sabasavasabasav
DONEクレオの武器と本編よりも若い坊ちゃんとの会話。いろいろ捏造注意。 ▽
砥石の音が部屋に響く。一抹の椿油を垂らす。
研ぎ澄まされた刃が机に並べられ、ランタンの明かりで煌めいている。
静寂に包まれた闇夜に一人、部屋の中でナイフの手入れをするのがクレオの日課となっていた。
皇帝の位を簒奪したゲイル・ルーグナーによる継承戦争が終わりを迎えてからというもの、クレオはテオ・マクドール直々の命により戦線を退き、マクドール邸に身を置いている。どこよりも安全であったはずの帝都で発生した五将軍嫡男の誘拐は、戦争の影に隠れ大事にはならなかったが、黄金の都と称されたグレッグミンスターの名に傷を付けるには十分な出来事でもあった。
二度と同じことを起こさぬよう、せめて息子が成人するまで家を守ってはくれないかと乞われ、尊敬する将軍の願いならと、クレオはそれを了承した。
2951砥石の音が部屋に響く。一抹の椿油を垂らす。
研ぎ澄まされた刃が机に並べられ、ランタンの明かりで煌めいている。
静寂に包まれた闇夜に一人、部屋の中でナイフの手入れをするのがクレオの日課となっていた。
皇帝の位を簒奪したゲイル・ルーグナーによる継承戦争が終わりを迎えてからというもの、クレオはテオ・マクドール直々の命により戦線を退き、マクドール邸に身を置いている。どこよりも安全であったはずの帝都で発生した五将軍嫡男の誘拐は、戦争の影に隠れ大事にはならなかったが、黄金の都と称されたグレッグミンスターの名に傷を付けるには十分な出来事でもあった。
二度と同じことを起こさぬよう、せめて息子が成人するまで家を守ってはくれないかと乞われ、尊敬する将軍の願いならと、クレオはそれを了承した。
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DONE「乾杯」+1hでした。スカーレティシア城陥落後の坊ちゃんとビクトール、フリックの会話。
▽
宴会を開こうと言い出したのは、ビクトールだった。
スカーレティシア城が陥落してから十日と経っていない日のことだった。
母親代わりであった従者の弔い合戦は、無意識のうちに解放軍の士気を上げ、その勢いのままに花将軍と名高い五将軍の一人、ミルイヒ・オッペンハイマーを討ち取ることに成功した。喜ぶ暇も、悲しむ隙もないままに、事実が帝国の耳に届くよりも前に湖城へと帰りついた。現在は次に来るだろう戦に向けて日々話し合いを重ねている。
そんなときに放り込まれた場違いな言葉に、半ば憔悴しきっていた解放軍の面々からどよめきが起きるのも無理はないことだった。
「こんなときにふざけたこと言ってる場合か?」
3468宴会を開こうと言い出したのは、ビクトールだった。
スカーレティシア城が陥落してから十日と経っていない日のことだった。
母親代わりであった従者の弔い合戦は、無意識のうちに解放軍の士気を上げ、その勢いのままに花将軍と名高い五将軍の一人、ミルイヒ・オッペンハイマーを討ち取ることに成功した。喜ぶ暇も、悲しむ隙もないままに、事実が帝国の耳に届くよりも前に湖城へと帰りついた。現在は次に来るだろう戦に向けて日々話し合いを重ねている。
そんなときに放り込まれた場違いな言葉に、半ば憔悴しきっていた解放軍の面々からどよめきが起きるのも無理はないことだった。
「こんなときにふざけたこと言ってる場合か?」
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PAST幻水1、坊ちゃんとビクトール+αの嘘まみれの会話。多分ワンドロ?の話かもしれない。
▽
赤月帝国と解放軍の違いは、圧倒的な兵力にある。
長年、軍事大国として名を馳せてきた赤月帝国はその肩書きに見合った力が備わっている。反乱勢力が僅かに力をつけた途端、国中に兵士を配備した。
