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    pk_3630

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    平安時代AUの曦×澄♀ ④
    両想いなのに徐々にすれ違いが生じてきました。
    ちゃんとハピエンにしますので…!

    #曦澄

    平安時代AU 第4話昼間は帝と女官という関係だが、夜になれば曦臣は江澄の部屋に訪れ二人は逢瀬を楽しんでいた。曦臣の寝所から江澄への部屋へは外からは決してわからない秘密の廊下で繋がっており、二人の逢瀬を知っているのはお互いの最も近しい侍女のみだった。

    「阿澄、最近困ったことはない?」
    「何も。次の祭事も問題なく準備できています。」
    「ふふっ、祭事のことではなくあなた自身のことだよ。」
    「私の?」
    頭を僅かに横に傾け涼やかな目をきょとんとさせている様がどうにも愛らしく、抱きしめる腕につい力が入ってしまう。抱き寄せた身体から蓮花の香がすることがただただ幸せだった。最初に調合した蓮花の香にわずかに自分の香も混ぜて江澄に贈っており、江澄は毎日その香を使ってくれている。逢瀬の時に自分の香が江澄に移り周囲にそれを指摘されることを危惧して調合を変えたのだが、昼間も自分と同じ香を纏っていると思うと、秘めていた独占欲が満たされていくようだった。
    「そう、どんな些細なことでもいい。阿澄のことを聞きたい。」
    「私のことも何も問題などありません。むしろ…」
    「ん?」
    「こんなに良い待遇で大丈夫なのかと」
    江澄は凛とした姿からは想像がつかない程に自信がなく、己の足りない部分ばかりに目がいっていしまう癖がついているようだった。宮中の蓮の花が打ちひしがれて枯れてしまうことのないよう、情を注いで不安を取り除く必要があると常々曦臣は思っていた。
    「あなたはどの女官よりもよく働いてくれている。もし阿澄が男だったなら側近に引き立てていたほどに。」
    「そう…。では、私は男に生まれていればよかった。」
    「ああ、阿澄!そんな意味で言ったのではないよ。」
    「わかっています。曦臣、そんなに慌てなくても誤解などしていません。」
    江澄がふっと笑っただけでも、曦臣の心は舞い上がってしまう。今すぐに口づけをして、恋い慕っているのだと言ってしまいたい。しかし抱きしめているだけとはいえ逢瀬を繰り返しておきながら、この幸せな時間が壊れてしまうことを怖れ、どうしてもその一言を言うことができなかった。
    「阿澄、いつまでもこの宮中で私に仕えていて。」
    思いの丈を伝えることもできず、ただ願望だけを吐き出しているというのに、曦臣の背を撫でる江澄の手はどこまでも優しかった。
    「ええ、いつまでも主上にお仕えします。」

    パタンッ
    秘密の戸が閉まり今夜も曦臣は寝殿へと戻っていった。
    夜が明ける前に必ず曦臣は帰っていく。逢瀬の時はそう長くはないが江澄にとっては何より大切で幸せな時間だった。
    主上と秘かに逢瀬をもっている等、大それたことをしているという自覚はあった。いつか何かの拍子に周囲に知られてしまうのではという怖れも抱いていたが、どうしてもこの一時を失いたくはなかった。
    (誰かに一途に想われ守られるということはこんなにも幸せなものなのか。)
    父からは好かれず、姉達は優しくしてくれたがそれぞれに江澄以外に大切な人がいた。曦臣に抱きしめられている時、姉達は好きな人と結ばれこんなにも幸せな気持ちでいたのかと思った。曦臣に守られているという安心さゆえ、逢瀬の時は完全に身を委ねていたし心を明け渡すこともできた。
    姉達と違って曦臣と江澄は関係を隠しており逢瀬の時間も限られているが、そんなことを問題に思わない程に江澄は幸福に浸っていた。このままずっと曦臣に仕えていよう、そうしていればずっと幸せでいられる。この想いは不変だと思っていた。

    しかし、その思いを覆してしまうことが起きた。
    きっかけは左大臣家に嫁いでいた姉からの文だ。金子軒の異母妹である姫が裳着の式をするので、宮中の高位の女官である江澄に準備を手伝ってほしいという内容だった。姉の頼みとあればとすぐに金家に赴くと、姉は江澄を温かく迎え入れてくれた。
    左大臣家の姫君は金家特有の華やかな顔立ちをしている美少女で、少し話をしただけでも明るく人懐っこい性格であることがわかる。左大臣家の姫とあって教養も申し分なく、天真爛漫な様子は少し無羨に似ているだろうか。姉とも仲が良いらしく式の衣装を選ぶのを楽しそうに相談していた。
    「お義姉様、こちらの衣装はどうでしょう」
    「華やかな色合いであなたにとても似合っているわ」
    「けれどこちらの衣装もとても好みで迷ってしまうわ。末の姫君様、主上はどちらの色合いがお好みでしょうか。」
    「主上の?」
    「ええ、裳着の式が終われば女御として入内させるとお父様に言われているのです。主上のお好みは今のうちから知っておきたいと思いまして。」
    その言葉に、自分は何を呆けていたのだろうと一気に現実に引き戻さた。曦臣は非常に年若く皇位を継いだせいで、皇后を持つ余裕がないと女御や更衣を迎えてこなかったらしい。しかし、この左大臣家の姫は家柄も本人の資質も女御として申し分ない。この姫が将来の曦臣の妻なのだと思った瞬間、頭が痺れ手足がどうしようもなく冷たくなっていった。

