クロウ
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部16話スノーホワイト姫が恋に落ちたことは、たちまち女王の知るところとなった。女王はなんとかして姫と若者を引きはなそうとするが……。
(本文=3080文字/今回は豆知識はお休みです)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑯話「女王と鏡」 暗い部屋の中、鏡だけがぼんやりと光を放っていた。
その光は、鏡の前に立つ女王を妖しく照らし出していた。女王の美貌には一抹の陰りがあった。美しさそのものが衰えたのではない。深い哀しみと疲れが、忍び寄る宵闇のように陰を落としていたのだ。スノーホワイト姫の美がうららかに晴れた青空なら、女王の美は凄絶なまでに燃え上がる夕焼けのようだった。
女王は鏡に向かって問いかけた。
「鏡よ鏡、今日、姫はどうしていたのか?」
すると鏡面に光の波紋がゆらめき、その中心からある光景が浮かび上がってきた。
──井戸に向かって歌いかける姫。
──現れた貴公子。
3085その光は、鏡の前に立つ女王を妖しく照らし出していた。女王の美貌には一抹の陰りがあった。美しさそのものが衰えたのではない。深い哀しみと疲れが、忍び寄る宵闇のように陰を落としていたのだ。スノーホワイト姫の美がうららかに晴れた青空なら、女王の美は凄絶なまでに燃え上がる夕焼けのようだった。
女王は鏡に向かって問いかけた。
「鏡よ鏡、今日、姫はどうしていたのか?」
すると鏡面に光の波紋がゆらめき、その中心からある光景が浮かび上がってきた。
──井戸に向かって歌いかける姫。
──現れた貴公子。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部15話後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の15話です。
離宮へと「修行」に出されたスノーホワイト姫が心配なディアヴァルは、こっそり様子を見に行ってみました。すると姫は…。
(本文約2580文字/豆知識約960文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑮話「姫と願いの井戸」 ディアヴァルは姫が心配だった。生まれてからずっと愛され大切にされてそだってきた娘だ。突然厳しい世界に突き落とされてさぞ心細いだろう。彼は姫の様子を見に離宮へと飛んで行った。
辛い思いをしているのでは、と心配していたのだが、意外なことに姫は楽しげに仕事に精を出していた。石畳を磨くにも洗濯するにも、楽しげに歌を歌って清々と励む。
その姿には他心はなく、ただただ清らかでほがらかだった。しかも、姫が歌うと、いつだって小鳥やリスがあつまってくるのだ。あの小さなお茶会の、楽園のようだった日々を思い出す優しい世界がそこにはあった。
そして姫は、他の召し使いたちからも可愛がられやさしく扱われていた。
3557辛い思いをしているのでは、と心配していたのだが、意外なことに姫は楽しげに仕事に精を出していた。石畳を磨くにも洗濯するにも、楽しげに歌を歌って清々と励む。
その姿には他心はなく、ただただ清らかでほがらかだった。しかも、姫が歌うと、いつだって小鳥やリスがあつまってくるのだ。あの小さなお茶会の、楽園のようだった日々を思い出す優しい世界がそこにはあった。
そして姫は、他の召し使いたちからも可愛がられやさしく扱われていた。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部14話後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の14話です。
ついに女王は姫を下働きに貶めることにした。その背後にある想いは……。
(本文約1500文字/コラム「ハントマンは何者か?」約2000文字)
今回はコラムの方が長くなってしまいました😅
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑭話「女王の決意」 美しき女王グリムヒルデは、スノーホワイト姫を修行させるため離宮へと移した。離宮では姫の身分は隠し、ボロを着せ、召使いの仕事の中でも最も卑しい仕事……床掃除やゴミの始末、水くみなどをやらせることにした。
