人間のバンと妖精姫エレインの間に生まれた珠のような男の子は、ランスロットと名付けられた。異種族の間に子が生まれるなど、というより妖精が懐妊し出産するなどブリタニアはじまって以来の出来事なので、一時期のベンウィックは毎日お祭り騒ぎだったが、最近はそれもようやく落ち着いてきた。
その間にもランスロットはぐんぐん大きくなり、最近では物凄い勢いでハイハイして、赤子ながら全くじっとしていない。
「誰に似たんだろう、この落ち着きのなさ。物凄く元気」
叔父であるキングは甥っ子に前髪をしゃぶられながら、ぼやいていると見せかけて、ほとんどニヤけている。
「やめて、ランス。髪舐めないで。あだだだ! 引っ張るのもだめ!」
「いいぞランス、流石俺の息子だ♫」
「バン、君は父親なんだからもっとしっかりしてよ!」
義兄にじゃれつく息子を応援するバンにキングが声を荒げると、ランスロットはじんわり涙を浮かべ、ぐずりだした。
「あ、泣かせやがったな!」
「あわわ、ランスロット。君は悪くないんだよ、パパが悪いんだ」
「なにおう♪」
「もー、二人ともいい加減にして!」
そこにエレインが現れた。エレインが腕を差し出すとランスロットの身体がふわっと浮かんで、彼女の胸の中に収まった。ぐずる息子を抱いてあやすさまは、さながら聖母だ。妖精の聖母。キングは妹の幸福そのものの姿に、うっかり涙ぐみそうになる。
「やだ。また泣いてるの、兄さん」
それを見たエレインはやや呆れ顔だ。
「だってさぁ、まさか妖精が……エレインが母親になるなんて」
「まぁ、気持ちはわかる」
珍しくバンが同意すると、エレインもはにかみながら「私自身も驚いてはいるけどね」と言った。
「でもまだ、わからないことだらけよ」
「そんなもんだろ、妖精だろうがなんだろうが子育てなんて。たぶん……」
立ち上がったバンがエレインの胸の中のランスロットをそっと撫でる。何でも奪うその手が、与えるために動いている。キングはまた少し涙が出そうになったが、ぺしっと頬を叩いて笑顔を作った。
「心配はしていないよ。君たちなら何とかしてしまうんだろうからね」
「カカッ♪ 言いやがる♫」
父親が笑ったのを見たランスロットも笑顔になる。エレインも笑っている。三人は歳も種族もバラバラだが、その笑顔の輝きは皆同じだ。
どうか神樹よ、この親子に森のめぐみを。
こころのうちでそっと祈ったキングがランスロットを撫でようとすると、また前髪を引っ張られた。