黄
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DOODLE水銀黄金 妙な男だった。
長い黒髪を黄色のリボンでひとつにまとめた、中性的な面立ちの男である。
旅行用のトランクの他に、大きな、それこそ両手で抱えなければいけない大きさの箱を持って、この宿の戸を叩いた。
なにぶん寂れた宿であるので、泊まりたいという客を拒否するようなことなど出来ない立場だ。
男が纏う陰鬱な雰囲気にのまれつつ、部屋に空きはあるか?という問いに頷いてしまったことを、今は後悔している。
男自体が不気味である、というのもそうなのだが、なにより肌身離さず持ち歩いてるらしい箱が恐ろしい。
ある日の午後のことである。
客室の清掃のために宿の中を移動していた男は、ふと部屋の中から話し声が聞こえることに気が付いた。
1105長い黒髪を黄色のリボンでひとつにまとめた、中性的な面立ちの男である。
旅行用のトランクの他に、大きな、それこそ両手で抱えなければいけない大きさの箱を持って、この宿の戸を叩いた。
なにぶん寂れた宿であるので、泊まりたいという客を拒否するようなことなど出来ない立場だ。
男が纏う陰鬱な雰囲気にのまれつつ、部屋に空きはあるか?という問いに頷いてしまったことを、今は後悔している。
男自体が不気味である、というのもそうなのだが、なにより肌身離さず持ち歩いてるらしい箱が恐ろしい。
ある日の午後のことである。
客室の清掃のために宿の中を移動していた男は、ふと部屋の中から話し声が聞こえることに気が付いた。
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DOODLE水銀黄金前提 ふと気が付けば、年単位で時間が過ぎ去っていた。
ぼんやりとしていた間も、染みついた習慣で諸々の処理は済ませているらしい。
端末からのフィードバックは、なにごとも順調に進んでいると伝えてきている。
記録を読むように、ぼんやりとしていた間の記憶を呼び起こす。
なにやらまぶしかったような気がする。白昼夢を見ていたような、そんな気分だ。
まだ白く焼けたままの視界には、きらきらと黄金の残滓が残っている。
何度か瞬けば、焦点が合い始めるが、輝かしいものの痕跡は網膜に残っていた。
242ぼんやりとしていた間も、染みついた習慣で諸々の処理は済ませているらしい。
端末からのフィードバックは、なにごとも順調に進んでいると伝えてきている。
記録を読むように、ぼんやりとしていた間の記憶を呼び起こす。
なにやらまぶしかったような気がする。白昼夢を見ていたような、そんな気分だ。
まだ白く焼けたままの視界には、きらきらと黄金の残滓が残っている。
何度か瞬けば、焦点が合い始めるが、輝かしいものの痕跡は網膜に残っていた。
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DOODLE水銀黄金/俳優。ばれんたいん「私の分は?」
何のことだ、とラインハルトは怪訝そうな表情で、ファンからのバレンタインプレゼントを整理していた手を止めて、いつの間にか自室にいた男を見上げた。
この男は新人時代に出演した作品の監督であり、今では勝手に部屋に出入りしているくらいには良き友人である。まあ、家の鍵を渡した記憶もないのだが、特に咎める必要性も感じないので出入りは好きにさせていた。
「卿の分、と言われてもな。マルグリットから渡されてないのか?」
「女神からはもらった」
そうであろう、とラインハルトは一度うなずいた。
なにせラインハルトは事前に相談されている。「今年一年変なこともしてないし、出演作だのなんだのでお世話になったのは確かだから」、とのことで、どのような贈り物が良いかとくだんの女神に尋ねられたのは、約1か月前のことである。
946何のことだ、とラインハルトは怪訝そうな表情で、ファンからのバレンタインプレゼントを整理していた手を止めて、いつの間にか自室にいた男を見上げた。
この男は新人時代に出演した作品の監督であり、今では勝手に部屋に出入りしているくらいには良き友人である。まあ、家の鍵を渡した記憶もないのだが、特に咎める必要性も感じないので出入りは好きにさせていた。
「卿の分、と言われてもな。マルグリットから渡されてないのか?」
「女神からはもらった」
そうであろう、とラインハルトは一度うなずいた。
なにせラインハルトは事前に相談されている。「今年一年変なこともしてないし、出演作だのなんだのでお世話になったのは確かだから」、とのことで、どのような贈り物が良いかとくだんの女神に尋ねられたのは、約1か月前のことである。
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DOODLE水銀黄金 珍しい役だと思いつつ、ラインハルトはベールの端を指でいじった。
ラインハルトのような男に花嫁よろしくベールを被せるものはそうそういないだろう。神秘的な雰囲気を演出したいということで、バルーンベールとロングベールが標準装備の今回の衣装はかなり動きにくい。
衣装合わせの最中のことだ。メイクもして、撮影用の衣装の組み合わせを試している時に、スタイリストは別のデザインのもののほうが似合うかもしれないと、アクセサリーを取りに席を外していた。
