yaji1_md
DONE心が疲れてしまった晩吟くんの話の曦臣視点(こっちは書き下し)(晩吟視点はこちらhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17829665です)
別名、悪い大人の話です
ツイートをまとめた話の別視点です。晩吟視点と同じ時の話を曦臣視点で書いたもの。
現代、大人曦臣と高校生晩吟です。年の差は10程。他注意書きはお手数ですが晩吟視点の方でご確認下さい。 9596
yuno
DONE #曦澄ワンドロワンライ の『お題:手』に参加しました。犬と戯れる江澄と、それをほのぼの見つめる藍曦臣と雲夢の民のお話です。【曦澄】お手を拝借「お手。そうだ、いい子だ。よしよし」
ご褒美だと言うようにわっしわっしと首元を撫で回す。褒められた犬は嬉しそうにハッハと舌を出しながらしっぽを振った。
本来のご主人そっちのけで嬉しそうにしっぽを振り、もう一回、もう一回とお手を繰り返す犬に、江澄も可愛いやつめと撫でくりまわした。
蓮の実のおやつももらって大興奮する犬に、こら、まだおすわりだと手のひらで示せば、言われた通り素直におすわりする。
「よく懐いていますね」
「私より宗主に従順なんですよ、こいつめ」
上下関係がよくわかっているんでさ。ちゃっかりした犬だと笑い飛ばす飼い主に、それは賢いと藍曦臣も破顔する。
「ほら、もう一回お手だ。待て、待て。一回伏せろ。待て。よーし、ご褒美だ」
2585ご褒美だと言うようにわっしわっしと首元を撫で回す。褒められた犬は嬉しそうにハッハと舌を出しながらしっぽを振った。
本来のご主人そっちのけで嬉しそうにしっぽを振り、もう一回、もう一回とお手を繰り返す犬に、江澄も可愛いやつめと撫でくりまわした。
蓮の実のおやつももらって大興奮する犬に、こら、まだおすわりだと手のひらで示せば、言われた通り素直におすわりする。
「よく懐いていますね」
「私より宗主に従順なんですよ、こいつめ」
上下関係がよくわかっているんでさ。ちゃっかりした犬だと笑い飛ばす飼い主に、それは賢いと藍曦臣も破顔する。
「ほら、もう一回お手だ。待て、待て。一回伏せろ。待て。よーし、ご褒美だ」
yuno
DONE現代AU曦澄+紫蜘蛛さま。街角で偶然出会った曦澄と虞夫人がお茶をする話です。虞夫人の前夫完全拒否話とも言います。フーミン絶許が書きたかっただけです。【現AU曦澄】再会「阿澄……?」
「母上……?」
交差点ですれ違いざまに目を見開いた。
視線の先にはよく似た顔があった。浮かべている表情までまったく同じ、驚愕の色をしている。
思わず足を止めたのも、双方同じ。
「……」
「……」
よく似た二人。誰もが血縁者と思うだろう二人は、けれど、今生においては血の繋がりはなかった。
親子であったのは遠い前世でのこと。
***
ここじゃなんだから。どこか近くの喫茶店にでも。
藍曦臣に促され、いつまでもこんなところで突っ立っていても通りの邪魔だろうと、場所を移した。
「阿澄、なのね」
「はい。母上もお元気そうで何よりです」
近くにあった喫茶店に入り、ぎこちなく再会の挨拶を交わす。現世の名を明かしつつ、互いに馴染みのないそれよりも、前世の名で呼び合うことに同意する。
4605「母上……?」
交差点ですれ違いざまに目を見開いた。
視線の先にはよく似た顔があった。浮かべている表情までまったく同じ、驚愕の色をしている。
思わず足を止めたのも、双方同じ。
「……」
「……」
よく似た二人。誰もが血縁者と思うだろう二人は、けれど、今生においては血の繋がりはなかった。
親子であったのは遠い前世でのこと。
***
ここじゃなんだから。どこか近くの喫茶店にでも。
藍曦臣に促され、いつまでもこんなところで突っ立っていても通りの邪魔だろうと、場所を移した。
「阿澄、なのね」
「はい。母上もお元気そうで何よりです」
近くにあった喫茶店に入り、ぎこちなく再会の挨拶を交わす。現世の名を明かしつつ、互いに馴染みのないそれよりも、前世の名で呼び合うことに同意する。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。オリキャラ視点の話。原作にはない捏造たくさん。ここから鬱展開のトンネルに入ります。明知不可而為之(五) 新年を迎える準備で江湖はそろそろ浮足立ち始めた。
一時ふしぎと増えていた妖魔鬼怪は降雪をさかいに季節の廻りに従ったのか激減した。領地の陳情も減って蓮花塢では久しぶりにゆったりとした時間が流れていた。若い門弟たちは鍛錬に力を入れているか遠方に実家があるものは帰省を始めている。
