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DOODLE七班 光の銃のやつ分かち合えど陰らず ●
朝起きたら伊緒が光っていた。
「……なして……?」
光量でいうとスマホの画面の明るさをマックスにした時ぐらい。カーテンを締めた薄暗さの中、清志郎の視線の先の伊緒は自らの両手を見つめている。
「なんか光るようになった……」
「だからなして……?」
「ちんちんも光るのかな」
「やめなせっ……」
光った。
さておき。
伊緒の発光は身体やレネゲイドの異常ではなく、彼のシンドローム――ウロボロスの力に起因するものだった。
長らくエンジェルハィロゥの清志郎と共に居たことで、その異能因子を得たのだろう……と伊緒は考察して清志郎に述べた。
「へへ。なんか嬉しいな」
ぽ、と掌に灯る光を見下ろして、伊緒は柔らかく笑っていた。
1555朝起きたら伊緒が光っていた。
「……なして……?」
光量でいうとスマホの画面の明るさをマックスにした時ぐらい。カーテンを締めた薄暗さの中、清志郎の視線の先の伊緒は自らの両手を見つめている。
「なんか光るようになった……」
「だからなして……?」
「ちんちんも光るのかな」
「やめなせっ……」
光った。
さておき。
伊緒の発光は身体やレネゲイドの異常ではなく、彼のシンドローム――ウロボロスの力に起因するものだった。
長らくエンジェルハィロゥの清志郎と共に居たことで、その異能因子を得たのだろう……と伊緒は考察して清志郎に述べた。
「へへ。なんか嬉しいな」
ぽ、と掌に灯る光を見下ろして、伊緒は柔らかく笑っていた。
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DOODLEコーヒーブレイクの話お茶請けみたいな小噺一つ●1
コーヒーにドカ盛りの生クリームを乗せてチョコのソースまでかけている。「夜にコーヒー飲んだら寝れなくならねぇか」と「歯ァ磨いた後にそンなもん飲むのか」と「さっきもでけぇアイス食ってなかったか?」が渋滞したので、いっそ見なかったことにした。嬉しそうな「いただきます」が聞こえた。見なくても笑顔が想像できた。
●2
こういうのをコーヒーブレイクって言うんですよ。そう言って差し出されるコーヒー。の上に魔法のように乗せられるバニラアイス。生クリーム。さあ召し上がれと彼が笑う。だからそうっと、銀のスプーンでコーヒーを混ぜた。熱い苦味に、甘い味わいが蕩けていって、ちょうどいい温度になる。人生と一緒ですね、なんて、彼は上手いこと言ってやったぜ顔をしていた。
1251コーヒーにドカ盛りの生クリームを乗せてチョコのソースまでかけている。「夜にコーヒー飲んだら寝れなくならねぇか」と「歯ァ磨いた後にそンなもん飲むのか」と「さっきもでけぇアイス食ってなかったか?」が渋滞したので、いっそ見なかったことにした。嬉しそうな「いただきます」が聞こえた。見なくても笑顔が想像できた。
●2
こういうのをコーヒーブレイクって言うんですよ。そう言って差し出されるコーヒー。の上に魔法のように乗せられるバニラアイス。生クリーム。さあ召し上がれと彼が笑う。だからそうっと、銀のスプーンでコーヒーを混ぜた。熱い苦味に、甘い味わいが蕩けていって、ちょうどいい温度になる。人生と一緒ですね、なんて、彼は上手いこと言ってやったぜ顔をしていた。
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DOODLE幻班 侠太郎の衝動ブワー人間みたいに生きられないの ●
平和な日々がしばらく続いた。
平和。それは素晴らしいことだ。何事も平和が一番だ。人道的に、倫理的に、常識的に、本当にそう思う。
だから――しばらく怪物や怪奇現象と遭遇せず、命と命の奪い合いが発生しなかったのは、「危ない目に遭わなくて良かった」と思うべきなんだろう。
なのに。どうして。
目を閉じれば瞼に浮かぶのは殺し合い。血みどろ。暴風で追い詰め、雷霆で討ち、命をほろに踏み仇し、あたたかい血と臓物を浴びて、噎せ返るような血のにおいに酔い痴れて、肉と脂のてらつきに陶酔して、殺して、殺して、殺し尽くす、あの赤い光景。
昔は、こんなことはなかったのに。
あのさざれ雪の決戦以来だ。異能を――自分の力を思い切り解放して、思い切り暴れて、思い切り殺すことに、言いようのない黒い恍惚を覚えるようになってしまったのは。
1761平和な日々がしばらく続いた。
平和。それは素晴らしいことだ。何事も平和が一番だ。人道的に、倫理的に、常識的に、本当にそう思う。
だから――しばらく怪物や怪奇現象と遭遇せず、命と命の奪い合いが発生しなかったのは、「危ない目に遭わなくて良かった」と思うべきなんだろう。
なのに。どうして。
目を閉じれば瞼に浮かぶのは殺し合い。血みどろ。暴風で追い詰め、雷霆で討ち、命をほろに踏み仇し、あたたかい血と臓物を浴びて、噎せ返るような血のにおいに酔い痴れて、肉と脂のてらつきに陶酔して、殺して、殺して、殺し尽くす、あの赤い光景。
昔は、こんなことはなかったのに。
