果物
tennin5sui
DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」ほとんど前回でおしまいだったから蛇足かもしれない
第八話 人気がなくなったはずの廃墟は、最初に訪れた時と変わらない雰囲気を保っていた。
庭に飛んでいた虫が一匹居なくなったからといって、人間の目には何も変わらないように見えるのと同じで、すぐ目の前にいた少女が消えたというのに、この庭は淡白な静かさに覆われている。
二人は唾を吐きかけられた目を擦りながら周囲を見回した。改めて見れば、廃墟は和風と洋風の過渡期に建てられたかのような様相をしていた。当時から見れば最先端、今眺めてみると中途半端の古臭い家で、その上誰も住みたがらないであろう田舎にあるのならば、打ち捨てらるのも頷ける。
「ハロウィンが何だか知らねえけど、随分好き勝手遊んでいきやがったな、あいつ」
檸檬が先ほどまで少女が座っていた辺りをスニーカーの爪先で突きながら言う。
1077庭に飛んでいた虫が一匹居なくなったからといって、人間の目には何も変わらないように見えるのと同じで、すぐ目の前にいた少女が消えたというのに、この庭は淡白な静かさに覆われている。
二人は唾を吐きかけられた目を擦りながら周囲を見回した。改めて見れば、廃墟は和風と洋風の過渡期に建てられたかのような様相をしていた。当時から見れば最先端、今眺めてみると中途半端の古臭い家で、その上誰も住みたがらないであろう田舎にあるのならば、打ち捨てらるのも頷ける。
「ハロウィンが何だか知らねえけど、随分好き勝手遊んでいきやがったな、あいつ」
檸檬が先ほどまで少女が座っていた辺りをスニーカーの爪先で突きながら言う。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」またぼんやりした話になっちゃった
第七話 まだ六歳くらいの子どもに耳打ちされたのは、
「あの子はねえ、お城のとこにいてねえ、色んなお話をしてくれるの。すごく綺麗なの」
という要領の得ない説明で、詳しく聞こうと顔を上げたところで、きゃあきゃあと悲鳴のような、楽しげな声を上げて駆けて逃げてしまった。校内へ回って捕まえて、案内しろと言っても良かったが、もう少し年上の少年がいかにも不審げな目線を向けてきていたので、檸檬に「仕方ない。それらしい場所を探すぞ」と耳打ちをしてその場は立ち去ることにした。
仕事に疲れて屋外で夜を明かして以来、二人の目玉は不調をきたしていた。
目が覚めて、見回した草原には、朝露のような光が散っており、眩暈かと幾度もまばたきをしてみたがおさまらない。檸檬も同じ症状を発していたようで、手持ちの目薬を打ってみたが治らず、応急措置としてガーゼの眼帯を装着したところで、この症状の問題点が浮き彫りになった。
1667「あの子はねえ、お城のとこにいてねえ、色んなお話をしてくれるの。すごく綺麗なの」
という要領の得ない説明で、詳しく聞こうと顔を上げたところで、きゃあきゃあと悲鳴のような、楽しげな声を上げて駆けて逃げてしまった。校内へ回って捕まえて、案内しろと言っても良かったが、もう少し年上の少年がいかにも不審げな目線を向けてきていたので、檸檬に「仕方ない。それらしい場所を探すぞ」と耳打ちをしてその場は立ち去ることにした。
仕事に疲れて屋外で夜を明かして以来、二人の目玉は不調をきたしていた。
目が覚めて、見回した草原には、朝露のような光が散っており、眩暈かと幾度もまばたきをしてみたがおさまらない。檸檬も同じ症状を発していたようで、手持ちの目薬を打ってみたが治らず、応急措置としてガーゼの眼帯を装着したところで、この症状の問題点が浮き彫りになった。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」今日あたりでモブが出張るのもおしまい、のはず!