そんな中、白蓮蓮は崖の間に通した一本の綱の上でも歩かされているかのように神経を張りつめていた。
姉の白鳳梨(フォンリー)から店で師兄たちが師父と沢蕪君の仲を噂していたと聞いたからだ。姉によれば決してお二人の仲を歓迎している雰囲気ではなかったらしい。
お二人の仲が門弟の間で広まったらどうしようとそわそわしながら、蓮花塢内の様子を少女はこの一月ばかりこっそりうかがっていた。今のところは二人の関係について食客や門弟たちが下世話に噂し合っている様子はなかった。
14798一時ふしぎと増えていた妖魔鬼怪は降雪をさかいに季節の廻りに従ったのか激減した。領地の陳情も減って蓮花塢では久しぶりにゆったりとした時間が流れていた。若い門弟たちは鍛錬に力を入れているか遠方に実家があるものは帰省を始めている。
そんな中、白蓮蓮は崖の間に通した一本の綱の上でも歩かされているかのように神経を張りつめていた。
姉の白鳳梨(フォンリー)から店で師兄たちが師父と沢蕪君の仲を噂していたと聞いたからだ。姉によれば決してお二人の仲を歓迎している雰囲気ではなかったらしい。
お二人の仲が門弟の間で広まったらどうしようとそわそわしながら、蓮花塢内の様子を少女はこの一月ばかりこっそりうかがっていた。今のところは二人の関係について食客や門弟たちが下世話に噂し合っている様子はなかった。
yuno
DONE #曦澄ワンドロワンライ の『失せ物』にて。曦澄と叔父甥。失くしたと落ち込むじうじうを兄上が慰めていたら、幼児が颯爽と解決する話です。現パロ設定。二人はスケーターで、あーりんは5歳設定でじうじうと二人暮らし。(スケーター要素はこの話にはありません)【曦澄】大事なものだから「……ない……!」
何度見てもない。慌てて周りに落ちていないか探してみたが、見つからない。
江澄は青ざめた。
「ど、どこに行ったんだ……っ」
おかしい。昨夜、明日はこれをつけるからと出しておいたはず。それから今まで、手に取ったりはしていなかったはずだ。
ベッドサイドチェストの上の、空っぽになっているジュエリー用のトレーを、江澄は信じられない思いで見つめた。
失くしてしまったのは藍渙からもらったアメジストのピアスとリングだ。誕生日祝いにと揃いで贈られたそれらは、控えめなサイズながらも美しく光る石のカットが気に入っていた。
とても精巧な技術で、石や台座の留具が滑らかな手触りに仕上げられており、阿凌が触っても怪我をしないのも良い。藍渙が自分たちのことを考えて選んでくれたのだとよくわかる。
2127何度見てもない。慌てて周りに落ちていないか探してみたが、見つからない。
江澄は青ざめた。
「ど、どこに行ったんだ……っ」
おかしい。昨夜、明日はこれをつけるからと出しておいたはず。それから今まで、手に取ったりはしていなかったはずだ。
ベッドサイドチェストの上の、空っぽになっているジュエリー用のトレーを、江澄は信じられない思いで見つめた。
失くしてしまったのは藍渙からもらったアメジストのピアスとリングだ。誕生日祝いにと揃いで贈られたそれらは、控えめなサイズながらも美しく光る石のカットが気に入っていた。
とても精巧な技術で、石や台座の留具が滑らかな手触りに仕上げられており、阿凌が触っても怪我をしないのも良い。藍渙が自分たちのことを考えて選んでくれたのだとよくわかる。
巨大な石の顔
SPUR MEサンサーラシリーズ番外編。明知不可而為之(四)のつづきになりますが本編とするには短い話。うちの江澄もなかなか兄上を振り回しています。寒室の夜 寒室へ入ると、それまで誰もいなかったそこは外よりも冷たかった。
藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
2012藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
miniw0nder
DONE女子力の塊江澄と白ワンピ曦臣の待ち合わせと曦臣の過去の話と出会いの話。物凄く薄暗いしデート編はまだ続く。ちゃんと最後はハピエンなので安心してください。
回遊する蓮花早朝五時半起床、簡単に身支度を整えランニングウェアへと着替えるとラベンダー色のイヤホンを耳に。端末を操作してお気に入りのプレイリストを流したら、未だ寝静まったままの家を静かに出た。
早朝にランニングをして、余裕があれば素振りをして、朝ごはんを食べて。
そうしてみんなが起きてくる頃には部屋に引っ込む。
それが『俺』のモーニングルーティンだ。
誰が好き好んで針のむしろに座っててやるか。
なにしろ、どんなに取り繕おうとしたって家族全員に見破られるのだ。