王城に置いたままでは、姫を召使いの身に落としたことがひと目でわかってしまう。それでは姫に同情するものも多く、良からぬ噂の元にもなるだろうという考えからだった。
公には「姫はお心がすぐれず、静養のために引きこもっている」ということになっていた。
離宮へ姫を連れて行ったのは、女王の腹心の部下ハントマン。彼は、ボロをまとった姫を伴い、ひっそりと宵闇にまぎれて城を出た。そして離宮に着くと、召使い頭に「新しい下働きを連れてきた。父無し子を女王陛下が哀れんで、職を与えよとのありがたいお申し出である」といって姫を送り込んだのだった。
3517王城に置いたままでは、姫を召使いの身に落としたことがひと目でわかってしまう。それでは姫に同情するものも多く、良からぬ噂の元にもなるだろうという考えからだった。
公には「姫はお心がすぐれず、静養のために引きこもっている」ということになっていた。
離宮へ姫を連れて行ったのは、女王の腹心の部下ハントマン。彼は、ボロをまとった姫を伴い、ひっそりと宵闇にまぎれて城を出た。そして離宮に着くと、召使い頭に「新しい下働きを連れてきた。父無し子を女王陛下が哀れんで、職を与えよとのありがたいお申し出である」といって姫を送り込んだのだった。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部13話後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の13話です。
あんなにも仲睦まじかった女王と姫の間に次第に亀裂が入り、それはついに女王をある決意へと駆り立てるのでした……。(本文約3140文字。今回は豆知識はお休みです)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑬話「無垢ゆえに……」 グリムヒルデが女王となってから数年が過ぎた。
その歳月は、ディアヴァルにとって幸福なものだった。女王はディアヴァルを「愛しい子」と呼んで可愛がり、どこへゆくにも連れて歩くようになった。彼女の美貌と調薬の腕前の噂は遠い国々にまで広まり、その彼女がカラスを連れ歩くと聞いた人々は「使い魔に違いあるまい」と噂して畏怖の念を深めるのだった。
もともとカラスは賢い生き物として知られており、民話にもその賢さを伝える物語が多くある。その一方でカラスは死体を漁る不吉で不浄な生き物とも見られており、何かと小賢しい悪戯をすることもあって厭われることも多かった。
3154その歳月は、ディアヴァルにとって幸福なものだった。女王はディアヴァルを「愛しい子」と呼んで可愛がり、どこへゆくにも連れて歩くようになった。彼女の美貌と調薬の腕前の噂は遠い国々にまで広まり、その彼女がカラスを連れ歩くと聞いた人々は「使い魔に違いあるまい」と噂して畏怖の念を深めるのだった。
もともとカラスは賢い生き物として知られており、民話にもその賢さを伝える物語が多くある。その一方でカラスは死体を漁る不吉で不浄な生き物とも見られており、何かと小賢しい悪戯をすることもあって厭われることも多かった。
comeco
DOODLEじゅうさぶ鳥が嫌いなじゅーとが可愛いフクロウと出会う話
※フクロウはさぶちゃんです。
ぜんぶ全部妄想です。
闇夜に出会うは森の賢者「お母さん、この鳥知ってる?」
「どれ?梟?」
「魔法使いの男の子と一緒にいるんだ。ペットなんだよ。」
「へー。梟は幸せを呼ぶのよ。あと賢さの象徴ね。」
「でも鳥だよね……」
「そうね。銃兎は鳥嫌いだもんね。」
「嫌いじゃなくて苦手なの!鳥なんて可愛いのかなあ。」
「そうね。お母さんも飼ったことないけど愛情があれば苦手でも可愛く見えるかもしれないわね。」
目が覚める。懐かしい夢。母が出てくる夢なんて何年振りだろう。子供の頃読んだ魔法使いの男の子は梟を飼っていた。本で見るイラストの梟は飛ばないし、鳴かないのでこれなら可愛いかもと思っていた。
「理鶯、交代しますよ。」
このところ野営地が騒がしく理鶯から睡眠を少し取りたいという申し出がありキャンプに来ている。食事をご馳走すると言われたが左馬刻は今忙しくしていて一緒に来られないと言われ生贄なしで理鶯の食事は摂取出来ないので仕事中に食事を済ませているからすぐに仮眠だけさせて欲しいと食事だけは丁重に断った。仮眠を取った後理鶯を休ませた。
2615「どれ?梟?」