あのさざれ雪の決戦以来だ。異能を――自分の力を思い切り解放して、思い切り暴れて、思い切り殺すことに、言いようのない黒い恍惚を覚えるようになってしまったのは。
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DOODLEこちら https://x.com/052ysk/status/1691058018103054336?s=20 みたいな夢を見る特殊さんが見たかったサイケデリック ●
今日も空を見ている。飽きずに空を見ている。
目が見えるようになって、空を見慣れたら、「空が綺麗」だなんてはしゃがなくなると思っていた。大体の人間が、大人になればいちいち空なんて見上げなくなるなるように。しかし相変わらず、侠太郎は今日も空を見ている――「遠くで雨の音がするから、虹が見れるかもしれん」なんて言って。
「伊緒兵衛」
ノックの直後にドアが開く。ノックの概念を何度説明したことか。分かっている上で「なんで待たなアカンねん」と、彼の故郷の言語で言う『イラチ』な性分がそれを無視する。
「はい?」
執務机から顔を上げた。室内には入って来ず、ドア枠にもたれている侠太郎がいる。
「虹出とる」
「そうですか」
1894今日も空を見ている。飽きずに空を見ている。
目が見えるようになって、空を見慣れたら、「空が綺麗」だなんてはしゃがなくなると思っていた。大体の人間が、大人になればいちいち空なんて見上げなくなるなるように。しかし相変わらず、侠太郎は今日も空を見ている――「遠くで雨の音がするから、虹が見れるかもしれん」なんて言って。
「伊緒兵衛」
ノックの直後にドアが開く。ノックの概念を何度説明したことか。分かっている上で「なんで待たなアカンねん」と、彼の故郷の言語で言う『イラチ』な性分がそれを無視する。
「はい?」
執務机から顔を上げた。室内には入って来ず、ドア枠にもたれている侠太郎がいる。
「虹出とる」
「そうですか」
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DOODLE1班居待月の夜が更ける●
夜の東京タワーを後にする。
ガンケースを担ぎ直す奉一の隣で、伊緒がスマホでUGNとやりとりをしている。淡々と、ジャームを討伐した旨と、詳細な報告は後日行うことを告げている。そうすれば近くの空間が歪んで、UGNエージェントが現れた。「ご自宅までお送りします」と労う声音を二人に向けた。
――二秒で帰宅。我が家の玄関。パチリと明かりをつける。夏の生温さが充満している。
「はあ〜〜……疲れたあ〜〜……」
エージェントの気配が消えてから、伊緒が盛大に溜息を吐いた。
「……そうだな」
流石の奉一も疲労を感じていた。今日は朝から本当に――色々あった。
「おい、床で寝るなよ」
靴を脱ぐ為に座ったまま伊緒がぐったりしている傍ら、家に上がる。「寝ないよ〜」なんて既に眠そうで信憑性の低い声を背中で聞きつつ……いつもの場所に、正座をしてから丁寧に銃を置く。その様はさながら刀と侍の関係性か。男は顔を上げた。姿勢を正し、傍らにある仏像を隻眼で見据える。
1392夜の東京タワーを後にする。
ガンケースを担ぎ直す奉一の隣で、伊緒がスマホでUGNとやりとりをしている。淡々と、ジャームを討伐した旨と、詳細な報告は後日行うことを告げている。そうすれば近くの空間が歪んで、UGNエージェントが現れた。「ご自宅までお送りします」と労う声音を二人に向けた。
――二秒で帰宅。我が家の玄関。パチリと明かりをつける。夏の生温さが充満している。
「はあ〜〜……疲れたあ〜〜……」
エージェントの気配が消えてから、伊緒が盛大に溜息を吐いた。
「……そうだな」
流石の奉一も疲労を感じていた。今日は朝から本当に――色々あった。
「おい、床で寝るなよ」
靴を脱ぐ為に座ったまま伊緒がぐったりしている傍ら、家に上がる。「寝ないよ〜」なんて既に眠そうで信憑性の低い声を背中で聞きつつ……いつもの場所に、正座をしてから丁寧に銃を置く。その様はさながら刀と侍の関係性か。男は顔を上げた。姿勢を正し、傍らにある仏像を隻眼で見据える。
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DOODLE一班の居待月舞台裏奇譚 ●
奉一の得物は村田銃。
お父様から受け継いだ誇りで、お父様が彼を護った愛のしるしで、気高き又鬼の矜持そのもので、人生を共に過ごした魂の片割れで、数多の怪物を撃った戦友で、ゆえにこそ『武器』とか『仕事道具』なんて言葉で簡単に片付けていいものではなくて。ましてや、人殺しの兵器などではなくて。
「『ジャーム』はこちらで対応しましょうか」
UGNの偉い人が僕に言う。
ジャーム、『なんて言葉で簡単に片付けられている』けれど、それは人間で。
僕は悩んだ。
UGNに全て任せれば、奉一は人間を撃たずに済む。だけど第三者が関与すればするほど、僕らの血の秘密が露呈する危険性があり、第二第三の『清井奏事件』や『ゼミ事件』が発生しかねない。また、僕ら以外のオーヴァードが対応したことでプライドの高そうなヘッドノッカーが癇癪を起こして、無差別殺傷にやり口をシフトする危険性もある。奴の狙いは僕らなのだから、無関係な人間が危険な目に遭うのは嫌だった。