だから、部活の練習がない日曜日は俺にとって酷く退屈で、ただただ勉強をして大人しく過ごす物足りない日だった。
だからこそ、曦臣との待ち合わせは早い時間帯にした。
10時に駅で待ち合わせようと約束したのは、毎日送り迎えのついている曦臣が電車を使ったことがないだろうと思ったからだった。
5210早朝にランニングをして、余裕があれば素振りをして、朝ごはんを食べて。
そうしてみんなが起きてくる頃には部屋に引っ込む。
それが『俺』のモーニングルーティンだ。
誰が好き好んで針のむしろに座っててやるか。
なにしろ、どんなに取り繕おうとしたって家族全員に見破られるのだ。
だから、部活の練習がない日曜日は俺にとって酷く退屈で、ただただ勉強をして大人しく過ごす物足りない日だった。
だからこそ、曦臣との待ち合わせは早い時間帯にした。
10時に駅で待ち合わせようと約束したのは、毎日送り迎えのついている曦臣が電車を使ったことがないだろうと思ったからだった。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。モブ門弟たち視点の兄上と江澄の話です。明知不可而為之(三.五) 旗未動、風也未動、是人的心自己在動
(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
10706(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。とうとう兄上と江澄がキスするお話。明知不可而為之(二) 藍宗主が閉関を解いてからときは少し進み、雲深不知処で何年かぶりに清談会が開かれた。当主の誕生日も近くその復帰祝いもかねていたので、暗黙の了解として常よりも仙門百家の人々は着飾って参加していた。
人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
14755人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。兄上と江澄がキスしそこなった話。明知不可而為之(一) いちばんになりたかった。
あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
12967あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ番外編。オリキャラに私の江澄への愛を叫ばせている話。時系列は天人五衰の五と六の間です。師父の姿絵「残忍」「気性が荒い」「人の話を聞かない独裁者」「しょっちゅう機嫌が悪くてうっぷん晴らしに子弟を殴っている」「六芸の大会で優勝しなかったら子弟は鞭打ちの刑に処される」「いつも人を貶してばかりでほめることはない」「夷陵老祖が憎くて鬼道を使ったやつをひっ捕まえて殺している」「自分が殺したくせに、気が触れて夷陵老祖は死んでないと思い込んでいる」「よみがえって復讐されるのが怖いから血眼になって探している」「温姓というだけで陳情に言っても門前払いだった」「庶民が困っていてもまったく助けてくれない」「血も涙もない鬼だ」「あんな冷酷でまわりをみていない宗主じゃ雲夢はもうだめだ。江楓眠さまのときが懐かしい」
蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。
11526蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。兄上がとうとう天人から人間になる話。天人五衰(六) ほどなくして江宗主は上半身を動かせるようになった。下半身はしびれが残っていてまだしっかり床に立てそうになかったが確実に彼は回復してきていた。
雲夢江氏からは白蓮蓮によって毎日蓮の花のしずくが届けられている。雲深不知処からも滋養強壮にいい野菜や薬草が届けられた。届けにきたのは江澄が命がけで助けた少年だった。
少年は江宗主と藍宗主に挨拶へきた。太い眉が凛々しい彼は礼儀正しくかしこまっていて恭しかった。その折り目正しい様子から幼いときの弟を藍曦臣は懐かしく思い出す。
弟の藍忘機はいつの間にか兄を追い越して自分の道を歩き、運命を掴んだ。母が忘機には『お前は人間よ』とわざわざ言わなかった理由が今の兄には理解できた。弟は人間だったからだ、はじめから。
7320雲夢江氏からは白蓮蓮によって毎日蓮の花のしずくが届けられている。雲深不知処からも滋養強壮にいい野菜や薬草が届けられた。届けにきたのは江澄が命がけで助けた少年だった。
少年は江宗主と藍宗主に挨拶へきた。太い眉が凛々しい彼は礼儀正しくかしこまっていて恭しかった。その折り目正しい様子から幼いときの弟を藍曦臣は懐かしく思い出す。