第六話 校庭に城ができたんだってよ。
どこからか伝え聞いてきたように語る口調で、詰まらない冗談を友人の佐藤が言うのは珍しいことではないので、何ができたって?と一応聞き返した。
「だから、城がだよ」「シロってなんだよ」「城は城だよ。キャッスルだよ」
不毛なやりとりになりかけたのを察したのか、佐藤は焦ったそうに、いいから来いっての、と乱暴に俺の手を引っ張った。
「どうせまた公園行くんだから、今出かけたって一緒だろ」
「一緒じゃない。宿題終わってからじゃないと大変なんだよ」
頭いいんだから、帰ってすぐやれば終わるだろ、という理屈で押し切られるのは目に見えていたが、常に佐藤の行動に素直に付き従っていたら身を滅ぼす。なので、度を越した要求をされる場合は、行動の責任の一端はお前にあるんだぞ、という釘を刺すようにしている。なお今回、佐藤は「宿題なんて、昼休みまでに職員室のノートの束に紛れ込ませておけばバレねーんだよ」と、想像していたよりも邪悪な考えを披露したが、なんとか寝る前までに取り組んで宿題を終わらせたことを名誉にかけて述べておく。
2890どこからか伝え聞いてきたように語る口調で、詰まらない冗談を友人の佐藤が言うのは珍しいことではないので、何ができたって?と一応聞き返した。
「だから、城がだよ」「シロってなんだよ」「城は城だよ。キャッスルだよ」
不毛なやりとりになりかけたのを察したのか、佐藤は焦ったそうに、いいから来いっての、と乱暴に俺の手を引っ張った。
「どうせまた公園行くんだから、今出かけたって一緒だろ」
「一緒じゃない。宿題終わってからじゃないと大変なんだよ」
頭いいんだから、帰ってすぐやれば終わるだろ、という理屈で押し切られるのは目に見えていたが、常に佐藤の行動に素直に付き従っていたら身を滅ぼす。なので、度を越した要求をされる場合は、行動の責任の一端はお前にあるんだぞ、という釘を刺すようにしている。なお今回、佐藤は「宿題なんて、昼休みまでに職員室のノートの束に紛れ込ませておけばバレねーんだよ」と、想像していたよりも邪悪な考えを披露したが、なんとか寝る前までに取り組んで宿題を終わらせたことを名誉にかけて述べておく。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」ちょっと和風っぽくなっちゃった
第五話 山の方から笛の音がする。
友人にそう言ったら笑われた。
「鐘の音じゃないの」
興味なさげに返事をされる。確かに山寺の鐘の音が聞こえてくることは、たびたびある。定刻ごとに鳴る鐘の音が、夕方などにはよく響く。けれど、その聞き慣れた音とは全く違うのだ。
音楽に詳しいわけではないので、どういう名前の楽器かも分からないが、誰かが練習をしているのかもしれない。もしかしたら、お坊さんに音楽趣味があるのかもしれない。
愛理は山に目を向ける。
「そういえば、愛理、駅にお迎えに行かなきゃいけなかったんじゃないの。誰だっけほら、伯父さん?」
私も正確にはよく知らない。お世話になったおじさん、という言い方をされたから、もしかしたら親戚ですらないのかもしれない。そのおじさんが来るから、駅までお迎えに上がれ、ということらしい。バスも少ない田舎で、目的の家に辿り着くのは難易度が高いだろう。
1713友人にそう言ったら笑われた。
「鐘の音じゃないの」
興味なさげに返事をされる。確かに山寺の鐘の音が聞こえてくることは、たびたびある。定刻ごとに鳴る鐘の音が、夕方などにはよく響く。けれど、その聞き慣れた音とは全く違うのだ。
音楽に詳しいわけではないので、どういう名前の楽器かも分からないが、誰かが練習をしているのかもしれない。もしかしたら、お坊さんに音楽趣味があるのかもしれない。
愛理は山に目を向ける。
「そういえば、愛理、駅にお迎えに行かなきゃいけなかったんじゃないの。誰だっけほら、伯父さん?」
私も正確にはよく知らない。お世話になったおじさん、という言い方をされたから、もしかしたら親戚ですらないのかもしれない。そのおじさんが来るから、駅までお迎えに上がれ、ということらしい。バスも少ない田舎で、目的の家に辿り着くのは難易度が高いだろう。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」微ホラー?かも?
