asaki
DOODLEなにかが始まるかもしれない二人【笹仁】Tout est à toi. ぶわりと沸き上がる透明な雫が空へ投げ出された。
それは真夏の陽射しを反射してきらきらと光り、僅かな時間だけ空を舞い落ちる。雫はぴしゃんと溜まった水面を打って跳ねて、また輝いて――液体という集合体に沈んでも、うねる水面がきらきらとする。360度どこから見ても輝きを放つ様が、抜けるように澄んだ青空と相まって美しい。きらきらと眩んでしまいそうなほど光が溢れる。
だからこそ、風に乗って聞こえてくるこの音の羅列が笹塚の作ったものだと分かる。
クライアントの打ち合わせから菩提樹寮に戻ってきた仁科は、ほのかに漂ってくる音の残滓に聞き入ってしまった。外はまだ残暑が厳しかったが、初めて聞くメロディを聞ききってしまいたいという欲が勝ったからだ。
3900それは真夏の陽射しを反射してきらきらと光り、僅かな時間だけ空を舞い落ちる。雫はぴしゃんと溜まった水面を打って跳ねて、また輝いて――液体という集合体に沈んでも、うねる水面がきらきらとする。360度どこから見ても輝きを放つ様が、抜けるように澄んだ青空と相まって美しい。きらきらと眩んでしまいそうなほど光が溢れる。
だからこそ、風に乗って聞こえてくるこの音の羅列が笹塚の作ったものだと分かる。
クライアントの打ち合わせから菩提樹寮に戻ってきた仁科は、ほのかに漂ってくる音の残滓に聞き入ってしまった。外はまだ残暑が厳しかったが、初めて聞くメロディを聞ききってしまいたいという欲が勝ったからだ。
asaki
DONEハグの日と聞いたので【笹仁】hug you tight! - side:SN - 朝、出かける前に「打ち合わせに行ってくる」と声をかけたが返事はなかった。
返事がないのは集中している証拠。いつものことである。
リビングのパソコンデスクに置き物かというくらい物静かに佇んでおり、仁科は進捗が芳しくないのだなとそっと部屋を後にした。
今日に限ってすべての訪問場所が離れており、時間のロスができない状況で広範囲を移動することになった。おかげで笹塚の様子を見に戻ることもできず、夕方になった。幸いにも最後の打ち合わせは早く終わり、仁科はいまだパソコンデスクの前に鎮座しているだろう笹塚を思った。
(あたたかくて、栄養がありそうなものがいいかな)
仁科が料理をすることもあるが、帰宅時間を考えるとデパ地下で買っていくのがいいだろう。
2562返事がないのは集中している証拠。いつものことである。
リビングのパソコンデスクに置き物かというくらい物静かに佇んでおり、仁科は進捗が芳しくないのだなとそっと部屋を後にした。
今日に限ってすべての訪問場所が離れており、時間のロスができない状況で広範囲を移動することになった。おかげで笹塚の様子を見に戻ることもできず、夕方になった。幸いにも最後の打ち合わせは早く終わり、仁科はいまだパソコンデスクの前に鎮座しているだろう笹塚を思った。
(あたたかくて、栄養がありそうなものがいいかな)
仁科が料理をすることもあるが、帰宅時間を考えるとデパ地下で買っていくのがいいだろう。
asaki
MOURNING★かるーい気持ちでお読みください。ヤマもオチもないです★笹仁の仁科と、刑桐の桐ケ谷のあけすけトークが聞こえてしまって気まずい拓蒼の三上の話
三上はまだ〝セッ〇ス〟という単語を心の中でも発するのが恥ずかしいので回りくどい言い方をしています。
隠す気がない内緒話は他所でやってください! 天気予報では来週から寒波が襲来し、気温が十度ほど下がると伝えている。
「寒波の初日、日本海側は雪が降り、太平洋側は冷たい雨が降ります。急激な寒さで風邪をひかないようしっかりと対策してくださいね」
お天気お姉さんはそう締めくくった。
日中は日差しが強く、コートなども不要の日々を過ごしているのでイマイチ実感が沸かない。
「寒くなるんですねぇ。じゃぁ、みんなで最後に秋の味覚バーベキューしましょう!」
朝日奈がそう言うのには理由がある。
先日スターライトオーケストラがコンサートを行った際に、主催者側からたくさんの野菜をもらったのだ。産地直送の瑞々しいそれらを日々消化してはいるものの、すべてを食べきるには至っていない。そろそろ葉物もしなび始めており、早く食べないと食材を無駄にしてしまうことになる。