弟の藍忘機はいつの間にか兄を追い越して自分の道を歩き、運命を掴んだ。母が忘機には『お前は人間よ』とわざわざ言わなかった理由が今の兄には理解できた。弟は人間だったからだ、はじめから。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。毒に倒れた江澄の看病をする兄上のお話。天人五衰(五) 魏無羨たちが嵐のように来て帰った翌朝。ようやく江宗主の意識は戻ったが、四肢のしびれがとれず体を自由に動かせないのでしばらく金麟台へ滞在することになった。
当分は主管が雲夢江氏の執務を遂行するが、やはり宗主の判断や決定が必要なことなどはここまで来て江宗主と相談することになった。
江宗主が毒霧に倒れた事件により、その正体が金家の子弟にも知れ渡りつつある絵師はどうしたかというと、彼もやはり金麟台へ残った。
彼の身を案じるとともにそばから離れたくないという気持ちがあったからだ。
表向きは、『子弟の夜狩りを遠くから見守っていた藍宗主が、怪我をした姑蘇藍氏の子弟を助け毒霧を浴びてしまった江宗主にその恩を返すため彼の看病に金麟台へ残った』ということとした。事実にウソを混ぜ込むと事実は際立つのだ。
6463当分は主管が雲夢江氏の執務を遂行するが、やはり宗主の判断や決定が必要なことなどはここまで来て江宗主と相談することになった。
江宗主が毒霧に倒れた事件により、その正体が金家の子弟にも知れ渡りつつある絵師はどうしたかというと、彼もやはり金麟台へ残った。
彼の身を案じるとともにそばから離れたくないという気持ちがあったからだ。
表向きは、『子弟の夜狩りを遠くから見守っていた藍宗主が、怪我をした姑蘇藍氏の子弟を助け毒霧を浴びてしまった江宗主にその恩を返すため彼の看病に金麟台へ残った』ということとした。事実にウソを混ぜ込むと事実は際立つのだ。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。兄上が江澄への片思いを自覚する話。オリキャラが出ます。天人五衰(四) 涅槃へ行って阿瑶へ謝ることさえも許されないのか。涅槃へ行っても彼らはまだいないのだ。
藍曦臣は嘆きのあまり顔を覆った。
彼らの魂が来世を望んであの狭い棺桶から抜け出るだろうと思い込んでいた。自身の見通しの甘さにも気分が悪い。どうして私はいつまでたっても愚かなのか。
聶懐桑が帰ってから寒室にいたときのように深い自己嫌悪の沼に陥っていた。
もはや金麟台に彼が滞在する意味を見出せなかった。明日にでも雲深不知処へ戻り再度の閉関をすべきだろうかと悩んでいたその矢先。
どんどんと激しく部屋の扉を叩かれた。
こんな夜更けに何ごとだろう、きっとろくでもないことだと今は気分がすこぶるよくない藍曦臣は無視を決め込んだ。しかし扉を叩く音は止むことはなかった。
7604藍曦臣は嘆きのあまり顔を覆った。
彼らの魂が来世を望んであの狭い棺桶から抜け出るだろうと思い込んでいた。自身の見通しの甘さにも気分が悪い。どうして私はいつまでたっても愚かなのか。
聶懐桑が帰ってから寒室にいたときのように深い自己嫌悪の沼に陥っていた。
もはや金麟台に彼が滞在する意味を見出せなかった。明日にでも雲深不知処へ戻り再度の閉関をすべきだろうかと悩んでいたその矢先。
どんどんと激しく部屋の扉を叩かれた。
こんな夜更けに何ごとだろう、きっとろくでもないことだと今は気分がすこぶるよくない藍曦臣は無視を決め込んだ。しかし扉を叩く音は止むことはなかった。
yuno
DONEタイトルのまんま、定期的に猫になるようになった江宗主とでれでれしてる藍宗主のほのぼの話です。とってもなかよし曦澄。【曦澄】猫になる江宗主月に一度、江宗主は猫になる。期間は三日ほど。
なんだかわからないがそういうことになった。
やれ邪宗の呪いかとはじめの頃はひと騒ぎあったが、都合のいいことに雲夢の危機となればたちどころに元に戻るので、平時ならまあいいかということになった。
宗主は働きすぎなのでたまには休んでくださいということらしい。
猫になっている間は記憶も曖昧で、猫の習性が表に出るらしい。気難しそうな江宗主の面影は多分にあるものの、概ね普通に猫だった。
目つきも爪も鋭く、気位が高くて喧嘩っ早く、そして強いところは、猫になってもさすがは三毒聖手である。
さて、たとえ月に三日であろうとも宗主が猫になるなど、重大な機密事項である。このことは蓮花塢の中でも機密中の機密、限られた者しか知らない……と本来はなるべきなのだが、あいにくと主管たち幹部だけでなく、門弟や家僕たちも皆知っていた。