第四話 潔癖というほどではないが、部屋の掃除は毎日しないと、何となく落ち着かない。かといって、平日に帰宅し、夕飯や洗濯などを全て済ませた後となると、それなりに遅い時間帯になる。掃除機などはもってのほかだ。使い捨て式の掃除用ワイパーなどを使用していたのだが、それでは取りきれないゴミが気になるようになり、シュロ箒購入した。
そもそもが綺麗好きというよりは、なんとなく座りが悪い、という心理的な問題で掃除をしていたために、箒を使っての掃除はいかにも綺麗にしました、という達成感があって、意外に気に入った。音も出ない。周囲に迷惑をかけることもない。
ただ、気になることがあった。
夜半、さて箒をかけるかと手に取り床を掃いていると、物音がするのだ。初めは隣人が騒いでいるのかと思った。これまでに隣人との騒音問題とは無縁だったので、意外に思っていたのだが、よくよく気にしてみると音は壁を隔てた向こう側ではなく、どうも室内から聞こえてくる気がする。
1954そもそもが綺麗好きというよりは、なんとなく座りが悪い、という心理的な問題で掃除をしていたために、箒を使っての掃除はいかにも綺麗にしました、という達成感があって、意外に気に入った。音も出ない。周囲に迷惑をかけることもない。
ただ、気になることがあった。
夜半、さて箒をかけるかと手に取り床を掃いていると、物音がするのだ。初めは隣人が騒いでいるのかと思った。これまでに隣人との騒音問題とは無縁だったので、意外に思っていたのだが、よくよく気にしてみると音は壁を隔てた向こう側ではなく、どうも室内から聞こえてくる気がする。
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DOODLE果物版ワンドロワンライ:お題「ハロウィン」ラブストーリーっぽい話になっちゃったけどラブストーリー書くのすごく苦手だということに気づいた
第三話 よく通っている喫茶店の店員のことが、最近気になっている。気になる人がいるのだ、友人に言ってみたところ、ドラマかよ、と笑われ、突然真顔になったかと思えば「ショートカットだろ?」と問いただされた。
「たしかにショートカットだ」
と、頭にその子の姿を思い浮かべながら答える。根本が黒くなっている脱色した明るい短髪は刈り上げに近く、いつも似たような白いトレーナー身につけ、その上に喫茶店のエプロンを掛けていて、細身のパンツがよく似合っていた。
だろうな、と分かったような顔で笑われたので、つい言い返したくなる。
「あのな、初恋否定論者の俺がこんなこと言ってるんだぞ。もっと驚くべきじゃないのか」
「初恋否定論者はえてして初恋にころっといかれるもんだろ。それにな、飯塚。おまえは初恋否定派という以上に短髪が好きだ。自覚してなかったのか」
2024「たしかにショートカットだ」
と、頭にその子の姿を思い浮かべながら答える。根本が黒くなっている脱色した明るい短髪は刈り上げに近く、いつも似たような白いトレーナー身につけ、その上に喫茶店のエプロンを掛けていて、細身のパンツがよく似合っていた。
だろうな、と分かったような顔で笑われたので、つい言い返したくなる。
「あのな、初恋否定論者の俺がこんなこと言ってるんだぞ。もっと驚くべきじゃないのか」
「初恋否定論者はえてして初恋にころっといかれるもんだろ。それにな、飯塚。おまえは初恋否定派という以上に短髪が好きだ。自覚してなかったのか」
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DOODLE果物版ワンドロワンライ:お題「ハロウィン」怪奇探偵果物!的な
第二話 信号が青になり、一歩踏み出そうとした瞬間に右足が取られ、転びそうになるのを踏ん張って堪えた。一緒に信号待ちをしていた二、三人がちらり、とこちらを見つめてくる。クスクスという笑い声が聞こえるような気がして恥ずかしくなり、何でもないような顔で大学への通学路を足早に進む。
相田歩が何もない場所で躓くようになったのはここ数日のことだ。
元々そそっかしい性格ではあった。けれど、朝布団から出た瞬間に転びそうになったり、玄関のドアでつまづいたり、日に何度も転ぶようなことはなかった。些細な事故ではあるが、これほど連続して続くと不安になるものだ。
そのうち、瑣末な事故が徐々に大きくなり、交通事故にでも巻き込まれるのではないか、と考えてみたりもする。
1117相田歩が何もない場所で躓くようになったのはここ数日のことだ。
元々そそっかしい性格ではあった。けれど、朝布団から出た瞬間に転びそうになったり、玄関のドアでつまづいたり、日に何度も転ぶようなことはなかった。些細な事故ではあるが、これほど連続して続くと不安になるものだ。
そのうち、瑣末な事故が徐々に大きくなり、交通事故にでも巻き込まれるのではないか、と考えてみたりもする。
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DONE果物ワンライ 一時間半。果物で上手いオチが見つけられなかったので、あの人に出てもらいました。下手したら、こっちの方が長いかも……?