2082奉一の得物は村田銃。
お父様から受け継いだ誇りで、お父様が彼を護った愛のしるしで、気高き又鬼の矜持そのもので、人生を共に過ごした魂の片割れで、数多の怪物を撃った戦友で、ゆえにこそ『武器』とか『仕事道具』なんて言葉で簡単に片付けていいものではなくて。ましてや、人殺しの兵器などではなくて。
「『ジャーム』はこちらで対応しましょうか」
UGNの偉い人が僕に言う。
ジャーム、『なんて言葉で簡単に片付けられている』けれど、それは人間で。
僕は悩んだ。
UGNに全て任せれば、奉一は人間を撃たずに済む。だけど第三者が関与すればするほど、僕らの血の秘密が露呈する危険性があり、第二第三の『清井奏事件』や『ゼミ事件』が発生しかねない。また、僕ら以外のオーヴァードが対応したことでプライドの高そうなヘッドノッカーが癇癪を起こして、無差別殺傷にやり口をシフトする危険性もある。奴の狙いは僕らなのだから、無関係な人間が危険な目に遭うのは嫌だった。
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DOODLE幻班〜おうち襲撃イベントあれ〜夜襲と防人 ●
昭和が終わり、少しして、超常現象――レネゲイドウイルスが世界中に拡散して。
異能という非日常が、確かに日常を蝕み始めていた。
とはいえ。
呪われた二人の生活は変わらない。
世界の片隅の旧い邸宅、広い食堂、今夜みたいな寒い日にピッタリのシチュー。合わせる手と組まれる手。「おいしいのう!」「ええ」と上機嫌な声。
いつもと変わらない、冬のある日。
に、なるはずだった。
「それでなあ―― ……」
ニコニコと今日の出来事を話していた侠太郎の顔から、唐突に表情が消えた。
「……?」
急に会話が途切れたので、伊緒兵衛が顔を上げる。侠太郎は口を引き結び、探るように目線を彼方へ向けて――カトラリーを置いた、瞬間だ。
3638昭和が終わり、少しして、超常現象――レネゲイドウイルスが世界中に拡散して。
異能という非日常が、確かに日常を蝕み始めていた。
とはいえ。
呪われた二人の生活は変わらない。
世界の片隅の旧い邸宅、広い食堂、今夜みたいな寒い日にピッタリのシチュー。合わせる手と組まれる手。「おいしいのう!」「ええ」と上機嫌な声。
いつもと変わらない、冬のある日。
に、なるはずだった。
「それでなあ―― ……」
ニコニコと今日の出来事を話していた侠太郎の顔から、唐突に表情が消えた。
「……?」
急に会話が途切れたので、伊緒兵衛が顔を上げる。侠太郎は口を引き結び、探るように目線を彼方へ向けて――カトラリーを置いた、瞬間だ。
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DOODLE侠太郎のテキスト https://x.com/Xpekeponpon/status/1767410179203883137?s=20 これのオリオンの名が泣くぜ ●
音界の王、ハヌマーン。
身軽で、敏捷に優れ、風と音に愛された者達。
ハヌマーンシンドロームは、その特性から音楽やダンスが得意な者が多い。侠太郎もその例に漏れず、歌と踊りが好きだった。
都内某所ビル、UGN管轄のスタジオ。
オーヴァードがジャーム化しない為には、日常への未練や絆が不可欠である。ゆえにUGN内ではエージェント同士の交流を推奨しており、このスタジオはここらのハヌマーンシンドロームの者を中心としたサークルの拠点であった。
「――――♪」
心地よい風が吹き、心臓を震わせるビートが鳴り響き、超人達は軽快に踊る、愉快に歌う。
命の謳歌、魂の讃歌、自由の宴。
侠太郎もその中に居る。歌と踊りの前では、年齢も種族も無意味である。笑って、声を弾ませ、歌って、踊り、躍る。
2349音界の王、ハヌマーン。
身軽で、敏捷に優れ、風と音に愛された者達。
ハヌマーンシンドロームは、その特性から音楽やダンスが得意な者が多い。侠太郎もその例に漏れず、歌と踊りが好きだった。
都内某所ビル、UGN管轄のスタジオ。
オーヴァードがジャーム化しない為には、日常への未練や絆が不可欠である。ゆえにUGN内ではエージェント同士の交流を推奨しており、このスタジオはここらのハヌマーンシンドロームの者を中心としたサークルの拠点であった。
「――――♪」
心地よい風が吹き、心臓を震わせるビートが鳴り響き、超人達は軽快に踊る、愉快に歌う。
命の謳歌、魂の讃歌、自由の宴。
侠太郎もその中に居る。歌と踊りの前では、年齢も種族も無意味である。笑って、声を弾ませ、歌って、踊り、躍る。
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DOODLE幻班 UGNとの接触妄想19XX ●
風の噂。
東京郊外に建つその旧い邸宅には、『怪物狩り』が居るという。
二十世紀末期。
