アイスブレイク「フラれたんさかい、慰めてぇな」
カウンターの上に置かれた、紙カップ入りの赤いかき氷を見ながら寶はバックンに愚痴った。
「バク〜」
バックンは店内を飛び回っている。
夢を食う生き物であるバクを、寶たちの護衛につけたのは豊穣さんの意向だった。監視という目的もあるだろうが、多少なりとも言葉を解す、かつ余計なことをしゃべらない存在が側にいるのはありがたかった。
「ワイ、そんな胡散臭く見えるん?」
「バ~ク~」
多少すまなそうな表情に見えないこともない。
買い出しの帰り、小さい女の子が路上に座り込んでいるのを見かけた。気になったから、近所でかき氷を買って、差し出したら、「知らない人にものを貰っちゃいけないって言われたから、いらない」と言われた。あの頃の自分を見ているようで、助けてあげたかった。
「ま、あんなちいこい子に声かけるような大人、大抵ロクでもない奴と相場が決まっとるがな」
あの子の判断は正しい。寶はそう思い直した。気になるなら、もう一度様子を見に行ってから、交番なり保育所なりに連絡しよう。
「かき氷、溶けないうちに食ってもええで」
バックンは一声鳴くと、刺さっていたプラスチックのスプーンを引き抜き、器用に前足でスプーンを使って、かき氷をたべはじめた。
なんとなく頭を撫ででやると、バックンが前足を止め、不思議そうに寶を見た。
「今のは性欲とちゃうで〜」
意味がわかっているのか、わかっていないのか。バックンはかき氷を食べ続けている。