「魔法使いの男の子と一緒にいるんだ。ペットなんだよ。」
「へー。梟は幸せを呼ぶのよ。あと賢さの象徴ね。」
「でも鳥だよね……」
「そうね。銃兎は鳥嫌いだもんね。」
「嫌いじゃなくて苦手なの!鳥なんて可愛いのかなあ。」
「そうね。お母さんも飼ったことないけど愛情があれば苦手でも可愛く見えるかもしれないわね。」
目が覚める。懐かしい夢。母が出てくる夢なんて何年振りだろう。子供の頃読んだ魔法使いの男の子は梟を飼っていた。本で見るイラストの梟は飛ばないし、鳴かないのでこれなら可愛いかもと思っていた。
「理鶯、交代しますよ。」
このところ野営地が騒がしく理鶯から睡眠を少し取りたいという申し出がありキャンプに来ている。食事をご馳走すると言われたが左馬刻は今忙しくしていて一緒に来られないと言われ生贄なしで理鶯の食事は摂取出来ないので仕事中に食事を済ませているからすぐに仮眠だけさせて欲しいと食事だけは丁重に断った。仮眠を取った後理鶯を休ませた。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部12話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第12話です。日々研鑽に励む王妃グリムヒルデが女王となる日がついにやって来ました。しかしグリムヒルデは意外なことに……。
(本文約3100文字/豆知識(サファイアについて)410文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑫話「喪服と戴冠」 王妃は公務と秘薬の研究に勤しみつつも、決して忘れないことがあった。
それは自らの「美」を磨く努力だった。
「私はね、世界一美しくなければいけないの。いつどこで誰に見られても、この美で魂すら掴めるようなカリスマにならなければ。我が君亡き今、民を従え諸国と渡り合うためには、私自身にカリスマ性が必要。秘薬で絡め取るのは補助に過ぎないのよ。勝負は第一印象で決まるの。だから絶対手を抜いては駄目」
そして彼女は、毎朝毎晩、あの魔法の鏡に尋ねるのだ。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」
と。すると鏡は必ず応える。
「王妃様、貴女さまが世界で一番美しい」
ディアヴァルには、王妃はそうやって鏡に尋ね、答えを得ることで自分を鼓舞しているように見えた。なんて強い女性なのだろう。夫を失い、突然国政を任されて辛い日々なのに、それを他人に見せることもなく一人で運命に立ち向かっている。その姿を見ているだけで、心の底から深い尊敬の念と狂おしいほどの愛おしさが湧き上がってくるのだった。
3573それは自らの「美」を磨く努力だった。
「私はね、世界一美しくなければいけないの。いつどこで誰に見られても、この美で魂すら掴めるようなカリスマにならなければ。我が君亡き今、民を従え諸国と渡り合うためには、私自身にカリスマ性が必要。秘薬で絡め取るのは補助に過ぎないのよ。勝負は第一印象で決まるの。だから絶対手を抜いては駄目」
そして彼女は、毎朝毎晩、あの魔法の鏡に尋ねるのだ。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」
と。すると鏡は必ず応える。
「王妃様、貴女さまが世界で一番美しい」
ディアヴァルには、王妃はそうやって鏡に尋ね、答えを得ることで自分を鼓舞しているように見えた。なんて強い女性なのだろう。夫を失い、突然国政を任されて辛い日々なのに、それを他人に見せることもなく一人で運命に立ち向かっている。その姿を見ているだけで、心の底から深い尊敬の念と狂おしいほどの愛おしさが湧き上がってくるのだった。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部11話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第11話です。
隣国の王を退けてからの王妃は、ディアヴァルを連れて毎日のように地下室へと降りてゆき、秘薬の研究をするようになります。ある日、王妃は子ども時代の思い出を語り始めました。それは哀しい物語だったのです…。
(本文約3000文字/豆知識(魔女の大釜について)約1160文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑪話「王妃、生い立ちを語る」 隣国の王が穏便に帰っていってからのこと。
