!開催おめでとうございます。こちら展示作品です!ブラ晶♀(全年齢)。元の世界へ帰れることになった晶ちゃんが葛藤しながら居場所について答えを出すお話。長編。ハピエンです。 16219
HATOJIMA_MEMO
DONEなかなかくっつかないミス晶♀シリーズ最新 5話目ふたりの話
タイトル未定 第5話 賢者が現れた事によりミスラの意識が、一瞬、そちらへと逸れる。その隙を見逃すブラッドリーではなかった。
「はっ……」
「……あ」
「ハッックション‼︎」
どこに忍ばせていたのか分からない胡椒の香りが鼻をついた時には、地面に横たわっていたブラッドリーは消えていた。逃げ足の早さに、ミスラは舌打ちを漏らす。
「ミスラ……」
半壊した噴水の横に立つ賢者は、不安そうな、戸惑うような表情を浮かべていた。その姿に、更に苛立ちが募る。
あなたが来たせいで、とどめを刺し損ねた。
そう言い掛けたミスラだったが、ブラッドリーを逃した事よりもそちらの言葉の方が大きく「何か」を損なうような気がして口を無理に閉じる。更に不機嫌な顔つきになったミスラに、賢者は躊躇いながらもう一度「ミスラ」と呼んだ。目線が交わり、二人の間に沈黙が落ちる。ミスラの眼差しの先で、小さな唇がゆっくりと動いた。
7030「はっ……」
「……あ」
「ハッックション‼︎」
どこに忍ばせていたのか分からない胡椒の香りが鼻をついた時には、地面に横たわっていたブラッドリーは消えていた。逃げ足の早さに、ミスラは舌打ちを漏らす。
「ミスラ……」
半壊した噴水の横に立つ賢者は、不安そうな、戸惑うような表情を浮かべていた。その姿に、更に苛立ちが募る。
あなたが来たせいで、とどめを刺し損ねた。
そう言い掛けたミスラだったが、ブラッドリーを逃した事よりもそちらの言葉の方が大きく「何か」を損なうような気がして口を無理に閉じる。更に不機嫌な顔つきになったミスラに、賢者は躊躇いながらもう一度「ミスラ」と呼んだ。目線が交わり、二人の間に沈黙が落ちる。ミスラの眼差しの先で、小さな唇がゆっくりと動いた。
cuffblessu1213
DONEリケ視点を交えた健全なネロ晶♀SSです。特別なきみ 昼飯も終わって夕飯までのちょうどおやつ時。何か焼いてやろうか、なんて思案しながら呑気にパントリーを物色していたところに、幼いけど凛とした声が響き渡った。
「ネロ」
「なんだ、リケ。おやつねだりに来たのか」
「大事なお話があります」
「今?」
「ええ」
キッチンの中にある作業台に備え付けのスツールにちょこんと行儀よく腰掛けて、リケはこっちを真っ直ぐ見る。その真剣すぎる眼差しを適当にあしらうことも叶わず、なんかねえかなと急いでその辺に視線を彷徨わす。
「あ、リンゴあるぞ。ちょっと待ってな、角ウサギにしてやる」
「おやつをねだりに来たのではありませんが、剥いてくれるならいただきます」
向かいに腰掛けて果物ナイフでするするっと剥いたリンゴを皿に盛って出してやると、それを両手で持ったリケが小さい口でしゃり、と齧る。
2956「ネロ」
「なんだ、リケ。おやつねだりに来たのか」
「大事なお話があります」
「今?」
「ええ」
キッチンの中にある作業台に備え付けのスツールにちょこんと行儀よく腰掛けて、リケはこっちを真っ直ぐ見る。その真剣すぎる眼差しを適当にあしらうことも叶わず、なんかねえかなと急いでその辺に視線を彷徨わす。
「あ、リンゴあるぞ。ちょっと待ってな、角ウサギにしてやる」
「おやつをねだりに来たのではありませんが、剥いてくれるならいただきます」
向かいに腰掛けて果物ナイフでするするっと剥いたリンゴを皿に盛って出してやると、それを両手で持ったリケが小さい口でしゃり、と齧る。
ROKA𓌉◯𓇋
DONEお相手は当日までのお楽しみ、届いたイラストと簡単な説明から小説を書くという《絵描き×字書き合作企画》でした!"晶がムルに噛みつかれてる場面を目撃した傷オエちゃんがけんじゃさまって美味しいのかなってがぶりしちゃう感じ"から妄想しました。
無自覚両片想いな2人です。
SSで綺麗にまとめるのめっちゃむずい...
