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    紅茶

    waremokou_2

    DOODLE最後の最後まで駆け込み乗車でした

    ネヤネが紅茶を一緒に飲む話。
    最終日ですありがとうございました。次回のわれ先生の連載にご期待ください。
     朝。いつもよりずっと早くに起きたのは子供だけではなかった。三毛縞が起きた頃、黒柳は休日であるにもかかわらず少し早く起きたようで、まだ眠たげな目で洗面所に立っていた。うとうとと彼方此方で船を漕ぎながら、隣に揃った三毛縞と共に歯を磨き始める。お互い朝の挨拶程度しか言葉はなかったが、それでも何を期待しているのか、待ち望んでいるかはわかっていた。それからしばらく、お互い寝ぼけた頭でぼうっとコーヒーを片手に待ち続ける事三十分。子供用の寝室から、わあっともはや悲鳴にも近い歓声が上がった時、目を見合わせた二人が示し合わせたように笑ったのは、子供の知らぬ話である。

     サンタへ出した手紙の希望は、結局それ以上のものとして叶えられていた。カルマには彼が希望した本と共に、新しい登山用のジャンバーとハットが。照也には希望に出した人形が二体に、候補の一つであった戦隊シリーズの武器を模したおもちゃが。手紙の返事には、日々の努力を認めその功績としてのプレゼントであるとの旨が記されていたらしく、まるで法廷に提出する書類さながらの堅苦しさの中に、思いやりと慈しみが見え隠れする手紙はたしかに黒柳らしかった。
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    DOODLE三毛縞が黒柳に紅茶を淹れる話。

    三毛縞が……?
    「三毛縞様!」
     投げかけられた使用人の声はもはや言葉というよりも悲鳴という方が近いだろう。三毛縞はただ、咄嗟に飛び出した自分の置かれた状況を判断するだけで精いっぱいだった。自らの手首に感じる鈍痛以上に、三毛縞を安心させたのは自分の上に倒れこんで腰を抜かす少女に、怪我がなかったということだった。
    「三毛縞様!」「大変、い、医者を呼ばないと……」
     パニックになる使用人たちも無理はなかった。三毛縞が咄嗟に飛び出したのは梯子から落ちる少女の下だ。落ちるとわかっている少女ならば、三毛縞は彼女を立ったまま抱きとめることができただろう。足を滑らせた彼女が思わず手を離した梯子から落ちていく瞬間、三毛縞はまるでスローモーションのようにさえ見えた。全身の筋肉が咄嗟に唸りを上げ、廊下を蹴って踏み出した一歩から全速力で駆け出し、腕を伸ばしとにかく、重力のまま彼女を床に叩き付けるわけにはいかないと脳よりも先に体が動いた。幸い、少女は滑り込んだ三毛縞に抱きかかえられるような形で受け止められ怪我はなかった。ただ周囲の動揺と悲鳴に漸く、自らの現状を理解し彼女は慌てて三毛縞から跳ね起きながらとうとう腰を抜かす羽目になる。
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    waremokou_2

    DOODLEねやね紅茶すべりこみ
    今日は探偵と助手
     二人はもう手足がバラバラになりそうな疲労をぐっと堪え最後の力を振り絞りアパートメントの階段を上がり、そして倒れこむように愛しきわが家へと転がり込んだ。今日の案件は黒柳の思考を大いに満足させるだけの謎もなく、かといって三毛縞が退屈するような平和な結末ではなかった。黒柳は指定された現場を一目しただけで犯人を言い当てた。氷笑の探偵とさえ称される黒柳の表情は現場にいた警官どもを震え上がらせるほど睨み付け、見下げ、まるで〝この無能な有象無象のために私がなぜこんな場所まで足労せねばならぬのだ〟とでも言いたげであった。が、しかし犯人が分かったところで今度はその犯人の居場所がわからない。すでに機嫌が最底辺まで落ち込んでしまった黒柳をなんとか説得すると、今度は犯人の男探しが始まった。黒柳は持ち前の推理力で男の行動を予測し、先回りしてとらえることに成功した。――いや、成功するはずだった。問題は、犯人の男が三毛縞顔負けの巨漢であり、格闘技をたしなむ武漢であったことだ。もう逃げられないと悟ったのか、男の反応は早かった。格闘技の知識があるためか、現場で最も戦闘経験のなさそうな黒柳に向かって一直線に、弾丸のようなタックルを食らわせんと猛進してきたのである。が、しかしその速さを上回る素早さで、三毛縞が男を食い止めた。両者もみ合い、骨がぶつかり合うような鈍音を響かせながらもつれ合う。男は再び黒柳に狙いを変えた――ように見せかけた。三毛縞が、黒柳の前に飛び出すと理解したからだ。黒柳が現場で零した稚拙で低能極まりない下劣でひねりもない犯罪、を犯した男にしてはまさに機転である。咄嗟に三毛縞は黒柳の前に飛び出そうとし――隙を見せたわき腹に重い一撃をズドンと食らった。
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    DOODLE三毛縞が黒柳に紅茶を淹れる話

    これで在庫がきれた
    ネヤネ 今日は朝から、照也と業が慌ただしく出かけていった。なんでも朝日奈家の姉妹に、遊びに誘われたらしい。妹・ねむは黒柳邸の子供二人といつも一緒で、いわゆる仲良しグループであり、彼女の姉・らむがそんな三人をまとめて面倒を見てくれると言う。最近公開された話題のアニメ映画を見にいくらしく、暫く迷った挙句に黒柳は、用意した金を姉のらむに渡すよう三毛縞に伝えた。
    「悪いねえ、二人も面倒見させちまって……」
    「いえいえ、私も賑やかだと楽しいですし。それにねむが喜びますから」
     彼女はおっとりとした物事柔らかな性格ながら、やんちゃ盛りの照也と、マイペースな業を二人まとめて相手にしてしまう豪胆な一面もある女性だった。黒柳から受け取った金を彼女に渡しながら、よかったら四人で使って、と伝える。はじめは彼女も遠慮していたが、話し合いの末今ではニコリと笑って受け取ってくれるようになった。黒柳邸の人間としてはそも妹のねむともども預かれるようなことも少なく、返せる礼といえば専ら金程度しかない。とはいえ、三毛縞がこの家に来てからは時折三毛縞も交えて出かけることもあったが。
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