    裳着の式の準備が終わると姉が引き留めるのも断って宮中に戻り、私室で書簡を広げた。
    (左大臣家の姫君が女御として入内する。それは当然のことで、私は入内する際の儀式を手伝わないといけない。おそらくゆくゆくは立后の儀も行われるだろうから、そちらの準備にも携わるのだろうか。)
    今までの儀式の記録を確認しておこうと書簡を広げているのだが全く頭に入ってこない。
    (女御を迎えてからも曦臣はこの部屋を訪れてくれるだろうか)
    そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、江澄は猛烈に己を恥じた。
    左大臣家に生まれ実家の皆にも愛されている年若く可愛らしい女御がいるというのに、婚姻は破断となり婚期を逃して実家にも見放された自分を曦臣が構うはずがない。
    今までが幸せ過ぎてすっかり忘れていた。自分がどういう人間だったのかを、曦臣に相応しい資質は何一つ持ち合わせていなかったということを。そして、いつ何時曦臣の訪れがなくなり見捨てられてもおかしくないという現実を。
    (あんなに愛らしく後ろ盾もしっかりとした女御が入内すれば、きっと曦臣は私のことなど相手にしなくなるだろう。そうしたら私はまたこの宮中で一人きりの生活に戻る。曦臣が自分を見向きもしなくなる日は、きっとそう遠くないうちに訪れてしまう。その時自分は一体どうなってしまうのだろう。)
    考えれば考えるほどに、冷たく孤独な運命が待ち受けている気がしてならない。

    トントンッ
    秘密の戸を小さく叩く音にびくっと身体を跳ねさせた。
    「阿澄、いるのでしょう?ここを開けて」
    こんな気持ちのまま曦臣に逢えるわけがない、きっと自分はいつもと何かが違っていて、曦臣に笑いかけることなどできないだろう。そう思い江澄は咄嗟に嘘をついて曦臣を遠ざけようとした。
    「曦臣、今日は少し風邪気味で…。うつしてしまうのが怖いから」
    「風邪?すぐに薬師を呼ぶから、そこにいて」
    「だめっ!」
    「阿澄、どうかしたの?様子がおかしい。相当具合が悪いのでは?とにかくここを開けて」
    江澄は曦臣が入ってこれないようにと戸に凭れた。
    「本当に大丈夫。もう寝る仕度をしてしまって、とても人前に出られる恰好ではないから。どうか今日はもうこのままにしておいてください」
    言っていることとは裏腹に心配してくれる曦臣の声がたまらなく嬉しくて、しかしそんなことを思ってしまう浅ましい自分が嫌で嫌で仕方なかった。
    どうしても逢うことはできないと頑なに拒んでいると、ついに曦臣は渋々と私室へ戻っていった。立ち去る音を聞きながら、戸を背にしてへなへなと座りこむ。
    (もう宮中にはいられない)
    曦臣の優しさや温もりを知ってしまったのに、その名残だけを抱えて宮中に留まることは苦痛を伴うだろう。そして曦臣と左大臣家の姫が仲睦まじくしている様を見ていることなどとてもできそうにない。若く愛らしい姫に嫉妬するような醜い自分を曦臣の前に曝したくなかった。それならば、こんなにも浅ましい自分を曦臣に知られる前に宮中を出るほか方法はないように思えた。
    (今まで曦臣は甘く幸せな夢を見せてくれた。けれど、もうその夢から醒めなければならない。)
    頬を冷たい涙が流れる。
    何をすべきか江澄はわかっていた。
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     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
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    おや兄上の様子が……?
     金鱗台で清談会が開かれる。
     その一番の意味は、新しい金宗主を筆頭にして金氏が盤石であると、内外に知らしめることである。
     江澄はそのために奔走していた。
     今回ばかりは金凌が全面的に表に立たねばならない。彼を支えられる、信頼に足る人物をそろえなければいけない。なにより江澄が苦心したのはそこだった。
     おかげさまで、金光善の時代に金氏を食い物にしていた輩は、金光瑶によって排されていた。しかし、今度は金光瑶に傾倒する人物が残されている。彼らに罪はない。しかし、金凌の側に置くわけにはいかない。
     江澄が目をつけたのは金深微という人物であった。金光善、金光瑶と二人の宗主の側近として職務を果たしてきた仙師である。すでに白頭の老仙師だが、その分見識は深い。
     彼を第一の側近として、その周囲を金凌の養育に関わってきた者たちで囲む。金光瑶の側近でもあった彼が中枢にいれば、派閥の偏りを口実にした批判は潰せる。
     金深微は忠実に黙々と実務に勤しむ。それは宗主が誰であろうと変わらない。そのような彼に信頼が置けるからこそ採用できた布陣である。
     金宗主として宗主の席に座る金凌を、江澄は江宗主の席から見上げ 4006