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    百合菜

    遙かやアンジェで字書きをしています。
    ときどきスタマイ。
    キャラクター紹介ひとりめのキャラにはまりがち。

    こちらでは、完成した話のほか、書きかけの話、連載途中の話、供養の話、進捗なども掲載しております。
    少しでもお楽しみいただけると幸いです。

    ※カップリング・話ごとにタグをつけていますので、よろしければご利用ください

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    POIPOI 72

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。
    遅刻となってしまい、申し訳ございません。
    リクエスト内容は、「空を見る二人」。

    5章をイメージして書きました。では、どうぞ。

    ※ゲームを見返すエネルギーがないため、取り急ぎ「荘園」という言葉を使いました。
    後日見返して訂正します。
    「若様、姫様、そろそろ休んだらどうだい?」

    その日、七緒は幸村とともに真田家の荘園の見回ることとなった。
    富士で呪詛返しを受けたため、現在、七緒は信濃でゆっくりと療養している。幸い身体の調子は戻ってきており、再度の富士登山に向けて体制を整えているところであった。

    見回りと言っても幸村はただ視察するだけではなく、農作業に加わる。
    故郷を離れていた時期が長いため、民とともに田畑の手入れを行うことが何よりの喜びだと話す様子が七緒には印象的だった。
    幸村には「姫は木陰で休んでいてください」と言われるが、周りのものがあくせく働いているのを見ると申し訳ない気持ちになる。それに幸村が生まれた土地のために汗水を流しているのだから、少しでもいいから力になりたい。
    そう思って七緒もともに身体を動かしていたのだが、思っていた以上に時間が経ったらしい。
    太陽はいつの間にか空の一番高いところまで上り、強い日差しが七緒と幸村を照らしていた。
    「せめてものお礼に」と言われて差し出されたおむすびを七緒は口に頬張る。
    塩でシンプルに味付けされたものだが、空腹の身にはそれが却っておいしく感じる。

    ふと何気なく七緒は 1602

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。
    リクエスト内容は、「突然の雨に人気の少ない場所で雨宿り」。

    幸村8章から終章の間をイメージして書きました。
    広い大地の間を割くように閃光が走る。
    そのことに気がついた次の瞬間、激しい音とともに地面を叩きつけるような大粒の雨が降り出す。

    「姫、こちらへ!」

    突然の大雨に驚き、身動きがとれなくなった七緒を幸村は強く手を引いていく。
    バランスを崩しかかった七緒であるが、幸村に後れを取るまいと体勢を整え、走り出した。

    「ここなら大丈夫ですね」

    そう言って幸村が連れてきたのは廃屋と思われしき建物の軒下であった。
    周りを見渡すとかつては田畑だったのかもしれないが、すっかり荒れ果てた土地となっており、草木が無造作に生えるだけであった。

    「兄さんや大和は大丈夫かな……」

    今、幸村たちは上田から九度山への長い旅路の最中。
    五月や大和は先発隊の一員として先を行っているが、この雷雨には当たっていないだろうか。
    そう不安に思う七緒であったが、幸村は七緒に笑みを向けて話す。

    「五月たちであれば、そろそろ宿場町に到着するので、大丈夫かと思います」

    五月たちが雨に当たる可能性が低いとなれば、考えるのは自分たちのことだけでいい。
    そう思うと少しだけ安堵する。
    だけど、逆に考えれば、五月たちにしてみれば、自分 1289

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。
    リクエスト内容は、「はっさくを食べる二人」。

    本当は、「探索の間に、幸村と七緒が茶屋でかわいくはっさくを食べる」話を書きたかったのですが、実際に仕上がったのは夏の真田の庄で熱中症になりかかる七緒ちゃんの話でした^^;

    ※スケブなので、無理やり終わらせた感があります
    「暑い……」

    七緒の口から思わずそんな言葉が出てきた。
    富士に登ったものの、呪詛返しに遭い、療養することを強いられた夏。
    無理ができない歯がゆさと戦いつつも、少しずつ体調を整えるため、その日、七緒は幸村の案内で真田の庄をまわっていた。

    秋の収穫を待ちながら田畑の手入れを怠らないものたちを見ていると、七緒は心が落ち着くのを感じる。
    幸村を育んだ土地というだけに穏やかな空気が流れているのだろうか。ここにはいつまでも滞在してしまいたくなる安心感がある。