2152なんだかわからないがそういうことになった。
やれ邪宗の呪いかとはじめの頃はひと騒ぎあったが、都合のいいことに雲夢の危機となればたちどころに元に戻るので、平時ならまあいいかということになった。
宗主は働きすぎなのでたまには休んでくださいということらしい。
猫になっている間は記憶も曖昧で、猫の習性が表に出るらしい。気難しそうな江宗主の面影は多分にあるものの、概ね普通に猫だった。
目つきも爪も鋭く、気位が高くて喧嘩っ早く、そして強いところは、猫になってもさすがは三毒聖手である。
さて、たとえ月に三日であろうとも宗主が猫になるなど、重大な機密事項である。このことは蓮花塢の中でも機密中の機密、限られた者しか知らない……と本来はなるべきなのだが、あいにくと主管たち幹部だけでなく、門弟や家僕たちも皆知っていた。
miniw0nder
DONEにょたゆり曦澄 現代AU 記憶なし曦臣と、記憶なし晩吟の中に記憶あり江澄がいる話。続く。ベッターと同じ。内在する貴方「貴方のことが好きです」
千年に一人の美少女も恐れおののいて隣に並ぶことを辞退しそうなほどに目の前の人物はそれはもう綺麗で。きっと世界中の女性たちが羨んでしまうに違いないほどその肌は白く、きっと日焼けなどしたこともないのだろうなあと、晩吟はぼんやりと考える。
自分など元々色白でもない肌に加えてすぐに焼けて赤くなり皮がむけるのだ。
あれはいただけない。皮がむけている最中の肌の汚いこと。できれば家族にだって見せたくない姿である。
「…あの…?」
小首を傾げるその姿すらも美しい。この世にこんな生き物がいて良いのだろうか。
なんならこの人うちの学校の制服を着ていないか?同級生にいたら気が付いているはずだから後輩…な訳はないし先輩か。
5670千年に一人の美少女も恐れおののいて隣に並ぶことを辞退しそうなほどに目の前の人物はそれはもう綺麗で。きっと世界中の女性たちが羨んでしまうに違いないほどその肌は白く、きっと日焼けなどしたこともないのだろうなあと、晩吟はぼんやりと考える。
自分など元々色白でもない肌に加えてすぐに焼けて赤くなり皮がむけるのだ。
あれはいただけない。皮がむけている最中の肌の汚いこと。できれば家族にだって見せたくない姿である。
「…あの…?」
小首を傾げるその姿すらも美しい。この世にこんな生き物がいて良いのだろうか。
なんならこの人うちの学校の制服を着ていないか?同級生にいたら気が付いているはずだから後輩…な訳はないし先輩か。
yuno
DONE曦澄で『100万回生きたねこ』のオマージュのつもりで書き始めました。死にオチはありません、末永く爆発しろリア充的なオチです。そばにいてもいいかい?いいぞ、がやりたかったんです。【曦澄】百万回断った男藍曦臣はこれまで幾度となく見合いの申込みを断ってきた。
物心ついた頃から縁を結びたいとの申し入れが後を絶たず、毎日釣書が届いたが、そのいずれにも色よい返事をしたことはない。
だが、何度断りの返事をしたためても、申し入れが絶えることはなかった。
「もしかしたら、私はもう百万回は断りの返事を書いたのではないだろうか」
そんなため息が漏れる。どうして皆諦めてくださらないのか。
不肖のこの身を望んでくださるのは有り難いこと。けれど、未だ婚姻を願う気持ちに藍曦臣はなれなかった。
中にはすでに断ったと言うのに、年月を置いて、娘を変えて、再び釣書を送ってくる世家もある。
そうして積み上げられる釣書に、恋文に、ぜひ見合いをとの書簡に断りの返事を書き続けて幾星霜。
5213物心ついた頃から縁を結びたいとの申し入れが後を絶たず、毎日釣書が届いたが、そのいずれにも色よい返事をしたことはない。
だが、何度断りの返事をしたためても、申し入れが絶えることはなかった。
「もしかしたら、私はもう百万回は断りの返事を書いたのではないだろうか」
そんなため息が漏れる。どうして皆諦めてくださらないのか。
不肖のこの身を望んでくださるのは有り難いこと。けれど、未だ婚姻を願う気持ちに藍曦臣はなれなかった。
中にはすでに断ったと言うのに、年月を置いて、娘を変えて、再び釣書を送ってくる世家もある。
そうして積み上げられる釣書に、恋文に、ぜひ見合いをとの書簡に断りの返事を書き続けて幾星霜。
pk_3630
MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ⑦曦臣によって別邸に連れ去られ寵愛を受けるも不安が拭えない江澄
次くらいで最終話になる予定ですが長くなってしまったので最後はまとめて支部にあげようかと思ってます。ここまで読んでくれた方々を裏切らないようなラストにします!