UGNという立ち上げられたばかりの組織のエージェントは、朧な情報を頼りに車を走らせ――そして、昭和以前の旧い邸宅へと辿り着く。建築当初の時代らしい、どこか和洋折衷の趣をした洋館だ。
時間帯は夕暮れ、逢魔ヶ時。周囲の木々の暗闇に、得も言われぬ雰囲気を醸し出している。飾り窓に黄昏が映り込み、妖しげな陰影を移ろわせていた。
一見して――廃墟ではなさそうだ。割れている硝子はなく、雑草が繁茂していることもない。手入れがされている。……住人か使用者が居るのだ。エージェントは息を呑み、車から降りると邸宅へと歩き出した。
3198風の噂。
東京郊外に建つその旧い邸宅には、『怪物狩り』が居るという。
二十世紀末期。
UGNという立ち上げられたばかりの組織のエージェントは、朧な情報を頼りに車を走らせ――そして、昭和以前の旧い邸宅へと辿り着く。建築当初の時代らしい、どこか和洋折衷の趣をした洋館だ。
時間帯は夕暮れ、逢魔ヶ時。周囲の木々の暗闇に、得も言われぬ雰囲気を醸し出している。飾り窓に黄昏が映り込み、妖しげな陰影を移ろわせていた。
一見して――廃墟ではなさそうだ。割れている硝子はなく、雑草が繁茂していることもない。手入れがされている。……住人か使用者が居るのだ。エージェントは息を呑み、車から降りると邸宅へと歩き出した。
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DOODLEエフェクト練習する侠太郎青天の霹靂とか。 ●
表向きとしては、侠太郎は猟師として活動することにした。それにあたって、かつての愛銃は怨敵との決戦で崩れ落ちてしまったので、時代に見合ったライフルを用いる。
関西人で、やけに若くて、しかし銃の腕がやたらめったら良くて、山と猟に関する知識も随一で――少々目立つ要素が強めだが、侠太郎は持ち前の愛嬌で地元の猟師コミュニティに問題なく馴染めていた。
「八代くんは学生なのかい? 大学生?」
これは物凄くよく聞かれる質問で。だが、侠太郎にとっては必勝パターンであった。
「いえ、お恥ずかしながら小卒ですわぁ! ガキん頃に事故で大怪我してもうてえ……ちょっと学校どころやのうなったんですわ」
家族も死んでしまい身寄りがないこと、後遺症でずっと苦労してきたこと、名医に出会って後遺症が治ったので、一念発起して関西の田舎から上京して、ずっと憧れだった父の稼業である猟師に……といった旨を感情たっぷりにドラマティックに語れば、大体の『年上』達は目頭を熱くして「大変だったんだなぁ」「そうかそうかぁ」「えらいなぁ、一緒に頑張ろうなぁ」と侠太郎の肩を叩いてくれた。特別かわいがってくれた。
3687表向きとしては、侠太郎は猟師として活動することにした。それにあたって、かつての愛銃は怨敵との決戦で崩れ落ちてしまったので、時代に見合ったライフルを用いる。
関西人で、やけに若くて、しかし銃の腕がやたらめったら良くて、山と猟に関する知識も随一で――少々目立つ要素が強めだが、侠太郎は持ち前の愛嬌で地元の猟師コミュニティに問題なく馴染めていた。
「八代くんは学生なのかい? 大学生?」
これは物凄くよく聞かれる質問で。だが、侠太郎にとっては必勝パターンであった。
「いえ、お恥ずかしながら小卒ですわぁ! ガキん頃に事故で大怪我してもうてえ……ちょっと学校どころやのうなったんですわ」
家族も死んでしまい身寄りがないこと、後遺症でずっと苦労してきたこと、名医に出会って後遺症が治ったので、一念発起して関西の田舎から上京して、ずっと憧れだった父の稼業である猟師に……といった旨を感情たっぷりにドラマティックに語れば、大体の『年上』達は目頭を熱くして「大変だったんだなぁ」「そうかそうかぁ」「えらいなぁ、一緒に頑張ろうなぁ」と侠太郎の肩を叩いてくれた。特別かわいがってくれた。
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DOODLEインフィニティノヴァとオーディンアイ、ゲットだぜ!編ルベドの瞳 ●
視力を取り戻してから、侠太郎の日々は目まぐるしい。視力の問題、復讐のことで、文字も勉学も十歳で止まってしまっていたのだ。知りたいこと、学びたいことが山ほどあった。
勉強を教えて欲しいとねだってきた侠太郎を、伊緒兵衛は無下にはしなかった。なんだったら教材を買い与えたほどだ。青年は心からの「ありがとう」を関西弁で繰り返し、本当に嬉しそうにしていた。
「伊緒兵衛、ここってどういうこと?」
「これなんて読むのん? これはどういう意味?」
「なあ、この計算これで合うてる?」
「これってどういうことなん?」
「伊緒兵衛ちょっとええか――」
十二年分。
ずっと諦めていた勉強をもう一度できる喜びに、侠太郎はそれはそれは熱心だった。ひっきりなしに、伊緒兵衛にあれはこれはと質問してくる。都度、伊緒兵衛はそれに答えてやった。教える側として『生徒』が熱心なのは悪いことではなかった。
3226視力を取り戻してから、侠太郎の日々は目まぐるしい。視力の問題、復讐のことで、文字も勉学も十歳で止まってしまっていたのだ。知りたいこと、学びたいことが山ほどあった。