3972「寒波の初日、日本海側は雪が降り、太平洋側は冷たい雨が降ります。急激な寒さで風邪をひかないようしっかりと対策してくださいね」
お天気お姉さんはそう締めくくった。
日中は日差しが強く、コートなども不要の日々を過ごしているのでイマイチ実感が沸かない。
「寒くなるんですねぇ。じゃぁ、みんなで最後に秋の味覚バーベキューしましょう!」
朝日奈がそう言うのには理由がある。
先日スターライトオーケストラがコンサートを行った際に、主催者側からたくさんの野菜をもらったのだ。産地直送の瑞々しいそれらを日々消化してはいるものの、すべてを食べきるには至っていない。そろそろ葉物もしなび始めており、早く食べないと食材を無駄にしてしまうことになる。
haya_stoc332
DONE遅刻した笹塚BDです。※少し未来のお話です。なので、仁科の真骨頂云々に関して、笹塚は攻略しかけています。多分。
よくある話「欲しい物?」
「そう、何かない?」
「別に。欲しかったら自分で手に入れる」
音源の納品を済ませてPCの電源を落とした直後、唐突に投げかけられる仁科の問いかけ。特に何かを欲しいと伝えた記憶もなく、仮に無意識に何かを探していたとしたら、それをサッと横から渡してくるような男からのそれに、意図がわからず、ただありのままに思った事を返答する。
困ったように苦笑する相方を見て、何かあったのか?と三徹目で鈍る思考を巡らせた。更に今回は、少し厄介な先方のオーダーで苦戦した後だ。その辺りは、一緒に振り回されている仁科もわかっているだろう。せめて、いつも通りに頭が働く時に聞いてほしい。
「だろうね……そう言うと思った」
「なら、どうして」
1388「そう、何かない?」
「別に。欲しかったら自分で手に入れる」
音源の納品を済ませてPCの電源を落とした直後、唐突に投げかけられる仁科の問いかけ。特に何かを欲しいと伝えた記憶もなく、仮に無意識に何かを探していたとしたら、それをサッと横から渡してくるような男からのそれに、意図がわからず、ただありのままに思った事を返答する。
困ったように苦笑する相方を見て、何かあったのか?と三徹目で鈍る思考を巡らせた。更に今回は、少し厄介な先方のオーダーで苦戦した後だ。その辺りは、一緒に振り回されている仁科もわかっているだろう。せめて、いつも通りに頭が働く時に聞いてほしい。
「だろうね……そう言うと思った」
「なら、どうして」
asaki
DONE冬至だっていうから……お腹が減ったらごめんね
【笹仁】winter solstice「笹塚、さーさづか!」
キッチンの方から声をかけられて、そちらを見ると仁科が何か作っているようだった。
もくもくとした湯気が立ち上り、気が付けばふわりとした出汁の匂いがする。それに応じるように腹がぐうと鳴いた。
「メシにするけど、おまえも食べる?」
「食う」
「準備するから待ってて」
声をかけてきている時点で、仁科は笹塚に食事をさせる気だったはずだ。そうでなければわざわざしつこく声をかけてこない。
料理をする仁科も珍しいが、そうやって笹塚に食べさせようとする仁科も珍しかった。
笹塚は作業していた場所からソファの定位置に座って仁科を待つ。作業する仁科の生活音が耳に届き、サンプリングしたくなる衝動を抑えながら大人しくすることにした。
3577キッチンの方から声をかけられて、そちらを見ると仁科が何か作っているようだった。
もくもくとした湯気が立ち上り、気が付けばふわりとした出汁の匂いがする。それに応じるように腹がぐうと鳴いた。
「メシにするけど、おまえも食べる?」
「食う」
「準備するから待ってて」
声をかけてきている時点で、仁科は笹塚に食事をさせる気だったはずだ。そうでなければわざわざしつこく声をかけてこない。
料理をする仁科も珍しいが、そうやって笹塚に食べさせようとする仁科も珍しかった。
笹塚は作業していた場所からソファの定位置に座って仁科を待つ。作業する仁科の生活音が耳に届き、サンプリングしたくなる衝動を抑えながら大人しくすることにした。
asaki