それは末端であり解放軍の存続が脅かされる程の手練れはいないが、監視するように配置され呆気なく散っていく兵士達に、解放軍の面々は戦力ではない、目に見えないものがじわりじわりと削られていくような心地がしていた。
兵士が腰元にある鞘へと手をかけるよりも早く、ティアは相手の懐へと近寄ると手加減をせずに長棍を腹部へと叩き込んだ。
地面を転がる体を思わず抱えようと屈んだ兵士達を、ティアの真横を通り過ぎた風の刃が容赦なく切り刻んだ。その様子に特段反応もせず、杖を下ろしたルックが気だるげに髪をかき上げている。
2767赤月帝国と解放軍の違いは、圧倒的な兵力にある。
長年、軍事大国として名を馳せてきた赤月帝国はその肩書きに見合った力が備わっている。反乱勢力が僅かに力をつけた途端、国中に兵士を配備した。
それは末端であり解放軍の存続が脅かされる程の手練れはいないが、監視するように配置され呆気なく散っていく兵士達に、解放軍の面々は戦力ではない、目に見えないものがじわりじわりと削られていくような心地がしていた。
兵士が腰元にある鞘へと手をかけるよりも早く、ティアは相手の懐へと近寄ると手加減をせずに長棍を腹部へと叩き込んだ。
地面を転がる体を思わず抱えようと屈んだ兵士達を、ティアの真横を通り過ぎた風の刃が容赦なく切り刻んだ。その様子に特段反応もせず、杖を下ろしたルックが気だるげに髪をかき上げている。
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DONE幻水総選挙お題小説。クレオで「ひょっとして」
坊ちゃん:ティア・マクドール
▽
国の名を変えるほどの戦争が終わりを迎えてから、季節が一巡した頃。
久しく訪れていなかった、街を見守るように鎮座しているグレッグミンスター城の、見た目通り厳かな雰囲気を纏っている謁見の間に、地を這う声が響く。
「──今、何と言った?」
耳に入った言葉の意味を理解するより前に声を出していたクレオは、側近が静止しようとした手を振り払うと、その声の主であるトラン共和国大統領・レパントを見詰めた。
「生半可な覚悟でその言葉を口にしているなら、マクドール家に対する侮辱と受け取るぞ。レパント大統領」
「考えも無しにこんな大それたことなど言えるはずもありません。マクドール邸をトラン共和国の管理下に置かせてほしい。私が六将軍に相談した上で依頼すると決めたのです」
3069国の名を変えるほどの戦争が終わりを迎えてから、季節が一巡した頃。
久しく訪れていなかった、街を見守るように鎮座しているグレッグミンスター城の、見た目通り厳かな雰囲気を纏っている謁見の間に、地を這う声が響く。
「──今、何と言った?」
耳に入った言葉の意味を理解するより前に声を出していたクレオは、側近が静止しようとした手を振り払うと、その声の主であるトラン共和国大統領・レパントを見詰めた。
「生半可な覚悟でその言葉を口にしているなら、マクドール家に対する侮辱と受け取るぞ。レパント大統領」
「考えも無しにこんな大それたことなど言えるはずもありません。マクドール邸をトラン共和国の管理下に置かせてほしい。私が六将軍に相談した上で依頼すると決めたのです」
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DONEテッドの日おめでとうございます。滑り込みセウトですが書ききることに意味がある…………親友なりかけの二人。
▽
「からかいに来たのかい」
てっきり寝込んでいると思っていたティアは開口一番、可愛げの無いことを言った。
顔の下半分まで布団に潜り込んでおり、その視線は扉の前に立つ己に向けてじとりと向けられている。
「そんなつもりはないけどさ……まさかここまでお坊ちゃんだとは思わなかったんだよ」
「……グレミオは?」
「お喋り相手なら良いですよ、だってさ」
「ふうん……」
「折角ここまで来たんだし、お前が寝るまでは傍にいるよ」
「いやだと言ったら?」
「帰る」
「だろうなあ」
即答したテッドに、ティアは先程までの声色を抑えて笑った。