オー晶♀Webオンリー 合作企画作品ある秋の風が爽やかな日。
晶は中央の国で開かれている骨董市に来ていた。
旅をしながらヴィンテージの服飾を集めては各地の市に出ているという魔法使いの噂を聞きつけたクロエが誘ってくれたのだ。
市と聞き小さなスペースで選りすぐりの品物を並べている様を想像していた晶だったが、その魔法使いの店は表向きは小さなテントでありながら一歩中に足を踏み入れると広々とした空間が広がっているという不思議なものだった。
後に聞いた話によるとこの店は魔力を持たないもの1人では訪れることが出来ないのだという。
晶にとって店内の商品はどれも珍しいものだったが、クロエはかつて訪れた地で見たものも多いらしく「ラスティカが教えてくれたんだけどね」と一つひとつ丁寧に説明してくれた。
4737晶は中央の国で開かれている骨董市に来ていた。
旅をしながらヴィンテージの服飾を集めては各地の市に出ているという魔法使いの噂を聞きつけたクロエが誘ってくれたのだ。
市と聞き小さなスペースで選りすぐりの品物を並べている様を想像していた晶だったが、その魔法使いの店は表向きは小さなテントでありながら一歩中に足を踏み入れると広々とした空間が広がっているという不思議なものだった。
後に聞いた話によるとこの店は魔力を持たないもの1人では訪れることが出来ないのだという。
晶にとって店内の商品はどれも珍しいものだったが、クロエはかつて訪れた地で見たものも多いらしく「ラスティカが教えてくれたんだけどね」と一つひとつ丁寧に説明してくれた。
ぼのぼ
DONEフィ晶♀のフォ学軸コンパニオンバイトしてる晶ちゃん(高校生)が保険医フィに買われるまでの倫理観のない話①
春雷 出会いは、春。新学期も始まり麗らかな日差しが窓から差し込む今日この頃、真木晶は保健室にいた。連日のバイトと元よりの貧血気味な体質は頭痛をもたらした。割れるように痛む頭を落ち着かせるため薬品の匂いのするベッドに晶が横になったのは1時間ほど前だろうか。気づけば夕方の日差しを受けた風がカーテンを揺らしている。
「んっ、せんせぃ、もっと」
そんな穏やかな空気に似つかわしくないいかがわしい女の声が彼女の耳につく。今先生って言った?ということは、保険医のフィガロ先生だろうか。
保険医フィガロは入学式の時からずっと女子生徒がかっこいいと騒いでいるこの学園の有名人だ。こんなタイミングで起きるのも気まずいので晶はこのまま二度寝を決め込むことにした。
3597「んっ、せんせぃ、もっと」
そんな穏やかな空気に似つかわしくないいかがわしい女の声が彼女の耳につく。今先生って言った?ということは、保険医のフィガロ先生だろうか。
保険医フィガロは入学式の時からずっと女子生徒がかっこいいと騒いでいるこの学園の有名人だ。こんなタイミングで起きるのも気まずいので晶はこのまま二度寝を決め込むことにした。
猫目ゆこ
DONEまほやく絵まとめ単体絵はミスラ/シノ/ネロ/オーエン
⚠︎後半にまほ晶♀があります
ネロ晶♀/フィ晶♀/ミス晶♀/ファウ晶♀
(23/06/20〜08/30)
最後の2枚は2020年に描いたものです 14
ツキシロ
DONEガルシア博士×アシストロイド晶♀。パラロイ軸本編後、ラボに残った晶。約五十年後、博士が亡くなった後、旅に出ていたオーエンとクロエがラボを訪れる話です。捏造多数。晶はカルディアシステム搭載です。パラレルワールド・スターチス 博士のことですか?
そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
8036そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
近衛 無花果
DONE「シー・ローバー・スクアーマ」より、奴隷船で売られていたネロが晶に買われて価値を与えられる話。晶がとっくの昔にムルに拾われて世界救済が済んでいた世界線の海軍ifです。
羽を並べて 彗星が空に走る。奴隷船から見上げた空を自由に、しかしこの星に引かれて否応なく落ちてくる。
天から星が落ちて数日、ネロの首に刻まれた紋章は色を失った。「能なし」の証でも、奴隷としては稀有な見た目と価値を見出されていたのに、とうとう本当に何も価値のないスクアーマになってしまった。
ネロはハート大将の執務室にぼっと立ち尽くして目の前の人物を観察した。「能なし」のネロを買った、人間でもスクアーマでもない天使様と呼ばれる人。雲居のその果てから来た救世主。名を晶という。
「一目見て懐かしいなと思ってしまって、つい」
「一目惚れなんて、天使様はその名に恥じないロマンチストだね!」
「そ、そういうわけでは」
「この髪色が原因ではないかの? ほれ、薄汚れていた時は微妙じゃったが、今は見事な天つ世の色じゃ」
5290天から星が落ちて数日、ネロの首に刻まれた紋章は色を失った。「能なし」の証でも、奴隷としては稀有な見た目と価値を見出されていたのに、とうとう本当に何も価値のないスクアーマになってしまった。
ネロはハート大将の執務室にぼっと立ち尽くして目の前の人物を観察した。「能なし」のネロを買った、人間でもスクアーマでもない天使様と呼ばれる人。雲居のその果てから来た救世主。名を晶という。
「一目見て懐かしいなと思ってしまって、つい」
「一目惚れなんて、天使様はその名に恥じないロマンチストだね!」
「そ、そういうわけでは」
「この髪色が原因ではないかの? ほれ、薄汚れていた時は微妙じゃったが、今は見事な天つ世の色じゃ」
もけけ
DOODLEバレンタインみすあき 2月の夜更けにキッチンにひとり立つ。くつくつ、ガシャガシャ音を立ててできたチョコレートスフレのカップは21個。もはや美味しそうというよりはやっと終わった、という感想になるのが悲しいところだが、この行事はそういうものだ。
ネロが手伝うというのを頑なに断ったのには訳があって、1番手前にある赤いカップのケーキを晶はじい、と不備がないようあちこちから検分した。
「ありがとうございます、賢者様」
世界中の幸福をつめたような嬉しそうな顔でリケが言う。手に持った薄黄色のカップのケーキを透明な包装の外側からしげしげと眺めている。これで大半の魔法使いには渡し終えた。残るはまだ寝ているシャイロックと公務中のアーサーとカイン、そして神出鬼没のミスラ。
1971ネロが手伝うというのを頑なに断ったのには訳があって、1番手前にある赤いカップのケーキを晶はじい、と不備がないようあちこちから検分した。
「ありがとうございます、賢者様」
世界中の幸福をつめたような嬉しそうな顔でリケが言う。手に持った薄黄色のカップのケーキを透明な包装の外側からしげしげと眺めている。これで大半の魔法使いには渡し終えた。残るはまだ寝ているシャイロックと公務中のアーサーとカイン、そして神出鬼没のミスラ。
HATOJIMA_MEMO
DONE5月賢マナで出す本の話の一つです!とても途中!5月賢マナで出す話(途中) ──本当に?