MOURNING12/1は映画の日らしいので【笹仁】beauty in the movie ドラマの劇伴を作るときはストックの中から引っ張り出した曲をアレンジすることが多い。ふんわりとしたオーダーで、使用する場面などは特に指定されない。笹塚が依頼されるのはメインテーマだったり、エンディングのインストだったりと一部分が多いのでそれで事足りてしまうのだ。
だが映画は違う。事細かにオーダーがあり、監督の強いこだわりを延々聞いてイチから作らなければならない。そうなると笹塚はリサーチにかなりの時間を割くことになる。
前者は自由に笹塚が色付けをしておけば好き勝手に解釈してくれる絵画のようで、後者はバラバラのピースを渡されてきれいに当てはめろと言われているようなものだ。出来上がりの図は誰も分からない。携わる者の力量が試される。
2687だが映画は違う。事細かにオーダーがあり、監督の強いこだわりを延々聞いてイチから作らなければならない。そうなると笹塚はリサーチにかなりの時間を割くことになる。
前者は自由に笹塚が色付けをしておけば好き勝手に解釈してくれる絵画のようで、後者はバラバラのピースを渡されてきれいに当てはめろと言われているようなものだ。出来上がりの図は誰も分からない。携わる者の力量が試される。
asaki
DONE1031は天才の日だそうで【笹仁】Dear My Prodigy ――笹塚創は天才だと誰もが言う。
(俺も、そう思う)
その意見に否やはないが、作曲家・笹塚創という人物像は一人歩きしてしまっているところがある。
仁科が営業先で聞く天才笹塚のイメージはいくつかある。
よく聞くのは情緒、あれだけ繊細な曲を仕上げられるのはふくよかな感受性あふれた人であると言われている。
(空気は読めないし、情緒ゼロだけど。豊かな感受性ってのは正解)
そう宣った映画のプロデューサーは、もちろん笹塚に会ったことなどない。的を得ているなと思う反面、笹塚を妖精かなんかだと思っているのかというくらい繊細な人物だと思い込んでいた。理由は直接会いたいという要望をにべもなく断っていたからだろう。加えて、仁科が「人と会うのは得意じゃない」とフォローを入れたのがまずかったか。
2056(俺も、そう思う)
その意見に否やはないが、作曲家・笹塚創という人物像は一人歩きしてしまっているところがある。
仁科が営業先で聞く天才笹塚のイメージはいくつかある。
よく聞くのは情緒、あれだけ繊細な曲を仕上げられるのはふくよかな感受性あふれた人であると言われている。
(空気は読めないし、情緒ゼロだけど。豊かな感受性ってのは正解)
そう宣った映画のプロデューサーは、もちろん笹塚に会ったことなどない。的を得ているなと思う反面、笹塚を妖精かなんかだと思っているのかというくらい繊細な人物だと思い込んでいた。理由は直接会いたいという要望をにべもなく断っていたからだろう。加えて、仁科が「人と会うのは得意じゃない」とフォローを入れたのがまずかったか。
asaki
MOURNINGハロウィン、ホラー映画に怯える仁科が書きたかっただけでした。【笹仁】Halloween tellor「ハロウィンぽいことしたいって言ったけどさぁ……」
仁科はソファの上で行儀悪く体育すわりをし、両手でマグカップを持ったままぼやく。視線の先にはテーブルの上に届いたファーストフードを黙々と並べる笹塚がいた。
(まぁ、笹塚が楽しんでるんならいい、のか……?)
事の発端は仁科の何気ない一言だった。
週末にライブハウス主催のハロウィンライブがあった。複数のバンドやユニットが参加していたため、ライブの終了後に簡単な打ち上げに誘われた。普段なら参加は控えるのだが、ハロウィンというイベントごとのせいか客はけが悪くすぐに帰ることは難しそうで、仁科と笹塚は打ち上げにお邪魔することにした。そこで主催が気を聞かせてサプライズでハロウィン演出をし、仁科は久々に童心に返って楽しませてもらった。
3467仁科はソファの上で行儀悪く体育すわりをし、両手でマグカップを持ったままぼやく。視線の先にはテーブルの上に届いたファーストフードを黙々と並べる笹塚がいた。
(まぁ、笹塚が楽しんでるんならいい、のか……?)