お題『ハロウィン』 19時過ぎの渋谷スクランブル交差点。平日だというのに黒山の人だかりは駅に向かわず、当てもなくぞろぞろと道を歩いている。しかもその出で立ちは、仕事帰りとはとても思えないほど色とりどり、バリエーションに富んでいる。ある者は人気アニメのキャラクターの姿を真似ていたり、ある者は今さっきお化け屋敷で幽霊役のバイトを終えたばかりです、と言わんばかりのオドロオドロシイ姿。格安免税店で買ってきた着ぐるみ風の衣装を着けただけでバカ騒ぎしている者たちもいれば、どこで手に入れたのか、ヒーロー映画のコスチュームと見まがうほどの本格的な衣装を身に着け、写真を撮られながら悦に入っている者もいる。
その誰もかれもが、日常とはかけ離れた姿になることで浮かれ騒ぎ、中には歩きながら飲酒して奇声を上げたり、どう見ても合法ではないものをキメて、その足取りが定かでない者たちすらいるような有様だった。
4451その誰もかれもが、日常とはかけ離れた姿になることで浮かれ騒ぎ、中には歩きながら飲酒して奇声を上げたり、どう見ても合法ではないものをキメて、その足取りが定かでない者たちすらいるような有様だった。
tennin5sui
DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」次回に続くので今回べつに何のお話もないし楽しくはない
ハロウィン第一話 秋の夜の冷え切った空気は足先からじわじわと体温を奪っていく。
耐えきれずに目を開けた。枯れ草の増えた河原は寝心地が悪かった。枯れ果てているくせに、チクチクと尖った葉先が薄いシャツや、靴下とスラックスの隙間を狙っているかのように刺さってくる。よく見れば、小さな人影が皮膚を狙って、枯れ草を槍のように構えて突き刺してきているのだ。軽く手で払うと、笑いながら草むらに消える。
風が強く吹くと、どこに隠れていたのか、大量の虫が飛び出てきた。キリギリスの長い触覚が風に吹かれ、そしてキリギリスの背の上にも人影が見えた。こんなに小さなものが人間である訳がないのだから、人影というのも的外れなのだろうが、他の呼称が分からない。小さな生き物は触覚を手綱のように引き、器用に昆虫たちを操る。
1409耐えきれずに目を開けた。枯れ草の増えた河原は寝心地が悪かった。枯れ果てているくせに、チクチクと尖った葉先が薄いシャツや、靴下とスラックスの隙間を狙っているかのように刺さってくる。よく見れば、小さな人影が皮膚を狙って、枯れ草を槍のように構えて突き刺してきているのだ。軽く手で払うと、笑いながら草むらに消える。
風が強く吹くと、どこに隠れていたのか、大量の虫が飛び出てきた。キリギリスの長い触覚が風に吹かれ、そしてキリギリスの背の上にも人影が見えた。こんなに小さなものが人間である訳がないのだから、人影というのも的外れなのだろうが、他の呼称が分からない。小さな生き物は触覚を手綱のように引き、器用に昆虫たちを操る。
ワッ茶
DONE⚠️ylig/最新作ネタバレ⚠️※ひとつ前の投稿からすけべを消し去った版ですが、やはり煩悩の塊なのでご注意ください※
ちなみに髪にメッシュが入ってるのは、危ない果物が生えてた島っぽくしたかったからなどと供述しており……
yowailobster
DOODLE20210605 ワンドロお題「涙」スペシャルお題「俺が教えるよ」お借りしました だらだらもだもだすぱすぱって感じのわりとギャグ めばえは何度書いても最高!愛抱夢、ランガの課題待ちのとき持ってきた果物こたつの天板に置いてフルーツカービングの真似事しながら待ってるからかわいい 全部無い話だ