勉強を教えて欲しいとねだってきた侠太郎を、伊緒兵衛は無下にはしなかった。なんだったら教材を買い与えたほどだ。青年は心からの「ありがとう」を関西弁で繰り返し、本当に嬉しそうにしていた。
「伊緒兵衛、ここってどういうこと?」
「これなんて読むのん? これはどういう意味?」
「なあ、この計算これで合うてる?」
「これってどういうことなん?」
「伊緒兵衛ちょっとええか――」
十二年分。
ずっと諦めていた勉強をもう一度できる喜びに、侠太郎はそれはそれは熱心だった。ひっきりなしに、伊緒兵衛にあれはこれはと質問してくる。都度、伊緒兵衛はそれに答えてやった。教える側として『生徒』が熱心なのは悪いことではなかった。
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DOODLE幻班、エンディングのすぐ後エピローグの少し後 ●
――『未来永劫、あたたかさの中で生きていくのだろう。』
カリ、とペン先が原稿用紙を掻いた音。開けっ放しにされた窓から初夏の薫風がやって来て、クリップで留められた『記録』の端々を蝶々のように揺らしていった。
外からは笑い声が聞こえる。普段は肚から出すような力強い青年の声は、歓びに上擦って、ともすれば少し幼くも感じた。
彼にとって、十二年ぶりの青空。空に世界に手を伸ばし、緑に花に触れ、雲の機微に歓声を上げ、陽だまりを浴びた邸宅の、屋根や窓の煌めき、陰影、太陽が創り出す世界に、本当に――嬉しそうにしている。幸せそうにしている。
男は、少し体を傾け窓の外の青年を見ていた。
かつては己も、あんなふうに命を心から謳歌していたんだろう。そして、この命は神から与えられ賜うた素晴らしいもので、神が創り賜うたこの世界はとても美しくて、色鮮やかに輝いていて――そう信じていた――だからこそ、その素晴らしさを伝えることは善いことなんだと布教の旅へ――海を渡って――
1453――『未来永劫、あたたかさの中で生きていくのだろう。』
カリ、とペン先が原稿用紙を掻いた音。開けっ放しにされた窓から初夏の薫風がやって来て、クリップで留められた『記録』の端々を蝶々のように揺らしていった。
外からは笑い声が聞こえる。普段は肚から出すような力強い青年の声は、歓びに上擦って、ともすれば少し幼くも感じた。
彼にとって、十二年ぶりの青空。空に世界に手を伸ばし、緑に花に触れ、雲の機微に歓声を上げ、陽だまりを浴びた邸宅の、屋根や窓の煌めき、陰影、太陽が創り出す世界に、本当に――嬉しそうにしている。幸せそうにしている。
男は、少し体を傾け窓の外の青年を見ていた。
かつては己も、あんなふうに命を心から謳歌していたんだろう。そして、この命は神から与えられ賜うた素晴らしいもので、神が創り賜うたこの世界はとても美しくて、色鮮やかに輝いていて――そう信じていた――だからこそ、その素晴らしさを伝えることは善いことなんだと布教の旅へ――海を渡って――
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DOODLEこれ(https://fusetter.com/tw/oFKmopwj#all)1班議事録
完全犯罪 ●
はぁ。はぁ。
荒い吐息。震える身体。暗い山の中。その者は必死に土を掘る。その傍らには頭から血を流した死体が、夜空に目玉を見開いていた。
――そんな、昼下がりの刑事ドラマのワンシーンを、ソファの伊緒はドーナツを齧りながら眺めている。
そのすぐ傍のちゃぶ台では、奉一がUGN関連の書類の確認をしていた――偶に眉間を揉みながら。隻眼は書類を向いているが、耳はたまに刑事ドラマの音声を拾っていた
「山に死体を埋めるのって定番ネタじゃん?」
おもむろに、テレビを見たまま伊緒が言う。ちょうど死体に土がかけられていく――じゃっくじゃっくとシャベルの音。奉一は無言だが意識をちょっと伊緒に向けて、言葉の続きを促した。彼はドーナツを飲み込み、こう言う。
1973はぁ。はぁ。
荒い吐息。震える身体。暗い山の中。その者は必死に土を掘る。その傍らには頭から血を流した死体が、夜空に目玉を見開いていた。
――そんな、昼下がりの刑事ドラマのワンシーンを、ソファの伊緒はドーナツを齧りながら眺めている。
そのすぐ傍のちゃぶ台では、奉一がUGN関連の書類の確認をしていた――偶に眉間を揉みながら。隻眼は書類を向いているが、耳はたまに刑事ドラマの音声を拾っていた
「山に死体を埋めるのって定番ネタじゃん?」
おもむろに、テレビを見たまま伊緒が言う。ちょうど死体に土がかけられていく――じゃっくじゃっくとシャベルの音。奉一は無言だが意識をちょっと伊緒に向けて、言葉の続きを促した。彼はドーナツを飲み込み、こう言う。
yojigazou
SPOILERhttps://fusetter.com/tw/JIB0ybRJ#allこれのおまけというか補足のような漫画
清志郎ってほとんど無意識のように物事を観念的に見る癖がありそう 2
