512 クラスの顔見知りと軽口を叩く仲になっても、サボり癖はなかなか抜けなかった。人間の格好をして、人間のふりをし続けているのは、思っていたよりも疲れる。焔は屋上へ向かった。
おれには屋上があって、清怜には生徒会室がある。考えてもみれば、蘭丸や樹果はどこで息抜きをしているんだろう。
購買で適当に買ってきたパンをぱくつきながら焔があたりを見渡す。屋上には先客はいない。
音楽室からか、合唱の歌声が聞こえてくる。たくさんの女の声だ。昔の言葉を使っているからか、焔には集中して聞き取らないと意味を掴むのは難しかった。谷の百合、朝の星に例えられる人間の歌か? そんなおきれいな人間様がいるのか?
おきれいな歌詞のせいか声のせいか、反感とともに清怜の顔が思い浮かぶ。あいつ、おれの何がそんなに気に食わないのか。
星々は人間の住めるところではないし、谷の百合だって猛毒を持つ。だから、美しいものには近づきたくない。清怜が泣こうが笑おうが、おれの知ったことではない、そう自分に言い聞かそうとするが、あの生意気そうな上品ぶったツラが、目を閉じてもなかなか頭から消えてくれない。