事の発端は仁科の何気ない一言だった。
週末にライブハウス主催のハロウィンライブがあった。複数のバンドやユニットが参加していたため、ライブの終了後に簡単な打ち上げに誘われた。普段なら参加は控えるのだが、ハロウィンというイベントごとのせいか客はけが悪くすぐに帰ることは難しそうで、仁科と笹塚は打ち上げにお邪魔することにした。そこで主催が気を聞かせてサプライズでハロウィン演出をし、仁科は久々に童心に返って楽しませてもらった。
紫垣🐠
DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.3 展示作品スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
※R18はつけていないですが、行為が匂わされる表現があったり、甘めだったりするので苦手な方はご注意ください。
『GRADATIONS』>#0「Colorless Color」#1,#2「Colored Notes」#3「like a FISH in water」から続いている連作です。
One Identity#4
素肌の背の下に敷かれた固いシーツに大きく皺が寄った。
菩提樹寮の笹塚の部屋に備え付けられた簡素なベッドに両手首を押さえつけられ、半身で乗りかかられるような形で、もうどの位の時間が経ったのだろう。西日が射しこみ、夕暮れの赤い光が眩しく室内を満たす中、呼吸まで浚うような長いキスをずっと施され続けていた。
覆いかぶさった熱。身長は俺と同じはずなのに、がっちりとした恵まれた体格を存分に生かし、その腕の中にいともたやすく全身を閉じ込められてしまう。
二つの唇と舌が絡み合う湿った音と、せわしない息遣いだけが静まり返った部屋に響く。いくら人の気配が多くて騒がしい寮内とはいえ、声を出すことも、物音を立てることにも細心の注意を払わなければならないのに、ひとたびこうなってしまえばどちらも止めることができなくて、そのまま行為に及んでしまったことは、これまでにも何度かあった。
6778素肌の背の下に敷かれた固いシーツに大きく皺が寄った。
菩提樹寮の笹塚の部屋に備え付けられた簡素なベッドに両手首を押さえつけられ、半身で乗りかかられるような形で、もうどの位の時間が経ったのだろう。西日が射しこみ、夕暮れの赤い光が眩しく室内を満たす中、呼吸まで浚うような長いキスをずっと施され続けていた。
覆いかぶさった熱。身長は俺と同じはずなのに、がっちりとした恵まれた体格を存分に生かし、その腕の中にいともたやすく全身を閉じ込められてしまう。
二つの唇と舌が絡み合う湿った音と、せわしない息遣いだけが静まり返った部屋に響く。いくら人の気配が多くて騒がしい寮内とはいえ、声を出すことも、物音を立てることにも細心の注意を払わなければならないのに、ひとたびこうなってしまえばどちらも止めることができなくて、そのまま行為に及んでしまったことは、これまでにも何度かあった。
紫垣🐠
DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.3 展示作品スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
※コンミス出ます
『GRADATIONS』>#0「Colorless Color」#1,#2「Colored Notes」から続いている連作です。#4「One Identity」に続きます。
like a FISH in water#3
昼下がりの練習室に、ヴァイオリンの耳慣れない旋律が流れる。耳慣れないも何も、初めて聴く曲なのだから当たり前なのだけれど。
譜面に目を落としながら、目の前で流れる曲に耳を傾ける。
普段ならばネオンフィッシュの曲として笹塚から渡される新曲は、新鮮な驚きの中にも、ああ笹塚の曲だなと思うような要素が多くある。もちろん、今目の前で演奏されている曲にその要素がまったくないとは言わないけれど、かなり珍しいタイプのアプローチの曲だ。そのメロディラインに聴き慣れたコンミスの音色が乗る。
アップテンポで軽快で、おもちゃ箱を開けたみたいな可愛らしい曲だ。短いけれど、曲の表情が豊かで満足度も高い。
譜読みの難易度が低くて、聴き映えがする曲。笹塚がコンミスの希望にきっちりと答えた曲だ。ピアノ演奏もコンミスの演奏ととても合っていて心地良い。
5686昼下がりの練習室に、ヴァイオリンの耳慣れない旋律が流れる。耳慣れないも何も、初めて聴く曲なのだから当たり前なのだけれど。
譜面に目を落としながら、目の前で流れる曲に耳を傾ける。
普段ならばネオンフィッシュの曲として笹塚から渡される新曲は、新鮮な驚きの中にも、ああ笹塚の曲だなと思うような要素が多くある。もちろん、今目の前で演奏されている曲にその要素がまったくないとは言わないけれど、かなり珍しいタイプのアプローチの曲だ。そのメロディラインに聴き慣れたコンミスの音色が乗る。
アップテンポで軽快で、おもちゃ箱を開けたみたいな可愛らしい曲だ。短いけれど、曲の表情が豊かで満足度も高い。