    しかし、そのとき七緒はひとつの違和感を覚えた。
    呪詛とか怨霊の類ではない。もっと自分の根本に関わるようなもの。
    おそらくこれは熱中症の前触れ。
    他の土地よりは高地にあるため幾分和らいでいるとはいえ、やはり暑いことには変わりない。
    七緒の変化に幸村も気づいたのだろう。
    手を引かれたかと思うと、あっという間に日陰に連れていかれる。
    そして、横たえられたかと思ったその瞬間、七緒は意識を失っていた。


    水が冷たい。
    そう思いながら七緒が目を開けると、そこには幸村のアップの顔があった。
    「姫、大丈夫ですか?」
    そう言いながら自分を見つめる紫の瞳 1386

    百合菜

    DONE2021年2月7日に開催された天野七緒中心WEBオンリーで実施した「エアスケブ」で書いたものです。

    リクエストは「炊事をする幸七」です。
    ……が、実はこれは没案の方です。
    (それを先に書く私も私ですが^^;)

    そもそも「炊事」とは何なのかとか、買い物で終わっているじゃない!という突っ込みはあるかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
    「姫様、こちらは何ですか?」

    何度目になるかわからない八葉たちによる令和の世の天野家の訪問。
    さすがに慣れてきたのか、八葉の者たちは早速手洗いを利用したり、リビングでソファに座りながらテレビを見たりするなど、思い思いのくつろぎ方を見出すようになった。
    その中で、七緒と五月、そして武蔵の三人は八葉に茶と軽い食事を出すために台所へいた。

    「これは、電子レンジって言うんだ」
    「でんし…れん……じ、ですか?」

    水道水の出し方や冷蔵庫の扱いには慣れてきた武蔵であったが、台所の片隅にある電子レンジの存在は使ったことがないこともあり認識していなかったらしい。
    七緒もそのことに気がつき、武蔵に説明する。

    「うん。説明するより、実際に見てもらった方がいいと思うから、使ってみようか」

    そう言って七緒は冷凍室から冷凍ピザを取り出す。
    そして、慣れた手つきで袋を開け、さらにピザを乗せていく。
    数分後、軽快な電子音が鳴り響き、そしてレンジの扉を開くとトマトソース匂いが台所に広がっていく。

    「ほお、相変わらず神子殿の世界にあるものは興味深いね」
    「そうですね、兼続殿」

    そこに現れたのは兼続と幸村のふ 2359

    百合菜

    PAST遙か1・頼あか。
    「名前で呼んで」

    出会ったばかりのあかねと頼久の話。
    「源頼久と申します」

    そう名乗りながらあかねの目の前に現れたのは、自分より頭ひとつ分違う身長に、鍛え上げられた体躯を持つ少し年上と思われる男性の姿だった。
    見慣れない装束、そして腰に差しているのは刀なのであろうか。
    これらを見ていると、やはり自分はどこか見知らぬ場所に連れてこられたという事実が現実のものとして迫ってくる。

    だけど、何が起こったのか、自分はどうすれば元の世界に帰ることができるのか、見当がつかなかった。
    リュウジンノミコとして召喚されたらしいが、普通の高校生である自分にそんな役割が任せられただなんて信じられない。
    この先、どうするべきか誰かに聞いておきたかった。

    「あの…… 源さん、でしたっけ?」

    武骨そうに見え、むしろ寡黙に見える。
    しかし、その瞳は嘘偽りがないということを信じることができる。
    初めて会ったのに、あかねはなぜか目の前の男性のことを信じることができた。
    すると、

    「み、神子殿……!」

    目の前の頼久と名乗る男性がうろたえているのが目に入る。

    「どうしたのですか? 源さん」

    そう、問いかけるあかねに対し、頼久は困ったように髪をかきあげる。

    「で 1575

    百合菜

    PAST遙か1・頼あか。

    2018年のバレンタイン創作。
    「頼久さん、これあげる」

    そう言ってあかねが手渡したのは丁寧にラッピングされた小さな箱。
    そのときのあかねの様子が頬を赤らめていてかわいいと思いつつも、ありがたく頼久は受け取る。

    今日は2月14日。
    いたって普通の平日のはずだが、あかねは前もって頼久にデートの約束を取りつけてきた。
    龍神のいたずらで現代の世界において就くことになった仕事はあるが、幸い、水曜日のため、早めに帰っても咎められない空気だった。
    そして、冒頭に至る。

    「開けてもいいですか?」

    あかねがこっくり頷くのを確認してから頼久は包装紙を丁寧にはがす。
    中から現れたのは茶色の固まり。
    ―確かちょこれーと、とか言ったはず。
    少し前にあかねに教えてもらった知識と目の前の物体が同じものであることを確認する。
    確か甘い味がするため、そんなに好みではなかった。
    そして、あかねもそのことを知っていたはず。
    しかし、わざわざそれを渡してくること、そしてそれを渡してくるのに、頬を赤らめる理由がわからなかった。

