かいだし「樹果くん、買い出し付き合ってや」
思わず振り返りそうになったけど、我慢した。声かけられたって、いつだって尻尾ふってついてくわけじゃないってことを見せたかった。
「今借りてる漫画読んでるから、あとにして」
「じゃうるうくんにお願いしよかな」
反射的に顔をあげてBAR Fの店内を見渡したけど、俺と寶以外には誰もいなかった。
「騙したな、うそつき」
「大人はずるいものなんや」
しれっとした顔で、俺の頭をぽんぽんしながら寶がいってる。
「気やすく人の頭を叩くなよ」
気恥ずかしくなって、その手をつい押さえる。
「あ〜痛い痛い、樹果くんの手の力がつようて、もう重いもの持てへんやん」
そんなわけないだろ。だいたい寶は力持ちなんだから、荷物持ちとかいらないはずだ。
買い物に行っても、とくに何もない。何か買ってもらえるわけでもないし、立ち入ったことを話すわけでもない。
「そんなわけないじゃん。でも、別にいいよ、ついていってやっても」
手を離す。
「ごめんなあ、ワイええとこの子やから、スプーンより重いものもったことないねん」
たいしたことなんか、何もおこらない。なのにどうして、俺は毎回買い出しについていってしまうんだろう。