簡易コンロの上の片手鍋に、カカオ豆を挽いたペーストをどさどさ。火をつけて一分間ほどかき混ぜてから砂糖、それから塩をひとつまみ。熱くなった粉にふた匙分の牛乳を加えてよくよく練っている立ち姿、を、ヌーベルは両手に頬杖をついて眺めていた。
彼の住処である研究室において、アマチが何らかの飲み物を作るのは珍しいことではない。この部屋の一角にはコンロがあり、鍋があり、ヤカンがあり、コーヒーの粉や紅茶の葉やドリッパーが常備されている。
「アマチ博士、ココアの薬効はご存知ですか?」
漂い始める甘く濃いチョコレートの香りに鼻をぴくぴくさせながら、ヌーベルは手持ち無沙汰を振り回すようにしてそう尋ねた。
「抗酸化作用とリラックス効果、食物繊維と各種ミネラル——」
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