いってきますでそのよん!出立の日はまさに旅立ち日和といった空模様だった。バンは最低限の荷物だけ入れた雑嚢を背負い、ついでにエレインも肩に乗せる。
「そういえばその袋って何が入っているの?」
エレインが今更気づいたというふうに尋ねると「マジで大したもん入ってねぇんだが」と、中身を出して見せてくれた。
「クレシューズにフライパンと小鍋とおたま、干し肉と調味料色々。それとナイフだろ、あとはパンツ〜♪」
「ぱんつ!」
「洗って履き替えたいときもある♪」
「穿かなければいいんじゃない?」
「カッカ♪ 確かに! じゃ、置いてこ♬」
「持ってけよ!」
突然会話に参加してきたランスロットが、ぽいと放られたバンの下着を雑嚢に突っ込んだ。
「おっ、ランス。それからもちろん、お前に貰った旅行チケットな♬」
「お、おう。あとこれ、持ってけ」
ぶっきらぼうに告げたランスロットは、しかめ面で父の鼻先に冊子を押し付ける。妙に不機嫌そうだが単に照れているだけなのを知っている父母は、こっそりと小さく笑った。
「旅日記。気が向いたらでいいけど、記録したら帰ってきてからも楽しめるんじゃないかと思って。書くのが面倒なら旅の途中で摘んだ花とか、エールラベルとか貼ってもいいんだぜ」
「ランスロット……! お前、親父泣かせだな♪」
「うわ、しつこくキスするなって! まだ昨日の酒が残ってんじゃねーの、オヤジ」
こうしてバン王とエレイン妃はランスロット王子の粋なはからいで、ごくごく個人的な楽しい夫婦旅に出発した。見送りには王子と親しい少数の者だけ。初めて二人揃ってベンウィックを留守にするが大事にはしたくなかった。
……の筈だったのだが、最終的にどこからともなくかなりの数の森の仲間が集まった。
「んじゃ、いってくらぁ♪」
「王様いってらっしゃい!」
「エレインさま、お気をつけて!」
「ハイハイ、イッテラッシャイ」
「行ってくるわね、ランスロット、みんな。すぐ帰るけど、留守中お願いね……ぷっ」
エレインが吹き出したので周りで見ていた人々は少し不思議に思ったが、旅行が楽しみなんだろうとさほど気にも止めなかった。ランスロットだけが苦い顔をしていたが、それは彼だけが母が笑った理由を知っているからだ。
つまり、表面上あっさりしていたバンの心の中が、ひたすら息子に向けての愛と心配する気持ちで大変に忙しなかったから、というわけである。
つづくよ!