平安時代AU 第7話三日目の晩が明ける頃、江澄は準備していた言葉をやっと曦臣に伝えた。
「曦臣、そろそろ私も宮中に戻ります。これ程長くお休みをいただいたのは初めてですし、もう仕事に戻らないと」
金家に行かずに帝の別邸に行った。しかもそこで三日も過ごしたことが宮中でどう広まっているか予想はできる。きっと入宮した時以上に悪い噂が広まり腫物のように扱われるだろうとわかっていた。しかし、江澄の居場所は宮中にしかなく、時が経てば経つほどに戻りづらくなるだろうと、悩んだ末にその言葉を発したのだ。
その言葉を聞いた途端、それまで心底嬉しそうに腕の中の江澄の髪を撫でていた曦臣が少し困った顔をした。
「まだ色々と準備を整えないといけないから、私が呼び寄せるまではここにいて。宮中のことも阿澄が心配することは何もないよ。」
4862「曦臣、そろそろ私も宮中に戻ります。これ程長くお休みをいただいたのは初めてですし、もう仕事に戻らないと」
金家に行かずに帝の別邸に行った。しかもそこで三日も過ごしたことが宮中でどう広まっているか予想はできる。きっと入宮した時以上に悪い噂が広まり腫物のように扱われるだろうとわかっていた。しかし、江澄の居場所は宮中にしかなく、時が経てば経つほどに戻りづらくなるだろうと、悩んだ末にその言葉を発したのだ。
その言葉を聞いた途端、それまで心底嬉しそうに腕の中の江澄の髪を撫でていた曦臣が少し困った顔をした。
「まだ色々と準備を整えないといけないから、私が呼び寄せるまではここにいて。宮中のことも阿澄が心配することは何もないよ。」
yuno
DONE #曦澄ワンドロワンライ 『嘘』にて。双傑がほのぼのお茶してます。夫が嘘をつかないっていいね、俺たちは幸せ者だなあってしみじみする話です。【曦澄】幸せなこと「嘘つき! 私を愛しているって言葉も全部嘘だったのね!」
ガシャーン。
卓上の茶器が床に落ちる。器は音を立てて割れたが、店員は片付けにも行けず、困ったように遠巻きにしているばかり。
だが、それもそうだろう。なにせ店内では今、男女の修羅場が絶賛展開中なのだった。
「もう何もかも信じられないわ! いったい私の他に何人の女に手を出していたの?!」
女の怒声が響く。金切り声のそれは店中に響いていた。間違いなく外にも聞こえているだろう。
江澄はその光景を苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた。とりあえず五月蝿い。
「すげえなあ」
魏無羨は初めこそ野次馬根性を出してニヤニヤしていたが、口を開くたびに感情の高ぶりが増していく女の男を責め詰る言葉に苦い記憶を思い出したらしい。顔を引きつらせて乾いた笑いを浮かべるようになるまでそう時間はかからなかった。
2955ガシャーン。
卓上の茶器が床に落ちる。器は音を立てて割れたが、店員は片付けにも行けず、困ったように遠巻きにしているばかり。
だが、それもそうだろう。なにせ店内では今、男女の修羅場が絶賛展開中なのだった。
「もう何もかも信じられないわ! いったい私の他に何人の女に手を出していたの?!」
女の怒声が響く。金切り声のそれは店中に響いていた。間違いなく外にも聞こえているだろう。
江澄はその光景を苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた。とりあえず五月蝿い。
「すげえなあ」
魏無羨は初めこそ野次馬根性を出してニヤニヤしていたが、口を開くたびに感情の高ぶりが増していく女の男を責め詰る言葉に苦い記憶を思い出したらしい。顔を引きつらせて乾いた笑いを浮かべるようになるまでそう時間はかからなかった。
narehate42
DONEワンライ/嘘嘘 意識が浮上する。
ひとつまたたいた。まだ、夜のさなかだ。
刻限はわからないが、夜明けは遠いだろう。
身じろぐと、背後から伸びる腕が体にしっかりと絡みついているのに気づいた。
目を覚ましているのかとしばらく様子をうかがってみる。耳元に規則的な寝息が聞こえてくる。では、眠っていてこれか。
身動きも取れそうにない。水を飲みたかったが仕方がない。払暁までもうひと眠りするかと目を閉じた。
この腕の中だけが帰る場所であったなら。
一体それはどんな幸福で、どんな恐怖だろうか。
子供を静かにさせるときにはお決まりの「嘘(シーッ)」という動作だ。