ディアヴァルは今では城のあちこちに出入りして、時に姿を見せつけ、時にひっそりと物陰に隠れて聞き耳を立てて人々の噂を集めていた。それをグリムヒルデに伝えることは出来なくても、いつか役に立つこともあるかもしれない。それに何よりも、愛する人がどう評価されているのか気になってしまったのだ。
人々の噂は、はっきりと変化していた。
いまや王妃は、一日の多くを地下室で過ごすようになった。寂しがる姫には、おかあしゃまは大事なお仕事があるから、と言い聞かせて乳母に任せ、ディアヴァルを伴って地下へと降りてゆく。そこで秘薬の調合の研究に没頭するのだった。
そんな日が続くと、城の中には「王妃は魔女だ」という噂が再び囁かれるようになった。ただ、以前とは違って、その囁きは畏れこそ含んではいたが、悪意は含まれていなかった。
4185ディアヴァルは今では城のあちこちに出入りして、時に姿を見せつけ、時にひっそりと物陰に隠れて聞き耳を立てて人々の噂を集めていた。それをグリムヒルデに伝えることは出来なくても、いつか役に立つこともあるかもしれない。それに何よりも、愛する人がどう評価されているのか気になってしまったのだ。
人々の噂は、はっきりと変化していた。
いまや王妃は、一日の多くを地下室で過ごすようになった。寂しがる姫には、おかあしゃまは大事なお仕事があるから、と言い聞かせて乳母に任せ、ディアヴァルを伴って地下へと降りてゆく。そこで秘薬の調合の研究に没頭するのだった。
そんな日が続くと、城の中には「王妃は魔女だ」という噂が再び囁かれるようになった。ただ、以前とは違って、その囁きは畏れこそ含んではいたが、悪意は含まれていなかった。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部10話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第10話です。秘薬を調合した数日後、とうとう隣国の王が王妃の元を訪れます。ディアヴァルは気が気ではなく…。(本文=約4040文字/豆知識(ゴブレットについて)=約590文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部十話「王妃、隣国の王をもてなす」 ディアヴァルと王妃グリムヒルデが地下室で秘薬を調合した日から数日後。
麗々しい行列を仕立てた一行が入城した。隣国の王とそのお供、そして護衛の兵士たちだった。
派手な衣装をまとい飾り立てた幟を持った先触れの男がまず現れ、新たな王の到来を告げる。それを聞いた住民たちはみなそそくさと家の中に引きこもり、新たな王ってどういうことだ? と口々に言い合うのだった。我らが王は討たれて崩御した。それではあの男がこの国を我が物にしたというのか? いやいや、今から王を名乗るのはいくらなんでも早すぎるだろう…。人々の不安や憶測をよそに、隣国の王ご一行様は堂々と行進して、王妃の待つ城へと向かうのだった。
4770麗々しい行列を仕立てた一行が入城した。隣国の王とそのお供、そして護衛の兵士たちだった。
派手な衣装をまとい飾り立てた幟を持った先触れの男がまず現れ、新たな王の到来を告げる。それを聞いた住民たちはみなそそくさと家の中に引きこもり、新たな王ってどういうことだ? と口々に言い合うのだった。我らが王は討たれて崩御した。それではあの男がこの国を我が物にしたというのか? いやいや、今から王を名乗るのはいくらなんでも早すぎるだろう…。人々の不安や憶測をよそに、隣国の王ご一行様は堂々と行進して、王妃の待つ城へと向かうのだった。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部9話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第9話です。「クロウリー」の名を王妃から賜ったディアヴァルは、王妃から「お前の助けが必要なの」と言われ、地下の実験室へといざなわれます…。(本文=約1900文字/豆知識=約800文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部九話「地下室にて」 奇妙な地下室の中で、王妃グリムヒルデはディアヴァルを棚に置かれた髑髏の上にとまらせた。四方の壁は、天井まで届く棚に所狭しと置かれた大小の瓶詰めや干物になった動物の身体の一部や植物の欠片が仕舞い込まれている。空気には奇妙に金臭い匂いが混ざっていた。