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DOODLEさざれゆき幻班が明日なので、ガチ前日譚というか直前譚を書いた邂逅直前 ●
指が――痛い――右の指が――引き裂かれて、抉れて、千切れて、全部、動かない、血が、痛い、痛い、痛い、痛いっ、いたい いたい すごくいたい
「――ッ がァあっ!」
見開いた目には何も映らない。『真っ暗な』布団の中、右手を押さえてうずくまる。左手で触れたそこは、指が五本ともなかった。より精確に言うと、なけなしの小指とわずかな盛り上がりだけの薬指、綺麗に何もない中指、根本ごと抉れた人差し指、半分だけの親指だ。それぞれの断面には釘が刺されている。それを芯に、布団に散らばっていた砂鉄を電気の力で集めて真っ黒な指と化す。
「指っ、ならっ、あるやろがいっ……!」
この、指が千切れるような痛みが幻肢痛であることを知っている。医者から説明されて理解している。……なのに、痛い。あり得ない場所が、痛い。指が『こう』なったあの時のように、痛い。砂鉄の指を握り込む。
1706指が――痛い――右の指が――引き裂かれて、抉れて、千切れて、全部、動かない、血が、痛い、痛い、痛い、痛いっ、いたい いたい すごくいたい
「――ッ がァあっ!」
見開いた目には何も映らない。『真っ暗な』布団の中、右手を押さえてうずくまる。左手で触れたそこは、指が五本ともなかった。より精確に言うと、なけなしの小指とわずかな盛り上がりだけの薬指、綺麗に何もない中指、根本ごと抉れた人差し指、半分だけの親指だ。それぞれの断面には釘が刺されている。それを芯に、布団に散らばっていた砂鉄を電気の力で集めて真っ黒な指と化す。
「指っ、ならっ、あるやろがいっ……!」
この、指が千切れるような痛みが幻肢痛であることを知っている。医者から説明されて理解している。……なのに、痛い。あり得ない場所が、痛い。指が『こう』なったあの時のように、痛い。砂鉄の指を握り込む。
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DOODLE1班議事録ビフォーアフター●後ろから声
まだ昭和の、二人で暮らし始めて間もない頃のこと。
「おい」
本を読んでいた後ろ姿に、なんてことなく呼びかけた、瞬間だった――
「ゔ」
ビクッ、と伊緒兵衛の肩が露骨に跳ねた。そのまま勢いよく、焦燥と不安の――怯え混じりの顔で振り返り――奉一の顔を見るや「ああ、」と一気に緊張が解ける。今の態度を隠すように笑った。
「っ……どうしました?」
――伊緒兵衛は後ろからの気配に酷く警戒する。
背後から急に刺されたり殴られたりが何回かあれば人間こうなるんですよ、と深刻さをわざと茶化して誤魔化すように笑って話していた。
そのことを知ってから、奉一は。
彼を呼ぶ時、まず柱や壁を指の背で軽くコンコンと音を立てることにしていた。
2772まだ昭和の、二人で暮らし始めて間もない頃のこと。
「おい」
本を読んでいた後ろ姿に、なんてことなく呼びかけた、瞬間だった――
「ゔ」
ビクッ、と伊緒兵衛の肩が露骨に跳ねた。そのまま勢いよく、焦燥と不安の――怯え混じりの顔で振り返り――奉一の顔を見るや「ああ、」と一気に緊張が解ける。今の態度を隠すように笑った。
「っ……どうしました?」
――伊緒兵衛は後ろからの気配に酷く警戒する。
背後から急に刺されたり殴られたりが何回かあれば人間こうなるんですよ、と深刻さをわざと茶化して誤魔化すように笑って話していた。
そのことを知ってから、奉一は。
彼を呼ぶ時、まず柱や壁を指の背で軽くコンコンと音を立てることにしていた。
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DOODLE生きてて良かったなぁって言う残野さざれゆきオールキャラ
生きてて良かったなぁ●1
夜中にふっと目が覚めた。二度寝しようにもなんだか寝付けなくて――そっと、隣の布団で寝てる彼を起こさないよう布団から抜け出した。
月が明るくて、そう暗い夜ではなくて。いいかげん日光で劣化してきたサンダルを履いてベランダへ。新しいの買わないとな。ベランダの柵にもたれる。初夏の夜は心地良い。
ぼーっと……東京の眠らぬ明るさを眺めつつ……昔なら煙草の一つでも吸ったんだろうが、値上がりだの、喫煙場所の減少だの、お気に入りだった銘柄の生産終了だの、コンプライアンスだので、最近は吸う数がめっきり減った。それは同居人も同じで。
いろいろ、変わったなぁ……時代とか、風景とか、僕ら自身も。
昔はこんなんじゃなかった。昔はもっとこう……、ろくでもなかったな。クソみたいな思い出ばかりで、思わずフッと笑ってしまう。
4535夜中にふっと目が覚めた。二度寝しようにもなんだか寝付けなくて――そっと、隣の布団で寝てる彼を起こさないよう布団から抜け出した。
月が明るくて、そう暗い夜ではなくて。いいかげん日光で劣化してきたサンダルを履いてベランダへ。新しいの買わないとな。ベランダの柵にもたれる。初夏の夜は心地良い。