譜読みの難易度が低くて、聴き映えがする曲。笹塚がコンミスの希望にきっちりと答えた曲だ。ピアノ演奏もコンミスの演奏ととても合っていて心地良い。
紫垣🐠
DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.2 展示作品スタオケ加入後の二人のお話。ナチュラルに付き合ってます。
※コンミス出ます
後日談は近日中に公開予定です。
『GRADATIONS』
#0「Colorless Color」から続いています。
「like a FISH in water」に続きます。
Colored Notes#1
「コンミスが俺たち二人に用事ってなんだろうな」
眠たげな眼で隣をのそりのそりと歩く笹塚に声を掛けると、眼鏡の奥が唐突に思い出したように、剣呑な目つきになった。
「……むしろ俺はさっきの全体錬の時のカデンツァに対して、朝日奈に言いたいことたくさんあるけど」
「あのな。それは一ノ瀬先生からも、まずパート練に持ち返るって話になったただろ。蒸し返さずに今はコンミスの話をよく聴けよ?」
「善処はする」
スターライトオーケストラに参加することを決めて、笹塚と共に札幌と横浜を行き来するようになって数か月がたち、短期間での長距離移動にもようやく慣れて、週末は横浜で過ごすことが当たり前になってきていた。土曜日の今日も朝から横浜入りをした後、木蓮館での合奏練習を終えて、菩提樹寮へと向かう所だ。首都圏での拠点がスタオケ加入と同時に自動的に確保されたのは、笹塚と俺にとっても有難い話だった。
11556「コンミスが俺たち二人に用事ってなんだろうな」
眠たげな眼で隣をのそりのそりと歩く笹塚に声を掛けると、眼鏡の奥が唐突に思い出したように、剣呑な目つきになった。
「……むしろ俺はさっきの全体錬の時のカデンツァに対して、朝日奈に言いたいことたくさんあるけど」
「あのな。それは一ノ瀬先生からも、まずパート練に持ち返るって話になったただろ。蒸し返さずに今はコンミスの話をよく聴けよ?」
「善処はする」
スターライトオーケストラに参加することを決めて、笹塚と共に札幌と横浜を行き来するようになって数か月がたち、短期間での長距離移動にもようやく慣れて、週末は横浜で過ごすことが当たり前になってきていた。土曜日の今日も朝から横浜入りをした後、木蓮館での合奏練習を終えて、菩提樹寮へと向かう所だ。首都圏での拠点がスタオケ加入と同時に自動的に確保されたのは、笹塚と俺にとっても有難い話だった。
紫垣🐠
DONE笹仁/星空のアクアリウムOP.2 展示作品本編前(ねつ造)
笹塚くんが仁科くんの音に初めて出会った日の話
『GRADATIONS』(5編連作)
#1『Colored Notes』に続きます…!
Colorless Color #0
無色透明。透明な水のようなヴァイオリンの音色だと思った。色のない、とても澄んだ。滔々と流れていく水のような音色。
まるで、アクアリウムの水槽を満たす水のようだ。色とりどりのライトで照らせば、無限に思い通りに色彩も雰囲気も変えられる水槽の水。
透明な音。癖のない音。無限に表情を変えられる音。
個性がないというのとは全く違う。高い技術の奏者にありがちな、変に主張めいた音色の出し方やこれみよがしな自我や癖がない。どこまでもクリアだった。
音楽以外で例えるのならば、思い通りの色を思い通りに乗せられる上質なキャンバスだ。乗せたい色を損なわない。
これが、自分がずっと求めていた音だと思った。
**
明け方まで一睡もせず集中して作曲を続けていたから、授業に出席はしたものの、朝からずっとやる気が起きずに、ほぼ眠りの世界にいた。それでもいったん学校へ出てきてしまった以上、睡眠のためだけに家へ戻るのも面倒くさくて、午後は校内の人目につかない場所へ移動しようと思いついた。
2847無色透明。透明な水のようなヴァイオリンの音色だと思った。色のない、とても澄んだ。滔々と流れていく水のような音色。
まるで、アクアリウムの水槽を満たす水のようだ。色とりどりのライトで照らせば、無限に思い通りに色彩も雰囲気も変えられる水槽の水。
透明な音。癖のない音。無限に表情を変えられる音。
個性がないというのとは全く違う。高い技術の奏者にありがちな、変に主張めいた音色の出し方やこれみよがしな自我や癖がない。どこまでもクリアだった。
音楽以外で例えるのならば、思い通りの色を思い通りに乗せられる上質なキャンバスだ。乗せたい色を損なわない。
これが、自分がずっと求めていた音だと思った。
**
明け方まで一睡もせず集中して作曲を続けていたから、授業に出席はしたものの、朝からずっとやる気が起きずに、ほぼ眠りの世界にいた。それでもいったん学校へ出てきてしまった以上、睡眠のためだけに家へ戻るのも面倒くさくて、午後は校内の人目につかない場所へ移動しようと思いついた。
renri_stok_bl
DONE※朝日奈が出てきますが、カップリング要素はありません。※朝日奈に笹仁のオタク(我々)感があります。
※笹仁のカップリング要素も薄め。
笹仁オンリー第三回開催、おめでとうございます!