    「今日はバレンタインだから」

    「ばれんたいん、ですか?」

    聞き慣れぬ言葉を繰り返して尋ねる。
    少し前からあちこちで耳 1881

    百合菜

    PAST遙か1・頼あか。
    「はっぴー・ばれんたいん」

    2018年2月にネオロマの世界に戻ってきてすぐに書いた話です。
    立春を過ぎたとは言え、まだ暖かいとは言いがたい日が続く。
    あかねはコートを着て、マフラーも手袋もきちんと身につけた。
    でも、日差しは少しだけ春に近づいているのがわかる。
    そんな中、あかねは最愛の人と会えると思うと心はますます暖かくなっていった。

    学校の授業が終わり、待ち合わせの場所に行くためあかねは昇降口で靴を履き替えていた。
    あの京の世界から戻り、半年とちょっと。
    あのとき、運命をともにする約束をした頼久はこの世界に馴染むため、そして生活の手段として職についている。
    いずれあかねがそれ相応の年齢に達したときに迎えられるようにするため。

    二人の待ち合わせは駅前のカフェ。
    あかねが店内に入るとそこには頼久の姿が目に入った。
    長い足を邪魔くさそうに椅子からはみ出しているのが、あかねにはなぜかかわいく見えてしまう。

    「頼久さん!」
    「みこ……あかね」

    ちょっと油断していると、いまだに京の世界にいたときの呼称で呼びかねない頼久だが、あかねの怪訝な顔つきですぐに訂正する。

    「ごめんなさい。来てもらって」

    頼久の目の前にあるカップの飲み物はほとんどなくなり、湯気も消えている。
    おそらく 2150

    百合菜

    MAIKING遙か3・望美→将臣の話。

    いつか書くかもしれない話の一部。
    「よお、久しぶり」

    屈託のない笑顔を見せながら夏の熊野に現れた幼馴染。
    心の奥に小さな痛みを感じながら、望美はそんな彼に笑顔を向ける。

    「将臣くん、久しぶり! まさか、こんなところで会えるなんてね」

    そう、近所のコンビニで同級生と会ったのとはわけが違う。
    いくら京と熊野は関わりがあるといっても、戦乱のさなかゆえ今日から熊野へ訪れるには時として命を掛ける必要もある。
    もしかすると、ここでふたりが出会うのは深い理由があるのかもしれない。
    あるいは避けられない運命なのかもしれない。
    どんな事情であれ、今は将臣と行動をともにすることができるのが望美にはうれしかった。

    熊野で将臣と過ごす期間は思いのほか、長くなりそうだった。
    なぜなら望美たちも将臣も同じ場所を目的地としていたが、さまざまな障害により、たどり着くのが困難だったからだ。
    遠回りをすることにした先で滞在することになった勝浦。
    しばらくここに留まることとなり、自由時間を持つことができた。
    久しぶりに波の音を近くで聞きたくなり、望美は浜辺へ行くことにした。

    「よお、そこにいたのか」

    浜でしゃがみ込みながら波を見ていると、幼いこ 2600

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「恋心は雨にかき消されて」

    2019年有馬誕生日創作。
    私が遙か6にはまったのは、猛暑の2018年のため、創作ではいつも「暑い暑い」と言っている有馬と梓。
    この年は気分を変えて雨を降らせてみることにしました。
    おそらくタイトル詐欺の話。
    先ほどまでのうだるような暑さはどこへやら、浅草の空は気がつくと真っ黒な雲が浮かび上がっていた。

    「雨が降りそうね」

    横にいる千代がそう呟く。
    そして、一歩後ろを歩いていた有馬も頷く。

    「ああ、このままだと雨が降るかもしれない。今日の探索は切り上げよう」

    その言葉に従い、梓と千代は足早に軍邸に戻る。
    ドアを開け、建物の中に入った途端、大粒の雨が地面を叩きつける。
    有馬の判断に感謝しながら、梓は靴を脱いだ。

    「有馬さんはこのあと、どうされるのですか?」
    「俺は両国橋付近の様子が気になるから、様子を見てくる」
    「こんな雨の中ですか!?」

    彼らしい答えに納得しつつも、やはり驚く。
    普通の人なら外出を避ける天気。そこを自ら出向くのは軍人としての役目もあるのだろうが、おそらく有馬自身も責任感が強いことに由来するのだろう。