ただでさえ病人がいる場というのは苦手だというのに、好き好んで滞在なんてしたいと思わない。帰ってくれと言われたら、大手を振ってこの屋敷を飛び出していける。
4559「からかいに来たのかい」
てっきり寝込んでいると思っていたティアは開口一番、可愛げの無いことを言った。
顔の下半分まで布団に潜り込んでおり、その視線は扉の前に立つ己に向けてじとりと向けられている。
「そんなつもりはないけどさ……まさかここまでお坊ちゃんだとは思わなかったんだよ」
「……グレミオは?」
「お喋り相手なら良いですよ、だってさ」
「ふうん……」
「折角ここまで来たんだし、お前が寝るまでは傍にいるよ」
「いやだと言ったら?」
「帰る」
「だろうなあ」
即答したテッドに、ティアは先程までの声色を抑えて笑った。
ただでさえ病人がいる場というのは苦手だというのに、好き好んで滞在なんてしたいと思わない。帰ってくれと言われたら、大手を振ってこの屋敷を飛び出していける。
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DONE坊ちゃんとマッシュ。釣りをする二人。テオ戦後。 ▽
解放軍本拠地は湖の中心にそびえ立っている古城だ。岩壁をくり抜いて作られたらしい風貌は人が地盤から組んだ建築物とは異なり、どこか冷たい印象を抱かせる。実際、季節が冬へと移り変われば火を絶やせないほどに極寒の地に変貌する。何せ巨竜の屍が腐らずに鎮座している位だ──というのは解放軍に属するものしか知りようもないが。
そんな寒々しくも感じられる湖城を背後に、水面をじっと見詰めている己の姿は異様な姿に映ることだろうが、幸い、周囲に人影はいない。
もしかすると、護衛を兼ねている忍の誰かしらかが、人払いをしたのかも知れなかった。
「ティア殿」
会議を終え、部屋を出ようとしていたティアに声をかけてきたのは、傍にいることが多い解放軍の軍師だった。
4882解放軍本拠地は湖の中心にそびえ立っている古城だ。岩壁をくり抜いて作られたらしい風貌は人が地盤から組んだ建築物とは異なり、どこか冷たい印象を抱かせる。実際、季節が冬へと移り変われば火を絶やせないほどに極寒の地に変貌する。何せ巨竜の屍が腐らずに鎮座している位だ──というのは解放軍に属するものしか知りようもないが。
そんな寒々しくも感じられる湖城を背後に、水面をじっと見詰めている己の姿は異様な姿に映ることだろうが、幸い、周囲に人影はいない。
もしかすると、護衛を兼ねている忍の誰かしらかが、人払いをしたのかも知れなかった。
「ティア殿」
会議を終え、部屋を出ようとしていたティアに声をかけてきたのは、傍にいることが多い解放軍の軍師だった。
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PAST坊ちゃんとマッシュ。テオ戦辺りと回想。仄暗い。 ▽
テオ・マクドールの鉄甲騎馬隊は、帝国でも屈指の負け知らずの隊であった。統率が難しいとされるガルホースを利用することで俊敏さと火力を兼ね揃え、耐久力があり打たれ強い。その上特注の鎧で覆われ生半可な武器では傷一つ与えられないときた。
トラン湖の本拠地へと進軍してきた際の時間稼ぎのため一度刃を交えた。小手調べだと誰しもが思っていたというのに、まさか解放軍にとって深手を負うことになるとは予想だにしなかった。文字通り、鉄甲騎馬隊に手も足も出なかったのである。
本隊で敵部隊の陣形を容易く乱し、その解れた箇所へと鉄甲騎馬隊を送り込み、そのまま蹂躙する。完成された形であるテオの軍隊にはマッシュも敬意を表する程であった。
2912テオ・マクドールの鉄甲騎馬隊は、帝国でも屈指の負け知らずの隊であった。統率が難しいとされるガルホースを利用することで俊敏さと火力を兼ね揃え、耐久力があり打たれ強い。その上特注の鎧で覆われ生半可な武器では傷一つ与えられないときた。