浮き立つ初夏 幸せを言葉であらわすとすれば。例えば抜けるような晴天。どこか懐かしい山の空気。笑う友人。
大きな皿。袋一杯のお米。縦横厚さが同じ肉。
こんな感じになると思う。だから今は幸せ。少なくとも予感は充分だ。
「ちょっと。今聞いてなかったでしょ」
「ごめん」
「ぼんやりしてる暇無いんだからね。前日決めとかホントありえない……はいこれ、ランガ達の分」
受け取った段ボール箱は大して重くなかったが、
「もう一つ。あとこれもそう」
「わ、わ……」
同じサイズを次々上に乗せられるまでは予想していなかった。準備が間に合わず足元をふらつかせるこちらに、MIYAが鼻をならす。
「ふんだ、いい気味。……まあでも、これくらいにしといてあげる。貸して――」
8011大きな皿。袋一杯のお米。縦横厚さが同じ肉。
こんな感じになると思う。だから今は幸せ。少なくとも予感は充分だ。
「ちょっと。今聞いてなかったでしょ」
「ごめん」
「ぼんやりしてる暇無いんだからね。前日決めとかホントありえない……はいこれ、ランガ達の分」
受け取った段ボール箱は大して重くなかったが、
「もう一つ。あとこれもそう」
「わ、わ……」
同じサイズを次々上に乗せられるまでは予想していなかった。準備が間に合わず足元をふらつかせるこちらに、MIYAが鼻をならす。
「ふんだ、いい気味。……まあでも、これくらいにしといてあげる。貸して――」
まきにゃふ
DOODLEくすまもwebオンリー開催おめでとうございます!な記念展示です。課外かい活動のパートナーは@ayamiduki様。小さいご主人様のかわいい姿をふんだんに見せて頂いた成果物になります!
※ご主人様の可動域表示はよりショッキングな初期値になっています。 15
shishiri
DONE物騒な仕事をする檸蜜午前零時のキス スラックスのポケットから取り出した煙草は、パッケージごと少し折り曲がっている。興ざめしたのか下唇を突き出した檸檬は、一本摘み出した煙草を指先で撫で伸ばすようにしてから、それを口に咥えた。ガスの減った百円ライターの着火レバーをカチカチと押し下げ、ようやく点いた安っぽい火を煙草の先にあてがうと、ジリっと葉が焼けた微かな匂いを合図に、檸檬はゆっくりと煙を吸い込んだ。
埃と古い機械油の匂いが交じる暗がりで、背中を向けて立つ蜜柑の向こうには、体を拘束され錆びついたパイプ椅子に座らされている男が三人いる。檸檬から見て右端の男は、先程までは地鳴りを思わせる不穏な呻き声をあげていたのだが。今はそれも静かになって、椅子にもたれて上を向いたまま、ピクリとも動かなくなっていた。
3918埃と古い機械油の匂いが交じる暗がりで、背中を向けて立つ蜜柑の向こうには、体を拘束され錆びついたパイプ椅子に座らされている男が三人いる。檸檬から見て右端の男は、先程までは地鳴りを思わせる不穏な呻き声をあげていたのだが。今はそれも静かになって、椅子にもたれて上を向いたまま、ピクリとも動かなくなっていた。
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DONEホラーアンソロジー『果物語』に寄稿させていただきました、拙著『狂気は蒼』の裏物語です。【参考文献】