──ええ、本当に。
◆
爽やかな風の香りに誘われ、晶は目を開ける。
「わ、すごい……!」
視界いっぱいに広がる草原に果てはなく、世界を空の青さと鮮やかに二分していた。晶は「ここはどこ?」と疑問を抱くよりも先に、その光景に心奪われる。
(これだけ広いと、魔法舎の皆でピクニックが出来そうだなあ)
そんな楽しい想像をしながら歩いていた晶だったが、青と緑だけの視界に突如ぽつんと現れた白に気付いて足を止めた。
(何だろう、動いて……というか、こっちに来てる?)
そう思っている間にも、豆粒ほどだった白はサッカーボールくらいの丸になり、次に晶が目を瞬いた時には、そのもこもこふわふわとした形がはっきり分かる程度になっていた。
7077──ええ、本当に。
◆
爽やかな風の香りに誘われ、晶は目を開ける。
「わ、すごい……!」
視界いっぱいに広がる草原に果てはなく、世界を空の青さと鮮やかに二分していた。晶は「ここはどこ?」と疑問を抱くよりも先に、その光景に心奪われる。
(これだけ広いと、魔法舎の皆でピクニックが出来そうだなあ)
そんな楽しい想像をしながら歩いていた晶だったが、青と緑だけの視界に突如ぽつんと現れた白に気付いて足を止めた。
(何だろう、動いて……というか、こっちに来てる?)
そう思っている間にも、豆粒ほどだった白はサッカーボールくらいの丸になり、次に晶が目を瞬いた時には、そのもこもこふわふわとした形がはっきり分かる程度になっていた。
もけけ
PAST喫茶店しりーず「あふ……」
目をゆるゆると開いて連動するように出てきた欠伸をかみ殺す。窓から日が差し込んでいて朝だと理解した。少し窮屈なのは昨日一緒にベッドに入った大きな猫ちゃんのせいだろうと振り返ると人型の大きな猫ちゃんがいた。
厄災との戦いが終わった後、なぜか帰れなかった晶は中央の国で喫茶店を開き、その2階に住居を構えている。あのころ悩まされた「傷」も皆徐々に癒えているはずだ。ところが、この大きな猫ちゃん、ミスラは賢者ではなくなった晶の住居や職場によく顔を出した。というかほぼいる。
あの頃と同じように手を握って、でもあの頃では考えられない速やかな入眠。抱き枕のように癖になってしまっているのだろうか。
ベッドを降りて、魔法舎ほど上等ではないフローリングに置いたルームシューズを履いて、洗面台へ。寝ぐせではねた髪を撫でつけて軽く梳く。
2621目をゆるゆると開いて連動するように出てきた欠伸をかみ殺す。窓から日が差し込んでいて朝だと理解した。少し窮屈なのは昨日一緒にベッドに入った大きな猫ちゃんのせいだろうと振り返ると人型の大きな猫ちゃんがいた。
厄災との戦いが終わった後、なぜか帰れなかった晶は中央の国で喫茶店を開き、その2階に住居を構えている。あのころ悩まされた「傷」も皆徐々に癒えているはずだ。ところが、この大きな猫ちゃん、ミスラは賢者ではなくなった晶の住居や職場によく顔を出した。というかほぼいる。
あの頃と同じように手を握って、でもあの頃では考えられない速やかな入眠。抱き枕のように癖になってしまっているのだろうか。
ベッドを降りて、魔法舎ほど上等ではないフローリングに置いたルームシューズを履いて、洗面台へ。寝ぐせではねた髪を撫でつけて軽く梳く。
もけけ
PAST厄災戦後。帰れなかった晶ちゃんが喫茶店を開いて、そこに入りびたる番猫の話。導入からん、と涼し気な音がなる。それを聞いたカウンターの内側の女性がにこりと微笑みを作った。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
中央の国の城下とは言えない外れのほう。郊外とまではいかないが人通りはいくらか落ち着いた通りにその店はある。通りに平行に設えられた階段を少し下ったところに入り口の扉があり、1階の窓が上の3分の1だけ地上に出ているような不思議な建物の1階がそれだ。