トラン湖の本拠地へと進軍してきた際の時間稼ぎのため一度刃を交えた。小手調べだと誰しもが思っていたというのに、まさか解放軍にとって深手を負うことになるとは予想だにしなかった。文字通り、鉄甲騎馬隊に手も足も出なかったのである。
本隊で敵部隊の陣形を容易く乱し、その解れた箇所へと鉄甲騎馬隊を送り込み、そのまま蹂躙する。完成された形であるテオの軍隊にはマッシュも敬意を表する程であった。
_mahiron_
DONE恋する動詞111題ビクグレ書いてみようのやつ
20、思い出す
付き合ってるビクグレ
ちょっと弱ってるビクトールと、甘やかすグレミオ
配布元・確かに恋だった
http://have-a.chew.jp/ 4
sabasavasabasav
PAST腐れ縁(notCP)がグレッグミンスターの城を抜け出すときの話。いいねをくれたフォロワさんに小噺書きます、という企画の名残。フリックお好きな方だったのでこういう話が好きかも、と思いながら書いた。
▽
遠くで、何かが倒れる音が聞こえた。硝子が弾け飛ぶような音だ。
次いで、周囲の空気が熱くなっていくのを感じる。肩で息をしていたフリックの喉を通る異様な空気。
帝国軍にも解放軍にも、城に火を放つメリットはない。開放的ではない城内という空間で派手に戦闘を繰り広げた結果、照明が落ち絨毯かカーテンに燭台の火が移ってしまったのだろう。
長くこの場にいては危険だと、本能が警鐘を鳴らしている。移動したいのは山々だが、既にフリックの体は己では自由に制御できない状態となっていた。
肉を抉る飛び道具。焼け焦げた臭いに混じる、鉄の香。意識しないように努めてはいたものの、それは確実に、フリックの体力を蝕んでいた。
2613遠くで、何かが倒れる音が聞こえた。硝子が弾け飛ぶような音だ。
次いで、周囲の空気が熱くなっていくのを感じる。肩で息をしていたフリックの喉を通る異様な空気。
帝国軍にも解放軍にも、城に火を放つメリットはない。開放的ではない城内という空間で派手に戦闘を繰り広げた結果、照明が落ち絨毯かカーテンに燭台の火が移ってしまったのだろう。
長くこの場にいては危険だと、本能が警鐘を鳴らしている。移動したいのは山々だが、既にフリックの体は己では自由に制御できない状態となっていた。
肉を抉る飛び道具。焼け焦げた臭いに混じる、鉄の香。意識しないように努めてはいたものの、それは確実に、フリックの体力を蝕んでいた。
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DONEテッドの日おめでとうございます。坊ちゃんとのとある日。紋章に囚われているテッド。
▽
「テッド、狩りに行くんだろう? 僕も連れて行ってくれないか」
「えっ? お前を?」
突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことではなかったが、まさかそう言われるとは思わず、テッドはティアを指差し怪訝な表情を浮かべた。
「手助けはできないだろうけど、テッドが狩りをするところが見てみたいんだ。それに、狩りをするなら街の外に出るだろう? 僕、大きくなってからはまだ、この街から出たことないから……外を見てみたい」
ああ、成る程。
街の外に出てみたいという興味なら、ティアの提案にも合点がいく。
心身ともに鍛え上げられながらも、綺麗に整備された街から出してもらえない五将軍の嫡男は、遠出がしてみたいと何度かグレミオに言っていたことがある。
4207「テッド、狩りに行くんだろう? 僕も連れて行ってくれないか」
「えっ? お前を?」
突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことではなかったが、まさかそう言われるとは思わず、テッドはティアを指差し怪訝な表情を浮かべた。
「手助けはできないだろうけど、テッドが狩りをするところが見てみたいんだ。それに、狩りをするなら街の外に出るだろう? 僕、大きくなってからはまだ、この街から出たことないから……外を見てみたい」
