あなたのそばに 銅田産業の専務室にて夕刻、クロムはマネージャーを交えて専務と顔を合わせていた。
先日のバトルの勝利への労いと、来週のエキシビションマッチについての打ち合わせだ。と言っても実際は専務が上機嫌でクロムを持ち上げるだけで、生産性のある会話は無いに等しかった。専務の戯画谷はビジネスとしてペンドラゴンを支援するのみであり、ベイブレードの発展やブレーダーの生活に関しては毛ほども気に掛けていない。クロムもまた調子のいい男の胸中を知り抜いていて、打ち解けているようでいて内心早く終われと思っていた。
「来週もこの調子で頼むよ、クロム君!」
「ええ。……必ず勝ちます」
クロムはチームメイトならばわかる愛想笑いを、ほとんどの人間に悟られぬよう自然に浮かべる。彼はアマチュアの頃から外面を取り繕う術を身に着けており、取るに足らぬ話にも表面上は好意的に応じられるのだった。
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