手持ち無沙汰になって、席を立ち、全身鏡の前に立ってみた。
「何をしている。衣装が崩れるだろう」
背中のほうを見ようと身をよじっていると、いつのまにか入ってきていた男がいた。
1068ラインハルトのような男に花嫁よろしくベールを被せるものはそうそういないだろう。神秘的な雰囲気を演出したいということで、バルーンベールとロングベールが標準装備の今回の衣装はかなり動きにくい。
衣装合わせの最中のことだ。メイクもして、撮影用の衣装の組み合わせを試している時に、スタイリストは別のデザインのもののほうが似合うかもしれないと、アクセサリーを取りに席を外していた。
手持ち無沙汰になって、席を立ち、全身鏡の前に立ってみた。
「何をしている。衣装が崩れるだろう」
背中のほうを見ようと身をよじっていると、いつのまにか入ってきていた男がいた。
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DOODLE水銀黄金 長い。
自身の口内に押し込まれた舌が、あきらかに長い。
唐突にくちづけられたことよりも、その異様さに気をとられたのが間違いだった。
あっさりと主導権を握られて、舌が口の中を暴れまわるのを許してしまう。
苦しさが勝って、自分よりよほど薄い肩を掴んで押しのけようとしたが、びくともしない。
じろりとにらみつけても、にまにまと目元が笑っている。
調子に乗って舌をからめてくるのに、どんどん苛立ちが湧き上がり、口内に侵入してきた舌を噛み切る勢いで歯を立てた。
ぶつりと皮のやぶれる感覚、どろと口内に広がった液体。血の味と匂いを錯覚した。
しかし、次の瞬間、あきらかに舌の傷からの出血とは思えない量の液体が口内を満たして、喉奥を目指す。ぞわ、と悪寒が走る。
673自身の口内に押し込まれた舌が、あきらかに長い。
唐突にくちづけられたことよりも、その異様さに気をとられたのが間違いだった。
あっさりと主導権を握られて、舌が口の中を暴れまわるのを許してしまう。
苦しさが勝って、自分よりよほど薄い肩を掴んで押しのけようとしたが、びくともしない。
じろりとにらみつけても、にまにまと目元が笑っている。
調子に乗って舌をからめてくるのに、どんどん苛立ちが湧き上がり、口内に侵入してきた舌を噛み切る勢いで歯を立てた。
ぶつりと皮のやぶれる感覚、どろと口内に広がった液体。血の味と匂いを錯覚した。
しかし、次の瞬間、あきらかに舌の傷からの出血とは思えない量の液体が口内を満たして、喉奥を目指す。ぞわ、と悪寒が走る。
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DOODLE水銀黄金 ろうそくの火が唐突に揺れた。どこからか忍び込んできた風が揺らしたのだろう。壁に伸びる陰影が異様に踊る。
手慰みに読んでいた聖書をぱたりと閉じて、ラインハルトは小さく笑った。
ささやかな光を頼りに本を読むのは、単にその雰囲気が気に入っているのもあるが、明るすぎると訴えてきたのがいるのも原因のひとつだ。
「やあ、影。今日も来たのか」
いつのまにかろうそくの光が届かない暗闇に、影が立っている。
影の輪郭は曖昧で、けれど確かにそこにいた。
ゆるりと伸びた影がラインハルトに触れて、そのカソックの袖などから忍びこむ。
他人が見たら、さながらホラー映画のワンシーンだろうが、ラインハルトにはこれはどちらかというと甘えに由来するものだと分かっていた。
435手慰みに読んでいた聖書をぱたりと閉じて、ラインハルトは小さく笑った。
ささやかな光を頼りに本を読むのは、単にその雰囲気が気に入っているのもあるが、明るすぎると訴えてきたのがいるのも原因のひとつだ。
「やあ、影。今日も来たのか」
いつのまにかろうそくの光が届かない暗闇に、影が立っている。
影の輪郭は曖昧で、けれど確かにそこにいた。
ゆるりと伸びた影がラインハルトに触れて、そのカソックの袖などから忍びこむ。
他人が見たら、さながらホラー映画のワンシーンだろうが、ラインハルトにはこれはどちらかというと甘えに由来するものだと分かっていた。
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DOODLE水銀黄金前提小話 何もかもがうまくいっていたはずだった。女神の時代の到来、さりとて友をなくすこともなく、子もまたおなじように。
だというのに、女神の治世からなんというのもがうまれたのか。うまれてしまったのか。
時が永遠に引き延ばされたかのようだった。みずからの手が届かぬなどと言う、望んだことが叶わないなどという、久しい感覚にあらゆる感覚が引き延ばされた。そのさきに起こることを、思考はあっさりと予想し、そして体がその未来に拒否反応をしめしている。
分かっている。そうされたとて、本人は気にはしないのだろう。私が許すかどうかはまた別として。それもまた一興と笑えてしまう男だ。なにもかもを愛し、おのれを傷つけるものだとていとしい。そういう男だった。
1004だというのに、女神の治世からなんというのもがうまれたのか。うまれてしまったのか。
時が永遠に引き延ばされたかのようだった。みずからの手が届かぬなどと言う、望んだことが叶わないなどという、久しい感覚にあらゆる感覚が引き延ばされた。そのさきに起こることを、思考はあっさりと予想し、そして体がその未来に拒否反応をしめしている。