でもそれを、あろうことかその名も高き沢蕪君がやっているというのは、ちょっと見ない光景である。
2085ひとつまたたいた。まだ、夜のさなかだ。
刻限はわからないが、夜明けは遠いだろう。
身じろぐと、背後から伸びる腕が体にしっかりと絡みついているのに気づいた。
目を覚ましているのかとしばらく様子をうかがってみる。耳元に規則的な寝息が聞こえてくる。では、眠っていてこれか。
身動きも取れそうにない。水を飲みたかったが仕方がない。払暁までもうひと眠りするかと目を閉じた。
この腕の中だけが帰る場所であったなら。
一体それはどんな幸福で、どんな恐怖だろうか。
子供を静かにさせるときにはお決まりの「嘘(シーッ)」という動作だ。
でもそれを、あろうことかその名も高き沢蕪君がやっているというのは、ちょっと見ない光景である。
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REHABILI520、我愛你の日。皆様の曦澄絵と曦澄文が素晴らしくて打ち込んでしまった。
名前も何も出てこないですが、藍曦臣と江晩吟のCP です。
短編ですが読んでいただけたら幸いです。
運命の染色体季節は巡る。
その中でも変わらないものがある。
言葉にしないと通じ合えないものだろうか。
夜酒を嗜みながら、ふと、愛しき相手の横顔をみる。
精悍な顔立ちで凛々しく微笑んでいる貴方の姿が何よりも愛おしい。
酒でほんのりと顔が紅くなっている麗しき端麗な顔立ちに思わず女性と間違えてしまいそうになる。
そんな愛しき貴方。
生誕は一緒にお祝いしたい。
なんなら記念日も一緒に寄り添っていたい。
赤い糸の染色体が掛け合わせてくれた天命の人だから。
ひとつの命として産まれてくることができればいいのに。それは不可能かな。
一緒に生きて共に死を迎えたい。
そんな風に貴方は思ってくれていますか?
貴方は私の天命の人です。
赤い運命の染色体が引き合わせて心同士を引き寄せてくれたのです。
555その中でも変わらないものがある。
言葉にしないと通じ合えないものだろうか。
夜酒を嗜みながら、ふと、愛しき相手の横顔をみる。
精悍な顔立ちで凛々しく微笑んでいる貴方の姿が何よりも愛おしい。
酒でほんのりと顔が紅くなっている麗しき端麗な顔立ちに思わず女性と間違えてしまいそうになる。
そんな愛しき貴方。
生誕は一緒にお祝いしたい。
なんなら記念日も一緒に寄り添っていたい。
赤い糸の染色体が掛け合わせてくれた天命の人だから。
ひとつの命として産まれてくることができればいいのに。それは不可能かな。
一緒に生きて共に死を迎えたい。
そんな風に貴方は思ってくれていますか?
貴方は私の天命の人です。
赤い運命の染色体が引き合わせて心同士を引き寄せてくれたのです。
pk_3630
MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ⑥今回ちょっとだけセンシティブな表現があります。
江澄を絶対逃がしたくないという独占欲ゆえに宮中から江澄を攫って隠しちゃう曦臣
平安時代AU 第6話「あなたは物の怪の気に当てられたのでしばらく宮中を出ていなさい」
自分より高位の女官に突然そんなことを言われ江澄は途方に暮れた。
普通であれば実家に里帰りをすれば済む話なのだが、あの実家に戻りたくはない。入宮してから一度も帰っていないのだ。
幼い子がいる姉には悪いと思ったが、数日だけ金家の広大な屋敷の片隅に置いてもらおうと早馬で文を出すと、優しい姉は是非屋敷にいらっしゃいと快諾してくれた。姉の香がする手紙を見ると懐かしさに胸がきゅっと締め付けられてしまい、すぐに仕度をして牛車に乗った。
「姫様、一の姫様にお会いするのは左大臣家の姫君の裳着の式以来でございますね」
「ええ」
「若君も大きくおなりでしょう。お会いするのが楽しみでございますね」
3595自分より高位の女官に突然そんなことを言われ江澄は途方に暮れた。
普通であれば実家に里帰りをすれば済む話なのだが、あの実家に戻りたくはない。入宮してから一度も帰っていないのだ。
幼い子がいる姉には悪いと思ったが、数日だけ金家の広大な屋敷の片隅に置いてもらおうと早馬で文を出すと、優しい姉は是非屋敷にいらっしゃいと快諾してくれた。姉の香がする手紙を見ると懐かしさに胸がきゅっと締め付けられてしまい、すぐに仕度をして牛車に乗った。