王妃は部屋の真ん中に陣取った大釜の下に火を入れ、釜に張った液体を長柄の柄杓でかき混ぜながら様々な瓶を厳しい目でチェックし、少しづつ素材を足してゆく。新たな素材が液面に触れる度に、シュっと小さな音がして怪しげな色の煙が吹き上がる。
一通り素材を足すと、王妃は柄杓を回す手を止めて、ディアヴァルを見た。
「さて、クロウリーや、お前の力を分けておくれ。でも痛い思いはさせたくないわ。だからこれを飲んで頂戴」
2745王妃は部屋の真ん中に陣取った大釜の下に火を入れ、釜に張った液体を長柄の柄杓でかき混ぜながら様々な瓶を厳しい目でチェックし、少しづつ素材を足してゆく。新たな素材が液面に触れる度に、シュっと小さな音がして怪しげな色の煙が吹き上がる。
一通り素材を足すと、王妃は柄杓を回す手を止めて、ディアヴァルを見た。
「さて、クロウリーや、お前の力を分けておくれ。でも痛い思いはさせたくないわ。だからこれを飲んで頂戴」
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第8話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第8話です。
王妃と再会したディアヴァルは、ずっと側にいて欲しいと言われて幸福に酔いしれるのだった。そこへ誰かがドアを開けて入ってきた…。(本文約1630文字/豆知識は今回はお休みです。支部移植字に話数が減る予定なので今回はそれを見込んでの調整です)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚となっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
そんな心配が頭の中を駆け巡る。
だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
「おかあしゃま、あのね……」
そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
1634誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
そんな心配が頭の中を駆け巡る。
だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
「おかあしゃま、あのね……」
そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第7話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第7話です。王亡き後の王妃が心配で仕方ないディアヴァルは、一計を案じて姿を変え、王妃の元へと向かいます。(本文約2000文字/豆知識は約680文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部七話「王妃の元へ」 ディアヴァルは王妃グリムヒルデの居室まで飛んでくると、出窓の手すりにトン!と乗った。
いまの彼は、全身にまぶした小麦粉のおかげで灰色っぽい白い鳥に見えるはずだ。この姿ならきっと、王妃の部屋の窓辺にとまっているところを誰かに見られても、不吉だなどと陰口を叩かれることはないだろう。
運の良いことに窓は開いていた。ディアヴァルは手すりからバルコニーの床に飛び降りると、部屋の中を覗いてみた。すると、部屋の中には王妃が居て、壁にかかった大きな鏡に見入っていた。鏡は縦長の楕円形で、絡み合う蛇のレリーフの縁取りがある見事な作りだった。なめらかな鏡面には美しい王妃の姿が写っている。だが……。
「鏡よ鏡、憎っくき仇、隣国の国王は今何を企んでいるか?」
2719いまの彼は、全身にまぶした小麦粉のおかげで灰色っぽい白い鳥に見えるはずだ。この姿ならきっと、王妃の部屋の窓辺にとまっているところを誰かに見られても、不吉だなどと陰口を叩かれることはないだろう。