きっと笹仁のオタクなら何度も思っただろうことをSSにしました。深く考えず、軽い気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
仁科さんって、なんで笹塚さんに対してだけそんな鈍いんですか?(笹仁)「……今回だけだぞ」
「よかった。じゃあクライアントにもそういう方向で伝えておくから」
幾度となく見てきたこの光景。ネオンフィッシュ名物、仁科が頼めば最終的に折れる笹塚の図。
この場面に何度も遭遇してきた朝日奈は思った。『仁科さんが言えば、笹塚さんはなんでもしてくれるのではないか』と。
「仁科さん、仁科さん」
面白いことに気づいてしまったと、朝日奈は早速仁科に声をかけた。そして仁科にことの経緯を耳打ちし、「笹塚さんに無茶なお願いをしてみてほしい」と伝えた。
「別に、そんなに笹塚俺に甘くないと思うけどな。誰に対してだって変わらないやつだよ」
「そうですかねぇ……?」
「そうだよ。とても俺には扱いきれる相手じゃない」
1431「よかった。じゃあクライアントにもそういう方向で伝えておくから」
幾度となく見てきたこの光景。ネオンフィッシュ名物、仁科が頼めば最終的に折れる笹塚の図。
この場面に何度も遭遇してきた朝日奈は思った。『仁科さんが言えば、笹塚さんはなんでもしてくれるのではないか』と。
「仁科さん、仁科さん」
面白いことに気づいてしまったと、朝日奈は早速仁科に声をかけた。そして仁科にことの経緯を耳打ちし、「笹塚さんに無茶なお願いをしてみてほしい」と伝えた。
「別に、そんなに笹塚俺に甘くないと思うけどな。誰に対してだって変わらないやつだよ」
「そうですかねぇ……?」
「そうだよ。とても俺には扱いきれる相手じゃない」
紫垣🐠
DONE笹仁8章後横浜にて。CP要素は薄めですがナチュラルに付き合ってます。
※仁科さんがスタオケのセカンドトップの設定です
旋律とレゾンデートル***
初冬の低い日差しが差し込む日曜昼過ぎの練習室は、十一月だというのに少し汗ばむくらいに暑かった。
この季節、札幌では考えられないくらいの気候だなと思いながら、一息ついて目の前の譜面に向き合い、ヴァイオリンを構え直す。
札幌での公演からスターライトオーケストラのレパートリーのひとつになった、バッハのヴァイオリン協奏曲第一番イ短調3楽章。セカンドヴァイオリンのパートを浚う。
星奏学院の菩提樹寮は歴史ある洋館で、中でもこの寮の天辺にある練習室は大きなガラス窓が美しい。天井が高いのでまるで小さなホールのように音も良く響くし、正統派クラシックを奏でるには雰囲気も持ってこいだ。まだこちらに来て日が浅く、慣れない横浜の地で数少ないお気に入りの場所でもあった。
9098初冬の低い日差しが差し込む日曜昼過ぎの練習室は、十一月だというのに少し汗ばむくらいに暑かった。
この季節、札幌では考えられないくらいの気候だなと思いながら、一息ついて目の前の譜面に向き合い、ヴァイオリンを構え直す。
札幌での公演からスターライトオーケストラのレパートリーのひとつになった、バッハのヴァイオリン協奏曲第一番イ短調3楽章。セカンドヴァイオリンのパートを浚う。
星奏学院の菩提樹寮は歴史ある洋館で、中でもこの寮の天辺にある練習室は大きなガラス窓が美しい。天井が高いのでまるで小さなホールのように音も良く響くし、正統派クラシックを奏でるには雰囲気も持ってこいだ。まだこちらに来て日が浅く、慣れない横浜の地で数少ないお気に入りの場所でもあった。
asaki
DONE本日は七夕です。七夕を色々調べたところ、諸説アリアリだったのでごった煮にしてイチャイチャさせました。七夕と見せかけた、七夕はほぼ関係ない話です。
【笹仁】The rendezvous is on Sirius.「へぇ、これは思った以上にきれいだね」
仁科は美しく染まった爪の先を見つめて、そう呟いた。
「まだそのままでいて、乾いてないから」
弓原はネイルをしまいながら注意を促した。
表面は乾いているように見えるが、触ってはいけないのだそうだ。
爪の根元から先端へ、うっすらとシアーなグラデーションになった赤い爪は見ているだけでなんだか心が躍る。光にあてるとちゅるんとした光沢があって、微細なラメが繊細に輝く。いくらでも見ていられそうだった。
お試しで弓原に塗ってもらったのだが、これは癖になりそうな予感がする。
★
発端は"七夕の夕べ"という演奏会に出演することになったことだ。
七夕祭りの中の催しの一環で、スターライトオーケストラが演奏する。学生オケなので制服での参加だが「なにか七夕らしいことがしたい!」と朝日奈が言い出すのは必然だった。
7749仁科は美しく染まった爪の先を見つめて、そう呟いた。
「まだそのままでいて、乾いてないから」
弓原はネイルをしまいながら注意を促した。
表面は乾いているように見えるが、触ってはいけないのだそうだ。
爪の根元から先端へ、うっすらとシアーなグラデーションになった赤い爪は見ているだけでなんだか心が躍る。光にあてるとちゅるんとした光沢があって、微細なラメが繊細に輝く。いくらでも見ていられそうだった。
お試しで弓原に塗ってもらったのだが、これは癖になりそうな予感がする。
★
発端は"七夕の夕べ"という演奏会に出演することになったことだ。
七夕祭りの中の催しの一環で、スターライトオーケストラが演奏する。学生オケなので制服での参加だが「なにか七夕らしいことがしたい!」と朝日奈が言い出すのは必然だった。
renri_stok_bl
DONE※ぬるめですが、R18作品になります。18歳以下の方の閲覧はご遠慮ください。※ネオンフィッシュの二人が二十歳になった設定で、飲酒描写があります。酔った勢いで事に及んでしまい……?という話ですが、最終的にはハピエンです。
笹仁オンリー第二回開催おめでとうございます&ありがとうございます!ずっと楽しみでした〜!参加することができて嬉しいです!