アンソロのお話しを伺ったとき、すぐさま「参加したい!」と飛びついた私ですが。実は極度のビビりでして、ホラー映画はもちろんの事、お化け屋敷にすら入れない。さて、ホラーとは一体どうやって書いたら良いのか……。と早速悩みました。ある程度設定を決めて書き始めるのと並行して読んだ本が、自他とも認めるホラー好き・宮部みゆきセレクトの『贈る物語Terror』です。ここでタイトルの元ネタになる『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』を読みました。『水底の感』『沼』は、水をテーマにしようと思ってから、たまたまSNSbotで目にした作品であったりします。
【テーマ①】
怖いもの……と考えたとき。私自身、波の音(特に夜の)が苦手なのもあって、『水』をテーマにしようと思いました。幼少期に祖母から「お盆を過ぎたら、絶対に海に入っちゃいけない。連れて行かれる(実際は、波が高くなるから等の理由なんでしょうが)」と何度も聞かされ刷り込まれておりまして。この「連れて行かれる」というのがとっても怖かったせいで、波の音は私にとってヒーリングどころか、恐怖の対象なのです。
2285アンソロのお話しを伺ったとき、すぐさま「参加したい!」と飛びついた私ですが。実は極度のビビりでして、ホラー映画はもちろんの事、お化け屋敷にすら入れない。さて、ホラーとは一体どうやって書いたら良いのか……。と早速悩みました。ある程度設定を決めて書き始めるのと並行して読んだ本が、自他とも認めるホラー好き・宮部みゆきセレクトの『贈る物語Terror』です。ここでタイトルの元ネタになる『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』を読みました。『水底の感』『沼』は、水をテーマにしようと思ってから、たまたまSNSbotで目にした作品であったりします。
【テーマ①】
怖いもの……と考えたとき。私自身、波の音(特に夜の)が苦手なのもあって、『水』をテーマにしようと思いました。幼少期に祖母から「お盆を過ぎたら、絶対に海に入っちゃいけない。連れて行かれる(実際は、波が高くなるから等の理由なんでしょうが)」と何度も聞かされ刷り込まれておりまして。この「連れて行かれる」というのがとっても怖かったせいで、波の音は私にとってヒーリングどころか、恐怖の対象なのです。
shishiri
DONEホラーアンソロジー『果物語』に掲載された皆さんの作品の中から。小説の感想を……。個人宛でそれぞれ送らせていただいているので、ここでは手短に。【凡さん】
因習に託つけた人の欲と悪意が恐ろしい。淡々とした筆致と丁寧な描写から滲む恐怖に、そこはかとないエロスが作品に色を添えていらっしゃる。過去と現在がほんの一瞬交わる不思議さも良かったです!
【なべぶたさん】
裏話を拝見して成る程と。バラエティに富んだ元ネタを、日常に溶け込ませるようにアレンジされたその手腕が素晴らしい!彼岸と此岸の境は生活から離れた所にではなく、こんなふうに思いがけない場所に潜んでいるのかもしれませんね……。
【クロロさん】
呪い屋なる、見えない悪意に恐怖を感じる一方で、抑えきれなくなる好奇心。それこそが相手の思う壺、だった……?原作の設定を踏襲したスムーズなイントロから、思いがけないスプラッタ。そしてそれ以上の驚きの結末が、今後の彼らに待ち受けているのかと思うと……。
917因習に託つけた人の欲と悪意が恐ろしい。淡々とした筆致と丁寧な描写から滲む恐怖に、そこはかとないエロスが作品に色を添えていらっしゃる。過去と現在がほんの一瞬交わる不思議さも良かったです!