ああ、成る程。
街の外に出てみたいという興味なら、ティアの提案にも合点がいく。
心身ともに鍛え上げられながらも、綺麗に整備された街から出してもらえない五将軍の嫡男は、遠出がしてみたいと何度かグレミオに言っていたことがある。
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DOODLE坊+1ちきちも。CP無し。エアスケブリクエスト品。 ▽
誇り高き赤月帝国の五将軍に名を連ねるテオ・マクドールは、その肩書きに霞むことない実力を有していた。軍を率いればまるで己の手足のように誘導し、戦況を一変させる。敵と対峙すれば腰に差した剣一つで敵兵隊を言葉の通り切り開き、懺悔も聞かぬままねじ伏せていく。味方で良かったと心底感じるほどの軍人であったが、決して狂人ではなかった。常に冷静な思考を巡らせており、周囲には窺い知れぬこと先々のことまで考えている様子であった。
それでも、主の言動や行動を疑うなど、一抹すらも出でたことがない。彼の一挙一動は常に考えがあってのことだったからだ。帝国の端々で反乱分子が湧いていると聞いたときでさえ、どうしてそのようなことができるのかと、行動理由に対し疑問しか湧かなかったほどだった。
2962誇り高き赤月帝国の五将軍に名を連ねるテオ・マクドールは、その肩書きに霞むことない実力を有していた。軍を率いればまるで己の手足のように誘導し、戦況を一変させる。敵と対峙すれば腰に差した剣一つで敵兵隊を言葉の通り切り開き、懺悔も聞かぬままねじ伏せていく。味方で良かったと心底感じるほどの軍人であったが、決して狂人ではなかった。常に冷静な思考を巡らせており、周囲には窺い知れぬこと先々のことまで考えている様子であった。
それでも、主の言動や行動を疑うなど、一抹すらも出でたことがない。彼の一挙一動は常に考えがあってのことだったからだ。帝国の端々で反乱分子が湧いていると聞いたときでさえ、どうしてそのようなことができるのかと、行動理由に対し疑問しか湧かなかったほどだった。
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DOODLE幻水2王様ED後の坊ちゃんとルック。真の紋章を宿した副産物とも呼べる不老の話。 ▽
“約束の地”へと向かったリアンが戻ってきたのは、一ヶ月ほど前のことだった。
軍主を責務から解放したものとばかり思っていた宿星達は、彼の右手の甲に煌めく、以前にはない雰囲気を醸し出している真の紋章を見、それを持つ意味を察した。
最愛の姉を喪った、これ以上の地獄を味わおうと言うのか。それとも、進む道が地獄へと続いていることに気付いていないのか。その質問すら、既に問いかける価値すらない。引き返せない道を進んでしまった相手に声をかけられるほど、ルックは感情を捨てきれなかった。
守りたかったはずの親友を手にかけ、リアンは絶対的な能力と不老の体を手に入れた。その事実はルックの中にもう一つ、癒えぬ傷をつけた。
2827“約束の地”へと向かったリアンが戻ってきたのは、一ヶ月ほど前のことだった。
軍主を責務から解放したものとばかり思っていた宿星達は、彼の右手の甲に煌めく、以前にはない雰囲気を醸し出している真の紋章を見、それを持つ意味を察した。
最愛の姉を喪った、これ以上の地獄を味わおうと言うのか。それとも、進む道が地獄へと続いていることに気付いていないのか。その質問すら、既に問いかける価値すらない。引き返せない道を進んでしまった相手に声をかけられるほど、ルックは感情を捨てきれなかった。
守りたかったはずの親友を手にかけ、リアンは絶対的な能力と不老の体を手に入れた。その事実はルックの中にもう一つ、癒えぬ傷をつけた。
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DOODLE幻水総選挙応援のために書いたもの。坊ちゃん無双。 ▽