分かっている。そうされたとて、本人は気にはしないのだろう。私が許すかどうかはまた別として。それもまた一興と笑えてしまう男だ。なにもかもを愛し、おのれを傷つけるものだとていとしい。そういう男だった。
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DOODLE水銀黄金「なにをしているんだ、卿は……」
その日もまどろんでいた。城の外に出れないとなると、暇な時間ばかり持て余してしまう。たまには部下を見に行きもするが、この城のなかでは実際に足を運ばなくても様子が分かってしまうのがいけない。うとり、うとりとまどろむ時間は増え続けていた。そう、まどろんでいたのだが。
ぐ、と半身に重みがかかったのに、自然と意識が浮上する。いつぶりの覚醒だろうか。まばたき一つのようにも、永遠にさめぬのかと思う程長かったようにも思える。
そうして、自身にぺっとりとひっついて眠る男を視界に移して、あきれた表情を浮かべたのだ。
「今日はニートの日なので」
それ以上口にするつもりはないらしい。この友人はそこそこに愉快な思考回路を持っているので、またなにかおかしなことを思いついたのだろうなあとすこし笑う。
632その日もまどろんでいた。城の外に出れないとなると、暇な時間ばかり持て余してしまう。たまには部下を見に行きもするが、この城のなかでは実際に足を運ばなくても様子が分かってしまうのがいけない。うとり、うとりとまどろむ時間は増え続けていた。そう、まどろんでいたのだが。
ぐ、と半身に重みがかかったのに、自然と意識が浮上する。いつぶりの覚醒だろうか。まばたき一つのようにも、永遠にさめぬのかと思う程長かったようにも思える。
そうして、自身にぺっとりとひっついて眠る男を視界に移して、あきれた表情を浮かべたのだ。
「今日はニートの日なので」
それ以上口にするつもりはないらしい。この友人はそこそこに愉快な思考回路を持っているので、またなにかおかしなことを思いついたのだろうなあとすこし笑う。
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DOODLE水銀黄金/一般人のやつと同設定 毎年クリスマスはあきらかに機嫌が上を向く友人を眺めながら、ラインハルトはちいさくあくびを噛み殺した。なにぶんまだ少年の域を出ない年頃だ。それに今日はクリスマスだ、学友と遊んできたものだから、余計に眠気が勝る。
主は来ませり、この世の闇路を照らしたもう妙なる光の主は来ませり。とくちずさむ友人は、うとうとと船をこぐラインハルトの髪を丁寧に梳かしていた。
この友人と出会ってから、切るタイミングを逃し続けた髪は、腰に届くほどに長く、日々の手入れは友人が嬉々としてやっている。
「自画自賛かな、カール」
あまりの眠さに、自分がなにを言っているのかも、あやふやであった。
「まさか」
うっすらと笑って、友人は纏めたラインハルトの髪の先にくちづけを落とす。
689主は来ませり、この世の闇路を照らしたもう妙なる光の主は来ませり。とくちずさむ友人は、うとうとと船をこぐラインハルトの髪を丁寧に梳かしていた。
この友人と出会ってから、切るタイミングを逃し続けた髪は、腰に届くほどに長く、日々の手入れは友人が嬉々としてやっている。
「自画自賛かな、カール」
あまりの眠さに、自分がなにを言っているのかも、あやふやであった。
「まさか」
うっすらと笑って、友人は纏めたラインハルトの髪の先にくちづけを落とす。
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DOODLE水銀黄金/現パロ小ネタ「ハイドリヒの愛猫だからといって容赦はせんぞ」
ふわあ、と猫は大きいあくびをして、ぐうとのびをした。じっとりと睨んでくる長い黒髪の男をよそに、薄く開けられた窓のそばで丸くなる。
なんとも暇な男である。ここで私を相手にぶちぶち文句を言っているより、ここの家主に構ってくれと言いにいったほうがなんぼか建設的だろう。
家主であるラインハルト・ハイドリヒが手ずから猫におやつを与えた日には、良くある光景であった。愛猫とはいうものの、猫は別にこの家で飼われているわけではない。
通りすがりの野良猫であるのだが、まあつまり、この男は遊びに来たすべての野良猫にこうやって絡んでいるのだ。
むにむにと頬を揉んでくる男の手を、猫はうっとうしそうに押しやった。
325ふわあ、と猫は大きいあくびをして、ぐうとのびをした。じっとりと睨んでくる長い黒髪の男をよそに、薄く開けられた窓のそばで丸くなる。
なんとも暇な男である。ここで私を相手にぶちぶち文句を言っているより、ここの家主に構ってくれと言いにいったほうがなんぼか建設的だろう。
家主であるラインハルト・ハイドリヒが手ずから猫におやつを与えた日には、良くある光景であった。愛猫とはいうものの、猫は別にこの家で飼われているわけではない。
通りすがりの野良猫であるのだが、まあつまり、この男は遊びに来たすべての野良猫にこうやって絡んでいるのだ。
むにむにと頬を揉んでくる男の手を、猫はうっとうしそうに押しやった。
