うさぎの気持ち「そういえば最近、陸岡はニンジンを生では食べないのか」
夕食のカレーを口にしながらうるうが聞いた。もっとも夕食だろうが朝食だろうが、ここBar Fではカレーしか出ないのだが。
「 今でも生で食えるけど、あれは緊張してたんだよ。はじめはうるうのこと、物静かで頼れるお兄さんみたいだなって勘違いしてたから」
すまし顔のうるうを横目で軽く睨みながら、樹果が応える。
「勘違い…意外に手厳しいな」
「猫かぶってたんじゃねえのか」
自分好みに味をツボスコで調整しながら焔が言った。
「次にその下品な液体を僕のカレーにふりかけたなら、今度こそ絶対に殺す」
言い放つうるうの口元に焔が反射的にカレーの匙を突き出す。勢いに押されて、うるうは激辛カレーを口にしてしまう。
「お、おい! 普通よけるだろ!」
慌てた焔がタンブラーの水を差し出す。
「勝負を挑まれて逃げ出すのは性に合わない」
うるうがやっと返事をした。水をひとくち飲んでもまだ頬の赤みが消えていない。
「樹果くん、頼れるお兄さんやったらここにもおるで〜」
「うさんくせー。だいたい、本当に頼れるお兄さんはそんなこと自分から言わない」
小動物どうしが毛づくろいしあっているような、他愛無い会話が楽しく思えてきたのはいつからだろう。
蘭丸は、ただニコニコとしてカレーを食べ続けている。頼れるお兄さん、そんなひとが自分にもいたらいいなと思いながら。いないなら、自分が頼れるお兄さんになるしかないのか、それはよくわからないけれど。