    「もうすぐ市民が楽しみにしている催しがある。被害がないか確かめるのも大切な役目だ」

    悪天候を気にする素振りも見せず、いつも通り感情が読み取りにくい表情で淡々と話す。
    そう、これが有馬さん。黒龍の神子とはいえ、踏み入れられない・踏み入れさせてくれない領域。
    自らの任 1947

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「私は幸せだから」

    こちらの世界にやってきた有馬と銀座を歩く梓。
    そこでふとしたひと言とは……
    「寒くなってきましたね」
    そう言いながら梓は隣を歩く有馬に話しかける。
    銀座の街は銀杏の葉が金色に輝き、もうじき寒い冬がやってくることを伝えてくる。
    ふたりでこうして一緒に歩いていると思い出す。
    風景は違えど、帝都の銀座でこうして歩き、街を守っていた日々を。
    しかし、あのときは自分たちだけではなく、千代や秋兵たちもいた。

    「みんな、元気かな……」

    思わずそんな言葉が口から出てしまう。
    しまったと思ったときには遅かった。
    隣にいる有馬が何か言いたげに梓のことを見つめてきた。

    「ごめんなさい、そういうつもりでは……」

    他意はない。
    ただ、隣にいる人にこの言葉を向けると必要以上に責任を感じることは、少し考えればわかりそうなものなのに。

    「すまない」

    その言葉が指しているのが何であるか。はっきりとは伝えていないが、何であるか梓は理解した。

    自分を守るために神子の力を使った。
    そのために仲間たちとは別れの挨拶すらできなかった。
    仕方がないとわかっているが、名残惜しい気持ちはどこかにある。

    「一さんが謝る必要はないです」

    こちらの世界とあちらの世界。どっちみち、どちらかを選ばない 820

    百合菜

    PAST遙か6・有梓
    「今日も帝都の空は澄んで」

    有馬と出会って二度目の夏。
    結婚を控えた梓。休憩中に空を見上げて、つい気負ってしまう。そんな梓に対し、有馬は……

    Twitterに投稿した2020年有馬さん誕生日創作です。
    「今日も天気がいいですね」
    「ああ」

    一さんと出会ってから訪れる二度目の夏。
    そして迎える二度目の一さんの誕生日。
    右手の薬指にはめられた指輪が窓から差し込む光を反射し、壁に小さな虹を描く。少し前に一さんに渡された指輪。秘かに、こっそりと、でも周りにはバレバレな様子で待っていたプロポーズの言葉とともに。
    来週、一さんと私は富山に行く。一さんのご実家に、結婚式を挙げるために。式の準備はほとんど終えており、あとは身一つで行くだけ。
    去年の今頃には想像すらしていなかった今の状況がくすぐったくなることもある。
    でも、これはきっと私たちがひとつずつ着実に絆を積み重ねてきた証なのだろう。そして、そこに至るまでたくさんの人たちの助力があったからこその関係。

    「去年よりも空が澄んでいる気がしますね」

    一さんは暑さなどものともせずコーヒーカップに口をつけ、飲み干す。それもホットのブラックコーヒーなところがなんだか一さんらしい。

    「ああ、そうだな。龍神に見守られているような安心感があるな」

    恵みの光をたたえる空。
    いつまでも眺めたくなるような蒼。
    穢されたくないと思わせるような透明感。
    去年の今 1095

    百合菜

    PAST遙か2・頼花
    「たとえこの手が穢れていても(後編)
    6.この手は血で穢れている~前編

    「頼忠さん、市に行きたいので、お供をお願いできますか」

    一通りの愛を交わしたあと、花梨が頼忠にそうお願いしたのは、先ほどのこと。
    頼忠はあっという間に身支度を整え、そして花梨に従い屋敷を出る。
    これだけ見ているとどちらがこの家に住むものなのかわからない

    「今日は、どちらにうかがいましょうか」

    和気あいあいというには、ちょっとかしこまっているのかもしれない。
    だけど、出会ったときよりは確実に縮まっているふたり。
    少し遠くから見れば、従者とともに出歩いている姿だが、近くで見れば逢瀬にしか見えない。そんな独特の空気を持つふたり。
    しかし、そんな仲睦まじいふたりの様子を氷のように研ぎ澄ました瞳で見つめるものがいた。微笑ましい、そんな空気を一蹴するかのような冷たい眼差しで。