運の良いことに窓は開いていた。ディアヴァルは手すりからバルコニーの床に飛び降りると、部屋の中を覗いてみた。すると、部屋の中には王妃が居て、壁にかかった大きな鏡に見入っていた。鏡は縦長の楕円形で、絡み合う蛇のレリーフの縁取りがある見事な作りだった。なめらかな鏡面には美しい王妃の姿が写っている。だが……。
「鏡よ鏡、憎っくき仇、隣国の国王は今何を企んでいるか?」
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第6話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第6話です。戦に出陣した王の悲しい帰還。打ちひしがれる女王を慰めたいと思ったディアヴァルは…。
(本文約1800文字/豆知識700文字。今回はカラスの色についてです)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部六話「王の死」 ディアヴァルは毎日のように厨房のゴミ捨て場で残飯を漁っていた。ここは使用人たちの噂話にこっそり耳を傾けるにも、とても都合が良い場所なのだ。カラスはゴミを漁るものだ、と皆が思っているおかげで、投げやりに追い払われはしても追いかけられたりはしなかったし、誰もまさかカラスが自分たちの話に聞き耳を立てているなんて思いもしなかったからだ。
王が出陣してからしばらくの間、王城ではいつもと変わらぬ日常が続いているように見えた。しかし、ある日、恐れていた知らせがやってきた。
兵士達が王城に帰ってくるという噂が聞こえてきた。そしてどうやら王の身の上に良くないことがあったようだ。王が死んだ、などと言う声も聞こえてきた。
2674王が出陣してからしばらくの間、王城ではいつもと変わらぬ日常が続いているように見えた。しかし、ある日、恐れていた知らせがやってきた。
兵士達が王城に帰ってくるという噂が聞こえてきた。そしてどうやら王の身の上に良くないことがあったようだ。王が死んだ、などと言う声も聞こえてきた。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第5話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第5話です。今回は、楽しいお茶会に不穏な影が忍び寄ります…。(本文2220文字)
※今回の豆知識はカラスの贈り物について。(リンク込みで774文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部五話「王宮の噂」 ディアヴァルは、王宮の庭園に住むことにした。ねぐらは庭園のりんごの古木に構え、機会があれば王妃グリムヒルデの近くへ行き、聞き耳をすませ様子を観察していた。
彼女が庭園に現れる時はたいていは小さな姫を伴っており、ディアヴァルは姫のことも次第に親しく知るようになっていった。
姫も彼がお茶会にくると、必ずお菓子をくれるようになり、彼もそのお返しにちょっとした光り物を持っていって上げたりしたのだった。
だが、そんな交流が思わぬ陰を二人と一羽に落とすことになるなどとは、このとき幸せに浸っていたディアヴァルには知るすべもなかったのだ……。
それはある日突然やってきた。
庭園での小さなお茶会に、王が現れ、こう言ったのだ。
3039彼女が庭園に現れる時はたいていは小さな姫を伴っており、ディアヴァルは姫のことも次第に親しく知るようになっていった。
姫も彼がお茶会にくると、必ずお菓子をくれるようになり、彼もそのお返しにちょっとした光り物を持っていって上げたりしたのだった。
だが、そんな交流が思わぬ陰を二人と一羽に落とすことになるなどとは、このとき幸せに浸っていたディアヴァルには知るすべもなかったのだ……。
それはある日突然やってきた。
庭園での小さなお茶会に、王が現れ、こう言ったのだ。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第4話後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第4話です。
今回は王妃グリムヒルデと白雪姫の仲睦まじいティータイムにディアヴァルがお邪魔します。こんなにも仲睦まじい二人がなぜあんなことになってしまうのか、それは今後のお楽しみ…。(本文1940文字)
※今回の豆知識はWIRED誌から、鳥の「名付け」について。そう、鳥たちも「名前」を持っているのです……!