ぼーっと……東京の眠らぬ明るさを眺めつつ……昔なら煙草の一つでも吸ったんだろうが、値上がりだの、喫煙場所の減少だの、お気に入りだった銘柄の生産終了だの、コンプライアンスだので、最近は吸う数がめっきり減った。それは同居人も同じで。
いろいろ、変わったなぁ……時代とか、風景とか、僕ら自身も。
昔はこんなんじゃなかった。昔はもっとこう……、ろくでもなかったな。クソみたいな思い出ばかりで、思わずフッと笑ってしまう。
Xpekeponpon
DOODLE血のにおいがわかるっていいですねえ って話真っ赤な嘘ではないですよ ●
UGN設立以前の数百年、とうとう例外を除いて『自分と似たようなの』と出会したことがなかったから、自分は超人の中でも珍しい部類なのだろうとは薄々察していた。
……が、蓋を開けてみれば、不滅を感染させる不滅とは他に例がないことを、平成になってから知った。
『希少』。
『不老不死』。
『しかも、感染可能性がある』。
その言葉は、ありとあらゆる人間を惹き寄せる。時代遡れば、中国の皇帝が無間を求めて水銀すら飲んだように。……過去に実際、僕も人魚の呪いを明かした相手に刺されたことがあるし。
レネゲイド拡散事件以来、UGNという頼もしい味方と後ろ盾は増えたが、同じぐらい敵も増えた。FHなんかその筆頭である。油断をすればUGN内でも頭のイカれたマッドサイエンティストが手を伸ばしてくる。
3155UGN設立以前の数百年、とうとう例外を除いて『自分と似たようなの』と出会したことがなかったから、自分は超人の中でも珍しい部類なのだろうとは薄々察していた。
……が、蓋を開けてみれば、不滅を感染させる不滅とは他に例がないことを、平成になってから知った。
『希少』。
『不老不死』。
『しかも、感染可能性がある』。
その言葉は、ありとあらゆる人間を惹き寄せる。時代遡れば、中国の皇帝が無間を求めて水銀すら飲んだように。……過去に実際、僕も人魚の呪いを明かした相手に刺されたことがあるし。
レネゲイド拡散事件以来、UGNという頼もしい味方と後ろ盾は増えたが、同じぐらい敵も増えた。FHなんかその筆頭である。油断をすればUGN内でも頭のイカれたマッドサイエンティストが手を伸ばしてくる。
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DOODLEさざれゆきオールキャラ1班→7班→2班→3班→6班→4班5班→幻
デイドリームビリーバー●
過去を夢見ることがある。
かつて、気を許せる友ができた。
余所者の自分にも優しくて、気のいい奴で、『年齢差』も感じないぐらい話が合って、一緒にいると楽しくて。
だから――
魔が差した。
「実は――」
己の、人間では有り得ぬ年齢のこと。
己が、もう人間ではないこと。
己は、人魚に呪われていること。
「そうなんだ……」
友は神妙に頷いて、「話してくれてありがとう」と慰めるように笑ってくれた。
嗚呼――打ち明けてよかった。独りずっと抱えていた心の闇を、少しだけ解き放つことができて、ほんの少しだけ、肩が軽くなったような気がする。本当のまま、もう少しここに居てもいい気がする。
ありがとう。そう返して、己もまた、微笑みを返した……心からの感謝を込めて。
3468過去を夢見ることがある。
かつて、気を許せる友ができた。
余所者の自分にも優しくて、気のいい奴で、『年齢差』も感じないぐらい話が合って、一緒にいると楽しくて。
だから――
魔が差した。
「実は――」
己の、人間では有り得ぬ年齢のこと。
己が、もう人間ではないこと。
己は、人魚に呪われていること。
「そうなんだ……」
友は神妙に頷いて、「話してくれてありがとう」と慰めるように笑ってくれた。
嗚呼――打ち明けてよかった。独りずっと抱えていた心の闇を、少しだけ解き放つことができて、ほんの少しだけ、肩が軽くなったような気がする。本当のまま、もう少しここに居てもいい気がする。
ありがとう。そう返して、己もまた、微笑みを返した……心からの感謝を込めて。
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DOODLEさざれゆき3班 https://fusetter.com/tw/4zzYdpyJ#all こちらの泡沫の小噺 ●
「絵本読んでたんだ」
机の上の童話の横に、手土産のドーナツの箱を置きつつ。
「うん! 人魚姫。知ってる?」
小さいその子がまんまるな目で見上げてくるのを――伊緒は優しく見下ろして。
「知ってるよ~。アンデルセンだろ」
「あんでるせん」
「ホラここ、書いてある。作者の名前」
「ほんとだ」
指先の「ハンス・アンデルセン」から、鉱太郎は人魚姫の表紙をしげしげと眺め。
「ねぇいおべ」
「うん?」
「人魚って本当にいるの?」
「ん~……鉱太郎はどう思う?」
「いると思う」
迷う素振りもなく、鉱太郎は即答した。伊緒は「ほう」とその様子に興味深げに言葉を続ける。
「どうしてそう思ったの?」
「あのね……」
ちら、と台所でお茶の用意をしている祖父を見て、鉱太郎は声をひそめた。
1208「絵本読んでたんだ」
机の上の童話の横に、手土産のドーナツの箱を置きつつ。