    「花梨殿、私から離れないでいただけますか?」

    頼忠が花梨にそう話しかけてきたのは、必要なものはほぼ揃い、そろそろ帰ろうとしたときだった。

    「はい。でも、どうしたのですか? 急に」

    頼忠はそのことには答えない。
    もしかすると、自分が口を開くことで邪魔になるかもしれないので、花 6803

    百合菜

    PAST遙か2・頼花
    「たとえこの手が穢れていても(前編)」
    プロローグ

    「それ、花梨からの文か?」
    「ええ、河内で元気にしているようですわ、兄上」

    千歳の住む屋敷に勝真が訪れたのは秋も深まったある日のこと。
    貴族の女性らしく、めったに表情を崩さない千歳であるが、その日はほんのわずかではあるが口角が上がっているのが見てとれた。
    そして、手にしていたのは文であることから、差出人が花梨であると気づいたようである。

    「あいつら、いろいろあったけど、元気にやっているみたいだな」
    「そうですね」

    千歳の言葉を聞きながら勝真は簾のかかった室内から空を仰ぐ。
    空の色をはっきりと認識することはできないが、おそらく彼女の笑顔を思い出させる澄みきった青空が河内まで広がっているであろう。

    「もう二度と会うことは叶わないでしょうけど…… でも、会いたいわ、花梨」

    聞こえるか聞こえないか。そんな千歳の呟き。
    返事を待っているわけではないだろうが、勝真もつい答えてしまう。

    「そうだな、俺ももう一度会いたいぜ。あいつらに」

    そして、思い出す。
    花梨たちと京を守るために奮闘した日々と、そしてそのあとの花梨と頼忠を取り囲むちょっとした事件のことを。

    ーーーーーー 8597

    百合菜

    DONEアンジェリーク・ジュリリモ
    「ふたりで掴む未来」

    女王候補生のアンジェリークが日々訪れるのは首座の守護聖・ジュリアス様の執務室。
    次第に距離を縮めるふたりだが、ふたりには乗り越えるべき問題がいくつかあり……

    2020年ジュリアス様誕生日創作。

    ※再録です
    「アンジェリーク、今日もジュリアス様のところに行かれるの?」

    飛空都市にきて早くも五十日以上のときが流れていた。
    自室から守護聖たちのいる館に向かうべく歩いていたアンジェリークに話しかけてきたのは同じ女王候補のロザリア。

    「あんたも物好きよね。あのジュリアス様のところに毎日通うなんて」

    あきれ果てたように話すロザリアを見てアンジェリークは気がつく。
    女王試験がはじまった頃は苦手で、話しかけるのはこわいとすら感じていたジュリアス様。それがいつしか毎日会いにいき、ときには私的なことを話すようになった。そして、その時間が自分にとって女王試験の間の大切なひとときになっていることも。
    そんな自分に気がつきつつも、心の中でひとつの疑問が生じる。

    「ロザリアの方がジュリアス様とお似合いの感じがするのに……」

    いわゆる「普通の家庭」で生まれ育った自分とは違い、ロザリアは貴族のお嬢様。
    立ち振舞いも教養も逆立ちしても勝てっこない。だからこそ、ジュリアス様の隣に立ってふさわしいのは自分ではなくロザリアだと思っている。
    それは女王としても、私的な関係としても。
    しかし、ロザリアはジュリアスに関心が 6839

    百合菜

    DONEアンジェリーク・ジュリリモ
    「抑えていた想いは宇宙の危機を招き」

    ジュリアスのもとに入ってきた報告、それは「女王陛下が倒れた」というものだった。
    女王候補生時代、互いに好意を持っている自覚はあった。そして、お互い、宇宙を優先するがゆえ、その想いは殺した。
    しかし、それがあだとなり!?

    ※再録です


    「陛下の様子はどうだ」

    ドアを開けると同時に光の守護聖・ジュリアスはベッドの横にいるロザリアに尋ねる。

    「特に異常はありませんわ」
    「そうか」

    そう言いながらジュリアスはベッドに視線を向ける。
    ベッドには女王であるアンジェリークが瞼を閉じて眠りについている。
    ジュリアスがその知らせを受けたのは3日前のことであった。
    いつものように執務室でオスカーと打ち合わせをしていると、慌てた様子で使いのものがやってきた。

    「光の守護聖・ジュリアス様、大変です。陛下のご様子が!!」

    聞くところによると、執務の最中にアンジェリークは意識を失ったらしい。
    急遽、医者の診察を受けたが、特に異常は見当たらないとのこと。
    「もしかすると、何かを拒絶している可能性もないでしょうか」
    医者のその言葉が気になりつつも、特に大きく容態が変化することもなく、3日が過ぎていった。
    いつも見せる碧の瞳。
    それが瞼の下に隠されていることにジュリアスは心当たりがある。
    だからこそ、この状況が歯がゆい。

    「ロザリア、そなたも看病に疲れているであろう。ここは私が見ているから、少し休むといい」
    「よろしいのですか?」 7657