ぱち、と火花が散る。
時折、火が弱くならないよう拾った枝を焼べながら、ティアはゆらゆらと揺れる焚火を見ていた。
炎は不思議なものだ。生き物から全てを奪う存在でありながら、こうして暖め癒やしてもくれる。
様々なことが脳裏を過るこの時間が、辛く、愛おしいものになってからどれくらいの年月が経っただろうか。どうにも時間の感覚が鈍くなってしまうのは、真の紋章を宿す弊害の一種なのかもしれない。次、誰かに出会ったら尋ねてみようかと思い立つ。
ティアは乱雑に数本の枝を投げ入れると、両腕を上げ大きく伸びをした。
瞬間、風が通り過ぎる木々のざわめきと、枝が折れる音。
2821ぱち、と火花が散る。
時折、火が弱くならないよう拾った枝を焼べながら、ティアはゆらゆらと揺れる焚火を見ていた。
炎は不思議なものだ。生き物から全てを奪う存在でありながら、こうして暖め癒やしてもくれる。
様々なことが脳裏を過るこの時間が、辛く、愛おしいものになってからどれくらいの年月が経っただろうか。どうにも時間の感覚が鈍くなってしまうのは、真の紋章を宿す弊害の一種なのかもしれない。次、誰かに出会ったら尋ねてみようかと思い立つ。
ティアは乱雑に数本の枝を投げ入れると、両腕を上げ大きく伸びをした。
瞬間、風が通り過ぎる木々のざわめきと、枝が折れる音。
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DOODLE幻水1の1年くらい前のマクドール家+テッドの話 ▽
「──いい加減にしろ、グレミオ!」
朝食後の一服とばかりにコーヒーを飲んでいた家人達は、異様な雰囲気に思わず目を見合わせた。
この屋敷は主の威厳と似付かわしく、常に整然とした空気を纏っている。家主が不在であっても、その嫡男であるティアもまた利口な子供で、たとえ我が家であっても一定の節度は保つように努めている。時折、団欒しては話に花を咲かせることはあれども、こんな早朝から、ティアの声が屋敷中に響き渡ることなど到底あることではなかった。
軽く頷いた後、クレオとパーンは揃って立ち上がると、そのまま階段を登った。
「テッドと狩りに行くだけだと言ってるだろ!」
2954「──いい加減にしろ、グレミオ!」
朝食後の一服とばかりにコーヒーを飲んでいた家人達は、異様な雰囲気に思わず目を見合わせた。
この屋敷は主の威厳と似付かわしく、常に整然とした空気を纏っている。家主が不在であっても、その嫡男であるティアもまた利口な子供で、たとえ我が家であっても一定の節度は保つように努めている。時折、団欒しては話に花を咲かせることはあれども、こんな早朝から、ティアの声が屋敷中に響き渡ることなど到底あることではなかった。
軽く頷いた後、クレオとパーンは揃って立ち上がると、そのまま階段を登った。
「テッドと狩りに行くだけだと言ってるだろ!」
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DOODLEカイ師匠と坊ちゃん幻水2後、再び旅に出る前の小咄
▽
闇の中に、絵の具を一滴垂らしたようにひとつの黄金が輝く夜であった。
既に眠りに落ちているだろう兵士達を起こさぬように足音を消し、己を闇に潜ませながら、カイはトランの城を歩んでいた。眼下に望む城の入口には煌々と光が灯っている。
久々に着込んだ胴着ではない正装に、年のせいか前屈みになることが増えた背筋がシャンと伸びる心地がする。緊張感はない。己の身に沸き立つのは、ただ高揚した心だけだった。肩に担ぐ手に馴染んだ棍が酷く軽く感じるほどに。
トラン共和国の武術指南役となってからの日々は、カイにとって何不自由なく過ごすことができる穏やかなものだった。
英雄を輩出したこともあってか、トランの兵士達は誰も彼も、向上心をもってカイの精神と業を教え乞うていた。不真面目な者は皆無な上、良い太刀筋のものも少なくはない。