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DOODLE水銀黄金/現パロ③。小ネタ ほろりと崩れては舞う薄紅の花吹雪の中、ラインハルトはふと立ち止まった。
どうにも予定が合わずに花見の約束は流れたが、このような花見日和に仕事で外を見る余裕もなさそうな友人に、せっかくだから雰囲気くらいは味わわせてやりたいものだ。
はなびらを潰さないようにそっと指先で受け止めて、ラインハルトは悪戯っぽく笑んだ。
「カール、カール」
鬱屈とした気持ちで書類にペンを走らせていたカールの肩を、ラインハルトが叩いた。
どこか楽し気な声音で、鬱屈とした気分も多少は紛れる。どうして医師になってしまったんだ、私は……と根本から振り返り始めたところであったので、友人が構ってくれるというのならやぶさかではなかった。
678どうにも予定が合わずに花見の約束は流れたが、このような花見日和に仕事で外を見る余裕もなさそうな友人に、せっかくだから雰囲気くらいは味わわせてやりたいものだ。
はなびらを潰さないようにそっと指先で受け止めて、ラインハルトは悪戯っぽく笑んだ。
「カール、カール」
鬱屈とした気持ちで書類にペンを走らせていたカールの肩を、ラインハルトが叩いた。
どこか楽し気な声音で、鬱屈とした気分も多少は紛れる。どうして医師になってしまったんだ、私は……と根本から振り返り始めたところであったので、友人が構ってくれるというのならやぶさかではなかった。
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DOODLE水銀黄金/現パロ②。小ネタ カール・クラフト=メルクリウスの朝は、だいたい友人の探偵事務所の仮眠室から始まる。
仕事終わりに立ち寄って、そのまま居着いているためだ。仮眠室とは名ばかりで、カールの部屋のようなものである。前回自宅に帰ったのが、いつのことか思い出せないくらいであった。
香ばしい珈琲の匂いが起床の合図だ。依頼の報酬としてコーヒーミルを手に入れてから、カールの友人はみずから豆を挽いて、珈琲を入れるのを朝の日課にしている。
仮眠室から出れば、窓辺に設置した席で事務所の主がコーヒーカップを片手に新聞を読んでいた。
朝日に照らされて、豪奢な黄金の髪がしっとりとした輝きを放つ。近くの机には朝食が用意されている。ベーコンとスクランブルエッグ、かりかりに焼かれたトーストに乗せられたバターのかけらが、熱でとろりと崩れた。
926仕事終わりに立ち寄って、そのまま居着いているためだ。仮眠室とは名ばかりで、カールの部屋のようなものである。前回自宅に帰ったのが、いつのことか思い出せないくらいであった。
香ばしい珈琲の匂いが起床の合図だ。依頼の報酬としてコーヒーミルを手に入れてから、カールの友人はみずから豆を挽いて、珈琲を入れるのを朝の日課にしている。
仮眠室から出れば、窓辺に設置した席で事務所の主がコーヒーカップを片手に新聞を読んでいた。
朝日に照らされて、豪奢な黄金の髪がしっとりとした輝きを放つ。近くの机には朝食が用意されている。ベーコンとスクランブルエッグ、かりかりに焼かれたトーストに乗せられたバターのかけらが、熱でとろりと崩れた。
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DOODLE水銀黄金/現パロ「や、名探偵。調子はどうだい?」
差し込んだ鍵を回せば、鍵が開く音がする。
ドアノブを回して事務所に入った途端、客用ソファに腰かけていた男がラインハルトの方に振り向いて微笑んだ。
腰に届く長い黒髪、笑みを含んだ紅い瞳、褐色の肌。身なりの良い男だ。整った顔立ちは涼し気で、切れ長のまなじりがともすれば冷たい印象を与えるが、常に浮かべられている笑みがそれらを和らげる。
「なんだ、卿か」
鍵がかかっていた事務所に人がいることは気にせず流して、ラインハルトは笑って男を歓迎した。
常連客、というにはいささか語弊があるか。
ラインハルトが開いている探偵事務所に、ちょくちょく顔を出している男である。
訪ねてくる度に、手土産といわんばかりにラインハルトの気を引きそうな依頼を持ち込んできていた。
1601差し込んだ鍵を回せば、鍵が開く音がする。
ドアノブを回して事務所に入った途端、客用ソファに腰かけていた男がラインハルトの方に振り向いて微笑んだ。
腰に届く長い黒髪、笑みを含んだ紅い瞳、褐色の肌。身なりの良い男だ。整った顔立ちは涼し気で、切れ長のまなじりがともすれば冷たい印象を与えるが、常に浮かべられている笑みがそれらを和らげる。
「なんだ、卿か」
鍵がかかっていた事務所に人がいることは気にせず流して、ラインハルトは笑って男を歓迎した。
常連客、というにはいささか語弊があるか。
ラインハルトが開いている探偵事務所に、ちょくちょく顔を出している男である。
訪ねてくる度に、手土産といわんばかりにラインハルトの気を引きそうな依頼を持ち込んできていた。
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DOODLE水銀黄金/黎明期(?) ラインハルト・ハイドリヒは思わず眉間を揉んだ。
なんだ、今のは。
軽く頭をふれば、短く整えたばかりの髪の毛先がうなじをかすめた。
とはいえ、目を閉じ続けていたところで話は進まない。