【なべぶたさん】
裏話を拝見して成る程と。バラエティに富んだ元ネタを、日常に溶け込ませるようにアレンジされたその手腕が素晴らしい!彼岸と此岸の境は生活から離れた所にではなく、こんなふうに思いがけない場所に潜んでいるのかもしれませんね……。
【クロロさん】
呪い屋なる、見えない悪意に恐怖を感じる一方で、抑えきれなくなる好奇心。それこそが相手の思う壺、だった……?原作の設定を踏襲したスムーズなイントロから、思いがけないスプラッタ。そしてそれ以上の驚きの結末が、今後の彼らに待ち受けているのかと思うと……。
kvroronoaka
DOODLEBiさんの果物語感想文。禁止
Biさんの果物入浴シーンが拝読できてクロロは無事昇天しました👼
初めに言われたことを真面目に気にしつつ、開けてしまうのはみかんなんだろうなーー!とニヤニヤ待っていたら、まさか二人同時とは!一気に禁忌を破るのはおもしろすぎます。
敷居を踏む仕組みの話が出てきてなるほど結界を張って閉じ込めるのか!と思ったら物理!!!いや好きです。この展開もほんと好き。
最後のお食事も気味が悪くてすごく嫌で最高です。女将さん、それ、山菜とかに使う言葉なんですよ!
厄介
みかんの自己認識ー!!そう思ってそうなのも、実際はそうじゃないのも解釈一致です!わー大好き!
Biさんの美しい文章の中に生理的嫌悪を掻き立てるリアルな描写が入るとより際立って感じるので、所々わぎゃーー!と鳥肌を立ててました。怖がらせるのがお上手。
842Biさんの果物入浴シーンが拝読できてクロロは無事昇天しました👼
初めに言われたことを真面目に気にしつつ、開けてしまうのはみかんなんだろうなーー!とニヤニヤ待っていたら、まさか二人同時とは!一気に禁忌を破るのはおもしろすぎます。
敷居を踏む仕組みの話が出てきてなるほど結界を張って閉じ込めるのか!と思ったら物理!!!いや好きです。この展開もほんと好き。
最後のお食事も気味が悪くてすごく嫌で最高です。女将さん、それ、山菜とかに使う言葉なんですよ!
厄介
みかんの自己認識ー!!そう思ってそうなのも、実際はそうじゃないのも解釈一致です!わー大好き!
Biさんの美しい文章の中に生理的嫌悪を掻き立てるリアルな描写が入るとより際立って感じるので、所々わぎゃーー!と鳥肌を立ててました。怖がらせるのがお上手。
shishiri
DONEホラーアンソロジー『果物語』に掲載された皆さんの作品の中から。イラストと漫画の感想を……。個人宛でそれぞれ送らせていただいているので、ここでは手短に。【はとさん】
可愛い!カワイさがマシマシです!衣装デザインや、ちらっと見せる舌の違いに二人にらしさがでていますね!えげつない武器も似合う……!
【谷さん】
水彩の色合いの美しさに息を呑み、深淵に手を伸ばす蜜柑と光に向う檸檬の対比と構図。そして握られた手の力強さが素敵でした!
【マロさん】
コミカルでスタイリッシュなホラー。背後で蠕くモノたちの存在を、知ってか知らずか……。不敵な表情の果物が、とっても『らしくて』良かったです!
【たさきさん】
無数に伸びてくる不気味な手、じっとり見据える果物の表情。グリーンを基調にした色合いが、涼しげでもありまた不気味でもあって、素敵です!
【柴田さん】
果物+七尾くんで、ドタバタなホラーコメディが楽しかったです!そして、カッコよく決める果物のプロフェッショナルさよ!最後のはサービスシーンだと思って、有り難さに手を合わせました!
539可愛い!カワイさがマシマシです!衣装デザインや、ちらっと見せる舌の違いに二人にらしさがでていますね!えげつない武器も似合う……!
【谷さん】
水彩の色合いの美しさに息を呑み、深淵に手を伸ばす蜜柑と光に向う檸檬の対比と構図。そして握られた手の力強さが素敵でした!
【マロさん】
コミカルでスタイリッシュなホラー。背後で蠕くモノたちの存在を、知ってか知らずか……。不敵な表情の果物が、とっても『らしくて』良かったです!
【たさきさん】
無数に伸びてくる不気味な手、じっとり見据える果物の表情。グリーンを基調にした色合いが、涼しげでもありまた不気味でもあって、素敵です!
