妖精族の女の子たちは恋のお話が大好きだ。自分たちのこと、森の動物たちのこと、人間のこと。もちろん全員がそうというわけではないし、妖精姫たるエレインは《そうではない》ほうの妖精だ。
そもそも妖精は生殖で増えるわけでもないのに、恋をしても仕方ないだろうに。
そんなふうにすら思っていた。
今はそうではない、と彼女はもう、自分をごまかせないくらいに自覚している。だって恋をしているから。全く我ながら呆れてしまうとエレインは、目の前で寝転ぶバンにバレないようにそっと嘆息した。出会ってたかだか数日だというのに、このおかしな気持ちはきっと恋と呼ぶものなのだろう。あの頃、まだここに沢山の妖精たちが集まり笑いさざめいていた頃、恋の話に花を咲かせていた彼女たちは果たしてこんな気持ちを味わったことがあるのだろうか。
「どうしたエレイン?」
急にバンの顔が目前に迫る。近い近い近い! エレインは飛び上がりそうになるのは堪えたが、顔が赤くなるのは止められなかった。
「な、何でもないの! ちょっと昔のことを思い出してただけ」
「ああ、なるほど♫」
バンは納得したらしくまたゴロンと横になる。顔と顔の距離が離れてエレインがホッとしたような、がっかりしたような奇妙な心地になっていると「寂しいか?」と、控えめな声で問われた。
「寂しさなんてもうないわ」
それは本心。もう、そんな気持ちは何百年も前になくしている。
……何よりも。
「今はあなたがここにいるから」
自然に唇から零れ出た言葉に、バンは目を見開いてエレインを見上げていた。エレイン自身もハッと我に返り、再びほてりだした顔を両手で抑える。
「あ、あの! おっおしゃべりとか、ラベルコレクション楽しいし、ね……!」
「俺も」
「えっ」
その手をバンがそっと触れた。
「いや、お前がわかってるやつで嬉しいぜ〜♫」
手はすぐに離れた。そして突然がばっと起き上がり、傍らにおいてあったラベルコレクションを手に取るバン。
「じゃあ続き見せてやるから、もう少しこっち来い♫」
「うん!」
エレインはそっと近づく。さっきの顔と顔の距離くらいに。
でもバンの視線はエールラベルコレクションの上。
それくらいがいいの、それくらいでいいの。
エレインの胸中ははあたたかく甘く、そして少し苦しい。
恋なんて、しても仕方がないものだから。