まぶたを持ち上げたラインハルトは、影のような男とふたたび目があった。
沈黙。
影のような男は、ラインハルトを見た後、おのれの手を見下ろして、もう一度ラインハルトを見た。
その手には紙に巻かれて纏められた金色の髪が握られている。
さきほどラインハルトから切り離されたばかりの髪だ。自室でみずから髪を短くしたばかりだった。
「……なにをしている」
問われて、影のような男はもう一度握りしめた髪束を見下ろして、ラインハルトを見た。そして、そっと髪束を包んだ紙を懐にしまった。
917なんだ、今のは。
軽く頭をふれば、短く整えたばかりの髪の毛先がうなじをかすめた。
とはいえ、目を閉じ続けていたところで話は進まない。
まぶたを持ち上げたラインハルトは、影のような男とふたたび目があった。
沈黙。
影のような男は、ラインハルトを見た後、おのれの手を見下ろして、もう一度ラインハルトを見た。
その手には紙に巻かれて纏められた金色の髪が握られている。
さきほどラインハルトから切り離されたばかりの髪だ。自室でみずから髪を短くしたばかりだった。
「……なにをしている」
問われて、影のような男はもう一度握りしめた髪束を見下ろして、ラインハルトを見た。そして、そっと髪束を包んだ紙を懐にしまった。
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DOODLE水銀黄金/おしょた水銀 おや、と目を覚ましたばかりのラインハルトは隣でちまこく丸まっている子供を見て瞬いた。ラインハルトの腕を抱え込み、水銀のような色艶の長い黒髪にくるまるようにして、すよすよと寝息をたてている子供。見る限りではおそらく、五、六歳といったところだろうか。昨晩共に寝台に入った男は、断じてこのようなちいさな子供ではなかったが。
そこで一度考えるのを打ち切って、ラインハルトはまじまじと子供を見た。
まあこれはこれで合ってはいるのかもしれない。普段のなかなか人の神経を逆なでする言動で気づきにくいし、本人も自覚があるとも思えないが、おそらくその精神はとても幼い。
しかしどうしたものかととくに起きる様子のない子供の頬をつっついても、むうとむずかるような声をあげるだけだった。ことこういった現象についてはこれが一番詳しいが、本人がこうなってしまった以上、自力で解決できない可能性もある。
3100そこで一度考えるのを打ち切って、ラインハルトはまじまじと子供を見た。
まあこれはこれで合ってはいるのかもしれない。普段のなかなか人の神経を逆なでする言動で気づきにくいし、本人も自覚があるとも思えないが、おそらくその精神はとても幼い。
しかしどうしたものかととくに起きる様子のない子供の頬をつっついても、むうとむずかるような声をあげるだけだった。ことこういった現象についてはこれが一番詳しいが、本人がこうなってしまった以上、自力で解決できない可能性もある。
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DOODLE水銀黄金 大の男がふたり寝転がっても十分に広い寝台で、まさか本当に大の男ふたりで寝転がるとは思わないだろう。そう思ったとたんに既視感が忍び寄ってくるのだから救いがない。いったい全体いつかの自分たちは何を思ってこんなことをしたというのか。この疑問とも長い付き合いだ。慣れ親しんだ疑問だけが胸の内にあり、答えはいまだに影も形もない。答えを出してもこの既視感はあるのだろうか。横になったまま、隣で眠っているふりをしている男の背をまるで子をあやすかのように一定のリズムで叩きながら、なんとも言えぬ表情を浮かべるしかない。
長い黒髪が白い敷布を覆って、まるで寝台の半分が影に沈んでいるかのようだ。すう、すう、とわざとらしい呼吸にあわせて友人の胸がふくらんではしぼむ。なんとも不思議な気持ちでそれを眺める。この友人はなるほど人の形をしているが、まっとうに人らしい生理現象を見せられると違和感は湧く。
1447長い黒髪が白い敷布を覆って、まるで寝台の半分が影に沈んでいるかのようだ。すう、すう、とわざとらしい呼吸にあわせて友人の胸がふくらんではしぼむ。なんとも不思議な気持ちでそれを眺める。この友人はなるほど人の形をしているが、まっとうに人らしい生理現象を見せられると違和感は湧く。
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DOODLE水銀黄金/モブ視点「……友人?」
虚をつかれた声だ。ゆっくりと瞬いて、その男はそれ以上の反応を見せずに、ただ微笑んだ。
おかしな男だ。
ラインハルト・ハイドリヒの近辺をうろちょろしているという噂の魔術師に対する第一印象はそれだった。
表情は微笑みのかたちに整えられているが、星々浮かぶ夜空のごとき瞳は異様に冷えていた。
ちょうど用事があったために、見覚えのある金髪を見つけて呼び止めたのが発端だった。
あたりさわりのない会話の間、魔術師はラインハルト・ハイドリヒのそばでにこにこしていたが、ラインハルトがついでと言った様子で互いを互いに紹介したあたりから、妙な圧を出すようになった。
ラインハルトがいたときはまだいいが、ラインハルトが部下に呼ばれて、一時的に離れた途端に自身に突き刺さる視線の不躾さがあがった。
824虚をつかれた声だ。ゆっくりと瞬いて、その男はそれ以上の反応を見せずに、ただ微笑んだ。