【柴田さん】
果物+七尾くんで、ドタバタなホラーコメディが楽しかったです!そして、カッコよく決める果物のプロフェッショナルさよ!最後のはサービスシーンだと思って、有り難さに手を合わせました!
tennin5sui
DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「浴衣」 流れるように人が詰めかけてくる。
その人数は、道を歩く人々が片端からこの小さな部屋に雪崩れ込んできているんじゃないか、と真剣に考えてしまうほどだ。やってくる女性たちは、わざわざ着替える必要はないのではないか、というくらい華やかな色合いの外行きの服を身につけている。それでも、彼女たちは嬉々として見た目に涼しげな、薄手の布地を緩く纏わせて、観光地へ繰り出して行く。
もっとも、蜜柑も檸檬も着替えの手伝いをするわけにもいかず、裏方で、二人には用途の分からない大量の布やら紐やらの入った段ボール箱の運搬をして、表の華やかさとは真反対の汗臭いTシャツで顔を拭っていた。
古刹が道なりに並ぶ、風光明媚な観光地は夏休みに合わせたかき入れ時で、この着物店の着付けの予約はスケジュール帳一杯に詰まっていた。来る客、来る客に手際良く浴衣を当てがい、帯を締め、会計を済ませる様は夏祭りの屋台を思わせる。今日の二人は、その戦場に物資を届ける補給係という役回りだった。すなわち、単純な力仕事である。
1337その人数は、道を歩く人々が片端からこの小さな部屋に雪崩れ込んできているんじゃないか、と真剣に考えてしまうほどだ。やってくる女性たちは、わざわざ着替える必要はないのではないか、というくらい華やかな色合いの外行きの服を身につけている。それでも、彼女たちは嬉々として見た目に涼しげな、薄手の布地を緩く纏わせて、観光地へ繰り出して行く。
もっとも、蜜柑も檸檬も着替えの手伝いをするわけにもいかず、裏方で、二人には用途の分からない大量の布やら紐やらの入った段ボール箱の運搬をして、表の華やかさとは真反対の汗臭いTシャツで顔を拭っていた。
古刹が道なりに並ぶ、風光明媚な観光地は夏休みに合わせたかき入れ時で、この着物店の着付けの予約はスケジュール帳一杯に詰まっていた。来る客、来る客に手際良く浴衣を当てがい、帯を締め、会計を済ませる様は夏祭りの屋台を思わせる。今日の二人は、その戦場に物資を届ける補給係という役回りだった。すなわち、単純な力仕事である。
HakuKamijyo
DOODLE14紅蓮パッチ4.5(漆黒入るまでみない方がいい)までのネタバレあり!6月の成果物。
ちゃんとした絵が描けないから鉛筆線画のデフォルメ描いてたもの(いっこ三月のあるけど装備でバレる可能性)
最後ダンジョン飯パロです 6
tennin5sui
DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「カメラ」盗人たけだけしい「後生大事そうにカメラを抱えてるけどな、実際のところ、何が大事なのか分かってんのかよ」
檸檬の言い分は、涙目の少年には通じていないように見えた。少年が抱えているカメラはどう見ても高級品だった。一眼レフと呼ぶのだろうか。百人にカメラを描きなさい、と指示をしたら、九十九人ともこうした、レンズの部分が出っ張った、重たそうな四角い物体を描いて寄越すだろう。残りの一人は絵心がない。
ちょっと見たところ、地面に落として、土っぽくはあるが、どこも故障しているようには見えない。精密機械はいかにも壊れました、という顔をしないから、外見で故障の判断をつけるのは難しいが、少年が大袈裟に怯え過ぎているのではないか、と蜜柑は思う。
1990檸檬の言い分は、涙目の少年には通じていないように見えた。少年が抱えているカメラはどう見ても高級品だった。一眼レフと呼ぶのだろうか。百人にカメラを描きなさい、と指示をしたら、九十九人ともこうした、レンズの部分が出っ張った、重たそうな四角い物体を描いて寄越すだろう。残りの一人は絵心がない。
ちょっと見たところ、地面に落として、土っぽくはあるが、どこも故障しているようには見えない。精密機械はいかにも壊れました、という顔をしないから、外見で故障の判断をつけるのは難しいが、少年が大袈裟に怯え過ぎているのではないか、と蜜柑は思う。