※パスワードは仁科くんの誕生日4桁です。 5400
asaki
MOURNING箱詰めR15くらい
箱詰め:笹塚と仁科「うぐぅ……っ」
胸部を重いもので圧迫され、肺の中の空気が勝手に押し出される。
酸素を求めて喘ぐが、重しをされた肺はなかなか膨らまず徐々に窒息するのではという可能性がよぎった。同時に重しが少しだけ浮いて、急な解放にひゅっと酸素が喉を通りむせた。
「っ……ごほっ、っふ、は……?」
視界は薄暗い。何かが脚に触れていて、身じろぎができなかった。少しでも動かそうものならギチッと音がしそうである。あと、関節が妙な方向に曲がりそうで無謀なことをしようとは思えなかった。
「仁科」
覚えのある声が頭上から聞こえる。視線だけそちらに移せば、仁科の真上にそれはいた。
「笹塚」
丁度、仁科に覆いかぶさるようにしている。腕で自らの体を支え、仁科との距離を空けている。
4961胸部を重いもので圧迫され、肺の中の空気が勝手に押し出される。
酸素を求めて喘ぐが、重しをされた肺はなかなか膨らまず徐々に窒息するのではという可能性がよぎった。同時に重しが少しだけ浮いて、急な解放にひゅっと酸素が喉を通りむせた。
「っ……ごほっ、っふ、は……?」
視界は薄暗い。何かが脚に触れていて、身じろぎができなかった。少しでも動かそうものならギチッと音がしそうである。あと、関節が妙な方向に曲がりそうで無謀なことをしようとは思えなかった。
「仁科」
覚えのある声が頭上から聞こえる。視線だけそちらに移せば、仁科の真上にそれはいた。
「笹塚」
丁度、仁科に覆いかぶさるようにしている。腕で自らの体を支え、仁科との距離を空けている。
asaki
REHABILIキスの日だと言うのでキャッキャウフフな話のはずだったのになぜかこうなった………イチャイチャしろよぉ……【笹仁】advantage kiss むにと唇を押し付けられ、やんわりと食まれる。
厚みもないそれの感触を楽しむようなキスに思わずどんと胸を叩いた。それでも笹塚はやめようとはしなかった。
笹塚は、仁科と二人きりでいると突然キスをしてくるようになった。触れるだけのキスは徐々に回数が増え、かすめ取るようなキスの時もあれば今みたいに遊ばれることもある。
傍若無人な笹塚もこればかりは人目を避けているので、それくらいの良識はあったかと唇を触れ合わせながらぼんやりと思う。仁科にとってこれは何ら思うところのない行為である。笹塚が満足すれば指先から美しい音楽が生み出される、そのためだけに仁科は奉仕しているのだ。
(好きな相手とした方が、もっといい音楽が生まれるはずだーー)
2995厚みもないそれの感触を楽しむようなキスに思わずどんと胸を叩いた。それでも笹塚はやめようとはしなかった。
笹塚は、仁科と二人きりでいると突然キスをしてくるようになった。触れるだけのキスは徐々に回数が増え、かすめ取るようなキスの時もあれば今みたいに遊ばれることもある。
傍若無人な笹塚もこればかりは人目を避けているので、それくらいの良識はあったかと唇を触れ合わせながらぼんやりと思う。仁科にとってこれは何ら思うところのない行為である。笹塚が満足すれば指先から美しい音楽が生み出される、そのためだけに仁科は奉仕しているのだ。
(好きな相手とした方が、もっといい音楽が生まれるはずだーー)
renri_stok_bl
DONE※挿入の描写はありませんが、性描写があるため、R18作品で登録しています。18歳以下の閲覧はご遠慮ください。※笹塚と体の関係を持ってしばらく経つ仁科の葛藤を書いてますが、最終的にはハピエンです。
笹仁オンリー開催、おめでとうございます!!