3346闇の中に、絵の具を一滴垂らしたようにひとつの黄金が輝く夜であった。
既に眠りに落ちているだろう兵士達を起こさぬように足音を消し、己を闇に潜ませながら、カイはトランの城を歩んでいた。眼下に望む城の入口には煌々と光が灯っている。
久々に着込んだ胴着ではない正装に、年のせいか前屈みになることが増えた背筋がシャンと伸びる心地がする。緊張感はない。己の身に沸き立つのは、ただ高揚した心だけだった。肩に担ぐ手に馴染んだ棍が酷く軽く感じるほどに。
トラン共和国の武術指南役となってからの日々は、カイにとって何不自由なく過ごすことができる穏やかなものだった。
英雄を輩出したこともあってか、トランの兵士達は誰も彼も、向上心をもってカイの精神と業を教え乞うていた。不真面目な者は皆無な上、良い太刀筋のものも少なくはない。
sabasavasabasav
DOODLE幻水ごはんウィークで書いたギャグ。シーナから見たトチ狂った解放軍の軍主様。
▽
──皆に話がある。
ティアがそう言い出したのは、モンスターと連戦した直後のことだった。
重要な局面でもないのに、軍主が真面目な顔をしてこういった提案をしてくるときは大抵碌なことにならないのだと、シーナは既に知っている。
「ワイバーンを食べてみないか?」
ほら来た。それも、特大の爆弾だ。
シーナは大きくため息をついてみせた。
ワイバーンというと鱗が付いた外皮、トカゲに大きな翼がついたようなモンスターだ。竜種のようにも見えなくもないが、フッチ曰く竜と比べるのも痴がましい、だそうだ。
竜かどうかはともかく、食べようとは思わない造形をしているのは確かだ。何せ、とにかくデカい。角だの爪だのゴツゴツしていて、見た目での印象は筋肉質で固そうだ。
3889──皆に話がある。
ティアがそう言い出したのは、モンスターと連戦した直後のことだった。
重要な局面でもないのに、軍主が真面目な顔をしてこういった提案をしてくるときは大抵碌なことにならないのだと、シーナは既に知っている。
「ワイバーンを食べてみないか?」
ほら来た。それも、特大の爆弾だ。
シーナは大きくため息をついてみせた。
ワイバーンというと鱗が付いた外皮、トカゲに大きな翼がついたようなモンスターだ。竜種のようにも見えなくもないが、フッチ曰く竜と比べるのも痴がましい、だそうだ。
竜かどうかはともかく、食べようとは思わない造形をしているのは確かだ。何せ、とにかくデカい。角だの爪だのゴツゴツしていて、見た目での印象は筋肉質で固そうだ。
sabasavasabasav
DOODLE坊ちゃん(NED)+キャロ組、幻水2GED後幻水ごはんウィークで書いた短文。
▽
遠い記憶とともに仕舞い込んでいたノートのページを捲った。
料理の基本は食材の入手から始まる。事前に市場で注文しておいた紙袋を家の前で受け取ったのはつい先程のことだ。普段は個人宅へ配達なんてしていないだろうに、こうして商品を纏めて届けてくれた。
己には似付かわしくない家の名を、たまに利用するくらい罰は当たらないだろう。
国が安定した今、適切な形で食料が行き渡るようになった。こうして、いとも簡単に鮮度のいい食材を手に入れることができるようになったのは喜ばしい。国の復興から発展へと、目まぐるしく変化するトラン共和国を胃袋で感じるというのは何とも不思議な感覚だった。
2317遠い記憶とともに仕舞い込んでいたノートのページを捲った。
料理の基本は食材の入手から始まる。事前に市場で注文しておいた紙袋を家の前で受け取ったのはつい先程のことだ。普段は個人宅へ配達なんてしていないだろうに、こうして商品を纏めて届けてくれた。
己には似付かわしくない家の名を、たまに利用するくらい罰は当たらないだろう。
国が安定した今、適切な形で食料が行き渡るようになった。こうして、いとも簡単に鮮度のいい食材を手に入れることができるようになったのは喜ばしい。国の復興から発展へと、目まぐるしく変化するトラン共和国を胃袋で感じるというのは何とも不思議な感覚だった。