愉快な親族回!その29「あーっ、やば、来た! やっと来たよバンおじさんたち!! パパ、ママーー!!」
まず最初に出迎えたのはティオレーだった。くるくる回りひとしきりはしゃいだ後、二人にあいさつするのも忘れて奥にいるらしいキングとディアンヌのもとにすごい勢いで戻っていく。
さらに少し進んだ場所は玉座の間だが、今日は木のつるの壁で仕切られている。その奥からは音は聞こえなくともワクワクと楽しい気配が漏れ出していてエレインのみならずバンすら色々察してしまい、のどを鳴らして笑った。
「おほん。お二人とも、ハーレクインはじめ皆貴方がたの訪問をとても楽しみにしております。お分かりですね」
何も気づかないふりをしろ、と云うことだろう。ゲラードが念押しする。
「いいですね、開けますよ!」
ゲラードが杖でコン、と軽く壁を叩くと、つるはするするとほどけて消えていった。
「お誕生日おめでとーっ!!」
と、同時にティオレーの元気いっぱいの声。そして何かがはじける音がして、バンにバサッとふわふわの何かが降り注いだ。
「ぺっぺっ! なんじゃこりゃ!」
「あれぇ、うまく散らなかったなぁ。ふわーってなるはずだったのに」
ふわふわの正体は綿毛のようだ。ティオレーは手にしたしおれた風船のようなものを綿毛まみれのバンに見せて「これね、妖精界に咲く植物。いつもはぱーん! ってはじけてふわって中から綿毛が飛んで綺麗で面白いんだけど、今のはぼふってなっちゃったね」とからから笑った。
「クッソガキめ! 元気そうだな♬」
「えへへっ、もちろん元気よ! みんなも!」
「こんにちわ、お誕生日おめでとう、おじさま」
「おめでとうございます」
キングとディアンヌの七人の子供たちは皆それぞれ、ティオレーに続きバンとエレインに挨拶する。
「わぁいエレイン、ひさしぶり~っ!」
ディアンヌもエレインを抱き上げて頬ずりした。
「あっ、ついでにバンも」
「オウ♪ で? お義兄サマは挨拶なしか~♬」
呼ばれて大儀そうに玉座からふわりと降り立ったキングは、空から義弟を見下ろして「ようこそ妖精界へ」と挨拶した。
「まさかここにまで招待されると思わなかったわ。しかもお誕生日なんて発想があるだなんて」
「ほかならぬ、かわいい甥っ子の頼みだからね」
バンは早速ディアンヌに腕相撲勝負を吹っかけて、飲酒もしていないのに大騒ぎだ。その後おこるであろう事態を察したジクタスとベルテだけがさっさと父王と叔母のところに避難したが、それ以外の兄弟たちは自主的にバンと体術訓練と称したじゃれあいに興じていた。(ひたすら苦い顔をする可哀そうなマートルは強引な妹たちに巻き込まれて連れていかれた)
久々の妖精界は相変わらず穏やかで、時間がゆっくり流れていく。エレインにはここで暮らした平和な時期が、なんだか随分と昔のことのように感じられた。
「とても、いろんな事があったからね」
心を読んだのか、単に察しただけなのか。兄は優しく妹に語り掛ける。
「ここですごした数百年の経験以上に、この十数年は濃厚だったよ」
「そうね。でも兄さんはまたこれからずうっと、ここで長くて濃い時間をいろいろ経験するわ」
でしょう?
美しく微笑む妹は、かつて聖女と呼ばれていた頃にもまして聖女然としており、とても尊いものに見える。キングにはそれが喜ばしくもあり、ほんの少し寂しいようにも感じられた。
「君はずっとオイラのたったひとり大切な妹だよ、エレイン」
「フフッ。あらたまってなぁに。おかしな兄さんね」
「オラオラ、そんなんじゃあ下のガキども守れねぇぞ。打ち込んでみやがれ、マートル!」
「くっ、もう一度!」
妖精兄妹とキング似二人の息子がのんびりしている間も、バンとキングの子供たちはドタバタやりあっていた。今はバンがマートルに剣技の訓練をつけているようだ。といってもバンは剣は使わずもっぱら体術なので、はたから見ると必死に斬りかかっていくマートルをバンがおちょくっているようにしか見えない。その周りで妹たちが兄を応援し、大層盛り上がっている。
「はー、よくやる。もう付き合いきれないよ」
ディアンヌは彼らを見放し、さっさと夫と友達のところに戻ってきた。
「まったくバンったら相変わらずバカだね~」
「リオネスでもメリオダスと同じようなことやって、お城の壁壊してたわ」
「アハハ! 目に浮かぶよ。エリザベスに会った?」
「もちろん。とっても元気だったわ。ディアンヌのお話もしたわよ」
「そうなの?! 聞かせて!」
こちらはこちらで、女の子のおしゃべりが始まった。キングは息子二人と目くばせしあって肩をくすめる。しかたなくふわりと下に降り、義弟と息子の格闘を見に行った。
バンは大人げなくそこそこ本気だ。ランスロットが強くなるわけだ、と呆れる反面、ありがたくも思う。格闘方面はまったくの門外漢だ。ディアンヌがいるが身体が人間並みのマートルではやはり《一応》人間のバンのほうが師匠としては適当だろう。
「あれ?」
そこではたとキングは気づいた。
「バン、君、体の具合はなんともないの?!」
「ハァ?」
ぺしん、と一生懸命向かってくる甥をひとなでしながら、バンは振り返った。
「そういやエレインも同じような事聞いてきたが……何で?」
「何でって、人間には……」
「言われてみればやけに空気がうめーな♪ 濃いっつーか甘いっつーか……すっげぇいい気分だぜ、例えるならそう、酒飲んでるみてぇな気分!」
流石妖精界、と上機嫌で大笑いする義弟に「だから君は人間のカウント外だっていうんだよ!」とキングは叫んだ。
つづくぜ〜♬