「うん! 人魚姫。知ってる?」
小さいその子がまんまるな目で見上げてくるのを――伊緒は優しく見下ろして。
「知ってるよ~。アンデルセンだろ」
「あんでるせん」
「ホラここ、書いてある。作者の名前」
「ほんとだ」
指先の「ハンス・アンデルセン」から、鉱太郎は人魚姫の表紙をしげしげと眺め。
「ねぇいおべ」
「うん?」
「人魚って本当にいるの?」
「ん~……鉱太郎はどう思う?」
「いると思う」
迷う素振りもなく、鉱太郎は即答した。伊緒は「ほう」とその様子に興味深げに言葉を続ける。
「どうしてそう思ったの?」
「あのね……」
ちら、と台所でお茶の用意をしている祖父を見て、鉱太郎は声をひそめた。
yojigazou
SPOILERネタバレ捏造謎時空 こういう邂逅すき…20240223追記//×さんのふせったーが最高だったので勝手ながら漫画にしました…ありがとうございます…
https://fusetter.com/tw/nZEWSq3h#all https://fusetter.com/tw/8c158UcU#all 5
Xpekeponpon
DOODLEさざれゆき3班×ぼくだぶ君が入学する前のお話 ●
昭和という時代が過去になって久しい。そんな某日某市、某UGN支部。
「……UGNエージェントが教師を?」
伊緒兵衛――というのは古風すぎるので今は伊緒と名乗っている男は、手にしたセイロンティーから顔を上げた。
隆々たる巨躯の男が、後ろ姿、窓から街を見下ろしている。最高品質のスーツに瀟洒なる佇まいは、彼の高貴さを物語る。
「さ、左様だど。あの町は少々特殊で――覚醒した青少年を、す、速やかに発見する為の措置だど」
少し訛りぎこちない言葉遣いだが、その物言いと態度には凛然たるものがあった。
「ま、まさか祖国から遥々日本へ来て、小学校の先生をすることになるとは、このオーデストルートも驚いたど」
振り返る巨漢、オーデストルートの相貌の造形は厳しいが、微笑みは穏やかだ。「へえ」と伊緒は紅茶を一口。かちゃり、白磁がソーサーに置かれる。
1162昭和という時代が過去になって久しい。そんな某日某市、某UGN支部。
「……UGNエージェントが教師を?」
伊緒兵衛――というのは古風すぎるので今は伊緒と名乗っている男は、手にしたセイロンティーから顔を上げた。
隆々たる巨躯の男が、後ろ姿、窓から街を見下ろしている。最高品質のスーツに瀟洒なる佇まいは、彼の高貴さを物語る。
「さ、左様だど。あの町は少々特殊で――覚醒した青少年を、す、速やかに発見する為の措置だど」
少し訛りぎこちない言葉遣いだが、その物言いと態度には凛然たるものがあった。
「ま、まさか祖国から遥々日本へ来て、小学校の先生をすることになるとは、このオーデストルートも驚いたど」
振り返る巨漢、オーデストルートの相貌の造形は厳しいが、微笑みは穏やかだ。「へえ」と伊緒は紅茶を一口。かちゃり、白磁がソーサーに置かれる。
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DOODLEさざれゆき1班ツイートしてたネタのやつ
ベランダのセイレーン ●
その日はとても霧深くて。
東京でここまで濃霧になるなんて珍しいことだな、と奉一はアスファルトを踏み締める。UGNの若者達に生き延びる為の術を教え、支部で諸々の用事を済ませた帰り道、ガンケースを背負い直す。
それにしても右も左も真っ白で――少し異世界じみている。
こいつは交通網にいろいろ支障が出てそうだ。徒歩で良かった。どれだけ白に閉ざされても、歩き慣れた道は、奉一にとって一つ目を閉じても迷わず歩くことができる。そろそろ自宅付近だった。
「――…… ン」
ふと、そんな時だった。声のような――歌だ。歌声が、霧の向こうから聞こえてくる。
不思議な……日本語のようで日本語ではない、聞き取れぬ歌詞の旋律は静かに朗々と……『神秘的』と『未知への忌避感』の境界線をなぞりながら……それは二度と帰れぬ場所への切ないほどの憧憬、静かな静かな寂寥を滲ませ……――この白い世界も相俟って、異界より響いているかの如く。
953その日はとても霧深くて。
東京でここまで濃霧になるなんて珍しいことだな、と奉一はアスファルトを踏み締める。UGNの若者達に生き延びる為の術を教え、支部で諸々の用事を済ませた帰り道、ガンケースを背負い直す。
それにしても右も左も真っ白で――少し異世界じみている。
こいつは交通網にいろいろ支障が出てそうだ。徒歩で良かった。どれだけ白に閉ざされても、歩き慣れた道は、奉一にとって一つ目を閉じても迷わず歩くことができる。そろそろ自宅付近だった。
「――…… ン」
ふと、そんな時だった。声のような――歌だ。歌声が、霧の向こうから聞こえてくる。
不思議な……日本語のようで日本語ではない、聞き取れぬ歌詞の旋律は静かに朗々と……『神秘的』と『未知への忌避感』の境界線をなぞりながら……それは二度と帰れぬ場所への切ないほどの憧憬、静かな静かな寂寥を滲ませ……――この白い世界も相俟って、異界より響いているかの如く。