さやあて「言っておくけど、俺のほうが寶よりモテるからね」
買い出しに連れ出した帰り道、荷物を持たせていた樹果が不意にそう口走った。
「ほぉん、いつ。どこで。どないして」
どうせ学校で、とかそんな話だろうとたかをくくっていた。
「近所で。寶も知ってる。子持ちのシングルマザー」
「おかあちゃんやろ?」
「そうだけど!」
おかあちゃんとは、朝帰りの寶が時々餌をやっていた、BAR Fの近所に居ついた子持ちの猫のことだ。野良猫らしく、人間に心を許さない。子猫の世話はよく見ている割には、こちらに甘えた仕草など見せたこともない、そんな猫だった。
「寶、おかあちゃんさわろうとしてシャーって言われてるだろ。俺は言われない」
「ほんま?」
得意げな顔で樹果はうなずく。
「ね、俺のほうがモテてるだろ?」
「せやな」
そう答えるしかなかった。店の周囲に、おかあちゃんがいるのに気づいたのは、おれのほうが先だったはずなのに、いつの間に。
「ちゃんと手ぇ出すなら、最後まで面倒みないとダメだよ」
それは猫だけの話をしているのか。
話しているうちに、いつもの路地の側まできた。樹果は話すのをやめ、目を路地の奥にやる。昼間でも薄暗い路地の奥で、子猫たちが遊び、母猫が毛づくろいをしている。
「モテ競争はまた次にして、帰ろう」
「せやな」
「まあ俺は抜け駆けして、あとで餌と水持ってくるけど」
「じゃワイはあとで片付けにいこか」
子猫のうち一匹が二人に気づき、おかあちゃんが鋭い目を向ける。