大好きなカプなので、オンリー開催本当に嬉しいです!!主催様、ありがとうございます!
※パスワードは笹塚くんの誕生日4桁です。 6076
asaki
MOURNING※コンミスいます※※なんでも許せる方向け※
改めて、仁科のホーム画面の朝のあのセリフ聞いて
「あんなことすんなり出てくるなら、しょっちゅうやってるってことですよね」
としか思えなかったので供養しておきます。
オチなどはない。
【笹仁】専用のアレ「コンミス、眠そうだね。膝枕でもしようか?」
寝ぼけ眼のコンミスにそう声をかけると、一歩分の距離を取られた。
「冗談だよ?」
笑ってそう返すと、コンミスは先程までの眠気はどこへやらぶんぶんと左右に頭を振った。
「私ごときが、そんな恐れ多い」
「大袈裟じゃない? 男の膝枕なんて減るものでもないし」
女性にしてもらうのは恋人やそれに近い間柄での特権だと思うが、男の膝枕にそこまでの価値はないと思う。冗談とはいえ勧めておいて言うのもどうかと思うが、恐らく硬いので心地は良くないだろう。
「えーと、その、ですね」
「コンミス?」
「仁科さんのお膝は、利用される方がいらっしゃるというか、専用というか…その、」
コンミスは言いにくそうにもじもじと視線を彷徨わせており、仁科はなんのことだろうなと首を傾げた。
1133寝ぼけ眼のコンミスにそう声をかけると、一歩分の距離を取られた。
「冗談だよ?」
笑ってそう返すと、コンミスは先程までの眠気はどこへやらぶんぶんと左右に頭を振った。
「私ごときが、そんな恐れ多い」
「大袈裟じゃない? 男の膝枕なんて減るものでもないし」
女性にしてもらうのは恋人やそれに近い間柄での特権だと思うが、男の膝枕にそこまでの価値はないと思う。冗談とはいえ勧めておいて言うのもどうかと思うが、恐らく硬いので心地は良くないだろう。
「えーと、その、ですね」
「コンミス?」
「仁科さんのお膝は、利用される方がいらっしゃるというか、専用というか…その、」
コンミスは言いにくそうにもじもじと視線を彷徨わせており、仁科はなんのことだろうなと首を傾げた。
kurage_neofi
DONE直接的な表現は何もありませんが、体の関係を匂わす描写等があるのでポイピクで…。ワンライ「間接キス」で笹仁。 その「事故」は、ネオンフィッシュのライブ後に稀に起こる。
「喉、乾いた……」
ステージが終わり、汗だくの笹塚が手を伸ばしたのは、ミネラルウォーターのペットボトル。楽屋の隅の仁科と笹塚の荷物と一緒に置かれていたものだ。
「待った。それ俺の……」
仁科はすぐに声をかけるが、時すでに遅し。笹塚は既に仁科のペットボトルに口をつけ、ごくごくと喉に水を流し込んでいた。
「…………間違えた」
笹塚は一通り飲み終えてからキャップに仁科の名前が書いてあることを認識したようだが、悪びれもせず、中身が半分になったそれを元の位置に戻した。
ライブハウスで貰えるミネラルウォーターは当然種類が一緒なので、取り違えが発生しないようにそれぞれ目印をつけているが、糸が切れた人形のようになっているライブ後の笹塚は、ろくに確認せず目についたペットボトルに手を出してしまう。「事故」は毎回こうして起こるのであった。
1180「喉、乾いた……」
ステージが終わり、汗だくの笹塚が手を伸ばしたのは、ミネラルウォーターのペットボトル。楽屋の隅の仁科と笹塚の荷物と一緒に置かれていたものだ。
「待った。それ俺の……」
仁科はすぐに声をかけるが、時すでに遅し。笹塚は既に仁科のペットボトルに口をつけ、ごくごくと喉に水を流し込んでいた。
「…………間違えた」
笹塚は一通り飲み終えてからキャップに仁科の名前が書いてあることを認識したようだが、悪びれもせず、中身が半分になったそれを元の位置に戻した。
ライブハウスで貰えるミネラルウォーターは当然種類が一緒なので、取り違えが発生しないようにそれぞれ目印をつけているが、糸が切れた人形のようになっているライブ後の笹塚は、ろくに確認せず目についたペットボトルに手を出してしまう。「事故」は毎回こうして起こるのであった。