おかしな男だ。
ラインハルト・ハイドリヒの近辺をうろちょろしているという噂の魔術師に対する第一印象はそれだった。
表情は微笑みのかたちに整えられているが、星々浮かぶ夜空のごとき瞳は異様に冷えていた。
ちょうど用事があったために、見覚えのある金髪を見つけて呼び止めたのが発端だった。
あたりさわりのない会話の間、魔術師はラインハルト・ハイドリヒのそばでにこにこしていたが、ラインハルトがついでと言った様子で互いを互いに紹介したあたりから、妙な圧を出すようになった。
ラインハルトがいたときはまだいいが、ラインハルトが部下に呼ばれて、一時的に離れた途端に自身に突き刺さる視線の不躾さがあがった。
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DOODLE水銀黄金 シーツの上に形容しがたい液体が広がっている。
銀のような、光沢のある液体だ。
ラインハルトが横になってなお余裕がある寝台はそれなりに広いわけだが、液体はシーツの大部分を覆いつくしていた。シーツどころか、ラインハルトの体にもまとわりついている。
枕を腕の間に挟み込んで頬杖をついたラインハルトは、なんとも生温かい目でそれらを眺めた。
「……カールよ、そろそろ起きろ」
声をかけたところで応えはない。
だが、シーツ上に広がる水銀のごとき液体が波打った。
のろのろと一か所に集まり始めるそれに、苦笑を浮かべていたラインハルトは、液体の集合先がシーツの上でないことに、その美しい眉をすこし持ち上げて肩をすくめた。
625銀のような、光沢のある液体だ。
ラインハルトが横になってなお余裕がある寝台はそれなりに広いわけだが、液体はシーツの大部分を覆いつくしていた。シーツどころか、ラインハルトの体にもまとわりついている。
枕を腕の間に挟み込んで頬杖をついたラインハルトは、なんとも生温かい目でそれらを眺めた。
「……カールよ、そろそろ起きろ」
声をかけたところで応えはない。
だが、シーツ上に広がる水銀のごとき液体が波打った。
のろのろと一か所に集まり始めるそれに、苦笑を浮かべていたラインハルトは、液体の集合先がシーツの上でないことに、その美しい眉をすこし持ち上げて肩をすくめた。
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DOODLE水銀黄金。Kルートのあと ふと気が付くと、あたりは星々が漂う宙であった。
ぷかりとそのただなかに浮かんだまま、ラインハルトは好奇心のまま近くに漂っている星をつんとつついてみた。
つつかれた星は、押されるがまま滑ってゆき、別の星にぶつかった。
「それで良いのですか、獣殿」
降ってきた友の声に見上げれば、実に見慣れた顔がそこにある。
「良いもなにも、私はなにを選んでいるのかな、カール」
「もちろん、新しい主演を。何度でも作ればよいと言ったのはあなたではないですか」
ああ、そういえば、と後追いで記憶が蘇った。
核となるものと、それを補強するものをと。
体を起こして、あたりを見回す。上下左右も曖昧ななか、そこに立てるのだと思えば、立てた。
1092ぷかりとそのただなかに浮かんだまま、ラインハルトは好奇心のまま近くに漂っている星をつんとつついてみた。
つつかれた星は、押されるがまま滑ってゆき、別の星にぶつかった。
「それで良いのですか、獣殿」
降ってきた友の声に見上げれば、実に見慣れた顔がそこにある。
「良いもなにも、私はなにを選んでいるのかな、カール」
「もちろん、新しい主演を。何度でも作ればよいと言ったのはあなたではないですか」
ああ、そういえば、と後追いで記憶が蘇った。
核となるものと、それを補強するものをと。
体を起こして、あたりを見回す。上下左右も曖昧ななか、そこに立てるのだと思えば、立てた。
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DOODLE水銀黄金 仕切り板のむこうでそっと扉が閉まる音。抱えた後ろめたさや罪の自覚を吐露したものが出て行った。
告解室から出て行った信者が十分離れられる間を取って、ラインハルトもまた告解室から出るためにドアノブに手をかけた。
途端、引き留めるように仕切りの向こう側でかたんと微かな音がした。扉の開閉音ではない。椅子を引く際にわざと音を立てたのだろう。
仕切り板の下部にある格子付きの小窓越しに視線を向ければ、向かい側の椅子に誰かが座っているのが見える。
またか、とラインハルトは口元に微苦笑を浮かべた。離れたばかりの椅子に腰を下ろす。
語りだしはこうに違いない。
――これは私の息子とその恋人の話なのだが。
「これは私の息子とその恋人の話なのだが」
1245告解室から出て行った信者が十分離れられる間を取って、ラインハルトもまた告解室から出るためにドアノブに手をかけた。
途端、引き留めるように仕切りの向こう側でかたんと微かな音がした。扉の開閉音ではない。椅子を引く際にわざと音を立てたのだろう。
仕切り板の下部にある格子付きの小窓越しに視線を向ければ、向かい側の椅子に誰かが座っているのが見える。
またか、とラインハルトは口元に微苦笑を浮かべた。離れたばかりの椅子に腰を下ろす。
語りだしはこうに違いない。
