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    ジュナカル

    関東礼

    DOODLE既婚者アイドルのジュナカル
    二人が結婚してインディーズアイドルをしている話
    お腹の中の国 カルナの私空間はもちろん腹の中だ。ミント色の写真館の奥に、一階から二階までを全面ガラス窓にした円柱形のビルがある。ちょうど中央で仕切り半分が美容室、もう半分をアイドルの練習スタジオにして、地獄極楽小路をきりりと見据えていた。アルジュナとは結婚している。デビュー前から入籍していた。三つ年下の彼は夫とも妻ともつかない。妻と呼びたくなるほど顔立ちが子猫に似てかわいらしく、夫と呼びたくなるほど表情が凜々しい。総じて童顔で、小粒のチョコレートに似た可憐さがあった。時折鼻や唇に齧り付いている。唇の先で吸うアルジュナの味は、やや辛みのあるバターといったところで、滑らかな肌と、ほんのりとある産毛が、いつもカルナの空腹を慰めるのだった。彼は誰にかわいいと言われても当然と受け止める。十三歳の時、十六歳のカルナにつきまとって恋人にまでなれた理由が、アルジュナのかわいさだったからだ。当然でしょう。アルジュナはいつも「~でしょう」と話す。先生のように振る舞う姿が愛しい。誰にも敬われない立場だったとして、それでも彼はきっと先生の話し方をした。欠落も欠乏も感じなかったからだ。カルナに出会うまで。
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    関東礼

    PROGRESS10月発行予定の短編集に収録するサキュバスカルナさんのジュナカルの作業進捗です
    サンプルで出せるところまで
    万華鏡暮らしのかわいい悪魔 完璧な日没を済ました空が薄手のジャケットを着た肩へ懐かしそうに接し、幅の広い影を生んでいた。カルナにはさいしょ、それが誰かわからなかった。若い男だ。後ろ姿では年齢は曖昧になるが、膝から腿にかけての発条が入っているかのような力強さでおおよそ察した。凜々しさの種類も―三十歳を超えた青年には特有の迫力が宿る―まだ柔和で、癖のついた黒髪は僅かな明かりを吸って天使の輪を浮かべている。はっと思い出した。アルジュナだ。四つ年下の従弟がカルナの部屋の前に立っている。褐色の指がインターフォンのボタンを押した。その後しばらくじっと動かなかったから、もう一度ボタンに指を伸ばすと思ったけれど、彼は物言わずドアを見つめ、アパートの階段を廊下の向こう側からおり始めた。カルナがそっと後ろについていき、見下ろすと、アルジュナが一歩道へ踏み出した途端、雨が降り出した。九月生まれの、まだ十九歳の従弟は、六月の雨ののろまな銀糸を振り切って走り出した。会社から帰ってきたばかりのカルナの鞄の中には、バーバリーチェックの折り畳み傘が入っている。鍵をあけ帰る部屋の傘立てに、モスグリーンのラインのプリントされた物が一本。差し出せば良かった。思って、祈るようにカルナは躊躇った。昔、彼を襲ったことがある。しかし、彼は彼に会いに来た。ドアを開け内側から施錠する仕草に、アルジュナの見たかっただろう光景が重なった。カルナが顔を出すのを期待していた筈だ。その通り。本当はもうキッチンで夕食を作っている時間だった。五歳のアルジュナがカルナの髪みたいと言ったとうもろこしのひげを切り、皮を剥き小さな身を芯から外している筈だった。全部彼の顔を見ないままやる。うがいの合間に洗面台の鏡に視線をやれば、舌がじんと疼いた。ウォールナット材の枠に囲まれた真四角の反射面に、カルナの模様がひりひり光っている。薄い舌は生き物の肉にぴったりとはり付くよう細やかにひらつき、神経が通っている。そいつはアルジュナをとてもよく覚えている。白熱灯によって青みを帯びた黄色に変わった光が、カルナの口内に侵入し、粘膜をつやめかせた。模様は口を開きすぎた彼が発した溜息に従弟の名前に含まれるものと同じ音を見つけて痺れ、熱をもつ。そいつはアルジュナを愛している。いや、愛してなんかいない。
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    aman0itohaki

    CAN’T MAKE現パロ 一回破局したジュナカルがよりを戻すまで
    花屋を開くのが夢の☀️さんに資金提供を申し出た⚡️くんがフラれた数年後、花屋を開くとメールが届く話 あまあま
    クリスマスまでにもう一度 元恋人のカルナが念願の花屋を始めたというメールが届いた。今年の夏のことだ。
     彼は職を転々としながら(時には危ない仕事もしていたようだ)資金を貯め、ようやく貸店舗を借りることができたという。自分との別れ話もそれが原因だったから、内心憎々しくもあるが。アルジュナは未練たらたらなので、その連絡に飛び上がって食いついたのだ。彼がどういう気持ちでそれを送ったのか、想像もつかないまま。もしかしたら彼も自分に未練があるのかも、と残り香にたかるようにメールボックスを開けて、そう長くもない文を読み耽った。
     住所を見ると、案外近場にその貸店舗はあった。郊外の、大通りから一本逸れた寂れた路地だ。添付されていた写真を見る限り、そこは相当古い建物だった。彼が手入れをしてよく磨き上げても、経年劣化は誤魔化せない。一階の店舗部分は小綺麗になっているが、二階の居住スペースのみすぼらしさは傍目にも明らかだった。それに影の位置からして、北向きの家屋だ。壁に嵌った大きなガラス窓は美しいが、扉の白塗りのペンキは彼が塗り直したようで不自然に明るく、他のくすんだ色彩とミスマッチに見える。白くうつくしい彼の微笑みも、日陰に覆われて不釣り合いだ。
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