「姫様、一の姫様にお会いするのは左大臣家の姫君の裳着の式以来でございますね」
「ええ」
「若君も大きくおなりでしょう。お会いするのが楽しみでございますね」
pk_3630
MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ⑤曦臣の元を離れようと画策する江澄とそれを知ってしまった曦臣
すれ違いが加速してます
平安時代AU 第5話江澄は朝の光がさす部屋で文机に向かい、さらさらと返歌をしたためていた。
「姫様、そろそろ宮殿に向かいませんと」
「今行く」
侍女に呼ばれ部屋を出ようとして、ふと振り返る。曦臣から贈られた部屋、逢瀬の思い出に満ちた場所がきらきらと光を取り込んでいた。
(この部屋で暮らすのも、蓮花の香を纏うのも後少しになるだろう。宮中を去ることをいつ曦臣に切り出そうか。)
女官の職を辞し宮中を去ることを告げた時、曦臣はどんな反応をするだろうか。引き留められるのも辛いし、実父のように無関心に振舞われるのも辛い。では快く送り出されれば辛くないのだろうか、きっとそれも違う。
結局どんな反応にせよ江澄の心は乱れ、生涯乱れた心が凪ぐことはないのかもしれない。それ程に曦臣のことを想っている。本当は曦臣の反応を目にするのが怖くて、何も言わずにひっそりと宮中を去ってしまいたい。けれど今日まで情けをかけてくれた曦臣に何も告げないという不義理を働き、その元を辞する真似はしたくなかった。
2147「姫様、そろそろ宮殿に向かいませんと」
「今行く」
侍女に呼ばれ部屋を出ようとして、ふと振り返る。曦臣から贈られた部屋、逢瀬の思い出に満ちた場所がきらきらと光を取り込んでいた。
(この部屋で暮らすのも、蓮花の香を纏うのも後少しになるだろう。宮中を去ることをいつ曦臣に切り出そうか。)
女官の職を辞し宮中を去ることを告げた時、曦臣はどんな反応をするだろうか。引き留められるのも辛いし、実父のように無関心に振舞われるのも辛い。では快く送り出されれば辛くないのだろうか、きっとそれも違う。
結局どんな反応にせよ江澄の心は乱れ、生涯乱れた心が凪ぐことはないのかもしれない。それ程に曦臣のことを想っている。本当は曦臣の反応を目にするのが怖くて、何も言わずにひっそりと宮中を去ってしまいたい。けれど今日まで情けをかけてくれた曦臣に何も告げないという不義理を働き、その元を辞する真似はしたくなかった。
yuno
DONE #曦澄ワンドロワンライ の『音』に参加しました。音というか韻です。江澄の字である江晩吟の音の響きが好きな藍曦臣のお話。お互いの名や字を褒め合ってます。大人な雰囲気を出したかった。終始ご機嫌な二人。【曦澄】耳に心地よく瞼の裏に鮮やかに「貴方の字が好きだ。晩吟」
江晩吟。音韻を噛みしめるように口にする。己の字をとても美しいもののようにこの人は言う。
「字面もすっきりしている。無駄がなくすらりとして美しい。まさに貴方のようだ」
「そうか?」
「うん。私は貴方を字で呼ぶのが好きだ。韻が美しい。呼ぶ声が耳に心地いい。自分の声だというのに不思議だね。貴方に字を贈った方は趣味が良い」
晩吟。晩吟。藍曦臣が繰り返し呼ぶ。柔らかな声だった。ゆったりと広がっていくような声。
ああ、確かに。呼ぶ声が心地良い。己の字がこんなにも広がりを持った音だったとは。
「貴方の字も良い響きをしている」
藍曦臣。曦臣。自分がこの人を呼ぶ時、以前は号を、今は専ら字で呼ぶ。閨では藍渙と呼ぶこともあるが。どちらも好きな響きだった。
1154江晩吟。音韻を噛みしめるように口にする。己の字をとても美しいもののようにこの人は言う。
「字面もすっきりしている。無駄がなくすらりとして美しい。まさに貴方のようだ」
「そうか?」
「うん。私は貴方を字で呼ぶのが好きだ。韻が美しい。呼ぶ声が耳に心地いい。自分の声だというのに不思議だね。貴方に字を贈った方は趣味が良い」
晩吟。晩吟。藍曦臣が繰り返し呼ぶ。柔らかな声だった。ゆったりと広がっていくような声。
ああ、確かに。呼ぶ声が心地良い。己の字がこんなにも広がりを持った音だったとは。
「貴方の字も良い響きをしている」
藍曦臣。曦臣。自分がこの人を呼ぶ時、以前は号を、今は専ら字で呼ぶ。閨では藍渙と呼ぶこともあるが。どちらも好きな響きだった。