――これは私の息子とその恋人の話なのだが。
「これは私の息子とその恋人の話なのだが」
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DOODLE水銀黄金「ハイドリヒ」
かろやかに、楽しげに話しかけてくる影に、すこしばかりの呆れを込めて少年は微笑んだ。
私の名前はそれではないと何度か訂正したが、この影ときたら聞き入れる素振りすらない。
生まれてこの方、この影以外にハイドリヒと呼ばれたことはないし、そう名乗ったこともない。影の他愛ない世間話に出てくる人物、出来事のなにもかもに覚えもない。
けれども、影に相対していると感じる言葉にし難い親近感は友情めいていて、楽しそうに女神がどうのと語る影を見ていると、はしゃぐこどもに対するような微笑ましさすら沸いてくる。
だから、良いのだろう、この男がそう呼ぶのなら。私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒなのだろう。
313かろやかに、楽しげに話しかけてくる影に、すこしばかりの呆れを込めて少年は微笑んだ。
私の名前はそれではないと何度か訂正したが、この影ときたら聞き入れる素振りすらない。
生まれてこの方、この影以外にハイドリヒと呼ばれたことはないし、そう名乗ったこともない。影の他愛ない世間話に出てくる人物、出来事のなにもかもに覚えもない。
けれども、影に相対していると感じる言葉にし難い親近感は友情めいていて、楽しそうに女神がどうのと語る影を見ていると、はしゃぐこどもに対するような微笑ましさすら沸いてくる。
だから、良いのだろう、この男がそう呼ぶのなら。私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒなのだろう。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/ふぁーすときすは血の味 がっ、と勢いよく衝突した。
何と何がといえば、水銀の蛇と黄金の獣が、だ。
「卿……」
蛇の方は口元を押さえて若干前かがみになりつつうめいているが、獣の方は同じく口元を押さえてはいるものの、衝突したのもなんのその、特に姿勢を崩すこともなく、なんとも生ぬるい笑みで蛇を見守っている。
獣がじんわりと痛む己が口端を指先でなぞれば、赤く潤った唇からなお鮮やかな紅が引き延ばされた。
獣よりも重傷な蛇が、歯が痛い……とぼやいた。
「であろうよ、今の勢いではな」
いや私も別に口づけのひとつもできないわけではないが、ただその、そう、距離感を間違えて。埒外の、美しいものを見るとき、ひとは感覚が狂うものでしょう。ええ、ですから、そういう。
398何と何がといえば、水銀の蛇と黄金の獣が、だ。
「卿……」
蛇の方は口元を押さえて若干前かがみになりつつうめいているが、獣の方は同じく口元を押さえてはいるものの、衝突したのもなんのその、特に姿勢を崩すこともなく、なんとも生ぬるい笑みで蛇を見守っている。
獣がじんわりと痛む己が口端を指先でなぞれば、赤く潤った唇からなお鮮やかな紅が引き延ばされた。
獣よりも重傷な蛇が、歯が痛い……とぼやいた。
「であろうよ、今の勢いではな」
いや私も別に口づけのひとつもできないわけではないが、ただその、そう、距離感を間違えて。埒外の、美しいものを見るとき、ひとは感覚が狂うものでしょう。ええ、ですから、そういう。
s_toukouyou
DOODLE四人でうみにあそびにいったはなし/水銀黄金が根底にある「どうした、ハイドリヒをそんなにじっと見つめて」
「いや、見つめてるってわけじゃなくてだな。単に、海来たのにあの人結構着こんだままだなって思っただけだよ」
ソフトクリームの屋台に並んでいるマリィとラインハルトを待っている間、眺めていただけである。見つめるとかではない。
レンの分も、買ってきてあげるね。とうれしそうにパレオのすそを揺らして飛び出していったマリィを追いかけようとしたが、ラインハルトにそっと止められたのがついさっきのこと。卿のために買ってきたいのだよ、彼女は。と微笑ましげにささやいて、ラインハルトがマリィを追いかけていった。あれは完全にはじめてのおつかいに張り切るこどもを見るそれであった。
1410「いや、見つめてるってわけじゃなくてだな。単に、海来たのにあの人結構着こんだままだなって思っただけだよ」
ソフトクリームの屋台に並んでいるマリィとラインハルトを待っている間、眺めていただけである。見つめるとかではない。
レンの分も、買ってきてあげるね。とうれしそうにパレオのすそを揺らして飛び出していったマリィを追いかけようとしたが、ラインハルトにそっと止められたのがついさっきのこと。卿のために買ってきたいのだよ、彼女は。と微笑ましげにささやいて、ラインハルトがマリィを追いかけていった。あれは完全にはじめてのおつかいに張り切るこどもを見るそれであった。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金/女神の治世で一般人してる獣殿と不審者してる水銀 彼にはすこしばかり不思議なところのある友人がいる。
いつ、どこで出会ったのかさえあやふやな、けども話の合う友人が。
