「母の愛です」
ことある度にそう言って、僕を抱き締めたりキスをくれる美しい人は、血のつながりなんて欠片もないはずの僕に、家族に近い親愛を抱いている。そんなこと誰に言われるまでもなく何度も繰り返し伝えられたことで充分わかっているけど、潔癖なその人が自分を相手にしたときは触れることも触れられることも許してくれる事実が嬉しくて、抱きしめる度に鼓動が早鐘を打つ意味に気付いていながら、決してそれを口に出してはいけないと思っていた。
僕の心の動きなんて、彼はとっくに知っているはずだ。
はじめのうちは、よくわかっていなかった。父さんとだってこんなにしょっちゅうハグをするようなコミュニケーションを取ったことはほとんどなかったし、こんなに近い距離で誰かと接することは、取り戻した記憶を探っても覚えがない。だから、人と肌を重ねるという行為にドキドキしているのだと考えていた。もしかしたら、そんな風に自分へ言い聞かせていた時点で、頭が気付くより早くこころが知っていたのかもしれない。
1141