いちにちめだけどその5!「で、どこだって?」
「これによるとまずはふもとの村ね」
ランスロットからのプレゼントのチケットには大まかではあるがきちんと《旅程》が記されている。どうやら書かれた場所を順番に巡れという事らしい。
「最初は凄い近場なんだな。しかし決まりごとのある旅っていうのは初めてだが、セガレの案と思うと悪くねぇな♪ 」
バンはスキップしそうな勢い坂を下る。エレインもわくわくしながらその肩にとまったまま、ついて行った。
すぐ近くと言っても森深いベンウィックから歩いて数時間はかかる、とはいえバンとエレインにかかればあっという間だ。その村の人々も森に慣れ親しんでおり、ベンウィックの森まで狩りに来たり木の実を摘みに来たりと、いわばお隣のお宅くらいの感覚の関係だった。
「あそこの宿屋のエールが旨ぇんだよな♪ まぁウチの森のベリー使ってるから当然なんだが♬」
「私も味見したわ! やっぱり味はよくわからなかったけど……」
他愛ないおしゃべりをしている間に、村に辿り着く。すると村の自衛団の若い男が二人を認めて背筋を正した。
「バン王様、エレイン様! ご機嫌麗しゅう!」
「おお、すっげぇ麗しいぜ〜♬ てかそういうのいいから。俺らは勝手にやるから……」
「ベンウィックのバン王様ご夫妻がいらしたぞ〜!」
「おーい」
二人はあっという間に村長の家に連れて行かれ、何故かあっという間に宴会が始まった。しかも壁には《バン王様お誕生日おめでとうございます》と書かれた紙が貼られている。
「なんじゃこりゃ♬」
「先日、ランスロット王子からということで、バン王様が御夫婦でお誕生日記念の旅行にいらっしゃると頭にキュピーン☆ とおりて来ましてな」
村長の説明にバンは危うくせっかくのエールを吹き出すところだった。キュピーンって、もう絶対しかいない。成る程、そうやって各所に手を回したのか。
「さぁさバン王様、今年一番のエールです」
「とっても嬉しいけど、飲ませすぎないでね!」
次々勧められるのを見越したエレインが先んじて釘を挿せば「七つの大罪のバン王様もお美しいエレイン様にはかなわない」と皆は大笑いした。
半ば顔見知りのような村の人々との宴会は終始和やかに愉快に進み、夜もすっかり更けたところでエレインが云ったように《飲ませすぎない》くらいまで、ということでお開きとなった。
「粗末なところですが」
と恐縮されつつ通されたのは村長の家の一室で、それでも村で一番いい部屋だった。こじんまりとした客間のベッドには村長の奥さんの手作りか、キルトのベッドカバーが敷かれており、あたたかみのある雰囲気だ。
「とんでもないわ。とても素敵よ。どうもありがとう」
「それでは、おやすみなさいませ」
「おやすみなさい!」
さて二人きり、というところだが既にバンは爆睡している。エレインは苦笑いを浮かべつつ、魔力で大男をベッドに放って布団をかけてやった。
「もう、しかたのないひと! ……また明日ね、バン」
その横に寄り添い目を瞑ると、エレインもやがて眠りに落ちた。
…………………
いちにちめ。近くのむら。知った顔ばっか。村長のくちからキュピーンとか言われて吹きそうになったが耐えた。エールがすげーうまいから吹いたらもったいねぇから。エレインも楽しそうだった。気づいたら朝だった。もったいねぇ。
朝飯ももりもりだ。無理しやがって、といったけど森の恵みでこの辺は資源は割と豊富らしい。うちの近所だしな。このままの状態が続くようにしねぇと。
そういえばこんな近くに旨いエールがあるのに、ラベルもらってなかったな、と思い頂戴した。一枚目だぜ!
帰り、エレインがお礼と言って花をいっぱい咲かせてた。可愛すぎるぜ。