それはいつの頃からか当然のように、彼の日常に紛れ込んでいた。ふとした瞬間に意識をむければそこにいて、視線が会えばにこりと微笑む。大抵の人間は気味悪く思うだろうが、彼は少々、いいや、人のそれとは思えない寛容さを持ち得ていたので、一度驚いたあとはそういうものなのだろうと受け入れた。
笑みには笑みを返し、挨拶には挨拶を。徐々に交わす言葉の量も増えて、彼らが互いを友と呼ばう日は存外早く訪れた。今思えば、それは最初から彼を友として扱っていたように思うし、彼もまた言い表せない友情をそれに抱いていたように思う。
2134いつ、どこで出会ったのかさえあやふやな、けども話の合う友人が。
それはいつの頃からか当然のように、彼の日常に紛れ込んでいた。ふとした瞬間に意識をむければそこにいて、視線が会えばにこりと微笑む。大抵の人間は気味悪く思うだろうが、彼は少々、いいや、人のそれとは思えない寛容さを持ち得ていたので、一度驚いたあとはそういうものなのだろうと受け入れた。
笑みには笑みを返し、挨拶には挨拶を。徐々に交わす言葉の量も増えて、彼らが互いを友と呼ばう日は存外早く訪れた。今思えば、それは最初から彼を友として扱っていたように思うし、彼もまた言い表せない友情をそれに抱いていたように思う。
s_toukouyou
DOODLE水銀黄金「ああ、まったく、戯れがすぎるのではないかな、獣殿」
遊びが行き過ぎているとたしなめるような、こんな序盤にご破算にされたのを抗議しているような、それはそれとしてこの男はこうあるべきなのだからと微笑ましく思っていそうな、そんな複雑な色合いの声だった。
大橋から落ちていく最中、ゆったりと引き延ばされた感覚は永遠にも似て。
遠ざかっていく光輝の化身のそばに、ぬるりと影が寄り添ったのを藤井蓮の目は捕らえていた。
不思議と彼らの会話は耳に届く。
「ふふ、卿の肝入りというから、つい、興が乗って」
「つい、で始まってすらいない劇に幕を下ろされては困りますな。雛が殻を破るのも待てぬあなたではありますまい」
影が刺そうとした釘を、光は微笑を持って受け流した。
995遊びが行き過ぎているとたしなめるような、こんな序盤にご破算にされたのを抗議しているような、それはそれとしてこの男はこうあるべきなのだからと微笑ましく思っていそうな、そんな複雑な色合いの声だった。
大橋から落ちていく最中、ゆったりと引き延ばされた感覚は永遠にも似て。
遠ざかっていく光輝の化身のそばに、ぬるりと影が寄り添ったのを藤井蓮の目は捕らえていた。
不思議と彼らの会話は耳に届く。
「ふふ、卿の肝入りというから、つい、興が乗って」
「つい、で始まってすらいない劇に幕を下ろされては困りますな。雛が殻を破るのも待てぬあなたではありますまい」
影が刺そうとした釘を、光は微笑を持って受け流した。
s_toukouyou
DOODLEいかべいドラマCDネタ/水銀黄金が根底にある「とまあ、このような感じだが。どうかな、ふたりとも。私がいかに彼女のことを素晴らしいと感じているのか、流石にこれで伝わっただろう」
えへんと若干胸を張っている魔術師に、白貌の吸血鬼はなんとも言い難い表情で己が主を仰ぎ見た。
「ハイドリヒ卿……」
そもそも言及したくない気持ちのあまり、つい途方に暮れた声で主の名を呼ぶと、主は軽く目を伏せて、首を横に振った。光をよりあわせて紡いだような金糸が動きにあわせて揺れる。
「言うな、ベイ」
白い手袋に包まれた主の人差し指が、吸血鬼の唇をそっと押さえた。
どっ、と血液すべてが押し出されたかの如く、心臓がつぶれたような気がした。体内をめぐる血液がそのまま皮膚を突き破って全身から放たれかねないここち。
598えへんと若干胸を張っている魔術師に、白貌の吸血鬼はなんとも言い難い表情で己が主を仰ぎ見た。
「ハイドリヒ卿……」
そもそも言及したくない気持ちのあまり、つい途方に暮れた声で主の名を呼ぶと、主は軽く目を伏せて、首を横に振った。光をよりあわせて紡いだような金糸が動きにあわせて揺れる。
「言うな、ベイ」
白い手袋に包まれた主の人差し指が、吸血鬼の唇をそっと押さえた。
どっ、と血液すべてが押し出されたかの如く、心臓がつぶれたような気がした。体内をめぐる血液がそのまま皮膚を突き破って全身から放たれかねないここち。
Mei_Akira
DOODLE是4.21写给降灰老师(微博id铁血织公)的生贺文,祝降灰老师生日快乐!注意:本文为原作向17的r18文,时间轴为六部后一切安定,一织陆已交往,在稳定发展恋情。全文接近3w,内含可能会雷到人的【一织询问陆对体位的意向】的设定,但一定是百分百0拆逆的铁血兔莓文,请对此感到雷的老师自行避开。内含:不成熟的黄色描写,手淫,口交,插入性行为,很多恶俗。角色属于i7,ooc属于我,感到不适请自行及时退出。 28750
夜太𓁣
INFOCoC_6th 報告.『アンハッピーエンドによろしく』
四十九院 天満月
/つるしいん あまみつつき
四十九院 黄泉胤
/つるしいん よみつき
──エンド1.生還.
この美しい月が悠久に、僕の隣にありますように。
三辺紗那
INFOCoC「Cat bless you!」 生還にて終了しました。KP/KPC:三辺 紗那/葛城 蛍
PL/PC:丹黄さん/壱之家 星
昼間に別の継続シナリオ行ってからのSAN値回復シナリオでした!
のんびりゆったりとイチャイチャしてきて可愛いなぁ…ってなってましたわ