冬とチョコレート「うわ、すっげ、わかりやすく義理じゃん」
Bar Fのカウンターの上には、ひとつ100円以内で買えそうなチョコが、それなりにラッピングされて並んでいる。
「でも、ちゃんとお礼はしなきゃダメだよ。お礼する日は3月14日だから。よくわからなかったら俺に聞いて」
「うん、ありがとう、樹果」
「でもさー、クラスでは地味な蘭丸が、義理とはいえこれだけチョコ貰ってるの意外だったよ。これが愛著集めだったら俺の勝ちだったのになー」
「もろたプレゼントは、エクセルで表にすると便利やで〜」
洗い物を終えた寶がカウンターの内側から声をかける。
「へー、寶はそうしてるんだ。俺もクラスの子から友チョコ貰ったからメモしとこうかな…… 」
携帯を出した樹果は、思い出したように画面から目を離す。
「焔もうるうも帰り遅いってことは、女の子たちに捕まってるのかな」
「そうなんだ」
蘭丸はどこか心ここにあらずといった風情で、チョコレートの包装をとき、しばらくその小さな菓子を見つめる。
人間界の風習。数えきれないくらいのそれを、顔も知らないひとたちから貰った。好きな人にあげるんだってさ、今みたいに、気恥ずかしくなって、口ではバカにしながらも、その顔から目が離せなかった。そんなことが、昔あったような……。
「蘭丸? 蘭丸? またボーッとして」
樹果が声をかける。
「ごめん、樹果も食べたかった?」
「いらねーし!! 俺だって貰ってるし」
会話を聞いていた寶が耐えきれずに噴き出した。