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部四話「小さなお茶会」 華やかな結婚式から数日後。王城の庭園で虫を漁っていたディアヴァルは、新王妃グリムヒルデと小さな女の子がやってくるのに気がついた。女の子は、結婚式でドレスの裳裾を持っていたあの子だ。参列者からは姫と言われていた。年の頃は6歳かそこらだろうか。どうも人間の子どもの年齢はわかりにくい。
グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋をめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
3128グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋をめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第3話後にクロウリーが学園長となるカラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第三話です。
今回は王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の結婚式のシーンです。
本文約1450文字+カラス豆知識約740文字のおまけ付き。今回の豆知識はカラスがお互いを確認する方法「コンタクトコール」についてです(資料リンクあり)。
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部三話「結婚式」 五月のよく晴れた朝、王城は晴ればれとした雰囲気に包まれていた。
城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
今日は、この国の王が新たな王妃を娶る、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
2210城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
今日は、この国の王が新たな王妃を娶る、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第2部第2話今回はディアヴァルとグリムヒルデの間が近づいたいきさつについて書きました。
ディアヴァルは第二部ではずっとカラスのままです。茨の魔女亡き今、魔法は使えず変身能力もない、グリムヒルデ(後の美しき女王)と会話もできない、ただ見守るしかできないカラスなのです。第二部の試みとして、徹底してディアヴァル視点で書いてみたいと思っています。(カラス小ネタあり。本文1644文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部二話「ディアヴァルとグリムヒルデ」 ディアヴァルは、王を名乗る男が立ち去った後もグリムヒルデの家の回りにとどまって彼女を観察し続けた。
麗しい彼女の姿はいくらみても見飽きなかったし、留まったからと行って何か不都合があるわけでもなかった。そして何よりも、彼女を見ているだけで胸に湧き上がる喜びを感じていたかったのだ。
彼は食べ物を探しに行く以外は彼女の家の庭にいて、彼女が出てきてくれないかな、と待ち続け、時々煙突にあがって中で声がしないか耳を澄ませてみたりもした。
そんなある日、グリムヒルデが庭に出てきて井戸の水を汲んでいた。
彼女はふと、手を止め井戸を覗き込むと、井戸端に咲いた花を一輪手に取ると、はらりと井戸の中に落とした。
2367麗しい彼女の姿はいくらみても見飽きなかったし、留まったからと行って何か不都合があるわけでもなかった。そして何よりも、彼女を見ているだけで胸に湧き上がる喜びを感じていたかったのだ。
彼は食べ物を探しに行く以外は彼女の家の庭にいて、彼女が出てきてくれないかな、と待ち続け、時々煙突にあがって中で声がしないか耳を澄ませてみたりもした。
そんなある日、グリムヒルデが庭に出てきて井戸の水を汲んでいた。
彼女はふと、手を止め井戸を覗き込むと、井戸端に咲いた花を一輪手に取ると、はらりと井戸の中に落とした。
銀鳩堂
PROGRESSヤンクロ第二部1.5話「出会い」後編構想が固まらず止まっていた二部ですが強引に再起動。試運転的に出会いシーンの続き、王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の出会いを書きました。
アニメ版「白雪姫」には無いシーンで「みんなが知らない白雪姫」の筋立てとも違っていますが書きやすい方向に進んでみます。最後にカラス(鳥類)の豆知識(異種族恋愛事情)付き。豆知識は恒例にしたいです☺(本文1327文字)
ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)
大鴉のディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚れていた。
なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
2445大鴉のディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚れていた。
なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
かんな
Valentineバレンタイン?のような何かロスフラ時空のベナウィとクロウ(とミト)
もっと書きたかったけど時間がなくて無理
謀は密なるを貴ぶ虹色の夕日が傾き、僅かに開けている窓から鋭く差すように私の背中に落ちている。
その燃えるような色を見ながら、私は今日何度かのため息をついた。
座した目の前の文机には何もない。しかし私は夕日に塗られた虚空をじっと見つめる。そこに答えはないと分かっているのに。
「はあ…………」
私はまた何度目かのため息をついた。
久しぶりの休日であったのだが今は特にやることもなく、早朝にウマの世話をした後自然と足が向き、詰所へ顔を出すと旗長に声をかけられた。
丁度よかった、休みの所悪いが使いを頼まれてほしいというので承諾し、指示が書かれた紙切れを渡される。
中身を読み確認していると、後ろから影が現れる。ふわりと明るい、しかし落ち着いた気配が私に声を落とした。
1929その燃えるような色を見ながら、私は今日何度かのため息をついた。
座した目の前の文机には何もない。しかし私は夕日に塗られた虚空をじっと見つめる。そこに答えはないと分かっているのに。
「はあ…………」
私はまた何度目かのため息をついた。
久しぶりの休日であったのだが今は特にやることもなく、早朝にウマの世話をした後自然と足が向き、詰所へ顔を出すと旗長に声をかけられた。
丁度よかった、休みの所悪いが使いを頼まれてほしいというので承諾し、指示が書かれた紙切れを渡される。
中身を読み確認していると、後ろから影が現れる。ふわりと明るい、しかし落ち着いた気配が私に声を落とした。