どうやら他に従業員もいないため店主であろう可愛らしい女性にお好きな席をどうぞ、と言われ、窓際の席へ。目の前に先ほど下った階段と、少し視線をあげれば通りを行きかう人の足だけが見える。
店内には他に数人客がおり、穴場の店なのかもしれないと思い至った。紅茶を注文しがてらそっと店内を見回した。テーブル席に若い女性が二人、カウンター席に高齢の品の良さそうな男性が一人。そして。
1351「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
中央の国の城下とは言えない外れのほう。郊外とまではいかないが人通りはいくらか落ち着いた通りにその店はある。通りに平行に設えられた階段を少し下ったところに入り口の扉があり、1階の窓が上の3分の1だけ地上に出ているような不思議な建物の1階がそれだ。
どうやら他に従業員もいないため店主であろう可愛らしい女性にお好きな席をどうぞ、と言われ、窓際の席へ。目の前に先ほど下った階段と、少し視線をあげれば通りを行きかう人の足だけが見える。
店内には他に数人客がおり、穴場の店なのかもしれないと思い至った。紅茶を注文しがてらそっと店内を見回した。テーブル席に若い女性が二人、カウンター席に高齢の品の良さそうな男性が一人。そして。
もけけ
PASTアンケートで書いた「壁に追い込む」 夜。自室のドアを開いた晶はハッとするように口元を手で抑えて固まった。少し迷うように視線をうろうろさせてぎゅ、と目を瞑り、よし、と小さく声を出して訪問者、ミスラを鋭く見据えた。鋭く、といっても晶の中で比較的、のレベルであり、ミスラにとっては誤差だった。
「なんです? 賢者様」
ほら全く響いていない。晶はめげそうになる心を叱咤して、ミスラを部屋に入れた。扉が閉まる。晶は失礼します、と丁寧に断りをいれてから、上の方にあるミスラの両肩を掴んだ。ぐ、と押す。
悲しくなるほど動かなかった。
「? どうしたんですか、さっきから。それより眠いんですけど」
「わ、わかってます!あの、ミスラ、1歩下がってもらえますか……」
1367「なんです? 賢者様」
ほら全く響いていない。晶はめげそうになる心を叱咤して、ミスラを部屋に入れた。扉が閉まる。晶は失礼します、と丁寧に断りをいれてから、上の方にあるミスラの両肩を掴んだ。ぐ、と押す。
悲しくなるほど動かなかった。
「? どうしたんですか、さっきから。それより眠いんですけど」
「わ、わかってます!あの、ミスラ、1歩下がってもらえますか……」
もけけ
PAST冬のミスあき。寒い日にかいた。早く寝かしつけてください、そういって私の手を取ったミスラはその瞬間弾かれたように手を離した。特に私には何も感じなかったがもしかして。
「? 静電気ですか?」
「ッ……そんなことよりあなた、……死んでるんですか?」
なかなか見ない焦った顔をしている。まるで、死んでほしくないみたいな、そういうふうに思ってしまう。
そう思っているうちにがし、と両肩を掴まれて胸にミスラの耳が当てられる。赤い髪が首に触れてくすぐったいし、胸がふにゅりと潰れる感触がしたが、本人はそれどころではなさそうだ。
「……うごいてますね……」
「生きてますよ。話してるし、動いてるじゃないですか」
「じゃあ手だけ死んでますよ」
すい、とミスラが私の手を掬い上げる。暖かい手だ。じんわりと温度が染み入る。ああなるほど。
495「? 静電気ですか?」
「ッ……そんなことよりあなた、……死んでるんですか?」
なかなか見ない焦った顔をしている。まるで、死んでほしくないみたいな、そういうふうに思ってしまう。
そう思っているうちにがし、と両肩を掴まれて胸にミスラの耳が当てられる。赤い髪が首に触れてくすぐったいし、胸がふにゅりと潰れる感触がしたが、本人はそれどころではなさそうだ。
「……うごいてますね……」
「生きてますよ。話してるし、動いてるじゃないですか」
「じゃあ手だけ死んでますよ」
すい、とミスラが私の手を掬い上げる。暖かい手だ。じんわりと温度が染み入る。ああなるほど。